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魔女との邂逅

 思えば俺が何かを始めるときは必ず女がそばにいた。


 初めてを捧げた先輩が居た書道部も女の子を追いかけて飛び込んだ。


 バイトだっていつも女の子を見つけて飛び込むか、出会いを求めて始めたのがきっかけだ。カフェウェイターをしている時に客に声をかけすぎて怒られては皿洗いをしていたのもいい思い出だ。


 そして結局生まれ変わっても、何かを始めるきっかけは女だった。


 少々ニュアンスは違うが。


「結局家庭教師探しのことがボルドー家にバレちゃってね、うちの領地にはまともな人が残ってなかったわ」


 一旦は剣の道を進もうと思ったのに急にこれだ。まさかアマリエが本当に見つけ出してくるとは思っていなかったというのもあるが、期待と不安が半々といったところである。


「ありがとうございます。でも、そうなるとどこから…?」


「冒険者よ。あそこの人達なら、こう言っては何だけど根無し草だからね。ボルドー家も囲いきれないのよ」


 俺たち五人は場所を応接室に移し、アマリエが見つけたという家庭教師役を待っていた。ちなみに先ほどの執事は家庭教師を連れてくるために外に出ている。


「でも、どうしてウィルが魔法を勉強するだけなのに、みんな邪魔するんだろうね」


「そ、それは…父様たちがあんまり仲良くないから…かな?」


「ふぅん。ジョセフもファンタムも、仲よくすればいいのにね」


 眩しい!五歳児のピュアハートは眩しすぎて汚れた俺の心が痛いぜ。


 でも、若干不安もある。


「母様、良いんでしょうか?父様に怒られないでしょうか」


「父様には私からお話ししておくわ。ウィルはしっかりと勉強なさい」


「…兄様は、どう思います?」


「俺はいいことだと思う。私や父様だけでなく、スカーレットの門下の者は剣のみに生きている者が多い。だが有事の際は魔法の知識があったほうが良い事も多いはずだ。そういう時ウィルが魔法の知識を持っていれば安心できる」


 うーむ、それは確かに。何かあったときボルドー家との連携はあまり期待できない。魔法的知識がある人間がいたほうが対処がしやすいはずである。


「何よりお前がしたいと思う事をすればいい」


 兄ちゃんほんまええ子やで…


「さ、話は決まったわね」


「はい、ありがとうございますアマリエ様」


 俺が礼を返すとタイミングよくドアがノックされた。


「奥様、家庭教師のクリムゾン様をお連れいたしました」


「いいわ、入って頂戴」


 招かれた人影に俺は少し戦慄を覚えた。


 入ってきたのは少し小柄な老婆と、目深にフードを被った子供のような人影だった。


 フードの人物は前が見えているのか怪しいほどに身を隠しており子供の…五歳前後くらいの体格ということくらいしか分からない。


 だがもう一人の老婆は一目見て分かった。


 魔女だ。


 小柄な身体を濃い茶色のローブに包み、手には自分の身長よりも長い杖を持っている。


 顔の皺は老木のように深く、表情ははっきりと読み取れそうにない。


 煮えたぎる紫の汁を大釜で煮てニヤニヤしているのがめちゃくちゃ似合いそう。


 もしくはアレだ。美味い!テーテッテレー!!


 吹くな堪えろ!ネオンをバックににやつくババアなんかここにいない!


 なんとか耐えきった俺は居住まいを正して魔女に向き合った。


「魔法を教えてほしいってのは誰かの」


 枯れ木のような姿からは想像も出来ないほどしっかりした声だった。


「この子よ!どう?才能のありそうな子でしょ?」


 そんなのわかるんだろうか…


 アマリエの手が両肩に置かれると、魔女…確かクリムゾンがこちらに顔を向け目を見開いた。


 その瞬間、俺の全身を寒気が駆け抜けた。


 身体中を舐めまわされるような感覚、それと同時にクリムゾンの目が紫に光ったように見えた。


 緊張から身体が強張り、目を背けたくても動けない。


「ん?ウィル、どうかした?」


 アマリエの声で呪縛が解けたような気がした。いや、そもそも今のは本当に何かされたのか?現実味がなく判断できない。


 何より、他の誰も何も感じていないのだ。今目の前にいるクリムゾンが放った寒気を、違和感を誰も感じない訳がない。


「緊張してるの?大丈夫よ。だってこんなに魔女っぽい魔女どこを探したっていないわよ!」


 え、そんな理由で連れてきたの?マジ大丈夫?


 途端に目の前の老婆が知育菓子のマスコットに見えてくる。不安でしかない。


「ふん、まあ良かろうの。それで、ワシの研究所は用意してあるんだろうの」


「もちろんよ。でも良いの?聞いてたのは森小屋ってことだったけど、研究所が必要なら屋敷にそれなりの部屋を用意するわよ」


「いいや、森小屋で結構。屋敷の部屋など息苦しくてかなわんの」


「そう?機材や人材も用意できると思うんだけど」


 アマリエの提案にクリムゾンは眉をひそめた。


「ワシを囲おうとするでないの。あくまでワシはこの小僧に魔法を教えるのみ、話を無かったことにしたくないのなら、それ以上踏み込むでないの」


「一応善意からの提案だったのだけれど…まぁいいわ。その方が魔女っぽくもあるしね」


 それはどうだろう…なんかアマリエってノリで生きてる気がしてきたぞ?


「話は終わりじゃの。では早速ワシの家に案内してくれるか、色々と準備もしたいしの」


「はいはーい!」


 話を切り上げようとすると、急にパーシヴァルがそれを遮った。


「ボクもウィルと一緒に魔法の勉強がしたい!」


「あら、それ良いかもね。どうかしらクリムゾン、何なら追加報酬も払うわよ?」


「ふむ……」


 小さなつぶやきと同時に、クリムゾンはパーシヴァルを睨み付けた。


「――ッ!」


 その瞬間クリムゾンの目が紫に光った。今度は確実に知覚することができたが、やはりその場にいた他の誰にも感じることは出来なかったようだ。


 先ほどの全身を舐めるような感覚はなかったが、身構えていたせいで何かがあったことは確実にわかった。だが、何が起きたかはさっぱりわからない。


 そして、クリムゾンは首を振った。


「ダメだの。魔法を教えるのはそこの小僧のみ」


「どうしてよ。一人教えるのも二人教えるのもそう手間は変わらないでしょう?」


「いいや。こやつには才能がないの」


 クリムゾンはただキッパリと言い切った。


 もしかすると、さっきのアレは才能を見たとかそういう事か?


「そんなのやってみないと――」


 アマリエの言葉はクリムゾンのひと睨みで詰まってしまった。これ以上はこの場より立ち去ると言外に語っていたのだ。


「わかったわよ。パーシヴァル、ウィルと一緒に教えてもらうのはナシよ」


「えー」


「その代わりにウィル、あなたが教わった魔法をパーシヴァルに教えてくれるかしら?それくらいはいいでしょう?」


「ふん、勝手にするがいいの」


「わかりました」


 とはいえちょっと不安。俺に先生役なんて務まるのかなぁ。

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