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第三十四話「ノガリア国サイドへ」

 ♪

 ♪


 ♪


 開いた窓に取り付けられた白いレースのカーテンが、太陽の優しい日差しに照らされ、そして穏やかに吹いてくる風で揺れている。


 室内は白と緑を基調した家具が中心的になって揃えられており、頭上を見上げれば、一室にも関わらず大きなシャンデリアが吊るされていた。


「…………」


 煌びやかな王城の中、アリサとは別の客間——寝室、お風呂、トイレ、応接室と4部屋続きとなっている——に通された ひのりは、心こころにあらずだった。

 薄緑色のティーカップに淹れられた赤い色の紅茶に目を落とし、つい膝の上で寝転んでいるルーくんのふわふわな毛並みを撫でてしまう。


 ハーフアップにした黒髪に桃色のリボンを絡ませたいつもよりも凝った髪型、着慣れない清楚で可愛い白と桃のドレス、桃色のヒールの靴、腕についた銀色の腕輪には月の形のチャームが付いていた。


 これらは全て客人として迎えられた ひのりへの「おもてなし」らしい。毎朝、姉を起こしていた側の ひのりは此処に来てからというもの毎朝メイドさんに起こされて着替えを手伝ってもらう側に回ってしまった。


 正直———、

 ちょっとお姫様みたいかもなんて14歳らしいメルヘンチックな発想で心が浮き立たないわけはなかった。

 こんなことを いのりに話したら「あははっ!ひのちゃんってば可愛いー!可愛いー!あはははっ」といった感じで絶対に笑われる自信がある。寧ろ確信しかなかった。

 だからこそ、姉の想像を手で払い除けた ひのりは、この気持ちだけは姉に話さないようにしようと決めた。


(でも長くいたら、私も朝は一人じゃ何もできなくなっちゃいそう……)


 今日で魔王城は2日目。

 まだアリサは眠りについたままだ。

 魔王によれば、シングリア大陸には不思議な気——話からすると磁場のような、土地ならではの魔力的なものだと思うが——が流れているおかげで、アリサに対する妖精石の影響は限りなく抑えられているのだとか。


 確かに砂漠にいた時よりは、アリサの顔は血色も良くて穏やかになってはいる……。

 けれど対となる妖精石を奪取しないことには、アリサはまたいつ砂漠に居た時のような体調に戻ってしまうか分からないのだと魔王や魔王の補佐官であるリンカとアオバに聞かされていた。


「………お姉ちゃん、大丈夫かな……」


「わぅ?」


 ルーくんが首を傾げた。

 曇りのない大きな瞳に、ひのりはクスリと笑った。


「そうだよね、お姉ちゃんにリアに、ミカさんが揃っているんだもんね。平気よね!」


「わう!」


 銀色の毛玉ではなく狼のルーくんは、ひのりの膝の上で四つ足で立ち上がると、胸を張って元気よく返事をする。

 まるで「その通りです!」と、ひのりの言葉を肯定してくれているかのようだった。


(……今は……信じて、待たなきゃ……)


「よし!ルーくん!弓の練習をするから着いてきてくれる?」


 元気よく立ち上がったひのりの膝から、ルーくんは慌てて飛び降りて尻尾を降った。


「ありがとうルーくん!それじゃあ行こう!」


「わう!」


 一人と一匹が居なくなった客間の開けたままにされた窓。

 その窓の外には、大地が黒い地平線の付近まで続いていた。

 地平線上から半円を描くようにしてどこまでも広がる青い空の中では白い綿毛のような雲がのんびりと移動している、シングリア大陸から、いのりのいるソノブエル大陸まで流れていくのだろうか。


(お姉ちゃん、頑張って!!)


 ひのりは魔王城から姉へと声援を送るのだった。

 その送り先であるいのりはというと————、


「………むむむ、これ可愛くない?ひのちゃんにお土産であげようかな」


「いいすっね!その帽子似合いそうっす!」


 ひのり達と分かれて砂漠を進んだ いのり、リア、ミカは目先に見える王都の門を前にして、足踏みをしていた。

 目の前の門を突破しなければいけないのだが、門の出入り管理については兵士が行っているため、簡単に王都内に入ることは困難な状態だ。


「こらこら。遊んでる場合じゃないんだぞ?もっと真剣に考えてくれないと……」


 帽子や服を物色しているミカといのりに、呆れ顔をしたリアがため息をこぼす。一度二人を店の外へ連れ出したリアは、馬車の影に身を隠しながら再度ミカへと確認をとった。


「対の宝石は王宮にあるんだったよな」


「そっすね……対のものはアイツが……」


「態とアリサとミカのことを誘き出そうとしてるってことだよね。モンスターが襲って来てたのも妖精石のせいってラベリールは言ってたし……さいってぇ〜……!」


 ミカもいのりも、目を釣り上げて怒りを露わにした。


 王都の出入りする人の流れを管理するために築かれた門には、大勢の人が列を成している。その直ぐ側には露天商による小さな砂漠市が開かれている。

 いのりたちが門への列に並ばずに露天商達が店代わりとして使用する大きめの幌馬車——馬ではなく数頭のラクダが引っ張っており、幌の屋根が付いた店が車輪の上に乗っていると言った方が近い——があるおかげで、馬車の付近にいれば怪しまれる危険(リスク)は低い。


