第三十三話「大切な人」
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テントの中で横たわった一人の少女が、呼吸もままならず頬を蒸気させ苦しげに肺を上下させていた。
直ぐ側に控えていた青年は、歯痒そうに奥歯を噛み締めた。
ミカにはできることはない。
あるとすれば、小さな布を水に浸けて搾り、アリサの額に添えることだけ。
「……お嬢……」
「……ミカ……あまり気負いすぎるなよ?」
青年を痛ましげに見つめたリアは、苦しむ少女の側に座り込んだ。対面した青年に、告げる。
「……悪いが、いのりとひのりが外で心配していると思うから、伝えて来てくれないか?あたしがここにいるから」
「で、でも……!」
「いーから!外の空気を吸ってくるんだ!」
「……はいっす……よろしくお願いします」
今にも飛ばされてしまいそうな足取りでミカはテントを退出した。その後ろ姿を心配そうに追いかけたリアは、少女へと視線を落とした。
砂漠の地平線上に沈みかけて来た頃、暗い顔をしてテントから退出してきたミカに、いのりとひのりは駆け寄った。
「アリサさんの具合は……」
「ダメっす。ずっと苦しんでいて……」
ひのりの言葉に青年は力なく首を横に振った。
予想していた返しではあるが、ひのりもいのりも視線と肩を落としてしまった。
「そう、ですか……」
テントの中では、突然倒れてしまったアリサが横になっている。
本当はオフィーリアに力を借りたかったけれど、彼女とエインはルバルダン国にある屋敷を不在にしているらしい。
魔王の転移魔法はその場所、その場所に、移動する魔法だ。居場所不明の人物の元へ飛んでいくことはできない。
仮にオフィーリアをこの場所に連れてくるか、アリサが彼女の場所に向かうかができたとしても、そもそも治療魔法でアリサが回復したかどうかも怪しいところだ。
「……くしゅん!」
「大丈夫?ひのちゃん?」
「だ、大丈夫だよお姉ちゃん!」
日が落ちて砂漠の気温が下がって来たからだろうか。
背筋がゾクリと冷える。
(ううん、きっと……あんなものを見ちゃったから……)
ひのりは恐怖心を隠すように、ルーくんを抱きしめる。
先刻に見た、アリサの持つ翡翠の宝石。その、宝石の中にうごめいていたものは………。
「………魔王さん、“アレ”はなんですか?」
隣にいる姉は「アレって何?」と首を傾げる中、ひのりは上目遣い気味にラベリールへ問いかける。
初めこそワレ関せずとそっぽを向いて砂漠の先を見据えていたラベリールも、ひのりからの真剣な眼差しを受け、重々しく口を開いた。
「………なぜ、それをワレに聞くのだ?」
「知っているみたいだったからです」
彼は知っていた。
危険なモノだと知っていたから、アリサにあんなにも噛みついていたのだ。
同じ神獣の巫女ということもあるせいか、アリサに起こっていることを他人事にはしてはいられない。
だからこそ、アリサの身に起きている状況に寄り添い、最大限力を貸してあげたい。その為にもまずはあの悍ましいナニカを知る必要がある。
だって……。
(思い出すだけで怖い……鳥肌すごい……)
恐怖だけではなく、吐き気のするような不快感も感じられた、あの翡翠色の宝石。絶対に良いものな訳がなかった。
「アリサさんの首についた宝石……あれは、すごく危険なモノなんですよね?」
アレがなんであるかを知らないが、やけに確信を持った言い方をする少女に魔王ラベリールは口の端を上げた。
「ほぅ、興味深い。ナニカは知らないくせに、どういう代物かは分かるようじゃな小娘」
「教えて下さい、魔王さん!」
ルーくんを腕に抱いた ひのりは口をへの字にしている。瞳に映り込んだ魔王ラベリールを逃さないという意思を持って、視線を逸らさない。
ひのりの真っ直ぐな視線に、ラベリールは瞳を大きく開けながら肩を揺らす。
うぐぅ……とラベリールの喉が鳴った。
「…………はぁ、わかった」
「ありがとうございます魔王さんっ!!」
深いため息をこぼした魔王は、重い口を開く。
「あの小娘の首についたモノ。あれは《妖精石》である」
「はい!先生!《妖精石》……?宝石じゃなくて?」
右往左往をして成り行きを見守っていた いのりが、ここぞとばかり手を元気よく挙げてソレってなんですかーと質問をする。
質問を受けて、げんなりした顔を見せたラベリールだったが、やがて問いに答え始める。
「……うむ、その石の起源と本当の姿は大昔に居た妖精が気に入った人間に授けていたという、妖精の魔力を込めたモノだな。
が、今となってはソレが指し示すのは、妖精の“核”を基にした……あー……手っ取り早く言うとモンスターの魔石が高級品に昇格したやつなのである」
「つまり、妖精の魔石ってこと?」
いのりが、魔王の話を自分の中にある知識とイメージに結びつけていく。
「まぁ、そうじゃな……大体はその通りである」
「はいはーい!それでなんで昨日ラベリールは怒ってたわけ?ひのちゃんの言う通り、危険なモノなの?」
「………いちいち手を挙げなくてもいいんだが……。
まぁいい、嗚呼……危険じゃな。小娘が苦しんでいる原因は十中八九、《妖精石》のせいじゃろうな」
「———— じゃあ!!」
いのりの存在で和んでいた空気が、悲痛なミカの叫びで割れた。
「ミカ、さん……」
顔面蒼白のミカの姿に、ひのりの顔がくしゃりと歪む。
「じゃあ……そんなやばい代物は壊すことはできないんすか?!」
「そ、そうだよ!あの《妖精石》っていうのがアリサを苦しめているなら、バーンっと壊しちゃえば………」
空中にパンチ、パンチ!
