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第二十話「神獣まつりし島」

21話になりました!

 

 ♪

 ♪


 ♪


「え、本当に?」


 ルー君を抱えたシシルが、耳を疑ったように聞き直す。ひのりとルー君へ交互に視線を向けて、信じがたいことだったらしい。


「神獣さまが、契約獣?」


「そう。だから、私の相棒を帰して」


 ひのりは既に敵意を隠さずガルル……と威嚇、シシルに手を伸ばして滲みよった。怖気づいたシシルが後ずさる。


「ほ、本当に?きみが、この神獣様の契約者?」


「そうよ。私が、ルー君の契約者だもん」


 ルー君を解放した少年の「これは本格的にマズイやつだや」という呟きは、ひのりには届かない。自分の腕に帰ってきたルー君と抱擁を交わす。


「ねえ、なにか問題でもあるの?」


「ひえ!」


 いのりが手を挙げて少年に尋ねると、無意識に口に出ていたことに気が付いたのか口を押さえるシシルの肩が飛び上がった。キョドキョドと視線をさまよわせて明らかに怪しい。


「あたしも気になるな。船にいる時から、こっちを気にしていただろう。普通の契約獣とは違うと思っていたが、まさかルー君が女神が地上に授けたという神獣だったとはな。びっくりしたけど、ルー君がひのりと契約してなにか問題があるのか?」


「う、ううっ。なーんにもないよ!ないない!」


 シシルが必死に首を振った。手をバタバタをさせる。


 やっぱり、明らかに、どう見ても怪しい行動だった。


「……ねえ、もしかして、私やひのちゃん達を他の観光客から隔離して歓迎してくれているのも何か理由があるの?」


「う、ううぅ……。あはは、実は島で急いで情報を回したら、神獣さまを保護しようって話になったんだけどね!なったんだけどね!?で、でも契約しているってなったら、そんなわけにはいかないし……それに、メルフリューが怖いんだ」


「「「メルフリュー?」」」


 いのりたち三人が首を傾げる。人の名前だろうか。


「シシル、あんた一体なにしてんの?」


 と、集会所に白い尻尾を揺らした一人の少女が現れる。


 シシルが長らく怖がっていた存在、メルフリューだ。


 リンッと鈴が転がる音がして、白い耳が不機嫌そうに動いていたし、碧眼の瞳は怒ったようにギラギラと光っていた。


 背後には申し訳なさそうにしているセルシィが涙目になって控えている。


「ご、ごめんなさい……と、とめられ、なくて……。お、お邪魔、します……」


「ぴっ!め、メルフリュー……。ええと、島の警護はもう休憩になったの?今日も、いい感じの目つき!」


「元々今日は一日オフよ!オフ!で、これが話にあったヒューマン?」


 ジロリと猫目のメルフリュー睨まれて、ひのりは姉の背後に隠れるようにして体を縮こませた。この手のガンガン来るタイプは苦手なのだ。猫は好きなのだけど。


 シシルがひのりの前に庇うようにして躍り出ると、茶目っ気のある笑顔でメルフリューの視線をガードしてくれた。


「ええと、実はもう、神獣様は、彼女と契約なさってるみたいなんだ」


「は?!嘘でしょう!ヒューマンが、神獣と契約したっていうの!?」


「う、嘘じゃないですけど……、ルーくんは私の契約獣だから!」


 先ほどから信じられないという目線はなんなのだろう。いのりたちも気になっているみたいだ。質問するタイミングを見計らっている。


「ねえ、だから。ひのちゃんが神獣と契約していると何か問題があるの?」


「……あんた、この島のことなんにも話してないわけ?」



「あはは、うん!なんにも!ったぁぁぁあ!!」



 可愛らしく頷いたシシルの頭に、勢いよくメルフリューの拳が降った。がつんっと痛ましげな音が鳴る。


「まぁ、神獣をテイムしてるっていうなら、話してあげてもいいわ。ていうか、よく聞きなさい」


 くびれのある細い腰に、メルフリューは手を乗せて僅かに胸を逸らし、自慢げに、一つ息を吸って語り始めた。


「——この島は神獣を祀り、そして神獣様の巫女を立てることで、世界の平穏を守っているのよ」


 巫女——それは、女神が授けた神獣を、正しく導く存在。そして、その選定は何年かに一度、神獣を顕現させる祭の時期に各種族の代表の中から一名のみが選ばれる栄誉あるもの。らしい。


「んで、今がその選定期間ってわけ。島にとっては重要な儀式だから、外部からのヒューマン達の入島は控えているの。それから、そこのシシルとセルシィもあたしも代表の一人、あともう一人は神官の狐族からユウナギっていうイケすかない奴がいるわ」


