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第十九話「ルペーニ島の案内人シシル×セルシィ」

みんなの好きな食べ物は?

 


 ♪

 ♪


 ♪




【〜ルペーニ島に入る前の注意事項〜】


 その1.島の動植物、遺跡の遺物などを許可なく持ち出してはならない。お土産屋さんのは例外。


 その2.動物はルペーニ島でも貴重な存在なので、無闇に傷つかないように。島の動物たちはほぼテイムされているため危害を加えてきません。


 その3.ゴミや外からの物を捨てたり放置することを禁ずる。


 その4.立ち入り区域を守ること。


 その5.島の中で暴れないこと。


 【以上】



「はい!それじゃあ、注意事項も読み終わったし、ボクと海ウサギたちとの歓迎会をご覧ください!あ、はじめまして!ボクは兎族のシシルです!がんばります!」


 シシルと名乗った兎族の少年は、元気よく挨拶をすると指を鳴らした。海ウサギたちが海の中から勢いよく跳ね上がり、空中に虹が浮かぶ。その上を海ウサギたちが中々の巨体で回転しながら通り抜ける。


「おおー!」


 海からは海ウサギたちが跳ねる音が、船内からは観光客らの拍手の音が上がった。


「わー!すごーい!!みんな息ぴったり!」


 横で姉がショーに見惚れながら手を叩いているが、ひのりはテイマーとして尊敬の眼差しを、シシルへと向けていた。


「すごい……!あんなに複数の契約獣がいても、意思疎通が乱れないなんて!」


「うんうん、え?ひのちゃん、なんか感動ポイントが違うような……。まぁ、いっか!」


 ひのりも所持しているテイマーの基本スキル:一心同体。これは、契約獣との意思疎通や魔力供給、経験値共有を行えるテイマー独自のスキルである。契約獣が増えるごとに、同時に意思を共有することは難しくなってしまう。一斉に人の声を聞いて、それぞれの主張を理解してあげることが困難なように、自分も含めた人間が一斉に言いたいことを述べた時に誰が何を発言したのか分からないように。


「……演奏、してるみたい……」


 うっとりとした目線を、海ウサギたちへと向けたひのりがぽつりと呟く。


 乳白色の柔らかな髪を海風に遊ばさせているシシルを指揮者とした、海ウサギ達が演奏者の一つの曲をみんなで作り上げていく楽団のようでもあった。


 歓迎の披露の時間はあっという間に過ぎてしまい、


「——ありがとうございました!えへへ、楽しんでもらえたかな?そうだったらいいなぁ!」


 惜しみない拍手を受けたシシルは、頬かいてはにかみ、とても嬉しそうだ。


「見てるだけでも仲良しなのが伝わってきて、すっごく楽しかったね!」


「うん……」


「ああ、よほど練習を積んだんだろうな。あたしも海の上にいることを忘れて魅入ったよ」


「うん……、そうだね」


「ひのちゃん?」


「うん、とっても、すごかったね」


「ひのちゃん?おーい!」


「うん、そうだね……」


 姉とリアの言葉に空返事を繰り返す ひのり。もうじき島に着いてしまうこともあって、シシルへテイマーとしての技術を聞く余裕も、会話術もなかった(ほぼこっちが理由)。


 ひのりとしては、初対面の相手にどう切り出したらいいのか、さっぱりわからないし、そもそも今聞いても良いのか分からない。それに、船の上で驚かれて余計な注目を浴びたくはなかった。今もリアに抱かれているルー君をチラチラと見ながら、頭の中では同じ考えが行ったり来たり。


「ベストタイミングは、やっぱり……島に、着いたとき……かな……?」


 ぐるぐるとひのりの頭の中が回っている最中。肝心のターゲットである少年は、ひのりたちを(というよりルー君)の存在に実は気がついていた。この船に来る前から、自分の契約獣である海ウサギたちが、なにやらずっと騒がしかったのだ。


 今すぐにでも、「うわぁ!うわぁ!すごいや!すごいやあ。神獣様だ!」と言って駆け寄って、神獣様のご尊顔を拝みたい気持ちのシシルは、ムズムズ、ウズウズ、してしまって落ち着きなく船の船首に座って島に着くのを今か今かと待ち侘びていた。