苦しそうなミカを元気付けようと、いのりはおちゃらけてみせるが、魔王は淡々と無慈悲に現実を突きつける。
「無理だな。ワレでも《妖精石》は壊せん」
「そんな……っ。ならお嬢は、あのまま苦しまなくちゃいけないってことなんすか!?」
腕を組む魔王の前で、ダラリと腕を下ろして顔を俯かせるミカは今にも崩れてしまいそうだった。
「悪いが《妖精石》も、それによる呪いも、ワレにはどうする事も出来ん」
「……そんな……」
今度こそ、ミカは足から崩れ落ちた。
ひのりも、いのりすらも何も言えなかった。
「———そんなにその娘が大切なのか?」
「え……?」
ラベリールが神妙な顔持ちで、ミカにそう尋ねた。
「自分よりもその娘が大切なのかと聞いておるのだ」
「もちろんっす……もちろんっす!!俺の、俺の世界でたった一人の主人だ!!俺は彼女が拾ってくれた時から、お嬢に一生尽くすって決めたんだ。この命にかえても!!」
「………ふん、大した忠誠心だが、キサマの安い命なんぞ誰も要らんぞ」
堰を切ったように熱く想いを語るミカを、魔王ラベリールは見下ろした。両腕を組んで、人の子の決意を鼻で笑い飛ばす。
「なんすか……?」
ミカは、ラベリールを睨みつけた。
声はいつもよりもうんと低くく、今にもラベリールに殴りかかりそうな勢いだ。
「なにがおかしいんすか?」
ラベリールの赤い双眸が相手を小馬鹿にするように笑い、ミカの方から、ぷつんというひのりの耳に何かが切れる音が届いた。
ふらりと、赤い炎が……いや、赤い髪が揺らめいた。
「ミカさ………」
「何がそんなに……何がそんなにおかしいんだ!!大切な人の為に、命をかけてでも何かをしたいって考えるのは笑われるような事じゃないっす!!」
魔王の襟ぐりを掴み上げたミカは、余裕のない青白い顔でラベリールを怒鳴りつけた。
「……キサマのような軽い命をかけられた側はたまったものではないがな……」
燃えるような感情のミカを、ラベリールは冷えきった赤い双眸で眺めていた。そして、冷たく淡々と、吐き捨てるように言葉の油を注ぐ。
「なんだと……!!」
さらに眉を逆立てるミカ。
「ちょ、ちょっと!!ミカも暴力はダメだよ!!ラベリールもなんで人の神経を逆撫でするようなこと言うの!!?」
見ていられなくなった いのりが、空気の最悪なミカとラベリールの間に割り混んで、交互に青年と少年を見やった。
「喧嘩禁止!!」
腰に手を当てて姉然とした立ち振る舞いで、衝突を一時停止させてみせる。それから、自分の胸に手を置いてミカに語りかけた。
「えぇと、ラベリールが言いたいのはさ……、大切な人の為に命をかけることで、大切な人を逆に悲しませてしまうってことだと思うんだよ!
