第二十四話「雨降って、地固まる?」
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騒動の翌日。
姉妹は柔らかいモコモコの椅子(雲羊の毛からできたもの)に座りながら、背筋をピーーンと伸ばして恐縮していた。
兎、猫、羊、狐のそれぞれの種族から選出された巫女の候補者四人に深く感謝されて、柔らかい顔をしているのはリアだけである。
「「「「本当に、ありがとうございました」」」」
「いや、頭を上げてくれ。偶々居合わせただけだし、それに……騎士として当然の事をしただけだから」
「……カッコいい、きゅん」
「リアお姉ちゃん、カッコいい……」
「いのり!! ひのり!! 小声で話してるけど聞こえてるからな!? あと、誰がお姉ちゃんだ!!」
せっかくの神聖な空気がおじゃん。
一気に和やかになっていく。
「——アンタたち、お礼もまともに受け取れないの?」
「あははー!! せっかく真面目な雰囲気を出したのに台無しだあ。ぁいたっああああああああああああああああ!!」
猫目の碧眼に、水色の髪の猫族少女—— 三人のわちゃわちゃ感に呆れ溜息を溢すメルフリュー。
赤目、乳白色の髪の兎族の少年—— シシルは、和やかに笑顔を浮かべていたが、メルフリューに鋭く睨まれ拳でゴツかれた。
「お前らも、十分雰囲気壊してんの気が付けって……」
「え、えっと……あ、あの……。で、でも二人らしくていいと、思うよ……?で、でもユウナギ、真面目さん……だもんね」
「はぁ!?ばっ!!そんな事ねーし!! てか近いつーの!」
赤い双眸に琥珀色の髪の狐族の青年—— ユウナギが寄せた眉間のシワを、一人の少女が細い指先で伸ばしてやれば、赤面してそっぽを巻いてしまう。
ユウナギの額に触れた少女—— 何度も言葉をつかえながら騒ぐ二人をフォローするような発言をしたのは、優しい茶色の双眸と若草色の髪の容姿を持った羊族であるセルシィだ。
「あーー、やっと息がしやすくなって来た感じがする……」
「うん、私もそう思うよお姉ちゃん」
「いのり、ひのり、この状況で息がしやすくなるのは逆に凄いと思うぞ?」
真面目な空気には当分戻れそうもなかった。
「——こっほん!で、今回はホント助かった。色々、悪かったな……。なんつーか、アンタの神獣を奪おうとかしてたり、こんなことにも巻き込んでしまって……」
「き、気にしてないです。それに……巻き込まれたというか、巻き込まれに行ったみたいな、ものだから……」
「そうそう!ひのちゃんったら、ルーくんと走っていっちゃってお姉ちゃんは心配したんだよ?」
「ふぐぅ!ごめんなさい……」
「という事で、感謝も謝ることもないんだ。それより、村の方は……大丈夫だった?」
最後に手を合わせて、感謝の会を締めるリア。
締めくくりにユウナギへと懸念を尋ねる。
「嗚呼、復興の方は追々な。問題は観光客の方だけだ。まぁ、これに関してはどうしようもないだろうな……。怪我人も出ちまったし……軽傷の人には応急処置で薬草を煎じたポーションを飲んでもらったけど。中には骨折した人とか火傷した人もいるからな……。今、ルバルダン国のギルドに依頼をして、治療魔法を使える治療士を派遣してもらうところだ」
「治療士……」
「ポーションは薬草から作られているから、擦り傷とかにしか使えないんだ。天族以外で治療魔法が使える治療士は大陸を探しても希少だからな……時間がかかりそうだな。まさか王宮の治療士団を派遣してもらえるとも思えねーし」
深刻そうな顔をする一同に、姉妹はこっそりと目を合わせた。“確か、オフィーリアって治療士じゃなかった?” “私のテイマーと一緒で、治療士ってあんまり居なかったんだね”
でもオフィーリアを呼ぶには時間がかかりすぎる。もしかしたら、大陸中から探すよりも早いかもしれないが。
「……ね……」
「「「わぁぁぁぁぁぁ——!!」」」
いのりが、皆にひとりの心当たりを口にしようとした瞬間—— 建物の外、村の方から歓喜に満ちた声が湧いた。
一緒にして、一同の視線が外に向かった。
「な、なに!?」
何事かと全員で外に出てみると、階下では、白いローブを被った集団がいくつかの臨時テントを駆け回っている姿が見える。
「これは……!!もしかして、あのローブの羽の紋章は……。ルバルダン王宮の治療士団か!?」
「ま、まさか!?確かに友好国とはいえ……」
木製の手すりから一つに結んだ銀髪を振り回し身を乗り出たリアが驚愕する。その一言に、ユウナギたちも目を大きく開き二の句を継がない。
「わふ!!わう!!」
「ルーくん、ど、どうしたの?下に行きたい……の!?」
「うへ?ひやあああああああああああああ!!」
どうやら、火災でツリーハウス状態だった賓客の応接小屋の設備も不備があったらしい。バキッと手すりが壊れて身を乗り出していたリアの身体ごと下へ落下する。
「「「!!?」」」
体を強ばらせる姉妹と治療士団に驚いていた獣族達は、急な出来事を前に直ぐに動けない。
揺れた銀髪が一瞬にして見えなくなる。
「り、リア!!」
「ちょっとおおお!!なんてことしてくれるのよ!」
「あわわ……」
「ど、どどどどど、どうしたら……」
蒼白の顔で身を乗り出した ひのりが「えっ……」と戸惑った声を上げた。いのりも同じだ。
「「エイン!?/エインさん!?」」
