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第七話「つむぐぜ!姉妹の冒険譚!」


 ♪


 ♪

 ♪



 モンスターと対峙するクエストを禁止されてから一週間が経った。

 何故かいのりは魔法が発動できないままで、毎日朝から夕方まで修練場に篭り、魔法の練習を。夜は魔石に魔力を込めて、魔力の流れを確かめる。


「ああもう!どうして魔法が発動しないのー!」


 へにゃりと修練場にへたり込む いのり。

 魔力は底を尽きていないが、気力は尽きかけていた。


「……こんな姿は、ひのり見られたくないなぁ……。早く使えるようにならなくちゃ……」


 はぁ……とため息をついた いのりは、タオルに口を付けて眉をひそめた。


 暗い雰囲気のいのりに、誰も声がかけられないでいた。

 毎日頑張っている少女を慰めてやりたいが、的確なアドバイスも見つからない。


「だめだめ!もうちょっと頑張らないと……!」


 首を左右に振り、いのりは、両頬をぶった。

 じんじんと痛む頬を手のひらでぎゅっと抑える。


「……よし!!頑張るぞ!!」


 いのりはキッと前を向いて、もう一度杖を持った。


「すぅ……魔力よ巡れ、廻れ……」


 赤い魔法陣がいのりの足元で輝く。

 そして————


「《炎魔法》!!!」


 ついにパキィンと、いのりの杖の魔石が粉々に砕ける。

 杖ごと赤い大きな炎が渦を巻いて勢いよくごおおおおっと燃え上がり、目を丸くした いのりは狼狽しながら叫んだ。


「わ、わぁぁぁぁああーーーーーーーーー!?」


 修練場にいた大人たちに向けて、いのりは何度も頭を下げた。

 幸いなことに修練場に結界が張ってるのと、魔石に魔力を流してきた経験のおかげで直ぐに魔力操作が出来て魔法を中断できたからよかったものの、大惨事になっていたらと、手が震えた。心臓がばくんばくんうるさい。


