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第十一話「新メンバーは女騎士のようです」

 

 ♪


 ♪

 ♪


 ♪


「なるほど、二人はこの近くの中央国ブローザルトの街から来たのか。ソノブエル大陸一の都会だな!」



 ポニテールに結われた銀の髪を揺らしたリアと名乗った少女が、剣でモコモコとしたモンスターを一刀両断。ダンジョン上層の3階であるからか、片手間で会話に花が咲く。というよりも地理のお勉強会が始まっていた。


「ソノブエル、大陸?」


 いのりが首をこてりと傾げながら、モンスターを焼失させた。


「ああ!あんまり地理は詳しくないのか?ソノブエル大陸は、北と南、西と東、そして中央の5つの国で成り立っているんだ」


「大陸に名前があるってことは……その他にも大陸があるってことよね?」


 ひのりは弓を武器代わりにして、モンスターの脳天を叩き倒す。


「ん?なんだか、急に二人が心配になってきたな……。口頭だけで伝わるかも心配だが……。えっと、ヒューマン、獣族、エルフ、精霊が住むソノブエル大陸、魔族が暮らして未開拓領域があるシングリア大陸、天族が暮らす浮遊島レーテ。常識だろう?大丈夫か?」



「「あ、あははは……」」


 痛いところをつかれた姉妹は、互いに銀髪の少女から目を逸らすしかなかった。


 片眉を不思議そうに釣り上げリアに気がついた いのりが話を逸らすように、慌ててリアに尋ねる。


「そ、それよりも!リアはどこから?」


「ん?あたしか?あたしはちょうど東から中央国に旅をしに来たんだ!黒髪の多い東の国じゃ、あたしの銀髪はどうも浮いちゃってさ。そしたら鳥のモンスターに啄まれて湖畔に落ちたり……ダンジョンに一時的にパーティを組んで挑んだら、モンスターが大量に襲いかかってきたり……」



「う、うわぁ……」



 リアのあっちこっちでの災難話に、つい悲嘆せずにはいられなくなった いのりは、慌てて口を手で覆った。


「……やっぱりか……いいんだ。あたしは昔からこういうのには慣れているからな」


 ははっと乾いた笑い声を出したリアが、悲観に暮れる。それを見たいのりは、あわわっと両手を大きく動かした。


「うわぁぁぁ!ちがう!違くないんだけど!えっと……その。ど、ドンマイ!!」


 いのりが、精一杯の笑顔を作って親指だけを立てた。

 しーん。空気が冷える。と、光の速さで ひのりが姉の腕を引くと、小声で叫んだ。


「おっねーちゃんっ何やってるの!?」


「えへーん……っ、ど、どうしようひのちゃん……!」


「ど、どうしようって言われても……」


 姉妹でコソコソと騒ぎ立てる。


 リアはモンスターを剣で倒しながら「いいんだ……気にしないでくれ……」と見るからに明らかに落ち込んでしまっていた。


「あ、あば、あばばばばっ」


「おねーちゃんが壊れた!?」


 やっちゃったとばかり、いのりの挙動がおかしくなり、ひのりがオロオロとリアといのりを交互に見やる。


「わふん……」


 るーくんが静かに前足でモンスターを討伐しながら慌ただしい姉妹を半眼で眺めた。


「うわぁ!?」


「「あ……」」


 うんうんと、どうしたら少女を元気にできるのかと頭を悩ませていた姉妹の前で、水溜りに足を滑らせたリアがべちゃりと転んだ。


「ぐ、ぐふ……」


「「わぁぁぁっ!リア!」」



 転んだ少女をモコモコのモンスターたちがピョンピョンと飛び跳ねて攻撃する。沈没しかけた少女。サッと顔色を変えた姉妹は、大声をあげてダッシュでリアを救出に駆け出した。



