第三十話「大砂漠のモンスター」
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“助けて”———— そう言った金髪の少女は、胸元の何かを守るように、大切そうに両手を胸の前で握りしめていた。紫紺色の双眸は不安そうに揺れて少しだけ潤んでように見えた。
アリサとミカ。いのり、ひのり、リア、魔王。2:4で互いに向かい合って自然と黙り込む。沈黙が続く中、アリサの濃い金色の髪に温い風がまとわり、何処かへ流れて行った。
「———— おいで、ルーくん」
「わおん!」
沈黙を破ったのは、ルーくんを召喚させて胸に抱いた ひのりだった。嬉しそうに尻尾を振って自分のことを見上げて来た柔らかい銀色の毛並みを持った神獣のルーくんへ、ひのりは愛おしそうに頬擦りする。
(私も……神獣と一緒にいるから、わかる……)
ギュッとルーくんを抱きしめて、ひのりは真っ直ぐにアリサを見つめる。
(この人は、きっと神獣を大切にしてるって……)
大きく目を開いて、驚いたような、それよりも目の前でルーくんと戯れた ひのりの姿に胸を引き裂かれたような悲痛な表情を浮かべたアリサの胸元を指差した。
「……ミ……ううん、アリサさん。その、胸元から微かだけど神獣の気配がします……」
俯いたアリサは守るように胸元を抱きしめる。
返事はないから、ひのりは言葉を続けた。
「水竜の神獣は、其処に居るんですね」
「……あおーーん!!」
「えっ!?」
アリサの結ばれた手の隙間から水色の眩い光が放たれる。ひのりとルーくんに呼ばれた神獣が「ここにいるぞ」と言わんばかりの輝きだ。
驚愕したアリサが胸元からスカイブルーの色をした光源の宝石を取り出した。「……水竜……アンディーン……」涙目で潤んだ瞳をくしゃりと歪めたアリサはそっと双眸を閉じて————、
「えぇ、此処に居ます。私の神獣は、此処に居ます今は未だ……。私は……」
弱弱しくなる宝石の輝き。
けれど、反対にアリサの声音には力強さが増していく。「お願いです!冒険者様……!どうか、どうか私に力を貸してください!」
いのりが、拳と唇を噛み締めた。キッと凛々しい表情をして光が弱まっていく宝石を手に抱えたアリサの元まで圧のある歩き方で近寄って行った。
ミカは口元を微かに緩め、アリサは相手の歩みを止めないミカにも迫ってくるいのりにも戸惑いを見せた。
「きゃあっ!?い、いのりさん?……あ、あの……」
アリサの手を丸ごと両手で包み込んだ いのりは真剣だ。
「———— もっちろんだよ!! 私達がアリサの力になる!」
もうお姉ちゃんってば、力加減とかそういうのをさ……と、呆れ顔をしていたひのりは、アリサと目が合うと微笑んでみせる。
「アリサさん、お姉ちゃんと一緒に私たちが必ず力になります。ね、ルーくん」
「おん!」
「ああ!あたしも必ず力になろう!」
それまで剣の柄に手を当てて様子を見守っていたリアも、いのりとひのり、両方の意見を肯定するように頷いた。
「……みな……さん……ありが」
「お嬢!!見つかりました!!」
塔の最上階にある広間の唯一の入り口から武装した兵士が階段を登る音が聞こえてくる。いのりが柱に抱きついて下を見下ろせば、塔の周囲を囲む兵士の姿があった。
「っ……此処でやるしかないな!!全員、戦闘体制を取るんだ!!」
リアは入り口に向けて剣を構える。
「いやぁ、それよりも良い方法があるっすよ!」
悪い顔をしたミカは、にやぁと笑みを浮かべ塔の外を親指で指した。「は?」嫌な予感を感じ取ったらしいリアは眉間にシワを寄せて絶対有り得ないと言いたげに低い声を上げた。
「おひぃ様!!お助けに参り……」
ガシャガシャと音が鳴る最低限の鎧を身につけた大将軍が、広間に到着すれば「おひぃ様!!」と声を張り上げた。
大きな狼、3人の少女、そして小さな少年に、アリサとミカは、広間の淵に立っていた。今にも落ちそうなアリサの姿に、大将軍の顔は青ざめる。
「……大将軍デアリード、貴方は本当に、何も気が付いていないの?」
