↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/73

第五話「姉妹はついにE級に昇格したようです」

 

 ♪

 ♪



 ♪


 んんんー!

 ぷは!


 壁と壁に挟まれた幅のない通路から、顔も洋服も泥だらけにした黒髪の少女が姿を現した。


「……はぁ、はぁ。やっと、正体を現したわね……」


 憎々しげに呟いた先には、金色の瞳をした黒猫がいた。


 行き止まりに追い込まれた猫は、ふしゃぁあっとお尻をあげて威嚇する。


「観念……しな、さい!!」


「とりゃああああっ」


 猫が前から来たひのりに気を取られ、黒髪の頭を踏みつけにして跳躍している最中に、頭に葉っぱをつけたいのりが猫の身柄を取り押さえた。


 手の中でジタバタと暴れる猫を いのりはもう逃がさないよと、しっかりと腕に抱き抱える。


「猫って本当、どうしてこう運動神経が無駄にいいんだろう……」


 猫の肉球に踏まれた頭の泥を手で払いながら、ひのりが愛くるしい猫の喉を撫でてやる。

 猫を探して、街をあちこち探し回っていたから、姉妹は全身泥まみれになってしまっていた。


 正直疲れて果てていたひのりは、今すぐその場にへたり込みたい気持ちでいっぱいだった。



「もう少し頑張ろう!ひのちゃん!飼い主さんも凄く心配してたし」


 いのりが、狭い場所の探索の際に付いた、すり傷のある顔で妹に向日葵のように笑いかけた。


「うん……そうだねお姉ちゃん」


 ぜーはーっと膝に手をついて肩で息を吸う。

 疲労困憊、もう一歩も歩きたくない……というのが、ひのりの本音だった。でも、本音を一度飲み込んでから無理に笑顔を作った。


 いのりは、ひのりよりも活動的に猫を探し、追いかけていたはずだ。一体全体、姉の体力はどこから湧き出ているのか、ひのりは昔から不思議に思っている。


 妹のそんな思考もいざ知らず、いのりがご機嫌な足取りで先導し、姉妹は、依頼主の家にまで猫を届けに向かった。


「ミーヤちゃん!! 今までどこにいたのお! 冒険者さん、ありがとう!!」



「いえいえ!見つかってよかった! ミーヤちゃん、すごくやんちゃな子で……大変だったけど……。冒険しに行きたかったのかも」


 涙を目に浮かべて猫にしがみついて喜ぶ飼い主が、いのり達に向けて頭を下げた。


 いのりが慌てて、手を軽く振り、破顔した。


「あの、これ……よかったら、もらってください。クッキーなんかで申し訳ないですけど」


 飼い主は、ボロボロどろんこどろんこの二人に、アイシングクッキーが入った袋を差し出す。


「わあ!いいのー? 頑張った甲斐があります」


「ありがとうございます……」


 いのり、ひのりが、猫のアイシングがされたクッキーを手に瞳を輝かせる。


「い、いえ!ミーヤちゃんを探してくださったんです。このくらいギルドの報酬と別にご用意して当然ですよ」


 少女二人に喜ばれたのが嬉しかったのか、飼い主の女性は、ふふっと手で口を隠すように微笑み、改めて別れの挨拶の意味で、もう一度二人に向けて頭を下げた。


「んふふー!飼い主さんのああいう嬉しそうな顔を見られると、やりがいがあるねー」


 ルンルンと鼻を歌いながら緩く踊るように街道を歩くいのり。



「うん。でも、猫は、あんまり狭いところばかりにいないで欲しいかな。体が入ればいいけど……」


 ご機嫌な姉につられて、ひのりも口角を上げるが、すぐに、いててと、狭い路地に入った際にできた膝のすり傷に顔をしかめた。

 ついでにスカートのレースが破れてしまっているのを発見した。


 ハッとして、ひのりが姉の洋服も確認すると、同様に少し破れてしまっている。


 ペット探しのたびに衣装を修理に出さなくてはいけないのが難点だ。


「またか……」


 これで、姉妹が宿屋の女将さんに修理を依頼したのは、通算20回目だ。


「でも、動物探しはこの半年間、結構こなしてきたから、最初よりは街のどの辺にいるとか予測ができるようになったよね! ひのりもなんだかんだで体力ついてきたみたいじゃない?」