            △▼



 ダンジョン内の安全地帯にて休憩を挟む少女たち。一人は岩の上に座り込み、ショボーンと肩を落としていた。


 姉妹に迷惑をかけてしまったと思っているのだろう。姉妹からすれば、迷惑なんて事はない。寧ろ、自分達より心配しなくてはいけない存在のように感じていた。


「う、うぅ……すまない」


「ううん!大丈夫だよ!ほら、元気を出して?」


 いのりが火の魔法で濡れたリアの上着を乾かしながら屈託なく笑いかけた。


「怪我、してない?」


「ああ!あたしは体が丈夫なのが取り柄なんだ!これでも騎士だからな」


 ひのりはリアの隣にしゃがみ込んで心配そうに見上げる。その視線もリアにはなんだか申し訳なくなってしまう要因になった。


「……すまない。あたしは、昔から人より少しついてないんだ……」


 その吐露された発言。

 リアは口を重々しく開けていたが、「ちょっとじゃないような」と苦笑いを浮かべた姉妹の心の中では、あまり重い発言としては受け止められることはない。



 ——お姉ちゃん、どうしよう。すっかり落ち込んじゃってる。

 ——えぇ!?そんなこと言ったてぇ……。



 姉妹が互いの目線でなんとなく言いたいことを察する。けれどどうするべきか答えは出ず。いのりが、乾いた上着をフワリとリアにかけた。



「はい!乾いたよリア!」


「……あったかいな……。ありがとういのり」


 いのりの笑顔、そして乾きたての上着のあたたかさがリアを包んだ。少女は、自分の上着をぎゅっと握り体を縮こませて微笑んだ。


 どうやら少しは心を和ませることができたようだと、姉妹も顔を見合わせて胸を撫で下ろす。


 ひのりはその光景を見ながら、やっぱりお姉ちゃんは凄いと心の中では称賛していた。顔には出さなかったけれど、誰かに自慢したい気持ちだった。きっとこの気分を分かるのは、湖畔の側でログハウスに住むオフィーリアではないかと、ひのりは今度遊びに行ったら色々聞いてもらおう。そう心中で決めていた。



「あ!そうだ!ねぇ、リア。リアは組んでいたパーティに置いてかれちゃったんだよね?またその人たちと組むの?」


 ふと、思い出したように いのりがそう言い出した。リアは気まずそうに、悩ましげに眉間に皺を寄せて難しい顔をした。


「う、うーん……。パーティとはいえ、正式に組んでいたわけではないんだ。臨時で雇われただけで。向こうがこれからも、あたしをパーティに入れてくれるかも分からないしな。まぁ、きっともうパーティに戻れる可能性は低いかな」


「そうなの!?よかった!!」


 それを聞いたいのりは、瞳を嬉々として輝かせるとリアの手を両手で包んだ。内容は別に良いものでないのに、何が良かったというのだろうかと、リアは戸惑いを隠せない。


 ひのりも、手をワタつかせて「お姉ちゃん!?」と狼狽した。


 いのりは続ける。


「じゃあ!!それならさ、私たちと一緒に冒険しに行こう!?」


「え……」


 戸惑うリアにいのりは笑顔で畳み掛ける。


「リア!!私たちとパーティを組もうよ!リアがいれば、ほら、私たちって地理に疎いところがあるし、安心だなって!」


「そ、それは……そう、だな……ていうか自分で言うのか……」


「あはは……。えっとね!私たち、ダンジョンを出た後は丁度、西の国に行こうと思ってたの!!リアも旅をしているんでしょう?特に目的地がないんだったら私たちと一緒に行こうよ!!」