「ご、ごめんなさいいいいい!!!本当に……あの……」


 いのりの魔法が暴走することを恐れて隅に避難していた大人たちは一拍を置いて、ドッと笑い声をあげた。一気に明るい雰囲気が修練場を包む。


「え??え??あの??」


 困惑したいのりが、顔を上げて大の男たちを見つめた。何をいったらいいのか分からなかった。


「ぷは、はははっ。いやー!びっくりしたぜ!嬢ちゃんの方がびっくりしたろ? 怖かったなぁ。でも、あんだけの魔力量を直ぐに魔力操作できんなら大丈夫さ。なぁ?」



「ああ!俺んとこの魔導士なんて、何回此処で魔力を暴走させて爆発させたかわかりゃしないぜ」


「初めての魔法が、あんなんで怖かったろ?次は大丈夫だ!自信持って使ってやんな」


 皆、魔導士なら誰もが通る道だと言って、大きく笑う。剣士の自分達が何度魔導士の暴走に巻き込まれたかという話まで始めた。


「そういやぁ、まぁ、あんなことがあったけど、アイツのおかげで今回は助かった」


「ああ!アイツか。ま、対アイツ用にここの結界も強化されたからな。嬢ちゃんに免じてアイツのことも許してやるかあ!わはは!」



「そりゃあ!いいや!!」


 わいわいと、いのりを置いてきぼりにして盛り上がる男たち。いのりは、ぽかーんと立ち尽くした。それから、自然にじわりと目に浮かんだ液体を、ごしごしと服で拭った。


「おー、おー。嬢ちゃんはきっと魔力が人より多いんだわな。怖かったなぁ」


 丸坊主で無精髭の男が、大きな手でいのりの頭に手を乗っけた。ぽんぽんと何度か撫でられ、いのりの目にどんどん雫が溜まっていく。


「あ、ありが……」



 ばさり。


 物が落ちる音がした。



 男たちも、いのりも、修練場とギルドを繋ぐ出入り口の扉を見た。クリップボードを地に落とし、ワナワナと体を震わせている受付のお姉さんがそこにいた。


「な、なにを…。なに、泣かせてるんですかああああああああっ!!!?」


「「「誤解だァァァァ!!?」」」


「全員正座しなさい!!!」


「「話を聞けええええ!!」」


 男たちに雷鳴が轟いだ。



 どうしよう、凄い申し訳ない。


 いのりは、この後、お姉さんの誤解を解くために尽力したのだった。



            △▼



「あ、あのぉ。お姉さん?もう頭をあげて?心配してくれたんですよね?ありがとうございます」


「うぅ。まさか、魔力が暴走していたなんて。勘違いして取り乱して、恥ずかしい」


 酒場でしゅーんとお姉さんが肩を窄めて、反省していた。


 冒険者の男たちは、既に許しているし、もう何も気にしていないようだったが、お姉さんは「ギルド職員として失格です…」なんて落ち込んでしまっている。


 いのりは、うーん、うーん、と頭を悩ませる。

 どうしたら元気付けられるだろうか。


「もう、みんな気にしてないよ?」


 へらりと笑ってみせた。


「う、いのりさん!魔力暴走なんて怖かったですよね!大丈夫!あれは魔導士なら誰もが通る入門です!一度経験すれば、これからは出力を加減すればいいだけですから!魔力操作はできているというお話でしたから、もうメキメキ成長しますよ」



「うぇ!!?う、うん……。たはは、ありがとうお姉さん」


 泣き出しそうになったお姉さんが、落ち込んでばかり居られないと、ガシッといのり手を両手で包み込んだ。真剣な顔をして、逆にいのりのことを励まそうとしてくれた。


 いのりは、ぽりぽりと頬をかく。たしかに怖かったのだが、お姉さんを励ますうちに何となく飛んでいってしまった。狭いところで使う気にはなれないだろうが、外でなら多分使えるだろう。



「あ……。そういえば、先輩冒険者さんたちが、前に結界を壊した人がいるって……」


「ああ……。エインさんですか。本当ですよ。ギルドが半壊しかけたんですから」


「半壊!?」


 けらけらと笑うお姉さん。いのりは、ギョッと目を見開いた。男たちも全く気にしていないように笑っていたが、それは、笑い事なのだろうか。


「とまぁ、そういう、いのりさんより上を行く人が既にいるので何にも気にしないで大丈夫です」


 とりあえず、いのりは、顔も知らない人に感謝することにした。


「あれ?お姉ちゃん。どうしたの?」


「ひのちゃん!ルーくん!」


「わふ!」


 クエストを受けにきた ひのりが、姉とお姉さんを発見して近寄ってきた。ルーくんも一緒だ。ひのりは、お姉さんに挨拶がわりに一礼してから実姉に声をかける。


「あのね!……あ」


 お姉ちゃんもクエストいけるよ!と言いかけたいのりは、受付のお姉さんを振り返った。


「ふぅ。はい、今度は広いところで魔法を試してきてください」


 こくりとお姉さんは頷く。


「や、やたぁぁぁっ!!ひのちゃん!今日は一緒にクエストだよ!」


「ちょっ、お、お姉ちゃん!こんなところで抱きつかないでよ……」


 いのりは、ひのりに抱きついて、頬を擦り合わせた。苦しげに、恥ずかしげに、ひのりは文句を言いながらも姉を受け止め、唇がうっすらと微笑んでいた。



 ひのりはこの一週間、ルーくんとモンスター討伐を行い、魔力量を増やしながらLV3にまでレベルを上げていた。今やモンスター退治も、ルーくんが魔法攻撃(魔力大量消費)を行わなければ、クエスト達成もルーくんと2人で楽々だ。



 姉のサポートをして、レベル上げを手伝うのもできるだろう。ひのりは、依頼を達成しながら、姉のレベルを上げる手伝いをしようと決めた。


「……お姉ちゃん、今日はスライムにリベンジマッチだね……」


「うん!!そうだねひのちゃん!姉妹の絆も、お姉ちゃんの力も見せつけてあげよう!!」


 好戦的に笑ったいのり。


 ひのりは、いつも通りの姉の姿にこっそりと安堵してしまう。最近、姉が元気がなかったのは知っていた。ひのりは、いのりのことを心配していたのだ。



「よし!がんばるぞー!えい、えい、おー!」



「おーー!」


「わおおおん!」


 拳を天井に突き上げたいのりにつられて、ひのりも拳を挙げて。ルーくんは、胸を反らして遠吠えをあげた。



 さあ、始めよう!綴ろう!この姉妹の冒険譚を。




            △▼



【素材クエスト:スライムのジェルの採取と大型モンスターのヒンスの尻尾採取】


 いのりにとっては、久しぶりになる草原。

 ドキドキと胸が高鳴って、いのりは胸元をぎゅっと掴んだ。


 そういえば、杖が壊れたのだった。けれど、きっと要らない。無い方が自分に合っている。そういのりは直感した。


 元々、杖は魔法を使う際、魔力操作などの補助でしかない。魔石に魔力を貯めておくことで、魔法に必要な魔力を節約できたり、他の人が自分の杖を使えなくしたり。だから、なくてもいいのだ。