ラベリールは皮肉れた言い方しかしてないけど!ねっ?そうだよね!!」
「あ、嗚呼……概ねな……」
振り返っては、魔王へ“絶対に頷けよ”という視線の圧を、いのりは送った。それに怖気付いた魔王は、彼女から視線を逸らしながら相槌を打つ。
「私も、ひのちゃんが同じ事になってたら……助ける手段が手詰まりなら、すごく焦ると思うし、何だっていいから何でも捨てられるから助けたいって思う……。
でも、ダメだよ、ひのちゃんが目覚めた時に私が居なかったら……きっとひのちゃんは泣いちゃうもん!」
苦笑まじりに微笑む いのりは、「何か方法があるはずだよ、一緒に考えさせて?」と、力の入っているミカの両肩に手を置いた。
「っ……すいません……俺は、大切な人が……お嬢が苦しんでるのに、何も、できない……なんて、すごくすごく歯痒くて……」
握りしめられたミカの拳も、肩も細かく震えていた。
俯く少年に、いのりはそれ以上何も言えなくなってしまった。偉そうな事を言って、ミカに共感することはできても、力になってあげたいのに、解決方法はなにも思いつかない。
(ごめんね……)
いのりは心の中で申し訳なく思い、水色の瞳を伏せる。
沈んでいく空気に、さしもの魔王ラベリールも罪悪感が生じたのか、不意にボソボソと話し始めた。
「——— ワレにできる事はないが、手がない事はない」
「「——っ!!本当!?」」
いのりと、皆の周囲でアワアワと右往左往していた ひのりが瞳を輝かせてラベリールを注視すれば、ラベリールは気まずいのか、こちらに顔を背けたままだった。
「………っ………」
ミカの蒼白となった顔に、血の気が少しだけ戻った……そんな時—— 、
ひのりの腕の中を抜け出し巨大化したルーくんが、牙を剥き出しにして唸り声を上げた。
「がるるるる………っ」
「ルーくん?どうしたの……わぁ!!」
自分のことを守るように体を寄せてくる神獣の毛が逆立ったと思ったら、ひのり達の足元が激しく揺れた。
「な、なに!?」
「いやな予感……い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!」
地中から現れたミミズ型のモンスターの姿に、蒼白な顔で、ひのりが絶叫した。
ミミズ型のモンスターの口には、サソリのモンスターが咥えられていた。「ひっ……」ひのりの悲鳴が再び上がる。
サソリのモンスターは、ぐしゃっと噛み潰され捕食された。
「ふむ。またしても囲まれたな……」
「囲まれたな……じゃないよ!!サソリのがマシだったよ!!」
「ひのちゃんがラベリールにちょいギレ!?落ち着いて……!」
頭と胴体の区別がつかないウネウネと身体をしならせているモンスターに、我を忘れて取り乱したひのりは、地団駄を踏みながら、いつもは敬語を使っているラベリールへも言葉を崩して怒りを向けた。
いのりは苦手なモノを目の前にしてとりみだした妹を宥める。
「う、うう、えぐぅぅ……おねぇぇちゃぁぁん……」
「よーし、よしよしっ。お姉ちゃんに任せておいて。リアを呼んで来てひのちゃん。それからひのちゃんは、ルーくんと一緒にアリサを守っていてくれる?」
「う……うん……わかった!!」
情けなくも今にも泣きそうな妹の頭を優しく撫でてやったいのりは、その手で拳を作った。
「ひのちゃんとアリサには近寄らせないよ!!」
いのりの足元に魔法陣が展開し、モンスターの頭上にも同じ魔法陣が複数出現する。
「——— 堕ちろ《炎魔法・火球》!」
燃える隕石の如く大きな火球が、空中に展開された魔法陣からモンスターを潰すように降った。断末魔を叫ぶよりも早くモンスターの身体が灰へと変わる。
「流石だな、いのり。あたしの出る幕はなさそう……というわけにもいかないみたいだな……」
「っ……なんでこんなにモンスターが!?どこにこんな数隠れてたの!?」
リアが頬を引きつらせて剣を抜いた。
賛美にお礼を言おうとしていたいのりの双眸が、次々に出現してくるモンスターの姿に大きく開く。
地響きが続いており、砂を持ち上げた砂漠に巣食う魔物達が、まるで冬眠から目覚めたかのように地面から這い出している。
「いのり!テントを中心に陣形を作るぞ!」
「うん!ラベリール!ミカとひのちゃんとアリサのことをお願い!」
「ん?なんだ?」
「なんだ、じゃなくて。みんなのことお願い!!」
「う、うむ!任せておけ!」
(いつものラベリールなら、意気揚々と豪語しそうなもなんだけど……何考え込んでたんだろう……)
後ろ髪引かれるように思考するいのり。
いつもなら「ふわーはっはー」と高笑いをして、此処ぞとばかりに力の差を見せつけてくるだろうに。今の彼は、何か別のところに意識が持っていかれてしまったように見えた。
「いのり!!よそ見をするんじゃない!!」
「わっとと……ごめんごめん!!」
敵からの攻撃を喰らって後方へと吹っ飛んだ いのりは、苦笑を浮かべながらリアへ手を振る。「前方を見ろ!!」と追加で怒られてしまった。しょぼり。
(気持ちを切り替えないと……!!今は戦いに集中!集中!)