「で、でも……あたしは、地味なことから大きなことまで、二人に迷惑を……」


 リアは下を向いてしまう。


「迷惑ってことは、私たちと一緒に行くのは嫌じゃないってことだよね!!なら、いいじゃん。一緒に行こーよ」


「……!はは。全く、いのりは凄いな」


 いのりの言葉に感嘆し、目を大きく開いたリアがひのりの方を向いた。


「ひのり、お姉さんはこんなこと言ってるが、貴方はどう思ってるんだ?」


「え?もちろん私もリアが入ってくれたら嬉しいからお姉ちゃんの意見には大賛成!」


「そ、そうなのか?」


「うん?当然!」


「と、当然なのか……」


 ひのりがリアの余った片手を両手で包んだ。

 姉妹から期待の眼差しを向けられたリアは困ったように、それでも嬉しそうに笑ったのだった。


「……ふぅ。これは両手に花ってやつだな。ありがとう二人とも。あたしはリア。女騎士だ。これからパーティとしてよろしく頼むよ」


「うん!!もっちろん!!よろしくね。なんだか良いパーティになりそうな予感がしたんだぁ」


「ふふっ、よろしくお願いしますリア。えと……お姉ちゃんも私も、リアに迷惑かけることだってあるんだからお互い様だと思う」


 いのりもひのりも、リアの微妙な不幸体質を気にする素振りを見せず、お互い様だと言う。


 リアはひっそりと胸の内を温かくして二人に会えて本当によかったと思っていた。


「よーーし!!じゃあ!先ずはダンジョンを出て、リアの歓迎会をしよう!!」


「か、歓迎会だー!」


 いのりが拳を天井に突き上げて、これからの予定を元気よく発表する。ひのりも姉につられて拳をおー!と挙げた。


「わふん!!」


 るーくんも、うきうきワクワクと浮き足立つ主人達を見て、小さい小型犬サイズの体でぴょんぴょんと跳ねる。るーくんも仲間が増えて嬉しそうであった。


「それじゃあ、どこでやろうか?宿でも使わせてもらえるかな?」


「自室でも良いかも。食べ物持ち込んでいいか聞かないと」


「掃除をしますって言えば許してもらえないかな?」


「でも、女将さんのことだからきっと食事処を使わせてくれそう」


「か、歓迎会!?いや、あたしの為に。そんなこと……悪いよ。あたしはそういうのはなくても……」


 勝手に進んでいく歓迎会の話に、置いてきぼりのリアが姉妹の間を行ったり来たり。だが、自分たちの世界に没頭し始めた姉妹を止められるわけもなく。



            △▼



「歓迎会ぃ?」


 宿に戻った三人が、女将さんと対面し、食事処を使わせてくれないかと提案していた。

 女将さんにジロジロと見られるリアは、緊張気味な様子だ。


「そうなの!私たちのパーティ結成記念!!どうかな?お願いします!!」


「女将さん、お願いします。他のお客さんがいても構わないんです。ちょっと料理を奮発してくれたらなって……」


「ふーーん、なるほどね。まぁ、悪い子じゃなさそうだし、いいんじゃないか?あんたたちは前衛が薄いからね。それにこれから旅立つっていうなら騎士くらいの職業が側にいないと、こっちも安心して送り出せないってもんさ」


 にっと笑った女将さん。どうやら、リアは彼女のお眼鏡にかなったらしい。


「いいよ!!歓迎会!!料理も安くしておいてあげるよ!思う存分騒ぎな!!」


「「ありがとう!!女将さん!!」」


 姉妹がキャアキャアとはしゃぐ中、すっかり親代わりのようになってしまっている女将さんに認められたようだとリアはホッと安堵していた。


「よーし!!今日は私たち三人のパーティ結成記念!!思いっきり楽しんでいきましょーー!!」


「「おー!!」」



 料理の支度をしようと厨房に戻って行く女将さんの優しい瞳が、息ぴったりの三人を映した。


         

            △▼



 食事処のテーブルには、生クリームと苺をふんだんに使用したワンホールケーキ。どっしりとしたチョコを使ったガーターショコラ。生ハムと葉物と玉ねぎとトマトとクルトンのイタリンなドレッシングがかかったサラダ、唐揚げ、とろりと溶けたチーズとベーコンのピザ、ふわふわのメロンパンにクロワッサン、ミートソースとマカロニ入りのドリアなどなど沢山の料理が並ぶ。


「うわぁ!!美味しそう!クリスマス感あるね!」


「う、うん!こんなに豪勢な食事久しぶり見た……」


「これは……凄いな……」


 女将さんたちが本当に張り切ってくれたのが一目で見て分かった。


「どうだい!?気に入ったかい!?まぁ、作りすぎたからね、他の冒険者にも分けてやると良いよ」


「うん!!ありがとう女将さん!!すっごく嬉しい!」


「ありがとうございます女将さん……」


「ありがとう、あたしからもお礼を言わせてくれ!」


 三人から次々に礼を言われた女将さんは、満足そうに頷いた。食事処に降りてきた冒険者に事情を広めながら祝ってやんなよと言ってくれていた。


「お!!なんだ、嬢ちゃんたち、パーティ組んだんだってな!おめでとう!!」


「おめでとう!!こんな豪勢な料理、ずっとここに泊まっていて出たのは初めてたぜ?ありがとな!!」


 楽しく喋っている姉妹達に、自分達も立食形式で料理を取っては頬張る冒険者たちがお祝いをしていく。



「私たちのパーティ結成を祝ってぇぇぇ」


「「「かんぱーい!!!」」


 木製のカップを三人は突き合わせた。


「よろしくね!リア!」


「うん、よろしくお願いしますリア」


「ああ!!あたしの方こそ、よろしく頼むよ!二人とも!」


「わふん!!」


「もちろん、るーくんもだな!」


 笑い合う三人。それから楽しそうに尻尾を振っていたるーくん。三人と一匹の冒険は、今日はちょっと一休み。

 この日の三人と一匹の記念すべき日、楽しい時間は、夜中まで続いたのだった。



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