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十六:あの子

僕はどうやら彼女に一目惚れとやらをしてしまったようだ。

初めて写真を見た時は期待していなかったのだが、十五歳の割りには清楚な印象と整った顔立ち。

スラリと伸びたピンク色の耳、照れているようなぎこちない笑顔が好印象をもたせる。

生まれてこのかた、恋愛をしたことが一度も無かった。

惚れられた事ならいくつか、あるが自分から惚れたことなど一度も無い。

写真を見た瞬間ビビビッと電気が全身に走るような感じがして、鳥肌がたった。

しかし、そんな彼女は僕とのお見合いの日に誘拐された。

警察は何をもたもたしているのだろうか。


「わざわざ、来ていただきすいません」


「いえいえ、大丈夫ですよ。

椎華さん、見つかると良いですね」


「……本当です。またせて申し訳ありません」


母様たちがいろいろ話している間僕は、神島家の客室の窓から外を眺めた。

外は警察が何人か居て警備をしているのだろうか。


「……役にたたないモナ」


「紘。語尾にそれつけるのやめなさい」


「はい」


いつから聞いていたのか、後ろから母様が声をかける。

語尾に何を付けたっていいじゃないか。

僕は、母様たちの横を通り過ぎて外に出た。

外は秋晴れといって良いほどの快晴だ。


「モナーさん。

あまり外出歩くと危ないですよ」


「なんだ。誰かと思えば、警察

モナか」


目の前に居る、緑のアホ毛みたいなのが印象的な男は苦笑いをした。

確かこいつは…仁科とか言う奴だったかな…。


「ここの家の長女は、見つかったモナ?」


「い、いえ…。まだです」


「はぁ…。じゃ、個人的にも探させてもらうモナ」


「へ?」


僕は仁科の隣を通り過ぎて、仁科を置いて行った。




個人的に探させてもらうって言われても…。

こちらも、いろいろ考えているんだけどなぁ。

僕はため息を深くついた。

モナーさんは、心底椎華さんに惚れてるよなぁ。

携帯を取り出し、フーンさんに電話をかけた。


「あ、もしもし。ニラです」


『ん?』


「あのー…モナーさんがどっかに行きました」


『モナー?あぁ、あの坊ちゃんな。

いいさ。勝手に動かしておけ、こっちはこれからが山場なんだから、無駄なようで連絡するなよ』


「あ、はぁ」


電話をしろと言ったのは、フーンさんなのになぁ。

などと思いながら、携帯をポケットにしまい大きな家に入った。




警察は、何をやっているんだ。

これ以上仕事は休めないし、なにより見合い相手もうんざりするだろう。

それだけは、本当に困る。

茂名縞(もなじま)家と結婚してくれれば、そちらの会社と連携して知名度などがあがるはずだったのに。

何をもたもたとしているんだ。


「おい。君…えっと…」


目の前にいる緑の毛色で耳の先が折れている男は、ニコリと笑った。


「根野崎です」


「根野崎君、まだ椎華は見つかっていないのか?」


根野崎は、笑顔から苦笑いにかわり申し訳なさそうな顔をする。


「申し訳ありませんが……。

ご心配されるのは、わかりますが今深谷さんが、犯人と予想される人の親戚をまわっておりますので…」


「そうか」


心配?

私が?

やめてくれよ。心配してるのは、娘の事じゃない。

見合いの話だ。

確かに、私の娘だからそれなりに心配はするが、どうせ椎華が仕組んだ事だろう?

だから、死んでるはずがない。

むしろ椎華は、自分で死ぬ勇気なんて何一つないんだ。

いつのまにか、野薊が私の隣に居て根野崎がいなくなっていた。


「……あの子は、意外と強いですよ」


「……?」


私の心の中を読み取るかのように、野薊はニコリと笑顔を見せることなく私に言う。


「ふん。どうだろうな。

あくまで私の予想だが、これはあの子の自作自演じゃあないのか?」


「……さぁ、どうでしょうね。

でも、私たちは少しばかりあの子を縛りすぎていると思いませんか?」


「……だが、事業が成功すればあの子も喜ぶだろ。

私は私の小さい頃のように、貧乏な生活をあの子にさせたくないんだ」


「……」


野薊は、何も言わず私の隣から去ろうとしたが、何か思い出したのか私のすぐ後ろで立ち止まった。


「成功だけが、幸せですか?」


「……」


それだけ言うと、何も言わずに早々と部屋を出て行く。

私は、何も言い返さぬまま振り向き、野薊が出て行ったドアを眺めるだけだった。



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