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第六話「つむぐぜ!冒険た……ん?」

ブックマークのご登録ありがとうございます!

 


 ♪

 ♪



 ♪



 E級になった姉妹は、武器を手にして、クエストを受注し、後はもう街の外に出てモンスターと対峙するだけ。


——そのはず、だった。


 ギルド内にある修練場に、本来であれば、クエストに向かってモンスターと戦っているはずの、いのりの姿があった。


「おい、あれ。新人の嬢ちゃんじゃないか?」


「ああ!最近修練場でよく見かけるよ」


「なんでも、こないだクエストに失敗して、ギルドの方から冒険者クエストを受注するのしばらく禁止されたらしいぜ」


「まじかよ!あーでも、ありゃあ仕方ねーな」


「おい、誰か教えてやれよ」


「いやでも俺ら剣士だしな……」


「自分で経験を積むのがはえーよ」



 男所帯で、汗と努力が場を包み込んでいる中、視線を浴びている少女は。



「ふぬぬぬぅぅぅぅぅううっ!!」



 周囲の視線なんて気に留めず、ステッキを握りしめて、ステッキについた魔石に、力みながら魔力を流し込んでいた。

 途中で息を止めてしまい、顔が真っ赤になっていった。


 足元に輝いた魔法陣は、発動させる前に収束し、消えていく。いのりは、ぷはっと詰まらせていた息を吐いて悔しげな声を出した。


「ああ!!また失敗しちゃった……!!」


 姉が魔法を発動させることに四苦八苦している頃。

 一方の ひのりは、


「ルーくん!!やっちゃって!!」


「わうううん!!」


 街から直ぐの草原に出て、戦闘状態のルーくんに分け与える魔力量を増やすべく。姉の代わりにお金を稼ぐべく、巨大化したルーくんと一緒にモンスター討伐をしていた。


 ルーくんが、スライムを踏みつぶし、寄ってくるモンスターを噛み砕いで一掃する。


「うぷ……。な、ナイスルーくん……」


 魔力消耗が激しく、視界がぐにゃぐにゃ、力が出なくなってきた少女。口元を手で押さえ、親指を立てて、契約獣の背に乗り街に帰還していく。


 すぐさま、姉妹の冒険譚を始めるのはどうやらまだ難しいようだった。



            △▼



 話は少し遡っていく。

 その日——まちに待った冒険譚の最初の一歩となるはずだった記念すべき日が到来したのだ。


「よーし!準備完了だね!」


 新品同然になって返却された、女将さんに修理を頼んでいた初期装備を身にまとい、姉妹は自分達の武器を手に取った。


 いのりは、太陽のチャームの装飾が付いた大きな紺色のとんがり帽子を被り、腰のベルトに魔法の杖である、ステッキをさす。

 ステッキに付いた魔石には、昨夜、いのりの名前付きで魔力を込めてある。他の人には使用不可。正真正銘いのりのマイステッキだ。白のロングブーツを履いて、床をつま先でトントンと鳴らした。


「うん!ばっちりよお姉ちゃん」


 ひのりは、胸元に簡素な胸当てを止めて、頷いた。

 月のチャームがついた腰に巻かれているベルトには、接近戦になったら利用しようと、初期装備に貰った短剣が一応ささっていた。(やびら)——矢を入れる容器——を肩にかけ、掛けた紐に巻き込まれた黒髪を手でのかした。

 最後に、小ぶりな弓を手に持って準備完了だ。



「今日からE級クエスト開始だね!ひのちゃん!頑張ろう!えい、えい、おーー!!」


「え、えい、えい、おーっ」


「わふん!」


 姉妹揃って天井に向けて拳を突き上げる。いのりは勿論、ひのりも、ルーくんもやる気満々だ。ルーくんは、尻尾をぱたぱたと振った。



【素材クエスト: スライムと大型モンスターのヒンスの素材を2、3個ゲットしよう】



 今回のクエスト内容は、スライムのジェル、ヒンスの尻尾の収穫。どちらも対象を討伐すれば、確実に手に入る代物らしい。


「おや!もう行くのかい!どうだい?着心地は?」


「女将さん!おはようございます。とってもいいです。新品みたい!」


「いつもありがとうございます」


「そーかい!それはよかったよ。いつでも直してやるから、思う存分クエストを受けてきな!」


 頼もしい宿屋の女将は、お弁当だよと言って、二人にメロンパンとクロワッサンを手渡した。


「ふわぁ……!メロンパン!しかも焼きたて!すごい美味しそう」


「……お姉ちゃん、これ、お昼ご飯だからね?」


「わ、わかってるよ!?」


 好物をお弁当に持たされて、今にも食べたそうな姉妹。ひのりは、姉と自分に我慢我慢と言い聞かせる。妹に嗜められたいのりは、ドキッと心臓を跳ね上がらせ、焦り気味に声を荒げた。