 足と腕を組んだメルフリューが、ふんっと顔を逸らした。ユウナギという人とは仲が良くなさそうだ。


「じゃあ、ひのちゃんは、アナタたちが言うところの神獣の巫女ってことなのかな?この、ルーくんが、島に祀られていた神獣なの?!」


 元気よく質問をするいのりに、親しみを持ってくれたのか、セルシィが、指を胸の前で恥ずかしそうに編みながら、おずりおずりと答えてくれる。


「そ、その子は……島の神獣様、では……ない、よ。で、でも、巫女って解釈は……多分、あってます」


「多分じゃなくて、あたしたちからしたらそうでしょ!こっちには、巫女になりたくてもなれない種族だってあるのに……」


 ふてくされたような表情をするメルフリューに、いのりは合点がいくと、胸の前で手を合わせ、太陽のように明るい笑顔で残酷にも暴いてしまった。


「あははっ、そっかー!お姉ちゃんわかっちゃった!自分がなりたい、だけじゃなくて他の種族の友達がなれないのが嫌なんだね。メルフリューは」


「「え?」」


 普段から彼女のピリピリイライラとした態度に怖気付いていたシシルとセルシィは、揃って猫族の娘を見やる。その顔は呆けていた。二人の元から丸くて大きい目が、さらにまん丸になっている。

 


「な!!な、ななななななんでそんなことヒューマンに言われなきゃいけないのよ!!」


 ヒューマン達と同族を交互に指差して、メルフリューは顔だけじゃなく、耳まで赤くなって狼狽し、噛みまくりだ。いのりもひのりも「猫や」という心の声はしまっておいた。



「あはははっ、なーんだ!そうだったんだ!嫌いになられちゃったのかと思った!」


「は!?」


「あ、えっと……よかった。いつも通りの優しいメルフリューで」


「はあ!?な、なんであたしが……あんた達を嫌いにならなきゃいけないの……。まぁ、ユウナギは別だけど」


「なぁ、巫女はもう選定されたのか?」


 獣族たちの友情が再結束したようだと、リアが手を挙げて会話に介入する。メルフリューの長くて白い尻尾がユラユラと揺れた。


「ああ、まだよ。でも、神獣様の属性が火だから、風や水の契約獣を扱うことに長けた兎族や羊族が神獣様に選ばれる確率は、残念だけど低いらしいわ」


 ひのりはそれを聞いて思わず、膝で眠る銀色の狼を見やる。ルーくんは一体何属性なのだろうと。


「——で、あたし達の事情はもうほとんど話したわ。そっちのことも聞かせて。あなたは、その神獣様をテイムして、何がしたいの?」


「え?えっと、仲良くこの世界を冒険して巡ってみる……とか、かな……」


 急に真剣な顔をしたメルフリューから尋ねられて、ひのりは戸惑いながらも、なんとなく、この世界に来た時から漠然として持っていた目標を口にしてみた。


「……あんた、そんなことの為に神獣様をテイムしたわけ?あ、ありえない……」


 なぜかドン引きされるひのり。そんなに、変なことは言っていないはずだが神獣への考え方が違うのだから仕方がない。


「め、メルフリュー……。でも……悪い、人たちじゃ、ないんだよ……っ。島に入ってから、み、見てきた、だいじょうぶ……」


「うん!ボクもこの人たちは良い人だし、平気だと思うよメルフリュー!」


 どうやら神獣の力を邪なことに使用しないか心配されていたらしい。いや、でも、そんなことってなんだ。そんなことって……なんて眉間に皺寄せたひのりへ、いのりが乱雑に頭を撫でまわしながら、自慢げに言う。


「うちのひのちゃんは良い子だよ!」


「ああ、ひのりはいい子だぞ」


「わふ!」


「ふ、二人とも……恥ずかしいからやめて……ルーくんも」


 姉とリア、さらにルーくんにまで褒められたひのりは、頬を赤くして顔を手で仰いだ。そんな姿に、メルフリューも警戒も少しなからず解けてくのだった。



            △▼



 一人の男が、護符の貼られた木々の先を見通すように眺めていた。


「おい!観光客か?悪いがそこから先は住民しか入れないんだ。悪いなーあんさん。引き返してもらってもいいかい?」


「ああ、そうなんですか。それは失礼。もちろん、入りませんよ、それがこの島のルール、なんですから」


 兎族の青年が、男の言葉に胸を撫で下ろした。観光客の中にはルールを守ってくれず、さらに激昂するような輩もいるからだ。


「ありがとうあんさん!いやー理解してくれて助かるよ。お土産でなにかまけてもらうといいよ。案内するからさ」


「案内ですか。それはそれは有難い。では、ひとつ、案内をよろしくお願いします」


 青年に近寄って、男は、指を弾いた。青年の額に弾かれた指が当たる。


「がっ!!」


 青年は一度ふらつき、その後、護符の向こう側へとおぼつかない足取りで近寄っていく。


「さあ、案内お願いします。ああ、安心してください、私はここで待っていますから。いってらっしゃい私の目よ」


 男は、冒険者然とした立ち姿で、軽く手を振って青年を送り出す。


「さて、お茶でもしてゆっくりしておきましょうか。ああ、楽しみですね。神獣おわす島。その内部。しかも今は、儀式の最中だとか……」


 黒い防護服に身を包み、不気味に笑みを浮かべた男が、村の中へと消えていった。


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