「え?そう、かな……。そういえば……」



 女将さんの呆れた顔を想像していた ひのりは、姉の声に意識を戻した。


 たしかに姉の言う通り、異世界に来てから風邪をひいたりすることなく半年を過ごせている。


「うんうん、それに、お姉ちゃんもひのちゃんも魔石のクエストで魔力量が上がってきたし! お姉ちゃんはつい先日、火属性が解放されちゃった!」



「おめでとう、お姉ちゃん。これで、三つ目の属性だよね」


 半年間で、いのりは魔石クエストでめきめきと魔力量を増やし、特典として水、風、火の魔法属性を解放した。


 魔力は多かれ少なかれ、誰もが持っているものだが、魔法を必要とする魔導士などは魔法を使うために、魔力量を増やす必要があった。

 魔力量が増えると、属性を増やすこともできるので、魔石クエストは美味しいのだ。


 半年間の頑張りをお互いに褒め合いながら、姉妹はギルドの受付に向かった。



「はーい!クエストの完了ですね!お疲れ様です!あ!え!?」


 驚いた声を上げるお姉さん。


 怪訝そうな顔をした姉妹に、慌てて取り繕う。


「あ、いえ!お、おめでとう……ございます。お二人ともE級に昇格しました」


 クエスト達成した通知音(ファンファーレ)が響いた。


「「…… え!!!? 」」


 G級からF級に上がったのが3ヶ月前。

 そこからさらに3ヶ月でまさか目標のE級に上がれるとは!


「す、凄くはやいです……。あたしもびっくりしましたよ!早速、上書きされた情報を確認してください」




【白羽いのり】

 職業:魔導士

 冒険者等級:E

 クエスト履歴:新聞配達、魔石に魔力を、飼い猫を探してください、魔力を分けてください、お使いを頼みます、子供の面倒を見てくれる方、魔石に魔力をくれる人はいませんか?、本屋の整理を、うちのカフェでバイトしませんか、魔石クエスト、犬が逃走しました、香水ショップの売り子をしてください、屋敷のメイド募集、魔石の魔力を補充してください、街の清掃のボランティア、新聞配達、ペットを探してください、風船配ってくれませんか、魔力ある人募集、パン屋の試食会………etc.ミーヤちゃんを探してください!

 討伐モンスター:なし




【白羽ひのり】

 職業:テイマー

 契約獣:るーくん

 冒険者等級:E

 クエスト履歴: 新聞配達、魔石に魔力を、飼い猫を探してください、魔力を分けてください、お使いを頼みます、子供の面倒を見てくれる方、魔石に魔力をくれる人はいませんか?、花屋の店番、どなたか外出の間ペットの面倒を見てください、魔石クエスト、犬が逃走しました、絵本の音読会に参加してくれる人、屋敷のメイド募集、魔石の魔力を補充してください、街の清掃のボランティア、新聞配達、ペットを探してください、クッキー作りに協力してください、魔力ある人募集、パン屋の試食会………etc.ミーヤちゃんを探してください!

 討伐モンスター:なし




「「本当だ」」



 自分達のプレート内容を確認した姉妹は、改めて沢山のクエストをこなしてきたなと感慨深くなってしまう。


「くううう。や、やったー!ついにE級だよ!ひのちゃん! 私たちも、真の冒険者だよ! モンスター、ばんばん倒さないとね!」


「……ちょっと、怖いけど……」


 互いの手を取り合って、達成感を共有する。いのりは、妹の腕ごと、ブンブンと腕を動かした。


 姉妹の様子を、ギルドの酒場や受付の近くにある掲示板のところにいた他の冒険者達は、どうやら注目の新人が半年でE級に昇格したらしいという情報を共有して目を光らせた。


 背が低い姉妹は、周囲から見て、とりわけ幼いと思われていたようで、皆、姉妹を父や兄、母、姉のように見守っていたのだ。いつも遠巻きにチラチラと観察していた。


 嬉しそうに跳ねるいのりと、周りの視線を感じて、嬉しいのに素直になれないひのりの様子が微笑ましい。無骨な怖い顔の冒険者も、ほのぼのと緩んだ表情を、新聞紙を立てて隠していた。



「では、これからの等級の説明をしますね!」


 ギルド内の雰囲気と姉妹の思い違いを全て知っている受付のお姉さんが、堪えきれない笑いを噛み締め、頬をヒクヒクさせながら、説明を始めた。



「はい、それではまずはE級の昇格おめでとうございます!

