第十二話「異世界三姉妹は、西の国ルバルダン国にきてみたようです」
リアお姉ちゃん!!
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ほけーーーっと二人の少女が大きく口を開けていた。
高い天井には大きなシャンデリア。
壁際には、真面目な顔をした臣下たち。
玉座が置かれた王の謁見の間は、アーチ状に壁がくり抜かれた透明度の高い窓。
窓からは、遠くのエメナルド色の海を一望できる。
目の目には玉座。
玉座の上には、ルバルダン王とその王妃が、イチャイチャと仲睦まじく二つのどっしりとした椅子に腰かけている。
若々しい王妃が、玉のような肌に短い手袋が付いた手を上品に添えた。
王妃の黄緑色の瞳がキラキラと宝石のように輝いて、ウルツヤな唇が嬉々とした表情を浮かべる。
「まあまあっ。あなた、こんなに可愛らしい子たちを送ってくるなんて。あの子も案外、外堀から埋めていく子なのかしら。緊張しているわー、うふふ、可愛いらしい」
「我が妻よ。それはいくらなんでも気が早いんじゃないかい?」
王が王妃にべたぼれな微笑みを浮かべている。側近が威厳が緩みすぎた王の横で咳ばらいをして諫めるが、王と王妃には届いていないようだ。
手を取り合い、微笑みあう。
「あら、そんなことありませんわよ。それに、可愛い甥っ子のことですもの!わたくしも色々と応援してあげたいわ」
「我が妻は、私よりも甥っ子の方がお好きかな?」
「あら、いやだ。あなたが一番ですわ」
ほけーーーーっ。
ほけーーーっ。
ぽけーーーっと、縁もゆかりのない別世界の場所に、開いた口が閉じない姉妹がそこにいた。
「お、おいっ。二人とも…… 。王族の前だぞ?ぼーーっとしていないで、帰ってきてくれ!」
しっかりと手を繋いで木の棒のように立ち尽くしてしまっている いのりとひのりの横でリアはおろおろと臣下、そして王族とを見比べてしまう。姉妹とくに、ひのりの代わりに今、会場にいる人たちの顔色を伺っていた。
こそこそと姉妹に耳打ちしても、姉妹はあんぐりと、はじめて来た城に圧倒されてしまっていて動かない。
「お、おいっ。ふたりともぉお……!!」
心細くなったリアが姉妹の肩を激しく揺さぶった。
「はっ!!」
「い、いのり気が付いたんだな!」
リアが目に涙を浮かべて、ほっとしたのもつかの間。
「ゆ、夢かな!?」
がしっと、いのりがリアの両肩を掴む。顔をずいっと近寄せられて、迫力に負けたリア。目を丸くすると腰が後ろにのけぞっていく。お互いの顔の間に両手を置いて壁を作ってしまう。
「い、いや……。現実だ……」
「……そか……」
「お……、お姉ちゃんが何かやらかしちゃったらどうしよう……」
落ち着きを取り戻したばかりの いのりの隣から ひのりの本音が小さく零れる。自覚した緊張からか、体が震えていた。
「ひのちゃん!?お姉ちゃんもちゃんと常識人だよっ」
全く、妹の中で姉はどんな存在なのだろうか。この三人で1番心配なのは、リアではないか!?いのりは慌てて訂正しなくてはいけないという気持ちに駆られた。
「……」
小声で囁き合う姉妹の姿に、リアは眉間を指でつまんで頭痛を抑え込む。
そして、吐きたい口の中の空気を我慢して飲み込んだ。
「うふふっ。見てみてあなた。初々しいわ」
「こらこら、甥っ子のお客人だからといって、そう揶揄うのはよしなさい。君の可愛いところだけど、大切な客人に礼を欠いてはいけないよ」
「ふふっ。そうね。お詫びに、この国に滞在中、なにかあれば、わたくしたちを頼ってくださいね?」
「は、はひゃい。あ、ありがとうございます。王妃さま……」
「うふふ。いいのです。だって、あなた方はわたくしの愛しい甥っ子、エインのお客様なんですもの。姪っ子も同然ですわ」
王妃は小ぶりの気品ある花が咲き誇ったような笑顔で、三人の少女を自分の国の客人として歓迎したのだった。