「相手の目論見はどうであれ……今此処にアリサがいない以上、堂々と捕まっても意味がないからな。どうやって侵入するか……」


「まぁ、王都を取り囲んでる壁をよじ登ればいけるっすけど……今は兵の数も多いし、隠密行動をギリギリまでしたい状況では現実的じゃないっすね」


「……入り口はやっぱり一つしかないってことか……っていのり?何してるんだ?」


 何やら空中に指を向けてスイスイと動かす動作を行なっていた少女(いのり)に、リアが怪訝そうな顔をして問いかけた。

 いのりは今、自分のステータス画面を弄っている途中だ。


「うーーん、だいぶ魔法の習得とかは放っておいちゃったけど……うん、この基礎魔力量なら特殊魔法も取れるかも!」


 《ピロリン》!

 いのりの耳にステータス更新の通知音が響いた。


「んっふふふー!これならいけるかも!」


 いのりは、得意げな笑みを浮かべた。


「ズバリ、隠れ身の術ってね☆」


「カクレ……ノ……?」


「ってなんすかね……?」


 両手の人差し指を使って忍者のポーズをするいのりに、忍びを知らないであろうリアとミカは不安そうに首を傾げた。

 いのりは胸を逸らして自信満々に答えてみせる。


「ふっふーん!大丈夫、絶対上手くいくから!……月の影は私を隠し、月の光は白日の元から私を遠ざける……《変幻月花(メルドーナ)》——!!」


 覚えたばかりの魔法を発動させると、雪のような銀色の花が三人の頭上から舞い落ちる。それら小さな花びらが人の肌に触れると……、いのりたちの体が淡い光に包まれた。


 ——ノガリア国王城内の地下牢。

 暗く、冷たく、粗悪な環境の中に押し込められた男はシャツの上から手酷く鞭を叩かれていた。


 ピシャリ!ピシャリと、鞭がしなる度に男の鍛えられた背中に赤い線が走った。


「……この国の第一王子の命をなんだと心得る。デアリード」


「ぐぁ!!」


 ピシャン!

 男は苦痛を溢す。


「っ……お、王子の命は……絶対に完遂するものでございます……」


「そうだ……なのに、なのに………!!これだけ人員をさいてやっているというのにアリサを見つけられていないのはどういう事だ!!」


「も、申し訳ございません……必ず王都に戻ってくるとのご指示でしたので、門の管理を厳しくするように命令しているのですが、未だおひぃさまらしき人物が王都に入ったとの報告はなく……」


「この役立たずどもめ!!!広い砂漠では見つけられないというから、俺自らアリサを王都へおびき寄せてやっているというのに!!」


 第一王子はガリガリと爪を噛む。


「殿下!たった今、門にいる捜索隊から報告が!!おひぃ様と行動を共にしていたと思われる人物が突然現れ、現在こちらの兵と交戦状態になっているとのことです」


「必ず捕まえてアリサの居場所を吐かせろ!……デアリード、キサマはさっさと戻って兵を統率してこい!!」


「……かしこまりました、殿下……」


 背中に傷を負ったデアリードは、その状態で王子に片膝を付き、首を垂れてからフラフラと牢屋を出て行った。


 ———クスクス。クスクス。


「……なにがおかしいのですか……」


 まとわりつく笑い声とともに、闇の中から黒と紫色のドレスを着た少女(レヴィリア)が現れる。口元は歪に緩んで赤い双眸は愉しげに笑っていた。


「だってぇ、必死なんだもーん。レビィはもう可笑しくて。クスクス」


「貴方がアリサを嫌っているのは知っているが、次期王妃となるアリサの捜索に関しての邪魔はしないで貰いたい」


「とか言ってぜぇーんぜん進んでないじゃない。ロードくんってば本当にアリサのことを探す気があるの?」


「当たり前だ!」


「ふぅーん……じゃあ良いことを教えてあげる」


 先ほどまで笑っていた双眸を、急につまらなそうに細めた少女は、低い声で言った。

 細められた真っ赤な双眸の奥では金色の瞳孔が黒い炎を纏って怪しく揺らめくと、レヴィリアの周囲に闇色の魔力が漂い始める。その魔力の霧は、ロードの心にジワジワと侵食していった。


