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第十三話「姉妹は依頼を探すようです」

 


 ♪

 ♪


 ♪




 いのりと ひのり、リア、るーくんがルバルダン国に来てから3日目。三人と一匹のもとには再び新しい朝がやってきていた。



「おーい、ひのり。こっちだ」



 宿泊先の食事処に足を運ぶ少女がいた。まだ眠たそうな目をしたその少女、ひのりを見つけたリアが席を立つ。人数分の椅子が設置され、白いシルクのテーブルクロスを敷いている円卓の側で、ひのりが気が付くように、おーいと手を振った。



「リア。おはようございます」


「おはようひのり。まだ眠たそうだな」



 ここの朝食はバイキング形式になっている。主食はパンとスパゲッティー類だけだったが、おかずは肉から海鮮まで種類が豊富で、デザートもフルーツ、焼き菓子からゼリーまで。ひのりは料理の多さに、本当に朝食か?と疑わしくなった。


 ひのりは料理をいくつか見繕ってリアのもとへ。襟がセラーカラーになっている白と青のワンピースを着こんだひのりの長い黒髪にはまだ寝癖が残っていた。ところどころ跳ねてしまっている。


 リアは、ひのりの背後にいのりが見えないことに気が付くと、首を傾げた。



「いのりは?まだ着替えてるのか?」



 席に着いたひのりが、パンやオムレツなどを乗せた皿をテーブルの上に置く。それから、リアの疑問に答えた。毎度のこと過ぎて、ひのりも呆れてため息をついた。



「うん、そう。さっき起きたくらいなんだから。全くお姉ちゃんは……」


「相変わらず寝坊助だな、いのりは」



 食後の紅茶を飲んだリアはその話を聞いて小さく微笑む。紅茶の香りとあたたかさに、ほうっと息をつく。


 いつもポニーテールにしていた銀髪を降ろしているリア。恰好も鎧ではなく、上品なトップスとひざ丈スカートで、オムレツを頬張ったひのりの目には、どこかのお嬢さまのように見えた。



「———リアお姉さま……」


「げほっ。お、お姉さま!?」



 思わずひのりの心の声が零れてしまう。もう一度紅茶を飲もうとしていたリアがむせ返った。けほけほ咳込むリアに、驚いてしまったひのりが心配そうに眉を下げ、「ごめん、大丈夫?」と紙ペーパーを渡しながら謝った。


 いのりが二人に合流したのは、ひのりが朝食を食べ終わってしまった後のことだった。遅れてきた いのりが、皿にパンを乗せ放題状態で席に着く。そして、慌てて口を忙しく動かす。


 二人のことを待たせてしまっていると自覚があるようだった。



「えへーーん。待ってー。今パンを詰め込むから!もぐもぐ」


「お姉ちゃん、ゆっくりでいいから」


「そうだぞ?パンだけじゃなくてほかのものもゆっくり食べてもいいんだからな?」



 姉が食べている間に、ひのりがリアに今日の予定はどうしようかと話題を振る。



「結局、昨日は観光したけど……。ルペーニ島行きの船のチケットは完売していて、次は一ヶ月後だって言われちゃったし……。私は博物館とかも行ってみたいかも」



 自分の意見を言った後、ひのりは姉の皿に乗っているパンがおいしそうで一つ頂戴と頼んでみる。いのりは「しょうがないなぁ」。そう言い、妹に分けてやった。いのりもひのりも、半分こや、わけっこは慣れっ子である。



「うーーん。そうだなあ。まずはルバルダン国のギルドに行って、新しいクエストを受注したい!まあ、今日くらいまでは観光をしてもいいかもしれないが、何かいい報酬のクエストがないか見てみたいな。後は、鎧や剣も修繕しておかないとな!武器屋に行こう」


「それなら、最初にギルドへ行った時、武器屋の場所を聞いておかないとね」


「ああ。直ぐに研磨が終わるといいんだけど……」



 リアが椅子の横に立てかけていた愛剣を、愛しそうに黄緑色の瞳に映しては、そっと撫でた。常に手元にないと落ち着かないのだろう。姉妹は彼女が寝る時も剣の柄の上に手を置いていたのを毎夜目撃していた。ひのりにもいのりにも、リアが剣を大切にしているのが伝わってくる。


