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第二十二話「嗚呼,今日の空は青い」

後書きは獣族紹介。

 

 ♪

 ♪


 ♪



 ルー君の放った閃光はすぐに収まる。

 前方の大地は一直線上に木々や草花が焦げ付き、土がひっくり返されて掘り出されていた。


 クラクラとする頭。一歩、二歩、その場でたたらを踏んだ。どうやらルー君に魔力を分けすぎたようだった。


「クゥーン」


 ルー君は、足元がフラつく主人の傍に寄り添い、心配そうに見上てくる。


「ごめんね、ルー君。でも、大丈夫……、まだ……」


 優しく耳の間を撫でて、ひのりは目の前を見据えた。ルー君の攻撃が確かに直撃したはずの男は、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がる。その姿を捉え、ひのりは低く唸りをあげた。


「——まだ、大丈夫だよ」


 ルー君も、男が動き出したのを確認すれば毛並みを逆立てた。


「痛いなぁ。折角新調した服がボロボロじゃないですか。全く。だから冒険者って嫌いなんですよ。攻撃に、品がない」


 男がボロボロになった自分の服を気にしてボヤく。こちらを見下しながら笑って、「はーあー、やれやれ」と肩をすくめて首を左右にやるせなく振った。


 その言葉に、態度に、ひのりは唇を噛み締める。なんか、ムカッときて目を細めて睨んだ。


「こっちはそちらから情報を引き出すために、手加減してあげてるですよ。そーいうのわかりますー?なのに冒険者ときたら、敵だなんだと。勝手に気持ちを昂らせるのはやめてもらいたいですね」


 ひのりは、何も言い返せなかった。

 自分の身にも危険が迫ってきていて、男の態度に苛立ちを覚えているのに、開くべき口は固く結ばれてしまっている。

 頭では言い返す言葉が決まっているのに、声が出てこない。代わりにルー君が唸って、今にも飛びかかりそうなくらいだった。



「——あんた、否定しかできないわけ?」



「な……!?がっ」


 鈴の音が短く響いて、風のようなスピードに乗った猫の尾が揺れ、瞬きの間に謎の男は蹴り飛ばされていた。


「え……?」


 白い猫の耳に、白い尻尾がある少女は、男を吹き飛ばした後に、地面に軽やかな身のこなしで着地し、腰に手を置いて「ふんっ」鼻を鳴らす。綺麗な空みたいな水色の髪が揺蕩う猫目の碧眼の少女は。



「め、メルフリュー!?どうして、ここに?!」



 ひのりが、びっくりしてしまって目を白黒とさせ大きく口を開いた。先程まで、あんなに口が糊で貼り付いてしまったようだったのに。


「はぁ。どうしてって、それはこっちの台詞よ!あんたたち、集会所で待ってるはずじゃなかったの?まぁ……さっき、神獣の気配を感じたから気になって来てみたのよ」


 怒るメルフリューは、後半だけモジりと恥ずかしかっていた。感情に合わせて尻尾も彷徨っているようで、怒られてつい謝罪が口に出たひのりも、心配してくれていたのが伝わって来て、なんだかおかしくなってしまった。


「ぷふっ……」


「ちょ、ちょっと!折角人が心配してあげたのに!!あーもう!それよりもアレよ!この状況で人の行動に否定ばかりする余裕があるヤツはなんなのよ!?」


 憤慨する少女の、白い耳と尻尾が不機嫌そうだ。


「えっと……その……ご、ごめんなさい、私もよくわからなくて」


「あたしにまで怯えてるんじゃないわよ!バカ!あんた冒険者なんでしょっ」


「い、いひゃい、いひゃいっ。ご、ごめん」


 メルフリューがひのりの両頬を強めに引っ張る。ひのりはヒリヒリする頬に手を添えて目に涙を浮かべた。


「はぁ。んで、あんたがこの島の騒動の首謀者なわけ?正直、すごい迷惑!悪いけど、はやくここから出て行ってくれない…?ここはあんたたちみたいな悪いヒューマンが足を踏みこんで良いところじゃないわ!」


 立ち上がった男に、肩にかかった水色の髪を手で払い仁王立ちで指を向けたメルフリュー。

 す、すごい。得体の知れない男相手に一歩を臆することなく、蹴り飛ばすどころか堂々とした態度に、ひのりは素直に感心してしまう。


「痛いですね……。獣人の蹴りって……」


 顔から血を流した男が、ユラユラとひのりたちの方へと向かってくる。


「あんた、なんなの?鼻の骨くらいいっちゃったはずだけど……」


「いえいえ、誇っていいと思いますよ。久しぶりに血が流れました。いえ、そういえば先程そこの小さなお嬢さんには神獣をつかって結構なことされましたね。あれも結構傷みましたよ」