 姉妹、どちらも俯瞰して見れる女将は、どっちもだよとため息をついていたが、自分が作ったパンを喜ぶ様子には、まんざらでもなさそうだ。


「ほら!さっさと行きな!!こんなところで油を売ってるんじゃないよ!」


「はぁい!行ってきます!女将さん!」


「はーい、行ってきます」


 姉妹と一匹が元気よく草原へと出かけた。

 草原は、心地の良い風がそよそよと吹き、短く生えた草花が体を小さく揺らした。


「んーー!街よりも外の方が空気が美味しい気がする!」


 いのりは、手を組んで手のひらを空に向けて、体をのびーーっとさせる。花が咲くように腕で弧を描いた。


「うん、活気のある街の中も良いけど、自然ってやっぱりいい………ね………え……」



 みょいん。ぴょいん。ぴょんぴょん。


 ひのりも、満足気に自然を満喫をしていたが、ジェル状の物体を見つけ、顔を青ざめる。


「今度ピクニックでもし……ひっ!う、うわぁ……。びっくりしたあ」


 姉妹はスライム達に囲まれていた。なんとなく可愛い雰囲気もあるが、初見の姉妹にとってはぷよぷよしていて、ぴょんぴょん跳ねていて、未知の生物でしかない。カルチャーショックにも似た衝撃があった。


「ぷんぷーん!」


「ひゃあ!!」


 怒っているスライムがひのりに飛びかかる。驚いた少女は、尻餅をついた。黒髪が宙に舞う。


「ぷんぷーん!」


 ひのりにぴょんぴょん跳ねたスライムが体当たりをする。

 ブヨブヨとしているので痛みはないが衝撃はあった。


「ひのちゃん!大丈夫!?」


 わたわたと慌てた いのりが、なんとかしようと杖を構えた。その瞬間、銀の毛並みが側を横切る。それは風をきって、草花が風に舞う。


「がう!!」


 ルーくんが、主人を守ろうと小型犬サイズから人が乗る巨大サイズになってスライムに飛びかかった。前足でスライムを押さながら着地。そのままグニッと踏みつぶす。


「ぷ、ぷんぷー……」


 ポプンっと白い煙が立ち、スライムが消える。


「ぐるる……っ。ガウア!!」


「ぷんぷんぷー……」


 ひのりの頭にいたスライムも、ルーくんが口を開けてガブっと噛み砕いた。白い煙がルーくんの口から漂う。鋭い牙が太陽を反射してギラリと光った。


 いのりもひのりも、普段の可愛らしいルーくんの面影がない大きな狼の姿に目を丸くして固まった。口をあんぐり開けて、ルーくんを見上げる。


「る、ルーくん?」


「がう!!」


 恐る恐る声をかけてみる。ルーくんは、ひのりの前に伏せて、大きな尻尾を嬉しそうに振った。


 褒められたそうな契約獣を撫でているうち、ひのりは大きなルーくんにも親しみがわいた。大きくなっても、ルーくんは小さい時と変わらない。


「わ、あ……。あは、あははっ。お姉ちゃん見てみてー!ルーくんがおっきくなったよ。何にも変わらないけど、モフモフは増したわね。カッコいいよルーくん」


 抱きつききれないルーくんに抱きつき、はしゃいでいる妹を、つい、いのりは私もふわふわの毛並みに抱き着きたいっと羨ましく思ってしまう。


「えーい!うわ、すご。これはもう。お昼寝したくなっちゃう……」


 反対側から いのりもルーくんに抱きついた。毛並みに顔を沈めて、うりうりと顔を擦り合わせる。太陽の匂いがする毛並みは、お布団のようで眠気を誘った。


「ちょ、お姉ちゃん?眠ってない??ちょっと!寝ないで!?まだクエスト残ってるんだから!」


「うーん……。お姉ちゃんは……」


 急に静かになった姉。ルーくんが大きくて向こう側にいる姉がどんな様子かひのりには分からないが、なんとなく察して嫌な予感がしたひのり。むくりと、ルーくんから離れて対面の姉の方へ回る。いのりは今にも眠りそうになってしまっていた。やっぱり!!ひのりは姉を揺さぶった。