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「はああああああああああああああっ。き、きんちょうしたああああ」
「はは、あたしは寿命が数年縮んだ気がするよ」
「気絶しそうだった……」
王族との謁見が終わった三人の少女たちは、城を囲む花園のベンチに座ってぐったりとしていた。
いのりとリアが頭を支え合い。ひのりは、姉の太ももに頭を乗せて休んでいる。姉の膝を使用するのは妹の特権である。
周りには、市民の家族がランチをとったり、遊んだりしていて。どうやら花園は、公園として市民に開かれているようだった。
先ほどまで三人がいた城は、貴族の屋敷のよう。高さはあまりなく、横と縦に広がっていて、白い壁とエメナルド色の屋根が印象的な城だ。中にはまた中庭やら使用人や貴族が暮らす建物やらがあるので予想以上に広い。
そしてなにより特徴的なのは、本来王族の住む花園を含む城の領域が市民街の中心となって、すっかり溶け込んでしまっていること。
市民も気楽に利用するこの園に、王族が来て子供たちと遊んだり市民と談笑することも少なくないのだとか。
ルバルダン国は市民と王の距離が、階級を保った状態で最も近い国であった。
「あ!!ひのちゃん!!見て見て!おいしそー。あそこでサンドウィッチ売ってるよ!食べよ食べよー」
三人の気分を変えようとしたのか、いのりが屋台を見つけては明るい笑みと声をリアとひのりに向けた。
二人が首を横に振って断ると、直ぐに意気揚々、屋台に駆け寄っていってしまう。
「あははっ。いのりは相変わらず凄い切り替えの早さだな」
「それがお姉ちゃんのいいところ。気を遣ってでも明るいの。体力は有り余ってるから……直ぐに何でも行動できちゃう。みんなを明るくしちゃう、愛され系なんだよ……?」
うちのお姉ちゃん、凄いでしょう?と言いたそうなしたり顔のひのり。どこまでも姉のことが大好きな妹を見たリアは、再びあははっと大きく笑った。
「お?出ましたなぁ。ひのりのお姉さん語り!仲良しだなぁ二人とも。あたしは少し羨ましいよ」
「そ、そんなんじゃない!ず、ずっと一緒だっただから……。その分、他の人よりも良いところが見えてるだけだもん」
「うーん、それって悪いところも見てるわけじゃないか。他の人よりもうんと悪いところを見ているのに、それでもそうやって愛し愛されているのは、やっぱり、あたしは憧れるかなぁ」
「……ふーん……そう、なんだ……」
ひのりは、なんだかむず痒くなってしまって、不器用にリアの膝の上に転がった。先程まで姉が座っていた陣地をガッツリと占領する。
「うわっ、な、なんだ?急にどうしたんだ ひのり」
人生の中で膝枕なるものをしたこともされたこともないリアが呪いをかけるが如く、ひのりの頭上で手を持て余した。急な膝まくらにびっくりしてしまって、上にあげた自分の手を、どうしたら良いのかわからないようだった。
「……り、リアは、第二のお姉ちゃんも同然だよ?」
「……ふ。あはっ、あははっ。そっか、そっか!なら、寧ろあたしは長女だな!二人のお姉ちゃんだ!」
ひのりの耳が赤くなっているのを見てしまったリアは、楽しそうに、愉快そうに、行き場のなかった手を腰へ置いて自信ありげに胸を張った。
「えー?なになにー?リアが長女??あ、じゃあリアお姉ちゃん、妹が私の分まで椅子を占領していまーす。なんとか言ってあげてー」
「リアお姉ちゃん、お姉ちゃんが私の上に乗っかろうとしてくるよー……。助けてー……」
「え!?え!?えっ………、ふ、二人とも揶揄ってるだろう!?こほん、三人で仲良く座るんだ!ほら!」
「はーい!リアお姉ちゃん!!」
長女の嗜めに、次女はまず三女からどく。
「はぁい、リアお姉ちゃん」
三女は、次女の返事を真似っこすると椅子の端っこへと避けた。空いたスペースにサンドウィッチの弁当を手に持ったいのりが着席。長女リアの活躍で、三人仲良く椅子に座るクエストはすんなり達成だ。
「さ、さあ!これで仲良く座れたな!」
