第十話「ダンジョン×冒険譚」
冒険譚らしい、かな?
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ダンジョン内で二人の少女が、モンスターと対峙していた。お互いに信頼し合い、背中合わせになって左右から迫りくる脅威に武器を構える。
「ふふん、いっくよー!うらりゃああああ」
甘い茶色の髪をした少女が、澄んだ水色の瞳を輝かせ炎魔法を放つ。大きな魔法陣が、少女の足元に浮かびあがっては、モンスターが炎の柱に飲み込めまれて焼失し、それらの断末魔が響いた。
得意げな笑みを浮かべて少女は、手を振り下ろした。
「まだまだいけるよー!《炎魔法》!」
いのりの前方から広範囲にかけて出現しているモンスター達は、全てうねる炎に飲み込まれていく。
「ルーくん!《ブレス》》!!」
「がうあ!!」
黒髪の少女は、一匹の大きな凛々しい狼に指示を出した。
それを受けた狼は鋭い犬歯を見せて、口から魔力を濃縮した光線を放ってモンスターを消し去っていく。
「ぎゃぎゃ!!」
ルーくんの攻撃網を潜り抜けたモンスターがひのりに襲いかかってきた。臨戦体勢が整えられていないかに思えた少女は、モンスターへと矢を構えていた。
自分のところへモンスターが襲いかかってくるのは予想済みだ。ひのりは不敵に微笑むと矢を放ち、モンスターの脳天をぶち抜く。
「……ルーくん伏せて!せや……っ!」
慣れた動作で再び矢を構えると、ルーくんの死角から襲いかかろうとしているモンスターを次々に打ち抜いていった。
ここはダンジョン地下10階層。ごつごつとした岩肌が、ひんやりと冷気を帯びている。
いのりとひのりがダンジョンに入るのはこれで3度目。以前は、5階層まで突破したので、今回は到達階層記録を伸ばしていることになる。
ぴろんと、レベルアップの通知音が響いた。
三度のダンジョン挑戦で、めきめきとレベルを伸ばし、いのりはレベル7に、ひのりはレベル6に到達した。
どでかい魔法をぶっ放すことで、魔導士ながら前線を支えている いのりのレベルは、ひのりのレベルを簡単に追い抜いてしまったのだ。
「この調子なら、もう少し、下にもいけそうだね!!」
「ん。でも、深く行き過ぎるの危険だよ?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ひのちゃんは心配性なんだから。この階層のモンスターも楽勝だったんだから!!もう一階層くらいならまだまだ余裕だよ」
むんっと筋肉のない細腕を曲げる姉に、ひのりはうんと頷けない。確かに余裕ではあるだろうし、レベルも上がることを考えれば、あと一層くらい降りても平気かもしれない。ただ、ルーくんの攻撃を通り抜けてくるモンスターが多くなったのもまた事実。ひのりとしては今日はここで止めておきたかった。
「あと一層だけ!!ね!?ね!?」
「う……。わかった。あと一層だけだよ?」
「りょーかい、りょーかい。ありがとうひのちゃん」
「あと、一層だけだからね!?」
「わかった、わかったー」
姉からのお願いごとを断り切れなかったひのりは、深く諦めたようにため息を吐くと、渋々了承しのんきな姉の背を追う。
どんどんと下の階層に降りていってしまう姉の姿に、ひのりはもう一度深くため息をついた。
そんな時——11階層まで降りている時だった。
「———う、うあああああああ!!」
「に、逃げろおおおおーーーーーーー!!」
姉妹の横を、怯えた顔をした冒険者たちが駆け抜けていく。
「なに?!」
「なん、だろう?」
なにかあったのだろうか。
声をかけようにも、動揺しているのか立ち止まる冒険者はいない。必死の形相で上へと登っていく。
(みんな、怪我してる!?)
中には身体に大怪我を負って担がれている冒険者の姿もあった。
下の階層で何か大きな事があったのは間違いない。
逃げていく冒険者に道を譲るように立ち止まっていた姉妹の存在に腕から血を流した冒険者が気が付き、足を止めた。
「……キミたち、下に行くつもりなのかい!?」
「え、えっと……」
「やめておくんだ!!大量のモンスターに囲まれて……今、一人の冒険者が殿を自ら務めてくれているが、きっともう……キミたちも早く逃げた方がいい!!」
(一人で……!?)
