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4話「冒険者等級がレベルアップしたようです!」

 

 ——異世界に来て6ヶ月が経過していた。


「こんにちはー!!」

「こんにちは、お邪魔します」


 二人はこの日も、魔石に魔力を込めるクエスト受けることにした。


「……何か、あったんですか……??」


 そう問いかけるイノリの目線は、天井の大穴を見つめている。慌ただしく、当座凌ぎの修復を行なっている職員はイノリ達がやってきたことにも気が付いていない様子だ。

待ちきれなくなったイノリが、近くにいた新米を捕まえてようやく認知された。


「あ!! こ、こんにちは。お二人とも、慌ただしくきていてすみません。部長から本日は別室で作業してもらう様にと言伝をもらってます。今、案内しますね」


 ヨレヨレになった白衣を新米職員が着直し、抱えていた荷物を近くのテーブルに慌ただしく置いた。フラスコ等が入ったその箱は、ガシャンと音を立てる。ヒビが入っていることも確認する余裕もないのか、新米はそのまま二人を別室へと連れていく。

 とりあえず、クエストは受けられそうだ。


「そういえば天井に穴が空いてましたけど、何かあったんですか?」


 別室で魔石の準備をしている新米に、イノリは再度問い直した。「え!! あ、あー……なんていうか、えーっと……」聞かれたくないし、話せない内容だったのか、新米の職員はしどろもどろに口を濁す。


「えぇと……、とある冒険者さんと開発している新商品の実験中に……その、トラブルが起こりまして……はは……」


「ほへ〜……、新商品の開発なんかもしてるんですね!!」


「そ、そうですね。……あ、では今日も本番用の魔石に魔力をお願いします」


「はーい……って、あれ? なんか今日はいつもより少ないね」


「え!! そ、そんなことは……。じゃ、じゃあ、何かあれば呼んでください」


 テーブルの上に置かれた魔石を見たイノリの反応に、そそくさと退室する新米職員。扉が閉まるのと同時に姉妹は同じ感想を口にした。


「逃げたな!! / 逃げたね!!」


 この6ヶ月、度々この魔石に魔力を込めるというクエストを受けてきた姉妹は、魔力量と魔力を知覚する能力に目覚ましい成長が見受けられた。イノリは特に。

 並の冒険者がこなすクエストの量を、遥かに上回るイノリの作業量に、ついに部長は規制をかけてきたらしい。


(……多分、ほかの冒険者も依頼を受けれる様にするためーとか、お姉ちゃんの体を心配してーとか、なんだろうなぁ……)


 物足りないよーとブツブツ言っている姉の横で、ヒノリは大人の事情の一角を読み解いていた。


「今日は皆さん忙しそうだし、しょうがないよ、お姉ちゃん」


「そうだね……そっかー……」


「お姉ちゃん、グダってないで終わらせちゃおうよ」


「んぇー……ちょっとやる気出ない〜」


「もう、仕方ないなぁ……」


 黙々と作業を進めるヒノリの横で、イノリは机に腕を乗せて頬の枕にしていた。イノリの作業はヒノリより早い。今はサボっていても、作業を始めれば姉の方が早く作業を終える事をヒノリは知っている。それならまぁいいかと自分の作業に戻った。


「———できた……。お姉ちゃんは………」


 隣を見れば、既に終わっていた。


「………」


 姉が早く終わるのは、分かっていた事だったけれど、実際に先に終わっているのを見ると、なんていうか気持ちがモヤモヤして唇をへの字にして苦い顔をしたくなってくる。

 真面目に取り組んでいたのは私の方だというのに。

 その一方で「さすがお姉ちゃん!!」と、姉を褒めちぎり、自慢したい姉馬鹿(シスコン)自分(ヒノリ)がいるのだから、複雑である。


「はひぃ〜。ひのちゃんに追いつこうと必死になっちゃった」


「ふぅーん……」


 トゲトゲしい雰囲気の返事に、イノリは首を傾げる。

 もしかして、もしかしなくても最初から真面目に取り組んでない姉は嫌がられてる!? なんて、当たらずとも遠からずな予測を立ててしまう。


「あれ? ひのちゃんってばなんで不機嫌??」


「知らないっ。甘いもの食べたいっっ」


(困った……ひのちゃんに、ぷいっとされてしまった……。お姉ちゃんとして挽回しなくちゃ)


「お、お姉ちゃんも食べたいな〜。帰りにギルドの食堂でご飯食べて帰ろうかっ!!」


 わがままが通ってしまった事に罪悪感があるのか、ヒノリは姉を申し訳なさそうに振り返る。そして、小さく頷いた。


「……うん、食べる……」


「よぉーーしっ! じゃあ、今日はお姉ちゃんの奢りだよ!! 好きなものをお食べなさい妹よっっ!!」


 ばばーーーーーんっっっ!!