「ふんっ、それはどーも!」


 突っかかっていくスタイルのメルフリューに段々とハラハラしてしまったひのり。口を出す隙が見つからない。


「よくも島をめちゃくちゃに荒らしてくれたわね……。あんたの目的は何?」


「さぁ、なんでしたかねー」


「話す気がないなら!話させてあげるわ!!」


 猫の尾を揺らし、男に突っ込んでいくメルフリュー。一瞬で距離を詰める。男に足技をくらわせ、それが腕一本で止められるや否や、その腕を蹴り上げて回転すると腿から短剣を出した。剣が男の頬を掠め、赤い血が伝った。


「すごい……。ルー君!メルフリューの援護をお願い!」


「がうあ!!ぐるるる……」


 ひのりから指示を受けたルー君は、体を小さくした。男とメルフリューの間へ器用に割って入り、猫族の少女のフォローへと回る。


「ぐっ……ちょこまかと鬱陶しい……」


 メルフリューに腹部を蹴られ後方へと吹き飛ばされた男は、口元を拭って忌々しそうに呟く。


「ルー君!!お願い!」


「がうあ!」


 再び体を大きくしたルー君は、風のブレスを使った。一直線の光のブレスと異なって、竜巻のようにうねるソレは、追尾型のブレスだ。避けようとする男を追いかけて確実に的にする。


「——やったの!?」


「ううん!まだみたい……」


 確実に当たったはずなのに、男は立ち上がってくる。


「っち。小娘どもが……調子に乗るなよ」


 苛立った男の低い声に、ひのりの背が一瞬ゾワリと凍りつく。


「仕方がない。仕方がないですね。こちらも少し、怪我でもしてもらいましょうか」


 男の手の後を真っ暗な光跡が空中に描かれていき、魔法陣を作っていく。


「——《闇魔法(ダーク・ブレーグ)》」


「ルー君!《攻撃否定(ブレイク)》!!」


 大蛇のような闇の霧が、ひのりたちに襲いかかってくる。ひのりは素肌を痛めながら、叫んだ。ルー君の光線が闇を打ち消す。


 まずい、もうダメ……。

 魔力が空になった ひのりはその場にへたり込んでしまう。

 召喚状態も維持できなくなり、ルー君も消える。


「ちょ、ちょっと!こんな時に魔力切れ!?もう少し考えて……。やば……!ほら!逃げるわよ!立って!」


 謎の男が不気味な笑みを浮かべて、さらに魔法を繰り出そうと——、



「おい、これ以上、島で暴れんじゃねーよ」



 芯の強い声が、その場に浸透した。

 声と共に、炎を足に纏った一匹の九尾が両者の間に割り込み、大きく炎を燃やした。


 誰もの動きが止まる。


 一匹の狐と声が、蹂躙されるだけの残りの戦いに終止符を打ったのだ。


「っち。狐!?なるほど、狐族の契約獣ですか……」


 男のゲンナリした声に導かれるように、 狐の白い4つ尾と耳を持った狐族の青年が、遅れて森の茂みから姿を現した。その赤い目が燃えている。


「はぁ、狐族のお出ましか……やれやれ、面倒な種族を連れてこられたものだ……。今日はここで引かせてもらいますよ」


 男の視線の先には、赤と白の神官着の衣に身を包んだ、白い狐の耳と尾を持つ神官の青年がいた。多勢になって来た状況に、煙幕を使って男は逃げおおせようとする。


「あ!!ちょっと!待ちなさいよ!!ん"に"ゃ!?」


 男を追いかけようとしたメルフリューの首根っこを青年が掴み、少女の素足が空を踏んだ。


「阿保。逃げてくれたんだ。無理に追いかけてんじゃねぇよ」


「きいいいいいい!!ユウナギ!離しなさいよ!」


 ユウナギ—— ひのりは、メルフリューが狐族の青年をそう呼んだのを聞いて彼女たちと同じ神獣の巫女の候補者の一人だと思い出した。

 長い琥珀色の髪は、赤い双眸と同じ赤い紐で結ばれている。狐の真っ白な耳と4つの尾は手入れが行き届いていてフワフワしているのが側から見ていてもわかった。


「で、ご無事みたいで何よりっつーか。いや、まさかとは思うが怪我、してねーよな?」


「は、はい。大丈夫……です」


 ひのりの周りをウロウロとする狐族の青年。ひのりに近寄ると頭から爪先までジロジロと眺めてくる。その態度に若干引いてしまいながらも、ひのりは頷いた。次いで二人に頭を下げる。