葉っぱのついた短い黒髪、子供みたいな黄緑の双眸、爽やかそうな容姿の青年が、階下でリアをスライディングしてキャッチしたらしい。見上げてきた顔の頬には砂汚れが付いていた。
△▼
「—— 大丈夫です。すぐに治しますから《女神の囁き》」
「あ、ああ……!!ありがとうございます、ありがとうございます。天使様……!」
「そ、そんな……!オフィーなんて……」
臨時テントの中では、華やかな花冠をつけ灰色の髪をツインテールにした本物の天使のような少女が、治療した患者から手を取られて涙ながらに感謝されている。少女の桃色の双眸も釣られて潤んでいた。
「オフィーリア、お疲れさま。大活躍だな、疲れてないか?」
「お兄ちゃん!………と、いのりさん!ひのりさん!リアさんまで!」
兄の声で直ぐに振り向いたオフィーリアは、姉妹たちに気が付いて瞳を輝かせた。透き通った声が弾む。
「またお会いできて嬉しいです。あ、怪我はされてませんか?オフィーが絶対治してみせます!」
弾んだと思ったら、今度は心配そうに慌てた声になる。眉毛も下がってオロオロとリア、いのり、ひのりを身体検査し始める。
「あははっ!オフィーリア、見過ぎだよ」
「あ!ごめんなさい いのりさん!」
「オフィーリアちゃん……、私たちは大丈夫だよ。うん、リアが危なかったけど……」
「ひのり!! しーーーっ!!」
相変わらず仲良しな三人を前に、不思議そうに首を傾げるオフィーリアも頬をちょっとだけ赤くしながら、フフッと微笑みを浮かべた。
「それより、オフィーリア。貴方はルバルダン国の治療士団の一員だったんだな。その白いローブ、とっても似合ってる」
「え……あ、……ありがとうございます……」
イケメン属性のリアに褒められて、オフィーリアの頬により血の気が通う。照れて慌ててしまった少女は、それから「あ、でも……」と口を開いた。
「オフィーは、治療士団の一員ではなくて……。今回は偶々、参加させてもらったのです」
「オフィーリア様、こちらはもう我々だけで手が回りそうです。お疲れでしょう、お休みください」
話している一同を見て、気を利かせた一員がオフィーリアへ言葉をかけた。少女は、その申し出への判断を迷ったのか、エインの顔をチラチラと見上げた。
「君たち、妹を気遣ってくれてありがとう。両陛下には俺の方からきちんと伝えておくよ、叔母さまの国の治療士団はとても優秀だったと。君たちも、ゆっくり適宜休んでくれ」
「は!かしこまりました、エイン様!」
貴族らしい振る舞いをその身に下ろしたエインは、そのモードのまま、妹の頭を優しく撫でた。
「頑張ったなオフィーリア。友人も来ている事だし、ゆっくり休んでお話しをいっぱいしたらいいさ」
「は、はい……!えへへ……」
オフィーリアの表情、態度、仕草が、本当に幸せそうで、やっぱり兄が一番だ、と言っていた。
「さて、少しだけ今回の経緯を聞かせてもらいたいんだけど、いいかな?」
次の瞬間。一同を見渡したエインは、いつもの爽やかで人当たりの良い冒険者然としていた。
△▼
もう一度、ひのりたちは応接小屋に戻り、エインへと事情を説明していた。
村の、それも神獣が関わった事態を話すので、初めこそ渋っていたユウナギだったが、王国の治療士団が出てきたこともあり黙っているわけにもいかないと腹括ったのだろう。了承してくれた。
「ふぅん、その変な男が儀式の時期にわざわざ来て、騒動を起こしたってわけか……」
「そうよ!あんの男、今度島にやって来たらただじゃおかないわ……きぃぃぃ!ムカつく!!気持ちわるかったんだから!」
「お、おち、落ち着いて?メルフリュー」
地団駄を踏む猫耳少女に、羊のツノを持ったセルシィが、恐々と腕を引いた。
「阿保。そんな事言ってる場合じゃねーだろ。もう少しでそんな奴に神獣の巫女の地位を簒奪されるところだったんだぞ」
「わ、わかってるわよ!」
ギャイギャイ!と口喧嘩を始めるユウナギとメルフリュー。間に挟まれたセルシィは、両者をオロオロと交互に見つめ、同じ間にいるシシルは、「あー……気にしないで話をしよっかー」とのびのび笑っていた。
「なるほどな。じゃあ、もう儀式を行ったらいいんじゃないか?なんですぐに始めないんだ?……おっと、怖い」
首を曲げたエインも、射抜くようなメルフリューの視線に背をのけぞらせた。
「……できないのよ!儀式中、候補者は神獣に選ばれるために色々準備をしてるの!言えないけど、それはもう色々な準備よ! それが終わるのが昨日……。だから儀式は今日行われるはずだったのよ……。でも今日は延期するかないでしょう?」
片腕を抱いて、メルフリューは表情に影を落とす。儀式が延期になった不安、安堵が心の中で複雑に絡まっているらしかった。
「ねぇ、それで誰が巫女になることになったの?今日儀式が行われるなら、もう決まってないの?」
横から静観していた いのりが口を挟む。
「——それは……」
「お前だよな、メルフリュー」
言い淀んだ猫少女の代わりに、真っ直ぐな瞳で彼女を見つめたユウナギが言い放った。
エイン「………(うわーまた凄い見られてるんだけど、何か嫌がられることしたかな)」
フレア「………(エイン!ついに現れたわね?絶対負けないのだわ)」
黙って見つめる両者の想いは、すれ違う。
オフィーリア「わぁ、いつも仲良しですね、お二人とも」
エイン/フレア「!?」
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因みに6月6日は、兄の日らしいです




