旧版プロローグ「とある姉妹の冒険譚のようです」
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草原の中、豚型のモンスターが、鋭い牙を見せて甘栗色の髪を風に揺らした少女へと飛びつくように襲いかかった。豚型モンスター《モンモ》は丸々としている割に俊敏な動きのできるモンスターのようだ。
「お姉ちゃん、危ない!」
ハッとして、危機迫った表情をした黒髪の少女の声には、焦りが滲み出ていた。黒髪の少女の左脇では、銀色の毛並みを持った大きな狼の相貌をした神獣が豚型のモンスターと戦闘している。
黒髪の少女は、その場を神獣へ任せるとモンスターの襲撃に気が付いていない姉の元へ駆け出した。
「ふふん、まっかせて!!妹よ!お姉ちゃんは……」
妹の声に《モンモ》へと振り返った少女は、短い甘茶色の髪を風に揺らして、驚くのではなく不敵に笑った。
足元には赤い色の魔法陣が輝いていた。既に少女の魔法陣は完成しているのだ。
手を空へと高く伸ばしてモンスターへ終幕を宣言する。
「豚の丸焼きが食べたいからぁぁぁ!負けない!《ファイヤァァ!》」
腕が振り下ろされると、炎魔法で生み出された猛火の柱が、モンスターの足元から勢いよく燃え盛った。
「ぶひぃ!!?」
紺色の豚が驚いた顔をして丸焼けになる。白い目をバッテンにして飛び上がった状態から力なく地面に転がった。
ぽふんっと可愛らしい音がどこかから鳴れば、その後に残されたのはモンスターの核である水晶と立ち上がった白い煙だけ。
その白い煙も、そよそよと草原にふく風とともに徐々に消えていった。
「炎魔法を使えば豚モンスターの丸焼きができると思ったんだよねー。見てみて、ひのちゃん!美味しそう!」
「お姉ちゃん……。はぁ、心配して損しちゃった」
アイテム画面を開いたまま、脱力している黒髪の少女へ駆け寄る甘栗色の髪の少女。嬉々とした笑顔を浮かべる少女のアイテム画面には、《モンモの丸焼き》が。先程の豚モンスターの丸焼きが表示されていた。
「おーい、いのり!ひのり!こっちは討伐終わったぜ!」
銀髪のポニテールを揺らしながら、騎士の鎧と縦長い剣を腰に下げたリアが二人の少女に声をかける。手を挙げて、大きくひらひら降って近寄ってきた。
「って、どうした、いのり!」
リアが辿り着いた場所では、心配をさせたちょっとした仕返しに、狼の神獣に顔を舐められて「あはは!」と笑い転げる甘栗色の少女の姿が。どうしたことかと、銀髪の少女は黒髪の少女ひのりを見やる。
「………あーーと、大丈夫そうだな……」
「あ!リア!うん、見ての通り私もお姉ちゃんも大丈夫よ」
苦笑混じりの笑顔を見せて頬をかくリア。
そんな彼女を、「お帰りなさい」と首を少し傾げて可愛らしい笑顔で ひのりは出迎える。
ひのりの艶のある黒髪は、編み込んでハーフアップにされ後頭部で白いリボンで結ばれている。リボンについた鈴が少女の動作に合わせてチリンっと鳴った。
「あははっ。くすぐったい!ひの!ひの!ひのちゃ、やめ。あははっ」
「こっちもクエスト達成したよ。《モンモ》討伐二十匹!まぁ、お姉ちゃんが一匹、丸焼きにしちゃったから……正式な討伐数は二十一匹です!」
ひのりは、左手と右手で指二本と人差し指を立てて数字の2と1を作る。左手のピースがチョキチョキと動き、えへんっとドヤ顔をする。後ろで神獣と戯れあっている姉には目をもくれなかった。
リアは「さ、先にもうやめてやれよ……」と背後の いのりへ憐れんだ瞳を向けた。
「はーい……。ルーくん、戻って」
「わう!」
年長者の一声によって、渋々とひのりは神獣のルーくんの召喚を解く。良いお返事をした狼は、そのまま姿を消した。
「リアー、ありがとー!」
「いのりも、あんまり妹に心配かけたらダメだぞ?」
「はーい!リアお姉ちゃん!」
「誰がお姉ちゃんだ!!全く……帰るぞ!」
元気よくお返事をしたはずの いのりは逆に叱られてしまった。
クエストの帰り道。
「そういえば、今日はみんなが集合する日じゃなかった!?」
午後の予定を唐突に思い出した ひのりは、黒い髪をなびかせながら駆け出した。いのりとリアよりも幾分か先へ行ってしまうと、背後を振り返り、手を挙げて大きく振り動かした。
「お姉ちゃーん、リアー。二人ともー!はやく、はやくー!」
「はーい!今行くー!」
「ああ!待ってくれひのり!」
黒髪の少女の元へ、甘茶色の髪の少女と銀髪の少女が走り寄って行く。
「あははっ、今日は久しぶりに皆んなと会う日だもんね。楽しみなんだね、ひのちゃん」
「ああ、そうだな。ひのりも張り切ってるな」
「ふ、二人も楽しみにしてるでしょ!?」
「「もちろんだよ/ だ」」
顔を見合わせてクスクスと笑い始めた三人の楽しげな声を、草原を駆け抜ける風がなぞる。
さて、ここで問題だ。異世界召喚されてしまった姉妹は、異世界で何をするだろうか。此処から先は……。
——とある姉妹の異世界召喚冒険譚なのだ!