「………は?」
何を言われたのだろうか分かっていないようだ。大将軍デアリードは先ほどまで引き締めていた顔から力を抜いてしまった。「そう、そうなの……」残念そうにアリサは小さな溜息を短くこぼした。それから食い下がろうとした男を、手のひらで制して、きっぱりと言った。
「なら。貴方と話すことなんて、これ以上ありません」
っと………。
地を蹴る軽い足音が鳴った。
濃い金髪が揺らめき、少女達の身体が一斉に空中へと躍り出る。
ビュゥゥッ。強い風が塔の下から少女達の体を強く叩いた。
「なっ………!!」
視界から消えた少女達の塔から飛び降りるという行動に絶句する男の顔は、どんどんと泡吹いて倒れそうなくらい青ざめていく。声の出ない口を金魚のように開閉させ、転びそうな勢いで広間の端へと駆け出した。柱に手をついて下を見下ろす。
「お、おひ、おひぃ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
最悪な事態を想像していた男には、分からなかった。
確かに目の前で飛び降りたはずの少女達の姿は、地上にて塔を囲む豆粒程の兵士達の何処にも確保されている様子はなく、どこにも姿の見えない少女達が何処に消えたのか、分かるわけがなかった。
男の体が震える。額には血管が浮き出ていた。
「探せ……探し出せ……」
だぁぁぁぁぁぁぁん!!
力任せに柱を叩けば、小さな破片がパラリと溢れる。
奥歯を噛み締めながら、男は背後に控える兵士たちへと怒号を浴びせて命じた。
「探せ!!巫女を探し出せ!!一刻もはやくお助けして殿下の元へと連れて行くんだ!これ以上、殿下に恥をかかせることがあれば、お前らの命は無い!!」
「はっ!!」
兵士たちの間に緊張が走った。
△▼
地平線まで続く静かな大砂漠の上に、楕円形の闇が鈍い音を立てて現れる。闇の中からは微かな声が溢れ………段々と大きく明朗に砂漠へと響き渡った。
「っあ………あ………ぎゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ——————————!!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?」
闇から飛び出した少年少女が、次々に砂漠へとダイブと着地をしていく。
「うぐ」
「きゃう!」
「げふ!?」
「ふぐ!」
「……きゅぅぅぅぅ……」
塔から降り前に散々ゴネていたリアが、一番最後にルーくんの口からボトリと落ちた。恐怖心に負けて目を回している。
「う、うーん……いたた……着地に失敗しちゃったぁ。みんな、大丈夫??ひのちゃん、いる??」
「いるよお姉ちゃーん……。私は大丈夫……だけど、ジェットコースターみたいで結構怖かった……心臓が出るかと思った」
「お嬢と俺も無事っすよ!」
「……楽しかったわ……」
いのりはメンバーを確認して、ホッと息をついた。「魔王はまだかな……」と空に浮かんだ闇へと目をやる。いのり達を先に砂漠へと放り出した魔王は、宿に荷物を取りに行っているはずだ。
「……にしても、魔王って凄かったんだね。転移魔法とか使えちゃうんだもん」
「いっぱい魔力を持っていくらしいけど、お姉ちゃんは使えないの?」
「うーーん、どうだろう。お姉ちゃんでも、一回使う為の魔力が足りるかどうか……」
「……魔力の泉のお姉ちゃんでも難しいものを使えちゃうなんて、なんかムカつく……」
「ひのちゃん?なんで、急にフグみたいになってるの?」
「なんでもないよ!」
ひのりは不思議そうにしている姉から顔をプイッと逸らした。魔王にお姉ちゃんの方が凄いんだからと力説した時に鼻で笑われたのはそういうことだったのかと、不機嫌そうに頬を膨らませた。
そこから更に、荷物を宿から持って闇の渦から出て来た魔王が沢山魔力を消費しているはずなのに平然とした顔をしていることにも、ひのりはこっそり唇を尖らせたのだった。
「ひのちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ルーくん、あったかいから……」
いのりが、狼の神獣の背に乗って不貞腐れている妹へと声をかければ、ボソボソとした口調で返答があった。
時刻は夕方に近づいて、空がほんのりと茜色に変わりつつあった。昼間は暑さを感じていたのに、徐々に肌寒くなってきてしまった。急な温度の変化に、ひのりの体調が気に掛かったいのりだが、妹の機嫌が先ほどから悪い理由が分からずモヤモヤしてしまう。
とりあえず今はひのちゃんを放っておこうと結論付け、いのりは目の前の少年少女に顔を向けた。
転移した場所から兵士達に見つかる前に歩き始めた一同は今、アリサとミカが逃げて来た国であるノガリア国へ向かっていた。
「……ひのり、悪いがルーくんは目立ちすぎる……」
「はぁい……分かった、リア」
商隊の姿を見つけたリアが、アリサ達が追われていることを考慮したのか、ひのりに素早く声をかけた。
リアの声に頷いたひのり。「ごめんね、ルーくん」柔らかな銀色の毛並みを撫でるとルーくんの召喚状態を解く。
「じゃあ、お姉ちゃんにくっ付く!」
「もう、ひのちゃーん?お姉ちゃんはルーくんの代わりじゃないぞー……ごめんなさいは??」
「ごめんなさい」
「謝るの早!!も〜〜………しょうがないだから。歩きにくいなぁ、もう」
腕に抱きついてくる調子のいい妹は本当に反省したのだろうか、いのりは訝しむ視線を向けた。あ、でもやっぱりご機嫌なひのちゃん可愛い、なんて考えが過ぎった思考に自分もほとほとだと、いのりは溜息をこぼす。
「えへへ♪お姉ちゃんありがとう」
水色の双眸でちょっとだけいのりを見上げて、幼く微笑んでくる妹。「かひゃわ……!?」「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」謎の奇声を上げそうになった姉のいのりは、先ほどすれ違った商隊からの悲鳴に思わず口を手で蓋した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!?モンスターだ!!」「た、助けくれてええええ」「うあぁぁあ!!」
サソリの形をした大型のモンスターは二匹でラクダを連れた商隊を囲んでいた。鋭く尖った尾が威嚇しているように高く上がっていた。
「っ!!モンスター!?」
「あれは……、サソリ型の地中に潜って移動しているモンスターです!一匹出て来たらこの周囲の地中には群れがいるはず……、行ったらダメよ!!」
アリサが今にも商隊のもとへ駆け出していきそうな いのりとリアの腕を必死に掴んだ。「離して!行かなくちゃ!!」「そうだ!あたしだって、モンスターに襲われている人を黙って見過ごすことなんてできない」「ダメです!直ぐにここも地盤が崩れてしまいます」「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁあっ!!助け、助け……ぎゃああ"あ"あ"っ!」
幾つもの声が交差して、ひのりは耳を塞ぎたくなる。
焦ったくて、怒りを足に込めて砂漠の地にぶつけた。
「もうお姉ちゃん達!!こんな時に喧嘩しないでよ!!私一人でも行っちゃうよ!?お願い一緒に来て、ルーくん」
「あおん!!」
「いけません!!ひのりさん!!」
襲われていた商隊に向けて駆け出すルーくんの背に飛び乗ったひのりが羽織っていた薄紫色の布を脱ぎ捨てて弓を引く。
モンスターの体に向かった矢は、サソリの甲鉄に簡単に弾かれてしまう。目へと向かったもう一本の矢は命中し、「ギュルル!!」とモンスターを唸らせることに成功した。
「わ、私が相手になってあげるから、こっちに……こっちに来やがれです!!」
モンスター2匹がまるで互いの意見を合わせたかのように、目標を啖呵を切ったひのりへと定めた。数の多い足をワサワサと動かし、倒れている商隊の人たちではなく、ひのりとルーくんの方へと身体の向きを変える。
(ひぃっ……!足が、いっぱいあるぅぅ。サソリ、サソリってなんだっけ!?)