「特大のをいっくよーーーーーー!!《炎魔法・火球》————!!」
「ってぁぁぁぁぁぁぁあ————!!!」
いのりの広範囲の魔法で多数の敵を削り、漏れた敵をリアが剣で一掃する。完全に前衛と後衛が逆転しているが、数で圧倒するモンスターの群れへの対処としては効果はあったようだ。
「敵を切り裂け!《風魔法・かまいたち》———!!」
広範囲で出力全開の魔法を、魔力の枯渇に無縁である魔力源泉はいとも簡単に連続使用したおかげで、目に見えてモンスターの数は減っていく。
「………これは………ははっ。あたしは必要なかったかもしれないな……」
モンスターを一閃で切り刻んだリアが、剣に付いた血を払う。
数十に及ぶモンスターの襲来戦。その絶望的に思えた戦いも、なんなく終わってしまった。
△▼
「——こほん、それではワレの考えた手段を発表する……」
戦闘が挟んでしまったが、ラベリールは『ひとつの手』を皆に告げた。
「この妖精石には対の石があるはずじゃ。壊せない、癒さないとなると、一刻も早く対の石を簒奪する他、道はない。キサマはこの翡翠色の石に見覚えはあるのか?」
「っ……王宮で……あるっす。で、でも俺はお嬢のそばを離れるわけには…!」
「アホウ。キサマが行かなくて誰が行くというのだ」
「それ、は……。そうっすね、俺はお嬢の為ならなんでもやるっす。助けられる道があるなら、悩んでる場合じゃないっすよね!」
決意を固めたのか顔を上げたミカの表情に、ラベリールは
一瞬だけ瞠目したように、見えた。
「今のキサマになら、ワレも手を貸そう……。留守は任せるが良い。ワレの魔王名に置いて、キサマが戻って来るまで、キサマの命を守り抜く事を誓おう」
調子良くふんぞりかえる魔王に、いのりもひのりも半目になってジトーーッと見つめるだけだったが、ミカは違った。
「うす!ありがとうっす!!ラベリール」
犬歯が見えるくらいに、ニカリと笑っていた。
「よし!私たちも力になるぞー!!」
「お、おー!」
拳を天井に突き上げたいのりを真似して、ひのりも続けて拳を掲げた。二人とも着いていく気満々である。
「む、小娘……妖精石がある以上、神獣は連れていくでないぞ。キサマもテント組だ」
「ほわ!?」
ひのりはラベリールに同行を止められた。しょぼん。
「……その代わり、キサマが行けるのではないか?」
「………そうだな、あたしが行こう……」
魔王ラベリールと、騎士リアの視線がバチバチと絡み合っているように見えた ひのりは首を傾げた。まぁ、いいか……と姉に駆け寄って両手を握りしめる。
「ごめんねお姉ちゃん。私は……お留守番を頑張るから……だから、危ない事、しちゃダメだよ?」
「大丈夫だよひのちゃん!私はお姉ちゃんなんだから!それよりも……ねぇラベリール、ひのちゃんの事もお願いね」
「……そうか、ワレの荷物が増えてしまったか……」
「荷物……ですって!?」
なぬ!?とショックを受けるひのり。
苦笑した いのりは妹の頭を撫でで「まーまー……ひのちゃんもちゃんと強いから大丈夫だよー」と機嫌を取ってやる。
「それじゃあ、行くっすよ!」
「うん!行ってくるね、ひのちゃん」
「行ってらしゃい!お姉ちゃん!」
ミカの声に頷き返したいのりは、妹に挨拶をしてテントを出る。リアもいのりに続いてテントを出ようとしていた。
一つにまとめられた銀色が、ラベリールの横で揺れた。黄緑色の双眸が不満げに細まっている。
「………ラベリール、お前、ワザとだな?」
「何のことを言ってるのか、さっぱり分からんなぁ」
「惚けるのが下手だな、魔王」
(……なんの話をしているんだろう?)
そばで聞いていた ひのりにはさっぱりだった。
ミカに意地悪をした時のことだろうか。
「リアも、気をつけてね」
ひのりがリアの後ろ姿に言葉を投げれば、振り返ってくれた。いつもの調子で優しく笑いながら「嗚呼!行ってきます、ひのり」と返してくれた。
「———行っちゃった……」
急に静かになったテントの中で、ひのりはポツリと独り心地に呟いた。
(ううん、寂しがってる暇なんてない!私は、アリサさんの看病を頑張らなくちゃ!!)