 リアは剣を大切にしているという理由もあるが、ひのりも賛成派だった。


 始まりのブローザルト国を出てこの国に来る間。いのりを除き、ひのりやリアは剣や弓といった消耗品を武器にしていることもあり、武器屋とクエストの報酬の必要さをひしひしと感じ取っていたからだ。特にひのりは、旅立つ前に購入したはずの大量の弓矢の残りが心もとない。


 弓矢を購入するためにも、なにか報酬の良いクエストがあればいいななんて、ひのりは、姉が持ってきたパンを一つ貰って食べながら、ぼんやり考えていた。




             △▼




 ルバルダン国、冒険者ギルド(支部)。


 朝食を食べ終わった3人は、計画通り冒険者ギルドへと来ていた。クエストボートの前に立って、真剣な面持ちで依頼を吟味している。



 この国の冒険者ギルドは外見こそ、周囲に合わせているが、建物の前に立てかけられている旗や——魔法陣に剣が交差したマークを刺繍した深紅色のもの——入り口の扉の形は前の国と同じだった。



 るーくんは三人の背後で初めこそ大人しく座っていたが、尻尾を誤って他の冒険者に踏まれてから、ひのりの周りをウロウロしていた。



「う、うーーん。船の護衛とかが多いね。外って行ったら、あとは薬草とか」



 重なっている依頼用紙を、2本の指で摘んでペラペラめくっていた ひのりが、むむむむと唸った。


 水上のクエストは行った事がないが、難しそうである。



「あー……まぁ、この国は観光国だからなあ。外から来る人が多くて、冒険者が外から来ることもあるだろうから、多分それであんまりないんじゃないか?」



「えーっと、冒険者がモンスターを倒してこの国に来るからってこと?」



「ああ、多分」



 いのりが、ペラペラ紙を捲りながらリアの声に顔を上げた。たしかに私たちも、モンスターを倒しながら来たもんねと。リアは いのりの言葉に頷く。



「ねえ、ひのちゃん。意外と船の護衛もできちゃうかもよ?」


「え"!?」


「え!?なんで!?」



 楽観的な姉の言葉に、耳を疑う ひのり。眉間に皺寄せて、そんなわけないじゃないという心の声が顔に書かれていた。



「……。だって、船の上だよ?揺れるんだよ?」


「え?でも、例え船から落ちても、私もひのちゃんも、泳げるよね?」



「う、うーーん。そうじゃなくてぇ。1番初めのクエストも、二人で出来そうって思ったけど、失敗しちゃったし……」


「それはそれ!これはこれ!」


「えぇ……」



 いける、いけるー♪やればなんとかなるなるー♪と押し押しの姉に困り果てる ひのりが、助け船を出して欲しさにリアを見た。なんとか言ってほしかったのだが、肝心の本人は何故か絶句していた。驚いているようだ。



「えぇ!?ふ、二人とも……お、泳げるのか?」


「「え??」」



 驚いたリアが尊敬する眼差しで姉妹を見つめた。それから、申し訳なさそうに笑ってポリポリと頬をかく。姉妹もなんとなく察してしまう。もしかして……。もしかして?