「ま、負けないんだからぁ!!ルーくん、モンスターをあの人たちから引き剥がすよ」「がうあ!!」
2匹からの攻撃を避けながら戦っている妹がいるのに、助けに駆けつけられない今の状況が、いのりには焦ったくて仕方がない。
「っ〜〜アリサいい加減して!!離して!!ひのちゃんを助けにいかないと!」
「っ……!なんて馬鹿なことを!!」
「馬鹿?!今ひのちゃんのことバカって言った!?」
「ほら!ひのりだって助けに行………ひゃん!」
リアがアリサの手を強引に振り払おうとすれば、砂に足がもつれてすっ転んだ。鞘から抜いたままの剣が宙を舞って砂漠の地に深く刺さる。「離してくれ!!」
強引にアリサの手を振り払ったリアは、お尻を摩りながら飛んで行った剣の元まで向かい、剣を抜こうと柄を握った。
「いたた……あれなんでだ?剣が抜けない?」
なぜか簡単に抜けそうな剣はいくら踏ん張っても地中から取れそうにない。
「う、うーーん………うーん……ふぬーーんっ!!」
剣を引っ張り抜こうとして力むリアの背中を、いのりとひのりは「「なんだか、嫌な予感……」」と顔をしかめた。
「ふぬぉあ!!抜けた!!!」
リアは、すぽーーーんっと剣を掲げ、達成感に目を輝かせた。
「リ………ア………」
「いのり、見ろ!なんだか硬く突き刺さっていたが……」
「リア、うえ!!うえぇ!!!」
「上……?」
かひゅ………っ。
リアの喉の奥で息が詰まった。
剣を抜いた時に天高くへと放り投げてしまったのだろう。大きな何かがリア目掛けて落下してくる。「う、嘘だろう?」リアは釣り上げてしまったのだ、サソリ型のモンスターを。
「っーーーー!!!」
ズトォォォンッと大きな地響きを立てて、声にならない声を上げ、肌が粟立ったリアの前にモンスターが落下した。
「ちょ……っと待ってください……?なんだか、嫌な、予感がするのですが………」
アリサが周囲の異変に気が付き、身をこわばらせた。
足元が大きく揺れ動き、砂漠の砂が川のように数カ所へ流れ始める。
「ふむ、どうやらこのままだとワレらもあの商隊と同じ運命を辿ることになるようじゃな」
サソリ型のモンスターの襲撃を受けた商隊は既に壊滅状態だ。ひのりがモンスターの目を自分に向けたことで何人か生き残っていたけれど、魔王の目に映る生き残りもモンスターの尾にある毒を受けていて助けられる見込みはない。本当に助けられる人数は少なそうだ。
「はてさて、このモンスターはあまり人間を襲うような奴らではなかったと記憶しているが?」
「———————————— !!」
魔王が首を傾げる中、いのり達を囲うように砂漠が大きく盛り上がり、大型のサソリのモンスターが姿を現す。
禍々しく赤い瞳をぎらつかせ耳が痛くなるような高音で鳴いたモンスターは 黒くツヤのある頑丈そうな甲羅を持ち、珠続きの尾には紅い毒針、力強く開閉する腕のハサミは岩をも切り裂いてしまいそうだ。
アリサとミカの喉が唾を飲んでごきゅりと鳴った。
「………ミカ、このモンスターなら何匹行けますか?」
「………いやぁー……お嬢を護りながら闘うなら一匹でもキツいっすね」
「ふん、軟弱者め。ならばお主らはワレに護られていると良い」
紫色の髪が砂の乗った風で揺れる。アリサとミカの前に出てモンスター2匹と対峙する幼い魔王の手に闇色の炎が灯った。
心優しい高位治療魔法の使い手であるオフィーリアならば、この状況下でモンスターの間を潜り抜けてでも倒れている商隊の人々を助けに向かっただろう。
「っち、モンスター如きが……」
魔王様、モンスターをいっぱい倒すなんて素敵です!と、尊敬と愛情に満ちた瞳で微笑んで手を取ってくれる女神のようなオフィーリアが怪我をした人たちを放っておいたことを知った途端、急に声を低くし「魔王様なんて世界で一番嫌いです」と汚物を見るかのような冷たい目になってしまう姿を想像し、怒りにワナワナと体を震わせたラベリールは吠えた。
「……助けを求める者を捨て置いたとなっては、オフィーリアにますます嫌われてしまうではないかぁぁぁ!!どうしてくれんじゃボケェええええええええええ!!!」
