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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
リムフォード編

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ダンジョン下層へ

 情報収集を終えて翌々日。

 一行はリムフォードのダンジョンの、上層から下層へと移動する階段の前に辿り着いていた。

 ディーンが注意事項を軽く確認し、イリオスとアルタリアが頷く。

 リラはここまで魔物の注意を引くために使っていた爆竹をしまい込む。

 やがてディーンが確認を終えると、コミティスはまだ書き込みのない地図から目を離す。


「それじゃあみんな、慎重に行こう」


 ディーンの言葉に全員が頷く。

 リムフォードのダンジョンは草原型ダンジョンの上層と、洞窟型ダンジョンの下層に分かれている。下層はさらに六階層に分かれ、生息する魔物も上層とは違う。

 ダンジョンの下層に侵入してから十分後、一行の前に最初の魔物が現れた。


「チドリダケだ! 胞子を吸わないように気を付けろ!」


 毒々しいピンク色をした歩くキノコを見て、ディーンの鋭い注意が飛ぶ。

 その言葉にアルタリアは首に巻いた布を素早く口元まで引き上げる。

 半拍遅れてイリオスもそれに続く。もちろん、指摘した当人であるディーンもだ。

 チドリダケの数は一体だけだった。

 厄介な性質を持つ魔物だが、五対一ではその真価を発揮する間もなく倒される。

 とどめはイリオスの剣が刺し、五人は最初の戦闘を終えて息をつく。


「これ吸うと酔っ払いみたいになるんだっけ?」


 解体を終えて取り残された傘をイリオスが剣でつつく。


「なんだ、興味があるのか?」

「あるわけないじゃん」


 アルタリアの冗談とそれに対するイリオスの返しに一行の間に流れる空気が和むが……すぐに全員が気を引き締め直し、周囲の警戒に戻る。



 その後も数回の戦闘を交えつつ、一行は進んでいく。


「思ってたよりリムネズミが厄介だな」


 ドブネズミにしか見えないその魔物は、こちらの物音を察知し奇襲を仕掛けてくることが多い。しかも身体が小さいから攻撃も当てにくい。

 とはいえそこまで苦戦することもなく、怪我をしてもリラの治癒術で塞いで進む。

 やがてコミティスが地図から目を上げて言う。


「そろそろだよ」


 辿り着いたのはダンジョン内の小広間。

 その壁や地面には光るキノコがへばりついている。目的であった薬用キノコの群生地に到着したのだ。


「傘の形に……色に……うん、間違いなさそうだ」


 慎重に携行図鑑と見比べた後、ディーンとリラは採取を始める。

 他の三人はそれぞれ周囲を警戒し、魔物の襲来に神経を尖らせる。

 そして十五分ほどが経過した頃、ディーンとリラは巾着袋の口を締める。


「終わったよ」


 その言葉を合図にコミティスが動く。彼女は水筒の蓋を緩めると、二人の手にそれをかける。

 周囲を警戒しながらも、イリオスが呟く。


「面倒だよな、生だと毒があるなんてさ」

「まあ仕方ないですよ」


 インキのように付着した光る胞子を洗い流し、リラは手を拭く。



 夕方、冒険者ギルドが一番混む時間帯。

 いつも通りに仕事を処理する禿頭の受付は、アルモニア一行を見るなり言う。


「問題は無かったようだな」

「おう!」


 イリオスが誇らしげに持ち上げる巾着袋は大きく膨らんでいる。

 禿頭の受付はマットを敷くといつも通りに、しかし素手でキノコを触らないようにしながら鑑定を進めていく。


「上出来だ」


 やがてくだされた判定に、一行はほっとする。

 いつものやり取りとはいえ、今日は「場所」を変えたこともあって多少の緊張感があった。


「特に、リムネズミに食われたキノコが混じっていないのが良い。やつらの口は汚いからな」


 鑑定道具とマットを片付けると、禿頭の受付はいつも通りに金を数え、そして一行に差し出す。


「ほらよ、報酬だ。……頼りがいのあるチームになったな」


 仕事の内容が正しく評価されている。

 そのことにディーンの胸が熱くなる。

 一行は軽く礼を言うと受付カウンターを後にした。



 その日の夜。アーインの宿屋のイリオス達の部屋。

 今日の探索は外から見れば成功と言っても問題無い。

 初めての場所で、初めて戦う魔物を相手にしつつ、初めて扱う素材の採集を成功させた。

 だが……どうやらアルモニアはそれで満足をしないようだ。

 イリオスは剣の手入れをし、リラは見守る中、ディーン、コミティス、アルタリアの三人は帳簿を挟んで話し合う。


「案外採取に時間がかかったな」


 アルタリアがそう言えば、採集を担当していたディーンがこう返す。


「そうだな。けど……違う品種のキノコが混ざると大変だから、そこは譲れない」


 真面目な目でそう言うディーンに、アルタリアは頷く。


「分かっている。……目利き能力の成長に期待だな」


 ひとつの議題が終われば次の指摘が挙がる。


「想像しているよりもずっと音が響く場所だったね。そのせいでリムネズミにも奇襲されるし」


 そう言うのはコミティスだ。その言葉にディーンとアルタリアは腕を組む。


「……靴に布を巻くとか、工夫した方が良いかもな」

「ああ。他の冒険者がどうしているかも、調べたほうが良さそうだな」


 ディーンが提案すれば、アルタリアがそれに意見を付け足す。


「あとは狭い通路での戦闘についてだが……」


 その後も帳簿を挟んで三人の会話は続く。

 誰かが問題点を挙げれば、誰かがそれに対して意見を返していく。


「……じゃあ、こんなところだな」

 全員の言いたいことが尽きたところで、ディーンは帳簿を閉じた。


「ありがとう、アルテ」


 ふとディーンはアルタリアへと視線を向ける。


「ん? 何がだ?」


 アルタリアは何を言われているのか分からない様子だ。ディーンは言葉を付け足す。


「新しい視点から意見を貰えて助かっている。……ありがとう」


 その言葉にアルタリアは口元を緩ませる。


「なに、気にするな」


 続けてディーンはコミティスにも目を向ける。


「もちろん、コミティスの意見にも助けられているよ。いつも付き合ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 コミティスもまたにこりと笑った。

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