「ぷんぷーん」


 怒ったスライムが飛び出してくきた。


「お姉ちゃん!きたよ!」


 ひのりが、いつでもルーくんが飛び出せるように契約獣に指示。大きくなったルーくんが、戦闘態勢をとった。


「うん、大丈夫……。すぅ……」


 いのりは、妹の前に立って、軽く息を吸った。


「魔力よ巡れ、廻れ。我が魔力は炎の根源なり。燃えろ!炎となりて!」


 いのりの足元に赤く光る魔法陣が出現し、大きくなっていく。煌めきが、いのりの身体に還り、手の先に集まっていった。


「《炎魔法(ファイヤー)》!!」


 イメージするは、燃えるスライム。

 修練場では、自分の手から炎柱が上がってしまったが、それは杖から炎が出るイメージだったから。自分から離れたところで燃え盛るイメージをすれば、きっと成功する。そう直感した。


 いのりが、魔法を発動させる。手に溜まった光がチカチカと揺らめいて、スライムを勢いがいい火が包む。ごおおおおおっと音があるように。


「ぷ、ぷ……ん……」


 スライムが、無念といった顔をして、どんどん消えていく。


「……綺麗……」


 スライムには悪いが、ひのりは、魔法の煌めきを食い入るように見つめた。お姉ちゃんはやっぱり凄い。自分が手を出さなくてもちゃんとモンスターを討伐できている。ひのりは、ルーくんの戦闘態勢を解いた。この調子なら姉もすぐにレベルが上がるだろう。


「にしても……」


 姉はまだレベル1のはず。魔力も人より多いとはいえ……。こんなにいっぱい魔法を打っていて平気なんだろうか。


「そりゃー!!うりゃー!!《炎魔法(ファイヤー)》!!」


 いのりは、既にコツを掴んで、20体くらい倒し始めていて、もはや詠唱を必要としなくなっていた。あちこちで真っ赤な情熱的な炎の柱が立つ。


「むぐぐ……」


 なんだか、ひのりは悔しかった。レベルは自分の方が上なのに。


「私たちも……え?」


 このままでは、レベルもすぐに越えられてしまうと焦ったひのりは、戦闘に加わろうとして。ふと頭上が暗くなった。顔を上げる。ヒュッと気孔が詰まった。


「ぎゅぬぬぬん」


 森の木も越えるくらいの強面大型モンスターヒンスが、少女を見下ろしていた。


「わぁぁっ!!」


 大きくて硬そうなどんぐりを振り下ろしたヒンス。悲鳴を上げるひのりの服を、ルーくんが咥えて後ろへ跳躍した。

 今までひのりがいた場所に、ズズーんっと大きな音を立てて、硬そうなどんぐりが地面を砕いた。地面とぶつかったのにも関わらず、どんぐりにヒビが入った様子はない。どれだけ硬いのだろうか。