「リアお姉ちゃん。いのり、次は仲良くサンドウィッチが食べたいなぁ」
「なぁ」
「だから二人とも急に揶揄わないでくれ!……全く。お、トマトとレタスと、チーズと炙り肉のサンドウィッチか……美味しそう……」
第一次リアお姉ちゃんブームはあっさり食欲の中に混ざって食べられてしまい、この後、三人は普通にサンドウィッチを頬張った。
「……もぐ。いやぁ……すごかったね。お城……」
「今更!?というか思い出にするのはまだ早くないか?まぁ。そ、そうだな。やっぱり一般人との暮らしとは違うよ」
水々しい野菜、濃いチーズと、塩加減が絶妙なお肉が、やや硬めのパンの中に挟まっている。そこに齧り付いて、全部の味を咀嚼しながら、しみじみと いのりが城内を思い起こした。
「……まさか、エインさんとオフィーリアちゃんに紹介してもらったこの国の知り合いが王族だったなんて……。びっくりした……」
ひのりもパンを頬張って、懸命に口をもごもご動かしていた。一度かみ砕いた物を飲み込むと、緊張を思い出してなのか小さく息を付いた。
数週間前のこと。三人がパーティを組んだお祝いと、街を出る記念会を開いてくれたエインとオフィーリア。最後に、西の国には知り合いがいるからとエインが紹介状が入った封筒を餞別としてくれたのだ。
まさかその封筒を国の関所に見せた途端、血相を変えた兵士に誘導さた後、貴賓室で待たされ、お尻が痛くならない豪華な馬車に乗せられて、あれよあれよと王族と面会することになるとは。さらに知り合いではなく、親戚ではないか。叔母と甥の関係なんて、誰が予想できたというのか。
「「「……何者……」」」
只者ではないギルドの問題児エインに対して、唸り声をあげたのは三人同時だった。
「ぷはっ、あははっ。それは後でエイン達に聞くとして……。先ずは、この国を満喫しに行こう!!観光だ、観光だあ!」
「その前に、宿へ向かわなきゃ……。夜になって道に迷うのは嫌だし」
「なら、宿に向かいがてら観光だな!観光は明日ゆっくりすれば良いよ。今日はあたしたちも疲れているだろうし」
「「はぁい!リアお姉ちゃん」」
「だ、だから!!揶揄うなぁ!!二人とも!」
赤面したリアが、ベンチから立ち上がって腕をぶんぶん振り回す。いのりとひのりは、長女が追いかけてくるのを、はしゃぎながら逃げていく。もちろん、直ぐに体力が尽きた ひのりが捕まえられてしまったのだけれど。
「くっ。やるじゃないか。いのり」
「ま、まあね。そっちこそ。私、普通の子ながら足には自信あるのになあ。50メートル走だって七秒台だったんだよ!」
「そ、その50メートル走って、なんだ?」
観光はどこへやら、太陽が眠り始める夕方まで花園での追いかけっこは続いた。今もベンチを挟んで、睨み合いが続いており、そのベンチの上では、ひのりは早々に疲れて、るーくんとともに眠りこけてしまっている。
「私を捕まえられるとは思わないことだねリアお姉ちゃん!」
「いつまでブームなんだよ!?それ!!はずかしいから終わりにしてくれえ」
えへんと胸を張っておどけて見せた過去の自分を思い出して、羞恥心に手で顔を覆うリア。いのりが「えー」っと寂しそうな、勿体なさそうな顔をした。
「えーじゃない!」
「あ!!そうそう、それそれ!長女っぽい」
「もー。勘弁してくれ……」
「あははっ。でも、私もお姉ちゃんにいて欲しかったなあと思う事があったからさ。ごめん、ごめん」
舌をチロリと見せておどける いのりに、リアは怒れず。諦めと呆れでため息をこぼした。
「でも、リアもまんざらでもないなって顔してたよ」
「!!あ、こら!!まてえええええええええっ」
「あははっ♪」
によによと笑って長女を揶揄かった いのりが、燃える炎のように顔を真っ赤にしてしまったリアから言い逃げをする。結局、閉園時間まで公園内にいた三人。この日は観光をするどころではなくなってしまった。
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