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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
リムフォード編

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10/60

力と選択

 ダンジョン下層へと足を踏み入れてから数日後の夜。

 場所はイリオスとディーンの部屋。


「……それじゃあ、今日はここまでだな」


 いつも通りに反省会を終えたところでディーンが帳簿を閉じる。


「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 用事を終えたアルタリアとリラは、挨拶をすると部屋を退出する。

 ディーンは帳簿を手に立ち上がろうとして……


「……コミティス?」


 彼女がソファに座ったまま動いていなかったことに気が付く。


「え? あ……!」


 コミティスは周囲を見る。リラとアルタリアがいないのに気が付くと、慌てて部屋を退出していった。


「どうしたんだろ?」


 いつもと違う様子にイリオスが言った。だが、答えが出るわけもなく。


「……さあな」


 ディーンは帳簿を片付ける。



 その後。

 寝間着に着替えたイリオスとディーン。


「ふああ……」


 雑談のさなか、大きなあくびをするイリオス。


「イリオス、眠いのか?」

「うん……」


 ディーンは時計を見る。確かにいい時間だ。


「じゃあ、寝るか」

「うん……」


 ディーンは立ち上がると、部屋の明かりを消そうとして……

 こん、こん。

 小さなノック音に気が付く。


「……誰?」


 同じく音に気が付いたイリオスが言う。

 自分の気のせいではないと、ディーンは部屋の鍵を開ける。そこにいたのは……


「コミティス?」


 彼女は反省会が終わった時と同じ服装だった。


「ごめんね。こんな遅い時間に。…………」


 コミティスは目を伏せて少しの間黙ったが……ほどなくして頷き、顔を上げる。


「相談したいことがあるの。ディーンと、イリオスにも」


 ディーンとイリオスは首をかしげた。



 ディーンとコミティスはソファに座る。イリオスも、眠たげに目をこすりながらディーンの隣に座った。


「それで、話したいことって?」


 ディーンが話を促すと、コミティスはすうっと息を吸う。


「リラとアルテにも、『あのこと』を話そうと思うの」


 ガタン!

 勢い良く立ち上がったディーンが机に膝をぶつけた音だった。


「……あのことって、森での?」


 そう聞くのはイリオス。さっきまでとろんとした目をしていたのに、コミティスのひと言が効いて今はしっかりと目を開けている。


「うん」


 コミティスは頷く。次の瞬間、声を上げたのはディーンだった。


「オレは反対だ! そもそもなんで!」


 声を張り上げたディーンに対して、コミティスは冷静に言う。


「ずっと考えてたの。今の私たちは冒険者で、いつ何が起こるか分からない。ずっと隠したままにしておける保証はない」

「それは……! けど!」


 感情的に声を漏らすディーンだが、コミティスは構わず話を続ける。


「だから、いざという時に二人をパニックにさせないように、伝える必要があると思ってる。仲間として」


 そしてコミティスはまっすぐにディーンを見つめる。


「っ!」


 それに気圧されるディーン。


「……本気、なんだな」

「うん」


 イリオスが確認すると、コミティスは頷く。


「あの二人は……信用できると思うから」


 コミティスの意見にディーンは「でも」と言う。


「まだ、大した付き合いもないのに……」

「そうだね。大して長い付き合いじゃない。……けど、既に背中は預けている関係だよね?」

「…………」


 コミティスの指摘に、ディーンは言葉を詰まらせる。


「……分かった。コミティスがそう言うなら、俺は止めない」

「イリオス!」


 立場を示したイリオスに対しても、ディーンは声を張り上げる。


「コミティスが言うことは……もっともだと思う。俺もコミティスの立場なら、そう考えるかもしれない」


 イリオスは静かに言う。


「……ああ、もう」


 ディーンは頭をがしがしと掻く。そして勢い良くソファに座り直した。


「けど、約束だ。もし何かあったら……すぐに逃げるって」


 どう見ても納得はしていない。条件も出された。けれど。


「うん。ありがとう、ディーン」

「…………」


 ディーンの気持ちが嬉しくて、コミティスはお礼を言った。



 次の朝。


「二人に、話があるの」


 朝食の席で、コミティスに呼び出されたリラとアルタリア。

 待ち合わせ場所である宿のロビーに行くと、そこにはコミティスだけでなくイリオスとディーンもいた。


「付いてきて」


 どこか重い空気を抱えながら、コミティス、イリオス、ディーンは進む。


「なんのお話でしょう?」

「……さあな」


 リラとアルタリアも緊張の中、三人について行く。

 そうして連れてこられたのは、リムフォード近郊の森の中だった。

 やがて一本の木の前で立ち止まるコミティス。


「こっちは誰も見当たらないぞー」

「ああ。こっちもだ」


 ほどなくしてイリオスとディーンがそう報告する。


「それで、何の用なんだ?」


 アルタリアが問うと、コミティスは近くの木に軽く触れる。


「……見てて」


 次の瞬間、コミティスは木を蹴って宙に跳ね上がる。

 数メートルの高さまで跳び上がったコミティス。リラとアルタリアはすぐにそのタネを見破る。


 ――筋力強化魔法か。


 別に珍しい魔法じゃない。リラは使えないものの、アルタリアはたまに使う。

 やがてコミティスは別の木にぶつかりそうになると……しなやかに受け身を取り、さらに木を蹴り、跳び上がる。


 蹴る、跳ぶ、蹴る、跳ぶ、蹴る……


 最初は何をしているのか分からなかったリラとアルタリアだが、やがてその異常性に気が付く。


 ――今のジャンプ……何回目だっけ?