「ひのちゃん!?大丈夫!?」


「おね!避けて!!!」


「え?わーーーーーー!!!いたっ」



 妹に気を取られたいのり。

 ひのりの声に、自分にも同じ事が起ころうとしているのに気がついた。後ろに飛ぼうとしたがうまく行かずに、どんぐりが地面を砕いた風圧で転がった。


 姉妹の気持ちは同じだった。何あれ!!?先輩冒険者からすれば、アレは大型モンスターヒンスだ。姉妹からすれば強面で巨大で凶暴なリス。


 今までなら、きっと何もできなかった。でもいのりも魔法が使える。ひのりも、レベルが上がって、戦闘中、ルーくんとの以心伝心がよりできるようになっていた。


「ひのちゃん!!」


「むい!!」


「がう!!」


 姉が妹呼んで、妹が姉の思いを察して。契約獣は主人の気持ちを伝心して。


「「一人一匹ね/よね!!」」


「ぐるる……」


 姉妹は同じ顔をした。不敵に、好戦的に。目の前の敵を見据えた。主人たちに似たのか、契約獣も威嚇をしながら笑った気がした。



             △▼



「ぎゅぬぬぬぬん!!」


 どごおおおんっ。どんぐりが振り下ろされる。いのりは、先ほどより軽々と避け切る。短く、甘い茶色の髪が揺れた。

 魔力を魔石に送ったり、魔法を使ったりしたからか、いのりはしっかりと自分の中の魔力を感じられるようになった。


 なるほど、確かに魔力暴走は魔導士が一度は通るものだ。少女は、周囲の意見に同意した。暴走した前と後では全然認識度が違う。


 いのりは、自分でも魔力は多いと思っている。というより、認識した。


 以前、お姉さんに魔石50個へ魔力を送るクエストをら一人でこなしたと言った時、お姉さんはひっくり返りそうなほど驚いていた。


 どごおおんっ。地面が砕ける。


「もーー!どんぐり反則!!当たったら絶対危ないよ!!」


「ぎゅぬぬーん!!」


 避けるばかりで、いのりは攻撃ができてない。


 だが、魔力が大量消費された後だ。休憩にはちょうどいい。無くなった魔力が早いスピードで戻ってくるのがわかる。まるで、乾いた泉が水源から再び泉を水をいっぱいに溢れさせるようだ。


「また攻撃ってもう!!でも動きは、遅い!!!」


 もう一度、いのりはどんぐりを避けて、手をモンスターに向けてかざした。赤く光が揺らめく。


 いのりは、凛とした声音で魔法を唱える。


「いっくよーー!大奮発!!《炎魔法・火球(ファイヤァボール)》!!」



「ぎゅぬぬん!!?」


 大型モンスターには大型を。燃えて降ってくる隕石の如く大きな火球が三つほどモンスター目掛けて降り注いだ。


 ポプリ。白い煙が立った。


「よし!!」


 ぐっと拳を腰の高さで作るいのり。その顔は、嬉しそうに頬を赤らめて口角が弧を描いた。


 いのりと同じく、ひのりもまた大型モンスターヒンスと対峙していた。


 ひのりを庇うように、威嚇したルーくんが、ヒンスの攻撃を華麗に避けながら、ひのりから届く意識に従っていた。


 お姉ちゃんが一人で倒すなら、私は私の手であのモンスターを倒すんだ。ルーくんはひのりの思いに応えようと、敵を引きつけている。


 大きく足を開き、矢を取り付けて、キリキリと弓矢を付けた弦を引く。充分に狙いを定め、僅かに自分を焦らす。


 どごおおおんっ。ヒンスが、どんぐりを振り下ろしたその瞬間。


「そこ!!!」


 ひのりは、矢を離した。勢いよく、風を切って飛んでいく。スピードも方向もバッチリだ。


「ぎゅぬぬぬぬ!!!!」


 モンスターの額に直撃した。ヒンスは悲痛な唸り声を出して、自分のおでこを触ろうとして、どんぐりを手放した。


 ズズンッと地面に、どんぐりが食い込む。


「もう……いっかい!!!」


「ぎゅぬぬぬぬ!!」


 流石に矢一回では倒せない。もう一度矢を放つ。


 ヒンスが苦しげに開けた口の中へと入った矢が、そのまま貫通して地に落ちた。


「ぎゅぬーん」


 ヒンスがポプリと消える。


「きゅうぅん」


 出番がなかったルーくんが寂しげに鳴いた。しょげている様子が可愛くて、思わずクスリと笑ったひのりは、ルーくんの背中を優しく撫でてた。


「ごめんね、ルーくん。でも、引きつけてくれていてありがとう」


「わう!!」


 小さな小型犬サイズに戻ったルーくんがお座りをし、背筋を伸ばして吠えた。いつでも頼ってくださいというように。


「ひのちゃん!!よかった!!こっちも終わったよー」


「お姉ちゃん!私も終わったよ」


 駆けってきた姉と、ひのりは両手をばんざいして、ハイタッチを交わす中、クエスト達成したことを知らせる軽快な音が草原に響いた。


【素材クエスト:達成】


 クエストを終えた二人は、満足げにギルドへと帰還した。


「お二人とも!お疲れ様です!!上手くいったんですね!!」


「うん!バッチリだよ!」


 いのりは、ピースでお姉さんにはにかむ。

 二人が笑顔で帰ってきたことに、ホッと胸を撫で下ろしたお姉さんは、プレートと、採取された素材を預かり、クエストを完了させる。


「はい、お疲れ様でした」


「ありがとう!お姉さん」


「ありがとうございます」


 お姉さんは、プレートを返しながら、じぃと二人のことを見つめ、そして、不思議そうな顔をする姉妹に、告げた。


「実は、お二人に頼みたい事がありまして……」


 頼みたい事?なんだろうか。

 姉妹は同時に首を傾げた。



お読みくださってありがとうございます。

八話は来週更新です。



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