2章 22話プロローグ
エメナルド色の海の上空を白い鳥が飛んでいる。
潮風が撫でるように髪を揺らし、優しい太陽の光が少女達を照らしていた。海の波は穏やかな音を立てている。
絶好の出航日和だ。
「海だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああーーーーっ」
「お姉ちゃん元気だなぁ……山じゃなくて海なんだけど……。お姉ちゃん可愛い」
手すりに片手を置いて、水平線の向こうに届くように声を張るイノリはすこぶる楽しそうだ。
麦わら帽子を被ったヒノリもはしゃいでいるが、姉には負ける。姉のように大胆な行動は気恥ずかしかった。
「リ―アー!だいじょぶだよー。海、きれいだよー?」
「怖い。怖い、こわい、こわい。悪いけど、イノリ。本当に波は穏やかなのか? 何か海の中にモンスターとかがいるんじゃないのか……?」
「あははっ。大丈夫だよ。リアは怖がりだなーもー! 船から落ちるなんて、どれだけ身を乗り出せばできるの?」
あははっと屈託なく笑ったイノリに続いて、ヒノリもリアを元気付けようと口を開く。
「リアさ……ううんリア、今日は波も穏やかだし、天気もいいから船が急に揺れることもないと思います……じゃなかった思うわ。心配なら、手をつないでおこうか?」
すっかり怯えて船内から出ようとしないリアを、イノリとヒノリが手を差し伸べて海がよく見えるデッキへと誘う。
「て、てぇ……手を、離さないでくれよ? 絶対、絶対だからな!?」
「うん、うん! 任せて、任せてー!」
「ほんとに、本当に怖いんだからな……? 」
自信満々のイノリが頼もしくて、リアがゆっくり手を伸ばした。姉妹二人に挟まれて、固く手を結ぶ。
潮風が当たるデッキまでは、直ぐだったが、その間にリアの手は手汗でべっしょり濡れていた。
「う、うううう海は、きれいだと思うんだけど。あんまり近くに行くのは……」
「えー? 手すりあるし、もう少し行っても大丈夫だよー」
「い、いや。あたしは遠慮しておくよ。二人で楽しんでくれ」
デッキの中央にある柱の周りに置かれた木製の椅子へ腰かけたリアは、青白い顔で二人の手を離し、柱に抱き着くようにしがみついてしまった。
こういうときに限って、気を緩めたときに限って、海の中へと落ちるのが目に見えているらしいリアは、そこからテコでも動く気はない。
「しょうがないな。怖くなったらまた呼んでね! いつでも駆けつけるから!」
「リア、ルーくんと一緒にいれば安心だから。お姉ちゃんの言う通り、何かあったら、すぐに呼んでね」
「ううーありがとう。イノリ、ヒノリ。ルーくんも……すまない」
『……あるじに任されたからナ!! 一緒にいてやルゾ』
べそべそ半泣くリアの頬を、小さな銀狼が肉球であやす。その様を姉妹は少し離れたところから見守っていた。
「うーん、やっぱり違うところを選んだ方が良かったかな……」
「でも海だよ、ひのちゃん!! この夏の天気に観光って行ったらやっぱり海だよ!」
「お姉ちゃんが……暑苦しい……」
「酷い、ひのちゃん……!!」
「ともあれ、出航の日が晴れてよかったよね。昨日は雨が降っていたし」
「話題の変え方が雑すぎるよ!!」
姉からのツッコミを受けながら、ヒノリは端の切れた乗船チケットを眺める。
人から……というかエインからパーティ結成のお祝いにと譲り渡されたものだ。
「……あ!! ひのちゃん、島が見えてきたよ」
姉の声にヒノリは顔を上げた。
まだ遠いが、ぼんやりと緑色に包まれた島らしき存在は確認できる。
「あれが…… ルペーニ島。私と同じ、召喚士がいる獣人の島……」
ヒノリの胸は、同じ召喚士に出会える期待で密かに踊っていた。