「あ……しまったや……。余計にメルフリューがピリピリしちゃうよ……。大丈夫かな」


 島にいる一人の少女を連想し、シシルは苦笑混じりの表情を浮かべ、心配になってきてしまう。


「うーん、仕方ない!そういうこともあるよ!」


「キュキュイ!」


 海ウサギが契約者を鼓舞するように鳴いた。



            △▼



 いのりたちを乗せた船が、島の港へと到着する。


 船を降りて港の橋を渡りながら見上げれば、そこには上に高さを伸ばした無人島のような森の光景が広がっていた。どこに住民の居住空間があるのか気になってしまうほどだ。


 海に浮かぶ橋を渡ると白い砂浜が待っていた。背後には森、前方には海。


「いっやっほーー!!」


 島の周りの水平線まで続く大海原に向かって、いのりは腹の底から声を出した。


「おねーちゃん!置いてかれちゃうよー!」


「はぁい!今行くー!」


 ひのりの声に気が付いたいのりのが、観光客の側へと戻る。と、船員が手を振ってくれているのがわかった。お見送りをしてくれているのだろう。いのりは手を大きく振り返した。


「もーお姉ちゃん。はしゃぐとすぐどっか行っちゃうんだから。ここじゃあ携帯も通じないんだから迷子になっても知らないんだからね」


「ごめん、ごめん。つい、はるか向こうに声を届けたくなっちゃってー?」


「もー……仕方ないなぁ。お姉ちゃんは……」


「あはは……。えっと、ここが入り口?」


「うん、そう……みたい。どれだけあるんだろう?」


 姉妹が見上げる先には、森の木々を伐採し整備された道が上へと作られていた。丸太で作られた階段が果てしなく続いている。

 

 どこまで続いているのかわからない階段を見るだけで、体力のない、ひのりは、うへぇと今から根をあげたくなってしまう。自然、顔が険しくなっていた。


「——みんなさん!えーっと、頑張ってください!途中でボク達兎族と羊族の里があるんだよ!ボクは後ろから行くからドンドン真っ直ぐ登って行ってね!先頭の人は、この子について行ってね!」