「いいな!そこにいたら直ぐモンスターに襲われるぞ!」
驚愕した いのりの表情を、怯えと受け取った冒険者は我先にと階段を登っていってしまう。
「あ、お姉ちゃん……」
ひのりは危険を察して、いのりの腕を強く掴んで引き寄せる。そうして姉を見上げて懇願した。
「ねぇ、やっぱり、帰ろう?さっきの人たちだって怪我してたよ!?」
「……」
「ねえ!!お姉ちゃん!!」
いのりは、うんともいやとも答えられない。
妹を危険に巻き込むことはできないが、体は駆け出していた。
「ひのりはここにいて!!ルーくん、頼んだからね!?」
「え、ちょ、お姉ちゃん!?」
ひのりの手を振り払って、いのりは下の階層に続く階段を急いで降りていく。
一人、ポツンと階段に取り残されてしまったひのりは、憤慨した。地団太を踏む。
どうして、姉はああも、ああなのかと。
「正義感が強いというか、困っている人がいるかもしれないなら、放っておけないというか。まあ!全部お姉ちゃんのいいところなんだけどね!!あーーもーーーーー!!」
ひのりは叫ぶと、ルーくんのモフモフの毛並みに顔を埋めた。契約獣が、主人を気遣うようにすり寄った。
「ホント!!もう!!お姉ちゃんは、いつだって振り回すんだから!!」
ルーくんにしがみついたまま、ぷんすこ、ぷんすこ。ぷんすこ、ばかりしていられるわけがない!
「……お姉ちゃんだけ危ないかもしれないところに行かせられるわけないじゃん!!行こう!!ルーくん!!」
「わふん!!」
キッと顔をあげたひのりは、下の階層を指さして、力強くそう言った。
ルーくんは主人の気持ちに寄り添い、呼応する如く、頼もしく鳴いた。
△▼
いのりは、階段を降り切って、11階層に到達していた。
(よかった!まだ生きてる!!)
眼前には、剣が火花を散らして、高く一つに結われた銀色の髪が一人の少女の体が踊るように動き。たった一人で、少女を囲っていたモンスターと渡り合っている光景があった。
「くっ!たああああ——————!!」
「ぎゃぬん」
「ぐるああああ」
銀色の妖精騎士が、地面を蹴って跳躍すると、モンスターを蹴って切って。鎧には複数の傷がついている。また一つ、ほんの一瞬で、傷が増えていく。
「待ってて!助けてみせるから!!」
いのりはすぐさま、両手の平をモンスターたちに向けた。
「《炎魔法・弾丸》!!」
「グギャアア」
炎の弾丸を、いのりは駆け下りながら打ち込んでいく。
一体、また一体と、銀髪の少女を囲んでいたモンスターを打ち倒す。
「——シャァァァァ!!」
ネズミと蛇が混ざったようなモンスターの意識がいのりを標的に定めた。いのりに向かって鋭い牙と爪を見せつけながら突進してくる。
「《風魔法・かまいたち》!」
地面を蹴り、モンスターの鋭い爪による斬撃を避けた いのり。着地の際によろめきながらも、そのまま風魔法を放つ。
放たれた風の剣は目の前に迫ってきた敵を切り刻んで胴体を二分させた。恐ろしいモンスターが、ポプリと可愛らしい音を立てて煙と共に消滅する。
「!!誰だか分からないが、助太刀感謝する!」
いのりが戦っているのが殿を引き受けたという冒険者にも伝わったのだろう。凛とした声がいのりに届いた。
声に疲労が見え隠れしているが、重傷を負っているような声には聞こえない。
「ううん!!これくらいなんてことないよ。あなたは、無事!?」
いのりが、モンスターの壁を壊すように炎の弾丸を打ち込む。
「ああ!!あたしは、大丈夫だ。いや、正直!!たすかったよ」
「お礼を言うのは、まだまだ早いよ!!《ファイヤアアアアアア》」
「ギャギャギャ!!」
炎の柱を作ったばかりのいのりに、横からゴブリンが飛び掛かった。魔法を終えたばかりの少女は、とっさのことに次の魔法が間に合わず、表情に焦りをにじませる。
「やばっ」
「お姉ちゃん!!!伏せて!!!」
「へっ!?」
反射的に声に従ってしゃがみこんだいのりの頭上を勢いよく矢が飛んで、ゴブリンの眉間を貫いた。