「よし、邪魔者も居なくなったことじゃ……。ワレ達も移動するぞ」
「———え?」
———— パチン。
行くって何処に?と問いかける前に、ラベリールの細い指が鳴った。
次の瞬間には、フワリと体が宙に浮く感覚があって……。
「え……え……えぇーーーーーーー!?」
気がつけば ひのりは、空の中に居た——飛んでいるのではなく浮いているのだ、いや浮いてもいない!!
「ひ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!ままままままままままままま、ぃいやぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」
不意に、身体の落下が始まる。
黒髪が強風に煽られてめちゃくちゃに暴れ回り、手足は文字通り宙を必死で掻く。
ひのりは突然の出来事に、絶叫系のアトラクションですら乗りたくないのにぃぃっっと感情のままに泣き叫び、悲鳴をあげることしかできない。
「なんだ、浮くのは出来んのか」
「できないわよ!!……あ、浮いてる……」
恐怖心でラベリールにキレた ひのりは、ふと自分の身体の落下が止まっていることに気がついた。ラベリールが何かしてくれたようだ。
高いところはそれはそれで怖いが、落ちるよりはマシだと少しだけ息を吐く。
「………ラベリール、一体どこに……」
アリサを脇に抱えたラベリールは、ニヤリと笑った。
「決まっておろう?」
空を自由に旋回してみせた魔王は、両手を広げて仰った。
「———ようこそ!ワレのシングリア大陸へ!!歓迎するぞ、神獣の巫女ども」
「………ほ………へ……?」
△▼
シングリア大陸は、魔族が多く住む大陸だ。
強いモンスターや魔族がいる中でその大陸の頂点に立って納めるは魔王ただ一人。
「お帰りなさいませ、魔王様」
「うむ!ワレは今帰還したぞ」
どでかい宮殿の中を堂々と歩く魔王は、先ほどから慌てた様子で頭を下げられる。なんだかお城の中も慌ただしく、騒がしくなってきたようだと、ひのりは辺りを観察して察した。
「お帰りなさいませ!!魔王様!」
「うむ、リンカとアオバはいるか?」
「た、ただいま他の者が呼んでいるかと……」
それから、魔王の後ろを歩きながら、ひのりは思った。
(……この人、本当に魔王だったんだぁ……)
すごく失礼な事を心の中で思っていた。
「——— あーーーーーーーー!!!ほんとだーーーー!!やっと帰ってきたぁぁぁぁぁぁ!!!ほら、アオくん!!ほら!リンが聞いた通りだったでしょう?魔王!!魔王だよ!!」
「はいはい、わかったから服を引っ張らないでくれよリンカ」
「おお!久しいな、リンカ、アオバ!」
(………猫の耳と、尻尾……猫族?)
騒がしくなった前方に目を向ければ、顔のよく似た男女が近づいてきていた。というか、ラベリールに早足で詰め寄っていた。
「このクソ魔王!!一体どこに行ってたんだよ!!この数年間通信さえも応じなかった奴が今更何の用があって、どの面さげて帰ってきたんでしょーか?」
「うぐ、そ、それはだなぁ。えーーと……人間の小娘を救うためにだなぁ」
しどろもどろな魔王の話は、耳に入っていないといった様子のリンカはアオバの言葉に頷きながら頬を膨らませた。
「そうだよ!リンとアオくんはほんっとに大変だったんだからね!?
ラベリールってば、その辺ちゃんと分かってる!?……にゃああ……縛り上げてでも反省させるにゃぁぁ……」
どこからか出現した光の糸を片手に、目から光を無くすアオバとリンカは、不気味な笑い声で笑った。
「お、いいなソレ。ふ、ふふふふふふ………」
「うふふふふふふふふふ……」
「わ、悪かった!!ワレが悪かったから、物騒なモノを仕舞うのだぁぁぁぁぁ!!!た、助け!!小娘からも説明を!!」
ラベリールから助けを求められた ひのりだったが……。
「……ごめんなさい、ちょっと無理……です」
「ぎぃやぁぁあーーーーーーーーーー!!!」
魔王の悲鳴が、城内に響き渡った。
新キャラクター
○アオバ
… 青緑の髪と赤目の容姿をした少年。黒い猫耳と短い猫の尻尾が生えている。リンカと顔がよく似ている。
○リンカ
… 桃色の髪と翠目の容姿をした少女。青緑色のリボンでハーフツインやツインテールの髪型をしている。
白い猫耳と尻尾が生えていて、アオバと顔が良く似ている。




