第二十一話「島の騒動」
今日の兄妹
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「それでね!ボクとセルシィでメルフリューとユウナギの間に入って、やめてよーってやったんだ!」
「あははっ、可愛い。喧嘩した理由がお菓子なんて…あははっ」
「ちょっと!そんなに笑わないでよ!だいたい、小さい時の話で……」
いのりやシシルのおかげで、だいぶ場が盛り上がりあたたまって、いのりやひのり、リア達と、メルフリュー、シシル、セルシィが打ち解け始めていた。
集会所で、そんな風にのんびりとお昼を過ごしていたいのりたちの元に島の異変が伝わったのは、少し後のことだった。
リリリリリリリリリリリリリリッ!!
「————な!!なんなの!?」
激しく鳴り響く鈴の音はメルフリューの袂に入っていた鈴から。勢いよく立ち上がって絶句した猫族の少女は、セルシィに雲ヒツジでの伝達を指示する。
「な、何!?どうしたの?何かヤバい感じのやつなような」
途端、バタバタとしてきた空気に、いのりが驚いて獣族全員の顔を見る。リアも周囲を察して険しい顔をつきになっている。腰の剣に手を置いて、直ぐにでも加勢できる状態だ。
「……ボクらの島の聖域に、候補者しか入れないところまで誰かが入ったんだ!でも、おかしいや……。ここまで奥に観光客が入れるはずが……」
シシルがメルフリューと同様に立ち上がりながら、いのり達にそう教えてくれる。
メルフリューは、シシルと共に集会所を出るところで、付いてこようとしていたセルシィを振り返った。
「セルシィはここに残って神獣様の警護について!」
「う、うんっ。わ、わかったよ……」
「はぁい!」
雲ヒツジを何匹か召喚したセルシィが、村全体への伝達を頼んでいる最中で新たな指示が入り、慌てて頷いた。
「み、みなさんっは!わ、私が……守り、ますね…」
いのり達を振り向いて、胸あたりで腕を曲げて拳を握り、ふんっと気合を入れるセルシィ。おっとりとした話し方と優しい色合いの髪色や風貌が相まってヒツジのように微笑ましい。
セルシィの雰囲気のおかげで、緊迫した状況に息をつめていた ひのりは、少し気持ちを和らげる。ホッと息を吐いてみると、でも、この島の聖域ってなんだろう。なんて疑問が芽生えた。
「ねぇ、この島の聖域って……」
「あ、は、はい…!え、えっと。神獣を祀っている場所、だよ……。わ、私たち候補者と神官しか、入れないところ……になって、いるの……」
やっぱりそうだと、思ったひのり。膝の上のルーくんと目があった。うん、そうだね。ルー君。ひのりは膝の神獣に頷いてみせるとそっと頭を撫でてやった。
「私、一緒に入れませんか?もし、脅威がルー君と同じ神獣に迫っているなら、助けてあげたい!」
「え、え……えぇ?で、でも……いくらあなたが、神獣と契約していても……そ、それは……え、ええと……」
「ひのり!ここは民族文化の意識が強いんだ。そんな無茶振りは……」
「で、でも!ルー君と同じ神獣が困っちゃうかもしれないなら放っておけないもの!」
姉が見守り、リアが嗜める中、ひのりはグイグイとセルシィに詰め寄る。オセオセ、イケイケ状態だった。
「ふ、ふぇぇ……っ。そ、そんなこと…言われても…で、でもぉ」
困りまくり、目を回し始めるセルシィ。「どうしようメルフリュー」と、居ない相手に意見を求めていた。
「いのり!いのりも、なんとか言って止めてあげてくれ」
「えぇ!?う、うーん……。そうだなぁ。島の人が良いって言えばいいんじゃないかな!」
ぽりぽりと頬を掻いて、戸惑っているいのりは、ちょっとだけ考えて、閃いた!みたいな顔をする。
「アレはどう見ても押し売りだろ!」
もっとちゃんとよく見ろ!リアがひのりを指差し、姉妹に苦悩した最中。
「——きゃあああああああああああ!!」
羊族と兎族の集落の方から、大勢の悲鳴が上がった。
「な、なに!?」
セルシィも含めて、いのり達が小屋の集会所から出て周囲の状況を見渡す。ログハウスのような集会所からは低地にある集落全体が一望できて、通常であればのどかな村の様子が見れたことだろう。
「な、なん……なん、で?……みん、な……」
セルシィが絶望と困惑が混ざり合った青白い顔で声を震わせる。
「なにこれ……ひどい……」
