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十七:お父さん

矢野義雄(やのよしお)


「へ?神島家長女誘拐事件ですか?

そりゃあ、知ってるも何もかなり有名じゃあないですか。

流石に知っていますよ」


目の前に居る男…矢野は、ニコリと種族特有の胡散臭い笑顔を浮かべた。


「貴方の息子さん……賢一さんについての事なんですが…」


「俺の息子ですか?

……息子の事疑ってますか?

まぁ、いいですけど……」


矢野さんは、少し不快そうな顔をしたがまた胡散臭い笑顔を浮かべると、申し訳なさそうに言った。

クルクルと表情を変えて忙しい人だ。


「父親の俺が言うのもあれですが…息子の事全然知らんのです。

俺は息子が八歳の時に離婚してしまいましたし、それに……息子が十歳になるまで妻の方がとってたんで」


俺は無言のまま、話を聞いていた。

何も言わなくてもペラペラと喋ってくれるから、本当に助かる。


「あぁ。奥さんは、今どこにいるんですか?」


「知らないんですか?

……殺されたんですよ」


「は?」


「残念ながら未解決なんですけどね。

……でも、内心ホッとしてるんですよ」


「いくらなんでも、元奥さんですよ?」


矢野さんは、顔の前で手を横に振る。

そして、口に笑みを浮かべているが、目は笑っていないような顔になった。


「刑事さんは、殺されても良い人なんていないって思っている方ですか?」


「そりゃあ、そうですよ」


刑事という立場上そう答えるしかなかったが、正直俺はそんな事は思ってはいない。


「……あぁ。まぁ、そうですよね。

俺だって、ずぅっと昔はそうでしたから」


少しだけ落胆したような、期待通りであるいみ残念と言うような声を出す。


「でもね、刑事さん。

世の中には、二種類の人がいるんですよ?

殺されるべき人と殺されてはいけない人がね。

刑事さんだって、人を何十人も殺した人は、死んだ方が良いって考えた事あるでしょう?」


その言葉に同意をするわけにもいかず、ただ矢野さんの顔を見ていた。


「妻はね、後者だったんですよ。

つまり……殺されるべき人。

別に妻の事は嫌いじゃないです。

一人の女としては好きでした……。

しかし、一人の妻としては嫌いです」


よく、意味が分からなかったが表情に出すわけにもいかず、とりあえずメモに書いた。


「妻は……。

自分の息子を虐待して楽しんでいたんですよ」


虐待と言う言葉に俺は耳をピクリと動かす。


「……お恥ずかしい事に俺が妻の虐待に気づいたのは、離婚してから二年後の話ですよ。

薄々勘付いてはいたのですが…確信が無く…」


本当に悪いと思っているのか後半になってくるとドンドン声が小さくなっていった。


「……そうですか。

それでも、賢一さんが一人暮らしをするまでは一緒に居たんですよね?

その時の性格などを教えて下さりませんか?」


俺の言葉に矢野さんは、顔をしかめた。


「……いいですけど…。

別に普通の子ですよ?

ただ少しだけ、子供じみてなかったですけど…やっぱりそれは妻の影響があるんですよね」


「子供じみてない?つまり、どんな感じですか?」


「えーっと……」


顎に手を当てて俯きながら、考えていたがパッと笑顔で顔をあげた。


「簡単に言いますと、小学生のわりに客観的に物事を見ていたんですよ」


「……それは、今も変わらずですか?」


「さぁ?最近あってないですからね」


肩を軽くすくめた。

これ以上は、きっと何も得られないだろうと思い帰ろうと思った時、矢野さんが俺を引き止めた。


「妻は、息子を一度殺したんです。

だから、あれは当然の報いなんです。

例え、犯人が誰であろうと…」


「……失礼します」


俺はお辞儀をして、矢野さんから離れた。

外はすでに夕闇になっていた。


「……明日も晴れかな」





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