 此処からは、モンスターの討伐などで等級が上がっていきます。

 モンスターの討伐はプレートにクエスト情報と一緒に上書きされていきます。それから、モンスターは討伐するとアイテムボックスに自動で入るので女の子も安心です!

 あとはー、そうですね。クエストボートからクエストを取るのは同じです。なので、室料は忘れずに女将さんと相談して払ってくださいね」



「ふんふん」


 熱心に説明を聞くいのりに、お姉さんは続ける。


「これからは立派な冒険者なので、装備は問題なさそうですけど、武器はちゃんと揃えて討伐クエストに向かってください!」


 ビシリッとお姉さんが人差し指を立てて、口を三角にして言った。眉尻も上がっている。冒険者のクエストはいかに簡単なやつでも何があるか分からないからということだ。


「わ、わかりました!」


「はい。はじめてのクエストは……んー、まずはスライムや大型モンスターのヒンスなんてどうでしょうか?動きが遅いのと、ヒンスの方は大きくて狙いやすいですよ!」



 お姉さんが、2枚のクエスト用紙を見せてくる。

 どちらも素材クエストのようだ。収集達成量も2、3個と少ない。たしかに初心者向けだった。


 姉妹は、二つ返事でクエストを受けることにした。


「ひのちゃん、どうする?宿に戻って女将さんに報告するのもいいけど、武器屋を見に行きたくない?」


 ギルドを出た後、いのりがワクワクが止まらないといった様子で、横にいる妹に話しかける。


 いのりとしては今すぐにでも武器屋に行って装備を揃えてしまいたかった。


 が、ひのりが何かを答える前に自分の格好に気がつく。

 あははっと苦笑し、少し恥ずかしそうに洋服の泥を手で払った。


「えっと、お風呂入ってからにしよっか」


 意義なしと、ひのりは頷いた。




            △▼



「なんだって!?あんたたち、もうE級に上がったんかい!?」


「えぇ!?もうE級になっちゃったのかい!?」


 宿屋の女将と亭主が、驚きの声をあげながら、いのり達が考案、異世界に知識を持ち込んだクロワッサンとメロンパン。その他シチューを用意してくれる。


 こないだまで初心者だったじゃないかと、女将さんが目を丸くしていた。



「あ、はい!私たちも、ちょっと驚いちゃって……もぐ……」


 お風呂から上がった姉妹は、私服のワンピースを着て宿屋の食事処にいた。


 いのりのワンピースは落ち着いた若草色、ひのりはカスタードクリーム色のワンピースを着ていた。首の後ろで紐を結ぶワンピースで、色違いのお揃いだ。


 いのりの紐には太陽のチャーム、ひのりには月のチャームがくっ付いていて、動くたびにチャリッと音を立てた。


「はー……。変な子達だと思ってたけど、まさか半年でねぇ……。それで?あの洋服は、その記念かい?」


「んぐ!!あは、あはは……」


「ごめんなさい……女将さん」


 女将が黒い笑顔を浮かべて、ぼろぼろのどろんこにしてきた洋服の事を言及しようとした。


 メロンパンを喉に詰まらせたいのりが、胸を叩いてモノを飲み込むと苦笑した。

 ひのりは、肩をすくめて、姉とお揃いの水色の瞳を泳がせた。


 亭主は、冒険者なんだからそんなに怒らなくてもと、女将さんの横で柔和な顔をおろおろさせていた。


「はぁ、全く。仕方ない子達だよ。特に何にもしてやれないけど、せめてものお祝いに、腕によりをかけて直してやろうじゃないか!」


 にっと女将は力強く笑った。


「「お、女将さん……」」


 その格好いい様に、姉妹は思わず、ジーンと目頭が熱くなったのを感じた。



「ま!E級に上がったんだ。これまで見逃してきた室料はきっかりかっちりしゃんと払ってもらうから、ちゃんと用意しておくんだね!別の街に行きたければ払ってから済ませることだ」


 ちゃっかりというか、しっかりしている女将。うりゅぅぅと瞳に涙を溜めて、娘を旅に送り出すような気持ちになっている夫の背中を、「しっかりしな!」と思い切り叩く。



「いたた……。年々乱暴になってくるんだから。いやぁ、おめでとう、二人とも。家内もあんな風な態度取っているけどねぇ、きっと向こうで泣いてるよ。まるで娘みたいにこの半年間で思ってきちゃったからねぇ」