目の前に広がっていたのは、テイマー達が暴れ、観光客は逃げ惑い、そして契約獣達によって破壊されていく村の姿だった。
「な、なにが……どう、……な、な、なって……」
その場に座り込むセルシィ。足も声も震えて、立つ気力はないように見える。
「ルー君、どうしたの?」
「ぐるるるる……」
ルー君の意識から不意に嫌悪、怒り、などの負の感情が流れてきたひのりは、下を見下ろした。足元にいたルー君が、モンスターを前にした時のようにお尻を上げて、毛を逆立て、牙を見せて、敵意を剥き出しにし、臨戦態勢に入っていた。
「もしかして、何かあるの?ルー君」
子犬姿のルー君がそんな勇ましい態度になっていたことに少し驚きながらも、ひのりは相棒に問いかける。
「がう!!」
勇ましく返事をしたルー君はついて来いとばかりに駆け出していく。それを見たひのりも、階段を駆け降りた。
「私、行かなくちゃ……」
「ひのり!待て!!一人じゃ危険だ!」
「ひのちゃん!待って!!」
「え、え、えぇ……っ!?ご、ごめんなさい、ごめんなさい……メルフリュー……」
走り出したひのりを追って、リアやいのり、セルシィも村の方へと急いだ。
△▼
姉やリアの静止も聞かずに、一人で突っ走った、ひのりにはルー君から伝わってくる嫌な気配があった。
契約獣のルー君の背を追って走るひのりは、ルー君が何に反応しているのかは分からなかったけれど、それで、この妙に生ぬるい嫌悪感は気持ち悪くて、剥がしてしまいたくなってくる。
「はぁ、はぁっ。ルー君!はや……」
いつもなら必ず ひのりを待ち、モフモフの背中に乗せてくれるルー君が今日は先に先に行ってしまう。
ついてきて欲しかったのは、ルー君なんじゃないの!?と愚痴をこぼして立ち止まると膝に手をつく。丸めた背中は苦しげに大きく上下を繰り返した。
だが、ひのりにはあまり村の中でのんびりと休憩している暇はない。
村は逃げ惑う観光客や一部の応戦している獣族で賑わっている。立ち止まっていると、暴れている契約獣たちのいい的になってしまうだけだ。
「きゃあああああああ!!この島は契約獣だらけで危なくないじゃなかったの!?ちょっと!!あなた獣族でしょう!?どうにかして!!」
目の端では、観光客が別の獣族に助けを求めてしがみついているカオスな状況がある。ひのりも加勢したい気持ちはあるが、ルーくんがいなくては何もできない。そして、ひのりの契約獣である、ルー君はというと、
「がぅあ!!」
凛々しい声をあげて、逃げ惑う人や暴れる契約獣達の隙間をかいくぐっていく。
ルー君はドンドンと村から外れて森の中へと入っていてしまう。
「つ……、うわ、うわわわ……」
ひのりもルー君を見失わないように必死で修羅場を潜り抜ける。海ウサギからのタックルを避け、雲ヒツジの追い攻撃を避け切る。
「い、今なら……はぁ…ぜぇ……。障害物競走、ぜぇ…。一位取れたかも。体育祭で……」
ひのりはだいぶ体力を消耗し、村を越えた。森に入ったルー君を探す前に、既に疲弊してしまっていた。
「ちょ、ちょっとだけ休憩……」
ゆっくりと歩いて呼吸を整えていく。少し落ち着いてから、ひのりは森を見渡す余裕が出て始める。
辺りを見渡すと、だいぶ森の方に入ってきていた。
「なんか……」
村の方は騒がしいのに、森は何もいなくて静まり返っている。
「……なん、だか……。嫌な感じ…」
その静かさはかえって、不気味に感じられた。
「というか、ルー君はどこー?ルー君!ルーくーん!?どこにいるのー?るーくーん!?出てきてー!」
契約獣との繋がりを頼りに勘で森を進んでいく。森、といえば虫。虫が大の苦手であるひのりは、
「む、虫……とかいないよね……」
ある意味ドキドキしてしまって、終始、周りをキョロキョロ、自分の肌を確認していた。
「あーそれにしても、お姉ちゃんたち置いてきちゃったし……。勝手なことしちゃったし……怒られることはないだろうけど……どうしよう」
何もない、誰もいない、静か。そんな状況に一人ぼっち。
徐々に不安を募らせ始めたひのりが背後を振り返りながらルー君を探して歩き回る。もう、はやく見つかってほしい。
「あ……いた。ルー君!!」
銀色の毛並みの自分の相棒を見つけ出したひのりは嬉々として駆け寄っていく。
「ぐるるる……うー……」
「ルー君?」
相棒に近寄ったひのりは、何に威嚇しているのだろうかと前を向いた瞬間。