 ――おかしい。そんな魔法の使い方、できるわけがない。だって反動が……

 ――まさか、筋力強化と治癒魔法の同時使用?

 ――それにどういうことだ? あれだけ激しく跳び回っているのに音がしない?

 ――まさか、三つの魔法を同時に使ってるの?

 ――ありえない! どれだけの魔力と制御能力が必要だと思っているんだ!


 跳び回るコミティスを見る二人の顔は、みるみるうちに真っ青になっていく。

 そしてそれに気が付いたのだろう。最後にコミティスはほとんど真上に跳んで……音も無く着地した。


「……どう?」


 呆然としていたリラとアルタリア。だが、コミティスの声にアルタリアが我に返る。


「どうだもなにも……さっきのはなんだ! どういうことだ! あんな魔法の使い方」


 その瞬間、コミティスがアルタリアの目の前に人差し指を突き出す。静かにしろというジェスチャーだ。


「っ……」


 気圧されたアルタリアは数歩下がって、口をつぐむ。

 代わりに、アルタリアよりも後で我に返ったリラが、言葉を引き継ぐ。


「さっきのは、どういうことなんですか? 説明を、お願いできますか?」


 コミティスはリラとアルタリアを見て、言う。


「私には、『魔法の才能』があるの」


 リラとアルタリアは息を呑む。


 コミティスは語る。


「最初は、知らなかったの」


 二人に背を向けて、何かを思い出すように上を見上げるコミティス。


「あの時の私はただ、役に立ちたい一心で……それで、二つの魔法を組み合わせることを思いついたの」


 コミティスは簡単に言っているが、普通はできない。魔法を使えるようになった子供なら、誰もが一度は思いついて、そして失敗することだ。


「でも、筋力強化と治癒だけじゃ足りないと分かった。それでもう一つ、魔法を作った」

「……!」


 アルタリアが絶句する。魔法の創作ができるのは、ごく一握りの天才くらいだ。しかも三重同時発動など……リラもアルタリアも聞いたことがない。


「……すごいですね」


 何とかリラが感想を言う。


「うん」


 コミティスは小さく頷く。


「だが、こんな……これほどの力……」


 アルタリアの困惑に対しても、コミティスは頷く。


「うん。だから、絶対内緒」

「…………」


 魔法の天才というのは、どの国も喉から手が出るほど欲しがっている。コミティスほどの才能があれば、間違いなく囲い込まれるだろう。本人の意思にかかわらず。


「……コミティスはどうして、こんな大事なことをわたしたちに教えてくれたんですか?」


 リラの疑問はもっともだ。リラとアルタリアは、コミティスのことを疑いもしていなかった。それなのになぜ自分からバラしたのか。


「この力を使わずに済むのなら、それに越したことはない。けど……」


 コミティスは少し俯いて、言う。


「でも、わたしたちは冒険者だから。いつ何があるか、分からない。そんな贅沢、言ってられない時が来るかもしれない。……だから教えた」


 三人の間に沈黙が流れる。ややあってコミティスが口を開く。


「けど、安心して。もし二人の身に危険が及ぶようなことがあれば……私は消えるから」


 二人に背を向けたまま、コミティスは言い切った。


 三人の間に重い沈黙が落ちる。

 やがて、覚悟を決めたように……リラが一本歩み寄る。そしてそっとコミティスの手を取った。


「コミティス、手が震えています」

「…………」


 その直後だった。


「バカ!」


 リラに続けてアルタリアもコミティスに駆け寄り、正面に立つ。


「怯えて震える仲間を見捨てるほど、私は薄情ではない! 舐めるな!」


 荒い口調でアルタリアは叫ぶ。


「コミティス」


 リラも静かにコミティスの正面に回る。


「話してくれて、ありがとうございました。わたし、嬉しいです。話しても大丈夫だと思ったから……わたしたちのことを信じてくれたから、話してくれたんですよね」

「…………」


 コミティスは何も言わない。けどリラは話を続ける。


「コミティスのこと、知ることができて良かったです。知っていなければ、守れませんから」


 リラの言葉にアルタリアも力強く頷いた。


「……いいの?」


 震えた声でコミティスが聞く。


「私と一緒にいたら、巻き込まれるかもしれないよ? それでも……」

「承知の上だ」

「わたしたち、仲間ですから」


 コミティスの言葉を遮って、二人は笑って言う。


「……うん」


 アルタリアはコミティスの左肩に優しく触れ、リラはその手を包み込む。

 少し離れた場所ではイリオスとディーンが穏やかな笑みを浮かべていた。



 それから数日が経った。

 リラとアルタリアは変わらずアルモニアの一員として活動を続け、コミティスも身の危険を感じるようなこともなく過ごしていた。

 ある時、ダンジョン内での小休憩のさなかに、リラがコミティスのそばに近付く。

 コミティスは弓弦の張り具合を確認しているところだった。


「……なにか、用?」


 リラの視線を受けてコミティスが問う。


「あ、すみません。ただちょっと、気になったことがあって……」

「なに?」

「どうして、弓を使っているんですか?」


 リラの質問にコミティスの手が止まる。それを見て、リラは少し慌てた。


「あっ、その……責めてるとかじゃないんですけど、ちょっと、気になって……」


 質問の意図を察したコミティスは、弓を軽く撫でる。


「……この力はね。イリオスのお母さんに教えてもらったの。血は繋がってないけど……大切な人なんだ」


 その優しげな目を見て、リラは納得したように頷く。


「だから、弓を使うんですね」

「うん」


 コミティスはかすかに微笑むと、作業を再開する。

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