 妻が奥に引っ込んだことを確認した亭主が、こっそりと姉妹に教えてくれた。


「あんた!?余計なこと言ってんじゃないだろうね! そんなことしてないで仕事しな!」


「い、言ってないよー。やれやれ、年々怖くなっていくんだから。もう……」


 困った顔をする亭主だが、女将さんとの仲はとってもいいことをいのり達は知っている。惚気にしか聞こえなかった。

 

 いのりとひのりは、二人でこっそり、ふふっと微笑んだ。


 シチューのせいか、それとも。

 姉妹の胸のうちはぽっかぽかだ。



「まだお昼だし、夕方まで武器屋を見に行こうか?」


「うん、お姉ちゃんは杖だよね。私は……。テイマーって何を買えばいいんだろう? 剣とか?」


「うーん、ひのちゃんが好きなの買っちゃえば?私に決まってるわけじゃないんだし、使いやすそうなのでいいと思うな」


 いつの間にか3個目に突入したメロンパンを頬張りながら、姉は妹にあっけらかんと答える。


 真剣に悩んでいるのに……とひのりは、横目でいのりをジトと見た。


「まぁ、まぁ。とりあえず、見に行ってから考えよ?」


「ぶー……。はぁい」


 拗ねて唇を尖らせながら、シチューを食べるひのりの頭を、いのりはヨシヨシと宥めるように撫でた。



           △▼



 姉妹は、武器屋のドアを開けた。

 ドアに付いていたベルが鳴る。


「いらしゃいませお嬢様方。何をお求めでしょう」


 商店街の一角にある武器屋は、貴族も訪れるからか、中は気品ある造りになっていた。壁やショーケースには、剣や銃、杖、盾、槍、など各種の武器が一通り揃っている。


 客を対応する店員も、スーツを着て、清潔感と爽やかさに溢れている。


 武器が置いていなければ、危うく、何の店だっけ?となるところだった。


 いつも場を気にしないはずのいのりも、今回ばかりは少し緊張してしまったようだった。


「あ、えっと、私の杖と、妹にしっくりくる武器を探したくて……」


「なるほど。杖、ということは、もうご職業は決まっているのですね。妹君は、ご要望はございますか?」


「え!! えっと……」


 目を泳がせたひのりは、ショーケースの銃が目にとまる。


「剣……とか、銃……とか?」


「では、ひとまず、お姉様の杖を見繕って参ります。どうぞ店内を見てお待ちください」


 いのりと、ひのりは、言われた通り、ショーケースや飾ってある武器を眺めた。

 何が良いだろうか。ひのりは眉間にしわを寄せながら考える。


「たとえば、るーくんと闘うって時に、ひのりが何を使いたいか、じゃないかな?」


 真剣な表情をしている妹に、いのりが横からアドバイスをしてみる。いのりも冒険者になったことがないからわからないが、なんとなくそういうので選んだ方がいいと思ったのだ。



「……剣は、重いし……。短剣は、モンスターと近くそうで怖いし……」


 そんな時、ふと、ひのりの目に飛び込んできたのは、


「あ……、弓?」


 流鏑馬のようにるーくんに乗って、モンスターを倒せたら格好いいような気がした。


「お待たせしました。おや、妹君は決まりましたか?」


 長い杖、ステッキのように短い杖、形も材質も、値段も異なる物を様々持ってきた店員さんが、姉妹の表情で察した。



「あ、はいっ。弓がいいなって……」


「では、そちらもお持ちし………」



 ひのりに優しく微笑んだ店員が、いのりが杖を吟味しているうちに、弓を持ってこようとした時。



「うーーん、私はこれ!!!」



 並べられた杖を一通り見たいのりが、直感でステッキのような杖を選択し、それを手に取って天井に掲げた。


 長い買い物をするひのりと違い、感覚派のいのりの買い物はいつも早い。即決だった。



「ほ、ほんとうに、それでよろしいので?」



「はい!値段も手頃だし……、私はこれに決めた!」



「かしこまりました……では其方の新品をお持ちします」



 この後、ひのりは2時間かけて武器を選んだ。店員も最後は少し疲れていたようだが、姉妹が店を出るまで丁寧な接客を保っていた。


 何はともあれ、二人とも武器を手にして、後は街の外に出るだけだ。



いのりとひのりのクエスト内容に、性格的なものも含めて見てもらえたら面白いかもしれません。ちょっとだけ違くしてみました


7、8話でようやく、魔法使ったりだとか、街の外に出るようになります!その前に、おめでとう!いのりとひのり!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。