「————っ!!」
何か、銀色の何か——ルー君の毛並みだったのかもしれない、が目の前で光を放った。
小型のルー君に飛びつかれると軽く後ろに飛ばされ、ひのりは尻餅を付いた。
「————っ、あなた、なんなの?」
一人の少女がいた元の場所には、真紅のリボンが柄に結ばれている銀色の刃が土に刺さり、森の木漏れ日を反射させていた。
そこから顔を上げると、格好は冒険者のような服を身にまとった顔立ちの印象は良い男が和やかに笑みを浮かべて、ひのりとルー君を見下ろしていて、その笑みが、ひのりには酷く気持ち悪く見えた。
「あなたが、あの村の騒動を引き起こしたの?」
どうやらこの男がルー君が感じている嫌悪の正体であると認識した少女は、土がついた洋服を手で払って立ち上がる。
いきなり刃を向けてくるような奴だ。ひのりは警戒を高め、低い声で尋ねた。
「あなたはここで、何をしていたの?」
「はぁ……」
男の、呆れたようなため息だけが、返ってくる。
そして、男は、ルー君に目を向けてようやく言葉を発した。
「やれやれ、どうやら厄介なものに見つかってしまったようですね。それにしても、質問が多い。人に向かって誰だの、何をしているのだと、キサマノの中でもう答えは出ているんじゃないんですか?神獣の契約者よ。尋ねたらなんでも答えてもらえると思うなよ。さてさてその神獣、この島の神獣とも東の神獣とも毛色が違うようですね。まさか、東とこの島以外で神獣と契約する場所があったなんて……是非とも教えていただきたいものです」
ルー君が、神獣ってわかってる……!耳はないし、獣族ではないみたいだけど。ジリっと踵が村の方へと動く。
怖気付いてしまっている自分を奮い立たせるように、姉を思い浮かべて強気に言葉を並べた。
「……そう、なら、犯人さん。神獣を狙ってこの島に来たってことね。おあいにく様ですが!偶然、契約したので場所なんて知りません」
「いや、あるはずだ。偶然にも契約することなんてないのですから。ましてや、ヒューマンにテイマーなど、殆どいないんですよ。偶然なんてあるはずがない。その子はどこにいたんですか?答えてくれたら、命くらいは見逃してあげましょう」
「……私、そんなことを言う人はみんな大抵嘘つきなんだってテレビを見て知ってるんですけど」
なんにも武器持ってないのが、ひのりを焦らせる。
「はぁ、答える気はないようですね。いいでしょう。少し痛い目に遭わないと答える気にならないようですから。これはキサマが悪いんですよ。素直に言わないのですから。そう、しょうがないことなのです」
男が懐に手を入れるのを見たひのりが、キッと睨みつけ、口を大きく開いた。
「ルー君!!」
「がぅぅう!」
体を唸らせて大きくなったルー君が、ひのりの前に、庇うようにして立ち、男の放った刃を叩き落とした。
ルー君に刃を防いでもらうことが歯痒い。ひのりは手を握りしめる。やっぱり弓と弓矢を持ってくればよかった。平和そうな島だったから観光気分でウキウキになって浮かれて……。
ないものはないのだ。今更思っても仕方がないが、これからはどこに行くのでもリアのように武器を常備するか、姉のようにもっと魔法を使えるようにしようと、ひのりは決めた。
「おやおや、契約者といっても、所詮は小娘でしたか。契約獣に守ってもらい、おんぶにだっこなんて情けない」
く、悔しいけど言い返せない!
ひのりの心の中にムカムカとした感情が溜まっていく。
「ルー君!!どかんといっちゃっえ!」
「わおおん!」
天に挙げた一本の指を、勢いよく男に向けたひのりの号令。その声に合わせて、ルー君が尖った犬歯のある口を開けて、魔法属性のブレスを男に撃ち放つ。
カッと一面に白い光が放たれた。
空の上に浮かんだ浮遊島からも、ルペーニ島の森、木々の隙間から真っ白い光がはっきりと見えていた。
「お兄ちゃん、今日のお昼は何を食べますか?」
「街に行ってクエストを受注してからになるから何か買い物をしてこようか。その時に、美味しそうなものかなって、これ全然決まらないやつだ」
「ふふ、じゃあ“ゆっくり”街を“二人”で、回って決めたらいいんですよ。ギルドに行くんですか?それなら、オフィーも何か依頼を受けてみます」
今日もほのぼのと仲良しであった。
お知らせ(8月17日)
8月末に次回更新予定