 イノリは腰に手を当てて、得意げに胸を張る。「おぉ〜……お姉ちゃん太っ腹」ヒノリは目を輝かせ、遠慮がちに手を叩いた。


 **


「———お二人とも、凄いですね! たった6ヶ月で冒険者の等級がE級に上がりましたよ。」


 クエスト帰りに窓口で達成報告をした姉妹に、受付嬢は喜ばしそうに告げた。


「この6ヶ月、クエスト頑張ったもんね」


「うん、毎日お姉ちゃんも朝起きるの頑張ってたし……よかった」


 互いの手を取り合って喜ぶイノリとヒノリの姿を、背後の食堂兼待合席に座っていた面々は見逃さなかった。


 毎日ギルドに現れる身長150センチ程の背の低い姉妹は、ギルド内ではすっかり有名になっていた。17歳のイノリすら皆から見れば幼いと思われているらしく、二人の冒険者として成長や行動は、強面の冒険者達からも遠巻きにだが温かく見守られている。

 今も、E級に上がった事を喜ぶ姉妹の姿に、頬を綻ばせる者や、こっそりと涙ぐむ冒険者がいるほどだ。


「よーーし、ひのちゃん今日はお祝いとご褒美のデザートだよーー!!」


「わ……わーーーい!」


 お祝いムードに包まれた姉妹は、食堂でお目当てのタルトを頼む。食堂の店員は特別にチョコプレートを乗せてくれた。“おめでとう”と書かれた文字に照れくさそうに笑いあって、苺と木苺などのベリー系のフルーツをカスタードで包んだタルトを幸せそうに頬張った。


「———こんにちはお二人とも。前はクエストを譲っていただいてありがとうございました」


「あ……アイド……じゃなかった。ううん、こちらこそクエストについて教えてくれてありがとうございました!! 私もひのちゃんもついにE級になれたよ」


 スイーツに舌鼓を打つ二人に声をかけてきたのは、6ヶ月前に掲示板で出会った少女——色鮮やかな花冠が印象的な、ツインテールで結ばれた長く綺麗な灰髪で、可愛らしい桃眼の少女——、オフィーリアだった。


「もうE級に!? 凄いです。オフィーがE級になるのなんて標準通り1年半くらいかかっちゃいましたよ」


 ハッと息を呑んだオフィーリアは、縦に開いた口を手で隠しながら目を丸くした。


「お二人とも毎日頑張ってらっしゃるってギルドでは有名になっていたんですよ。オフィーと変わらない歳なのに……とっても、とっても立派です……!!」


 そんけ(尊敬)ーーと言わんばかりの曇りのない眼差しに、イノリは照れくさそうに微笑み、ヒノリは笑いかけた唇を丸ながら目を伏せた。


「えへへ、そうかなぁ。ありがとうオフィーリア」


「ありがとう、ございます……」


「そうです!! お祝いに……こちらをどうぞ」


 長いツインテールを、兎の耳のようにぴょこぴょこと揺らしたオフィーリアは、肩から下げていたポシェットから2枚の四角チケットを取り出した。姉妹がそのチケットに不思議そうな顔をしていると、少女は説明してくれる。


「あ……えっと……。オフィーは治療士なんです。普段はクエストを受けて対価を受け取っているのですけど……お祝い事があった人には無料で治療を行うチケットをお配りしてるんです!」


「すごい営業力だ!!」


「バレてしまいましたか? えへへ☆」


 ちろり、と舌を見せてオフィーリアはお茶目な表情を見せる。


「治療士、オフィーリアをよろしくお願いしますね。新人(ニューフェイス)の冒険者様?」


「ファ……ファンになりそう……」


 早速、ヒノリのハートが鷲掴みにされてしまった。


「ファン……?? 」


「あ!! ううん、こっちの話だよ。気にしないで」


「そ、そうですか。これから頑張ってください。怪我には気をつけてくださいね」


「うん、ありがとうオフィーリア。がんばるね」


「はいっ。あ、ごめんなさい人を待たせていたんでした!! また会えたら嬉しいですっ」


「ハッ……!! あ、ありがとうございましたオフィーリアさん。チケットは大事に使いますねーっ」


 ギルドの入り口を振り返ったオフィーリアは、待たせているという人の姿を視界におさめて狼狽した。

 慌てて姉妹へお辞儀をすると小走りでギルドの出入り口へ駆けて行く。


「ご、ごめんなさいお兄ちゃん。お友達とお話していたら遅くなっちゃって……」


 ギルドの入り口に立っていた黒髪の青年は、オフィーリアの心配そうな顔を見れば、首を振って否定した。


「いや、謝る必要はないよ。新しくできた友達なんだろ? 」


「そんな事言って、お兄ちゃんってば暇そうにしてましたよ?」


 くすくすと微笑むオフィーリアに、青年はバツが悪そうに黒髪を掻いた。


「そりゃ、な……。でも、オフィーリアとその友人の時間を邪魔するつもりは本当にないんだからな?」


「はいっ。ふふ、分かってますよお兄ちゃん」


「んじゃあ……帰るか……」


「お兄ちゃん?」


 歩きながら後ろ髪を引かれるようにギルドを見る兄に、オフィーリアは何を考えているのかと尋ねる。


「いや……、なんでもないよ。ただ……」


 オフィーリアと話していた甘栗色の少女の、その身に宿る膨大な魔力を思い返した青年は、自然と不敵な笑みを浮かべた。


「……ちょっと面白そうな新人(ニューフェイス)が出てきたなって思ってさ」


「……お兄ちゃん……それはどういう意味ですか?」


「お、オフィー? なんか顔こわくない?? 目に光がないっていうかさ……いたっ、いでででで、治療士が叩いたらダメだろ」


 フルーツタルトに夢中な姉妹は、とある男女の会話を知る由もない。


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