夜色の炎を灯した拳を、魔王は怒りを込めてスピードに乗せながらサソリの腹へ突きつけた。
「————————!!」
モンスターの断末魔と共に、硬い殻で覆われていた体は破裂し、白い爆風を発生させた。強い風に乗った砂が目に入らないようにアリサは目を塞ぎ、ミカは爆風からアリサを庇うように抱きしめた。
「っち!!よそでやれ、よそで!!《燃えよ・闇の炎》」
小さな幼児の指がパチンと鳴った。
魔王の目の前に立ちはだかったサソリ型のモンスターは2匹とも爆ぜて燃え上がった。「ふん、なんということもなかったな。さてと、他のモンスターは任せてワレはあの屑どもを助けに行くとするか」腕を組んだ魔王はふふーんっと得意げに胸を逸らした。
オフィーリアからの抱擁を想像して「ぐふふ」とニヤけながらご機嫌な様子で傷ついた商隊の人達を助けに歩き始めた。
「…………私が、間違っていたのでしょうか……?」
「お嬢……」
砂の上で座り込んでいるアリサは、唖然としてしまっていた。
あまり人を襲うことのないはずだったサソリ型のモンスターが襲って来た。しかもサソリ型のモンスターは地中に巣を作り群れで行動しているという。商隊が襲われたということは自分達も危険であるということ。
知らない人を助けに行こうとした いのり達を引き留めたのも、アリサがその戦力を認めているミカですら一匹が限度だというのに、囲まれたらどうするのかと考えた故だった。
「もしかして私が……私のせいで……?そんな……」
「お嬢!?どこに行くっすか!?」
何度かサソリ型のモンスターと闘ういのり達を振り返ったミカは苦悶の表情を浮かべると、突如走り出したアリサの背を追った。
「っ……このサソリ達……動きが早い……。ルーくん頑張…………え?」
「早くひのちゃんの所へ行かなくちゃいけないのに!!もう!全然魔法が通らないよ!……って、え?なんで?」
離れたところで闘っていた ひのりといのりが同時に困惑した。
何故か自分の闘っていたモンスターが180度体の向きを変えて、いのり達から離れて走っていくアリサを追い出したから。
「うぇぇぇ!?なんかお嬢のこと追いかけて来てるっすよ!?うわぁぁぁぁぁ!!しっかりと捕まってるっす!!」
ミカがアリサを抱きかかえ、砂の坂を滑るように直ぐに追いついて来たモンスターからの攻撃を避ける。岩をも切り裂いてしまいそうなハサミが何度もガチンガチンとミカの首元付近で騒いでいた。
「っ……が、頑張ってくださいミカ!」
ミカの首に腕を回してしがみつくアリサの首のチョーカーに付いた翡翠の小さな宝石が歪な気配を放っていた。それをめざとく見つけたミカは顔を歪ませる。
「っ……あんのクソやろう……」
恨みの籠った声を吐いたミカは、砂が盛り上がって出来た坂を滑りきる。腰を上げて足に力を入れ、間一髪でハサミが逃れるために地面を蹴った時だった。
「————魔力よ巡れ、廻れ。我が魔力は炎の根源なり。燃えろ!炎となりて!」
短い茶髪が足元の魔法陣から放たれる魔力の風に揺れる。
「戦えない子を狙うなんてあり得ない!燃やし尽くしてあげるよ、《炎魔法》!!」
「「ミカさん避けてぇぇぇぇ」」
ひのりとリアの叫び声が重なった。
「ほへ?うわうわうわうわう、うぎゃぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁ————!!」
ちょうどミカが先ほどまでいた場所に広域の赤い魔法陣が展開され、突如して出現した真っ赤な炎の柱がサソリのモンスターどもを骨も身も残さず焼き尽くしてしまった。
ミカの赤い髪の先がチリッと焦げつく。
「 —————————————— あ、ああ……あ…… ははっ」
ミカの口元がヒクリと引きつった。
現在パーティ戦闘能力順(高い〜低い)
魔王ラベリール(魔王の名は伊達じゃない)→いのり(魔法攻撃なら強い)→リア→ひのり&ルーくん→ミカ(アリサを庇わないで単独ならもう少し強いかも?)→アリサ(激弱。剣を握ったことすらない)