「あの!助けてくれて、ありがとうございました」


 自分が未熟でルー君がいてくれたのに、何も力になってあげられなかったと、ひのりは二人に礼を言う。


「ま、まぁ?別にあたしは、この神獣を祀る島の住民として、獣族として、神獣様が害されるのが許せなかっただけよ!あんたの心配ないてこれっぽっちもしてないんだから、お礼なんて要らないわよ!」


 耳は口ほどに物を言う。猫族の少女の口から溢れる言葉は、どうやら本心ではなさそうだ。


「あーっと、俺も同じく神獣様が傷つくのは見たくないんで。あ、魔力切れしてんだったな。ポーション飲んで回復して」


 お礼をめんどくさそうに受け取る口の悪いユウナギも、いい人そうだった。ひのりは、手渡されたポーションを飲んで再びルー君を召喚する。


 再び召喚された狼の神獣は、「わうー!」と申し訳なさそうに鳴きながら、心配しているかのように ひのりへと縋りついた。


「はぁ。つーか、マジでやられたな……。おい、さっさと神獣様の元へもどんぞメルフリュー」


「わかってるわよ!!あんたも来なさい!ひのり!」


 メルフリューに手を引かれて慌てるひのり。


「え、え、え?で、でも……私が行っても大丈夫なの?」


「一人にさせる方が危なっかしいでしょう……。それに、あんたは神獣の使い手だし、特例よ!」


「……ほーん」


「何よ、ユウナギ……その何かいいたそうな顔は」


「いんやー?なーんでもねーよ」


「む、ムカつく……!!大体なんであんたは一緒にこっちに向かって来たのに来るのが遅いのよ!」


「は?最後の最後で助けてやったんだから文句言ってんなよ」


「はいー?あれは逃したの間違いでしょ」


 え、ええー。ひのりは、自身を真ん中にして勝手に喧嘩を始めるメルフリューとユウナギに困り果ててしまった。


「も、もう!!喧嘩やめえええ!」


 だからか。

 思った以上にひのりは大声を出していた。二人からの注目を浴びて、心臓がどきりとする。

 一呼吸すると、メルフリューの手を優しく振り解いては胸の前でもう片方の手を握られていた手に添える。


「わ、私!村の方へ戻ります!その……村も騒ぎが大きくて、お姉ちゃん達が心配だし……それに。それに、島のルールを守らないと次にまた遊びに来れなくなっちゃうのは嫌だよ」


「わふん!」


 ルー君がひのりを褒めるように鳴いてくれた。


「でも、一人で戻れるわけ?」


「え、私は方向音痴じゃない……と、思うの」


「うわぁ。なにそれ、余計に心配になるようなこと言わないでくれる?」


 メルフリューが顔を青ざめる勢いで疑ってきている。ひのりは、何故だか、いつも心配している姉側の立場になった気がした。


「……そんなに心配なら、メルフリューの忍ネコに案内させればいいんじゃねーの」


 ユウナギは、早く島の神獣の元へ駆けつけたいのか、猫族のテイムしている相棒を使えと言う。


「……はぁ。わかったわよ。気をつけなさいよ、ひのり」


「うん、ありがとう。えっと……メルフリューも、気をつけてね」


 ひのりは、ルー君とともに、姉とリアの元へと森の中を虫も気にせずに急いで駆け抜けていった。


「……お姉ちゃん!リア……!」


 森の中を走るひのりは見えないけれど、今日の天気は雲一つない青空だった。



シシル:赤目に乳白色の髪

「ボクはね!兎族のシシルだよ!へへん、海ウサギと契約してるんだい」


メルフリュー:猫目。碧眼に水色の髪

「猫族よ。あたしたちは格闘が得意な種族なのよ」


セルシィ:茶目に若草色の髪

「わ、わた、私……は。羊族……だよ?伝達が得意な、雲ヒツジが契約獣……だよ」


ユウナギ:赤目に長い琥珀色の髪

「俺は神官としても機能してる狐族っていうやつ」


次回更新は9月になります。(8/30)

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