「知りたい?知りたいよね。どーしてアリサが目の前から消えたのか、どこに行ったのか。アリサはねー貴方なんて要らないんだって言って本当は駆け落ちしちゃったんだよ」


 心は黒く侵食されていく、闇に蝕まれていく。


「……駆け落ち、だと?そんな事があるわけがないだろうアリサは未来の王妃なのだからな」


「ぷっ!ぷふふ、かっわいそーロードくん。でも真実から目を逸らしちゃダメだよぉ。アリサは戻ってなんてこない。貴方なんて選ばないの」


「この俺が、選ばれないはずがないだろう」


「選ばれないよ」


「なっ……!!そんなことは」


 ラヴィリアの真っ赤な目を見てしまったロードは、闇に囚われた。——捉えた、と少女は思った。


「選ばないよ。ロードくんはアリサには選ばれない……自分でも本当は分かってるんだよね?認めたくないだけなんだよね?」


「そんな……こと……は……」


「可哀想だねロードくん」


「俺は……」


 徐々にロードの瞳から光がなくなっていき、虚になっていく。


「そんなにアリサなんかがいいのぉ?あーでもでもでも!今頃はきっと砂漠でモンスターに喰われて……あは☆おっととーこれは秘密なんだったぁ」


 きゃはッと可愛らしく笑い声を上げたレヴィリアは、ぶつぶつと言葉を繰り返すロードを見て満足そうに微笑んだ。


「よかったー、ロードくんにはもう聞こえてないねぇ」


「アリサは……アリサ……。俺は、この国の第一王子……」


「ロードくんはプライドが高くて扱いやすいなぁ。ふふっ、執着心って面倒だと思ってたけど楽しくなってきちゃった!ねぇロードくん、もう要らないよね?さん、はいっ」


「………要らない、アリサは、要らない?」


「そう、要らない。貴方の言うことを聞かないアリサなんて、要らないんだよぉ」


「要らない。………そうだ俺の言うことは絶対だ……なのに、なのに……」


「なら……苦しめて、苦しめて、あの綺麗な顔を絶望と痛みで歪めて懲らしめてあげないと。クスクス」


 この男がアリサに執着していなければ、とっくの昔にアリサのことを始末できていたのだが、ようやく転機が回ってきたらしい。レヴィリアはこの機会を逃すことがないよう、両膝から崩れ落ちたロードを支えるように優しく抱きしめ、青年の耳元で甘く毒を囁いた。


「だからロードくん、この翡翠の宝石の使()()()はちゃんと考えないとだめだよぉ?」


「……は………い………」


 力の入っていない足取りで地上への階段を上がるロードの背中を、レヴィリアは愉快な気持ちで見送る。

 徐々に自分が望む方向へと進んでいる現実に、幸福感を覚えクスクスと歪に笑った彼女の声は薄暗い地下中に響く。


「楽しい!楽しい!楽しい!嬉しい!!ふふ、あはははっ!!」


 クルクルと踊るように回るレヴィリアはふと動きを止めた。


「……なのに……こんなにも幸福なのに……」


 胸を押さえてポツリと呟いた。


「————痛い……?」


 その声は、誰にも届くことはない。


「そう……そうだよ、そうだね。これは全部アリサのせい。アリサが悪い。アリサがいるから痛いの、不幸なの。だから……だから……早く、誰か、誰でもいいからレビィを楽しませてくれないかなぁ。あ!そうだぁ……エリック様のところにでも行ってこよーっと!」


 地下牢から地上に出るための階段を上がるレヴィリアの足取りは、とても軽いものだった。


           

【ツインテール・妹達(シスターズ)

(〜いつかどこかであったかもしれないし、なかったかもしれない話〜)


「らんらんらー!らんらんらー!」


 兄の髪色でもある青緑色のリボンで結われた桃色の髪がご機嫌な様子で揺れ動いていた。それもそのはず、今日のリンカはウキウキしてスキップまでしちゃってるのだ!


なんてたって、今日は兄であるアオバにお菓子を作ってもらえる日だ。

最高にご機嫌は良いのである。

最高潮で絶好調なのだ!!


「らんらんらー!んぉ?」


 目の前には花冠を灰色のツインテールの飾りした少女が。


「ぇ……?」


少女達は、目が合った。

会ってしまった。


————そして、共鳴してしまった!!


(( 絶対、絶対リンと同じタイプの子だぁ!! /なんだかオフィーと同じ、人かも知れません!!))


「「ねぇ!!お兄ちゃんっていない!?/あの!!お兄さんはいませんか!?」」


「「え……」」


二人揃ってまん丸な目になって数秒間見つめ合う。

それから、二人して笑い合った。


「ねぇねぇ!お名前はなんて言うの?」


「あの、えっと……オフィーリアです」


「リンはね!リンカ!」


自己紹介も済ませた二人は、近くの広場にあるベンチに腰をかけお互いの兄の話を嬉しそうに、楽しそうにするのだった。

そう、それも————、

帰りが遅いことを心配した二人の兄の姿が、妹たちを迎えに来るまで。

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