「お姉ちゃん!!寝ないで!!まだ私たちで討伐出来てないって!」


「は!!そうだったね」



 それは大変だ。いのりはガバリと起き上がる。此処に何をしにきたのか。モンスターをはじめて討伐しに来たのである。


 気を取り直して、姉妹はプンプンぷよんぷよんのスライムに向き直る。スライム達はプンプンと飛び跳ね、敵ダー敵ダーツヨイゾーと言ってるように聞こえた。



「……おねえちゃん。私、今、なんか仲間を呼ばれた気がするんだけど……」



「ひのちゃんも?あははっ、私もばっちりくっきり、そう聞こえたよー」


 大丈夫だよひのちゃん、そう言った いのりの顔が、次の瞬間に、一気に引きつった。


「あははー♪ い"!!!?」



 ぷんぷーん。


 ぷんぷーん。


 ぷんぷんぷんぷーん。


 スライムの群れ現る。



 たちが悪いことに、ピラミッド状に積もって、高さを盛ってやってくる。倒れてきたらひとたまりもないだろう。

 姉妹は、クエストは何が起こるか分からないことを身をもって学んだ。


「る、るーく……」


「ちょっと待って!!」



「お姉ちゃん!!?」



 神獣に頼ろうとした ひのりの前に立ち塞がった いのり。格好良くキリリと決めた顔をしてみた。ルーくんは、前屈みになって、いつでも飛びかかる準備は万端だ。


「ぷんぷーん」


 スライムも準備万端だ。



「此処はお姉ちゃんに任せて!!3つも魔法属性を解放してあるし……。なんとかなる!!」



 いのりは、ステッキをスライムのピラミッド建築に向けた。太陽をステッキの魔石が反射し、いのりは、なんだか一人前の冒険者のように頼もしかった。


 いのりの迫力に抗戦的だったスライム達が怯む。


 ひのりも、おお……っと感嘆した。


「すぅ……。魔力よ巡れ、廻れ。我が魔力は炎の根源なり……」


 魔石が反応を示した。

 魔法陣が光帯びながら いのりの足元に現れる。


 目を大きく開いて、ひのりは姉の姿に魅入ってしまう。


 くるくると魔法陣が回り、溢れた魔力がいのりの身体を通して杖に登っていく。杖の魔石がその魔力に触れて、赤く輝いた。



「《炎魔法》!!」



 かっ!といのりが目を見開き、今こそ魔法の発動を!!!!


 の、はずだった。


「ぷんぷんぷーん」


「な、ななな……なあぁぁぁぁぁぁぁぁあんでぇえ!!?」


 草原に響き渡ったのは、いのりの絶叫。杖をぶんぶんと振り回している。その表情は困惑気味だ。


 いのりの炎魔法は、発動直前にぷすんと消滅してしまった。


 いのりは、ぴょんぴょんと迫ってくるスライムから泣きそうになりながら逃げている。


 ピロンッ!


 スライムから逃げ惑う姉のすぐ近くで、ひのりのレベルだけがアップしていた。


「……ルーくん、強すぎ……」


「わううううん!!」


 人が二人くらい乗れるサイズになったルーくんは、お昼の青空に向けて胸をのけぞらせて遠吠えしてスライムを威嚇し、次々に蹴散らしていった。


 ひのりは、ルーくんに魔力を持っていかれて、頭がクラクラと目眩がし始める。


 うぷ……と吐き気に襲われて、ひのりは口を手で押さえた。



 ————とまぁ、こんな具合に姉妹のはじめての討伐クエストは、割と大惨事となって終わったのだった。



「えぇ!!?クエストに行って、魔法が出ずに失敗!?」


「えっと……はい……」


 ひのりを背負って帰ってきたいのりはギルドのお姉さんに正直に打ち明けた。


 めくじらを立てた受付のお姉さんが、前のめりになって問いただした。いのりはしゅーんとしてしどろもどろに答える。


「魔法も使えないのに、クエストに行くなんて!!危ないって言いましたよね!!?」


「すみません……」


「はぁ……。スライムだったからよかったものですよ!今後は、ギルドの修練場で魔法が使えるようになるまで、いのりさんはクエスト禁止です!いいですね!?」


「えぇ!?そ、そんなぁ!!」



            


 

ちょっと寄り道が過ぎましたが、冒険に失敗はつきもの!次のお話から、どんどん成長していって欲しいなあ。

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