「いや……実は。あたし、その……。——か、金槌……なんだ……」



 と、いうわけで、船上クエストはリアが金槌なのが発覚したため、選択肢から外れることになった。



「あった………!あったよ!あったよ ひのちゃん!」


「本当に!?お姉ちゃん!」



「わふ!!わふ」



 宝の箱を見つけたかのような嬉々とした声を上げる いのりに、ひのりもまた同じような声音で姉が手にした一枚の依頼用紙を覗き込んだ。


 ひのりがいのりと距離を詰めた時、るーくんにもその雰囲気が伝わって、嬉しそうに二人の近くで尻尾を揺らした。



「王都周辺にあるダンジョンモンスターのクエストだって。えっと……、そのモンスターを倒すと、レアアイテムが手に入ると聞いたので、それを持ってきて欲しいみたい」



「報酬も……すごいね……」



 その依頼に決めそうだった姉妹の横から、リアも用紙を覗き込む。瞬間、顔を青ざめさせた。



「ま、待て待て待て!!二人とも!いや……。これ、ダンジョンの最深部にいるボスモンスターの討伐依頼だぞ?あたしたち3人じゃ無理だ!」 


「え?そうなの??」


「ああ!そうなんだよぅっ」



 あっけらかんとした態度を見せる いのりに、リアは首を激しく縦に振る。最下層にいるボスモンスターを駆け出し冒険者3人のパーティで倒したなんて聞いた事がなかった。リア自身、多少なりとも姉妹なら行けるかもしれないと思ってしまってはいたのだけれど。



「ふ、ふ、ふ。まさにこれこそ大冒険だよ!!冒険者らしく、ここはやっちゃおう!」



 いのりが爛々と水色の瞳を輝かせ。



「……報酬。冒険。報酬。冒険……うーん……。うん、やってみようお姉ちゃんっ!るーくんも居てくれるし……」



 欲求とリスクが攻めぎあった ひのりの脳内では、お財布事情を加味した結果、冒険も報酬為なら、なんて言い訳で冒険への興味を誤魔化した。



「やってみようよ!リア!」


「うん、お姉ちゃんの言う通り、一度やってみよう?」


「え、えぇ……? 」


 

 まさか ひのりまで賛成してしまうとは思わなかったリアは狼狽えてしまう。水上のクエストより難易度が上がっているじゃないかと言いたくなった。でも、金槌な自分のせいで水上のクエストは選択肢から外れてしまったのだ。あまり強い否定もできず。



「全く……逞しいな二人とも。わかったよ。一先ず達成しないといけない締切日は有難いことに長いみたいだし、これにしよう。その代わり……。危なかったらあたしは二人を連れて絶対逃げるぞ!」



「「はーい!リアお姉ちゃん!」」


「……二人とも、ほんとにわかったのか?」



 元気よく返事をする二人を、リアはジロリと半目で訝しむ。



「わ、わかってるよ!?ねぇ?ひのちゃん!」


「うん。危ないと思ったら引き返す。お姉ちゃんを引きずってでも!」


「ひのちゃん、なんでそんなに使命感があるの!?」



 姉妹は緊張感のカケラもなかった。

 そうして———。



「はい、このクエストですね!……失礼ですが、レベルは皆様25は超えていらっしゃいますか?」



「はい、みんな超えてます。リアはレベル40です」



 自分も含めて、姉やリアのレベルを把握していた ひのりが、直ぐに返答する。レベルを全く覚えていなかった いのりが、隣でいつの間にかそんなにあがってたんだ……と、隣で内心驚いていた。



「失礼しました。このクエストですね。かしこまりました。どうかお気をつけて行ってきてくださいね」



 僅かに不安の色を見せたギルドの受付令嬢は、ダンジョンや旅の間に、25を超えていた いのりたちのレベルと、冒険者ランクを吟味したのだろう。姉妹たちのクエストは無事受注できた。

 


「よーし!!頑張ろうね!二人とも!えい、えい、おー!」



「「えい、えい、おー!」」



「わおーん」


 ギルドを出た後、いのりが気合を入れ、腕を天に伸ばして拳を握った。そんないのりの声と動作に釣りれたリアもひのりも、拳を握って天に向けて腕を上げる。るーくんも、皆と一緒に顔を上げて胸を逸らした。気合いは充分のようだ。



「まぁ、その前に、今日は武器屋だけどな」


「うん、色々準備しないとお姉ちゃん」


「もー!こういうのは雰囲気が大事なんだよ二人とも!」



 観光客で賑わいを見せる街並みの中を、三人と一匹は和気あいあいと、武器屋を目指して歩いた。


「はっ!!レアアイテムって、ドロップ率も低いんじゃあ……」


「「あ」」

 

 いのりがとても重要なことに気が付いたのは、武器屋で半日剣を預からせてもらえれば研磨やメンテナンスができると言われ、街を観光しながら暇を潰そうということになった時だった。


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