 手を高く挙げて観光客を集めたシシルが、元気がいい笑顔を浮かべて自分の背後に隠れていた少女を目の前に押し出した。


「ほら!セルシィ!案内よろしくね!」


 フワフワと軽い若草色の髪を顔を隠すように結った茶色の瞳が愛らしい少女が、長いまつ毛でその瞳をも隠したがっているのか下を向きがちに、キョドキョドと声を発した。


「あ、あの……。ここ、ここからは……つ、付いてきて?」


 羊の湾曲した角が頭の左右に付いている。彼女が羊族なのだろう。角は、白いヘッドドレスからハミ出た飾りにも見えてくる。


 セルシィを先頭に、皆が階段を登り始める。


 それと交換するように、シシルが観光客の後ろへと移動し始める。


「あ……!お、お姉ちゃん、リア。一番、最後に……」


 シシルと話したい ひのりが、二人の裾を引いて、最後から付いていこうと提案しようとしたその時だった。


「——あれ?おじさん!さっき居なかったよね?」


「は?何を言い出してんだこのガキ!」


 シシルが、天真爛漫な赤い瞳を丸くして観光客の途中で立ち止まった。少年に指摘を受けた、見るからにガラの悪そうな男が、血管を額に浮き出してシシルの服を掴みかかる。


 見ていたひのりが、不安げにそっと姉の腕に寄り添い、階段を登り始めていたセルシィはオロオロしてしまう。長い袖からちょこりと出た指を胸元におく。


「でも、いなかったよ!!人数も一人多いや!ボク、顔と人数はちゃんと覚えるもんね!」


「てめぇの記憶なんてアテになるわけないだろ!」


「——おじさん、言い訳なんて大人気ないよ……」


 シシルの赤い瞳が深く染まる。目を細め、声のトーンが落ちる。男が少年の覇気にたじろぐ。


「……ってめぇ……!!」


「きゃあ!!」


 観光客から悲鳴が上がった。シシルが男に殴られたからだ。セルシィの顔も青ざめる。


「きみ、大丈夫!?」


 いのりが直ぐにシシルを庇い、男と少年の間に割って入っていく。


「……あいつ!!騎士としてあたしが……」


 リアも腰に下げた剣を今にも抜きそうな勢いだ。


「おじさん、やっぱり特に今は島に入れてあげられないよ!」


 シシルが声を張ってプンスコと主張すれば、男の眉尻が歪む。


「あ"あ"!?」


「——け、ケンカは、ケンカ、だめぇ……!!」


 か細い声と共に、風が男を吹き飛ばした。海の浅せに顔から着地する男。


「ありゃりゃ……☆」


 シシルが特に気に留めていない様子で、何やら気絶した男に近寄ると顔に落書きをして、海ウサギに男を運ばさせる。恐らく船に戻すのだろう。


 だけど観光客たちからはそうはいかない。強風を放った当人—— セルシィへ視線が集まってしまう。


「あ、あの……えっと、ごめ、ごめんなさい。け、ケンカする人……と、悪い人…は、し、島にあげられないの……」


 一気に注目を浴びたセルシィ。視線の先が定まらずに彷徨っていた。その横には手のひらサイズの丸い毛玉がプカプカ宙に浮いている。


 入島した直後から物騒な島人に出会ってしまった一般の観光客の中には怯えてしまう者もいたが、セルシィが真摯に頭を下げたことでどうやら騒めきは落ち着いたようだった。


「ごめんねー、ひのちゃん」


「ホント、びっくりした。そういえば、あの子も、テイマーなのかな?」


「みたいだな。あたしも、あの浮いてるのは知らないな……」


 いのりの無事を確認し、いきなり出ちゃダメじゃんなんて小言をぶつける ひのりは、姉が反省した姿を見たのちにセルシィにも目を向けた。


「あれは風魔法が得意な、雲ヒツジだよ!」


「うわ!!」


 ひのりの疑問に答えたのは、観光客の列に戻ってきたシシルだ。すごんだ時の迫力はなく、向日葵のように笑っている。


「さっきはお姉さん、庇ってくれてありがとうございました!えへへ、怖い思いしてない?里に着いたら美味しい果物でもご馳走するね!ごめんね!びっくりさせて。でも、今は特に正式な客人以外は入れられないんだ!」


 人懐っこく、笑っている少年だが、その頬には殴られてアザになってしまっていた。いたいたしい。


「ううん、それより君のほうが大変なんじゃ……」


「大丈夫だよこれくらい!よく治る薬草があるんだよ!それに、ボクとセルシィは島の案内人だから!」


 この子、こんなに私たちに話して大丈夫なのかな。ひのりは姉とシシルの会話を聞きながら少年を心配してしまった。


 は!それより、今がこの子と話すチャンスなんじゃ!!


「ねぇねぇ、お姉さんたち。このしんじゅ……じゃなかった動物は誰がテイムしてるの!?」


「ルーくんか?この子は、ひのりが……」


「見たところ、ヒューマンだよね!すごいや!ボクはこの島に来た人しか見たことがないけど、初めてヒューマンでテイマーの人を見たよ!」


 赤い瞳がルビーみたいに輝き、眩い光を放っていた。


「ありがとうございます……。で、でもシシルくんの歓迎会も凄かった!どういう風に契約獣と連携を取ってたの!?」


「へへっ、ありがとう。あれはね、絆の深さかな!」


 階段を登りながらテイマーのことについて談笑していると、あっという間に兎族と羊族の里に着いてしまった。訂正。シシルとの会話を楽しんでいたひのりだったが、終盤は口数も減ってだいぶしんどそうに階段を登っていた。


「はぁ、はぁ……つ、疲れたー……」


 シシルは、お礼をすると言っていた言葉通り、いのり達を島の住人が利用できる木造建築の集会所に招き入れていた。


「暑かったねー。しっかりーひのちゃん」


「いい運動にはなったな!」


「……なんで、お姉ちゃんとリアはそんなにケロッとしてるの?」


 いつも一緒にいるのに、この差は何なのだろう。ひのりは、手で顔を仰ぎながら出された飲み物に口をつける。


「美味しい!」


「へへっ、それはねー!この森で取れる果物のジュースなんだよ!疲れていても、さっぱりしていて飲みやすいと思ったんだ」


 ちょうど飲み物のお代わりを持ってきてくれたシシルが、ひのりの歓声を聞いて、飲み物について自慢げに教えてくれる。


「それにしても……うわぁ!!本物の神獣様だぁ!!これが神獣様かぁ。神獣様なんだぁ。かっこいいやー!」


「けほっ!けほ、けほっ」


 足の短い長テーブルに、お代わり用の飲み物が入ったグラスを置いたシシルが、小さなルー君を持ち上げてぐるぐる回った。


 え?今、神獣って言った??


 え?


 ひのりが咳き込み、いのりに背中をさすられながら困惑し、抱き抱えられているルーくん同様に目を白黒させてしまう。


「——ねえ、お姉さんたち、ボクにもこの子と出会った経緯を教えてよ!」


 ひのりには、シシルの笑顔が純粋そうには見えなかった。

 いや、それよりも、説明して信じてもらえるのかすこぶる不安でしかない。

 

 でも。


「その子は、ルーくん。私の契約獣です」


 ひのりは、真っ直ぐにシシルを見つめ返し、ハッキリとそう告げたのだった。



いのり「メロンパンかな!」

ひのり「抹茶味のやつ」

リア「甘いものだな」

オフィーリア「人参です!」

エイン「嫌いなもの以外なら。特にないよ」

フレア「ふふ、トマトよ」

ロイ「魚ですかね」

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