モンスターは、断末魔をあげながら、ぽふりと白い煙になって消えていく。
「弓矢……??」
とっさのことに、地面にへたり込んだままいのりはポカンと口を開けてしまった。その頭上を、一匹の銀色の狼が飛んでいく。
「ルーくん!?」
「うわ!!なんだ!?お、狼!?うわ!!ちょ、う、うわああああああああっ!?なんだ!?は、はなせええ!?」
ルーくんは、モンスターの壁の中に入ったかと思うと、一人の少女を口に咥えて脱出した。
「お姉ちゃん!!こっちだよ!!」
「ひのちゃん!どうして降りてきたの!?」
自分に向かってきていた敵を魔法で倒して、いのりは妹のいる階段へと駆けだした。
「お姉ちゃんだけを危ない場所に行かせられないもん!!上の階に早く逃げよう!?」
「だめだ!!モンスターは階層が違くなっても追ってくるんだ!!」
ルーくんに救出された少女が、慌てて声をあげる。
「ええ!?なにそれ!!ずるくない?」
その言葉に、弓を構えて姉の逃げる道を確保していた ひのりが慌てた。
「ず、ずるい?いや、そういうものだと思うんだが。
と、とにかく!ここで倒さないとまずい。先に君たちにはお礼を言わなくちゃな。ありがとう、ここはあたしに任せて上に行ってくれ!!これでもあたしは、騎士だ。人の逃げる時間なら作れる!!」
「え!?なんで!?だめだよ!!」
逆に驚いてしまう いのりは、目を丸くした騎士の格好をしている少女を見やる。
「うん。お姉ちゃんの言う通りです。あなたを助けたのに、ここで置いてなんていけません」
姉の言葉に頷きながら、矢を放つひのり。
「い、いや!!で、でも、あの量のモンスターをたった三人で倒せるわけが……」
姉妹のペースに飲まれそうになり、狼狽する少女は、わたわたと大量のモンスターを指さした。あれを見ろ!!あんなにいっぱいいるんだぞと言いたげである。
一人で殿を務めようとした少女が何を言うんだと、姉妹は首を捻る。助けた少女を一人で置き去りにすることなんて姉妹にはできない。ならば、やるしかない。
「おねえちゃん、もうどでかいのいけるよね?」
「もっちろん!!ひのちゃん、お姉ちゃんに任せて?!」
「え?あ、いや。え??君たち、あたしの話を……」
「いいから、いいからー」
困惑する少女をしっかりちゃっかりとスルーした姉妹。
やる気に瞳を輝かせるいのりは、ノビーっと背筋を伸ばすと、大量の魔力を発動させるために魔法陣に集約していく。
連発も覚悟の上だ。いのりのスキルが自動発動し、無限に魔力の溢れる泉が、魔力の枯渇を防ぎながら回復させていく。
ひのりも、姉に負けていない。
魔力量はかなわないが、威力では姉を勝る。
なんといっても、彼女のそばには、神獣がついているのだから。
「ルーくんも、遠慮しないで、最大出力用意!」
「がうあ!!」
神獣は凛々しい顔もちで、口を開いて。
「《ファイヤアアアア、ボ―――ル》!!!」
「ルーくん、やっちゃえ!……《ブレス》》!!」
いのりの隕石級の巨大な火球が落ちるの同時に、カッと、ルーくんが魔法攻撃の《ブレス》を発動させた。
———ドゴオオオーーーーーン!と大きな音が立ち、モンスターに直撃した攻撃の衝撃波と熱風が少女たちを吹き飛ばしそうになる。
攻撃の跡には、モンスターの姿は一匹たりとも残っていない。
「……君たちは……何者なんだ?」
ヘニャリと、腰を抜かしてしまった銀髪の少女は、ただ呆然と、姉妹を見上げた。
「うぷ……もう、だめ……」
「ひのちゃぁぁぁぁぁぁんん!?ああ、あわ、えっとね」
魔力切れを起こした妹を支えた いのりが、少女を見て、向日葵のように笑った。
「あはは……。えっと……うん!私たちはただの仲良し姉妹冒険者だよ!!」
姉妹の将来の夢
いのり
…昔)魔法を使って戦って、人を助ける魔法少女
…今)夢探し中
ひのり
…昔)ペットショップの店員さん
…今)学校の先生




