魔物肉と
コミティスの重い決断から十日ほど。
「おはよー」
「おはよう」
「おはようございます」
五人は変わらない日常を送っていた。
カチャカチャとカトラリーの音が鳴るアーインの宿屋の食堂で朝の挨拶を交わし、
「ほらほら、おかわりはどうだい?」
「ほしい!」
「はいよ! いつもおいしく食べてくれてありがとうね!」
女将はイリオスの食べっぷりを褒める。
「もう、イリオス。そんなに詰め込まないの。誰も取ったりしないから」
コミティスが呆れて注意をすれば周囲は和やかな空気に包まれる。
「ふふ。コミティスはイリオスには厳しいな」
「厳しくもなるよ。だってイリオスだもの」
アルタリアが指摘すればコミティスは肩をすくめて、
「ほへ?」
「はいはい。返事する前に飲み込んで」
そしてくすくすと笑い声が漏れ、また和やかな空気が流れる。
そんな日々だった。
食事を終えたら次は冒険者ギルドだ。
「どーれにしようかなー?」
軽い調子でイリオスが掲示板を眺める。と、リラが気になる依頼を見つける。
「『ラビット肉のサンプル収集?』」
魔物の素材を求める依頼は数あれど、魔物の肉を求める依頼は無い。珍しいそれにリラの目が釘付けになる。
「え……それ、やりたいの?」
そしてその視線にイリオスが軽く引く。
「どういう意味ですか、もうっ」
リラがぷんと拗ねると、アルタリアは苦笑いだ。
「だが、依頼の理念は立派だな」
依頼者は魔物肉の食用化を目指す研究者グループ。そのためにラビットの肉を求めているらしい。
「えー。それやりたいのー? ……ま、良いけどさ」
少し嫌がりながらも、イリオスは依頼書を掲示板から剥がした。
ヒュンと風を切る音がして、次の瞬間にラビットはぱたりとその場に倒れる。
仕留めたのはコミティス。弓弦はかすかに揺れている。
「さすがだな」
ナイフを抜いたディーンがラビットを解体する。ほどなくしてラビットは「お肉」になった。
「……見た目は、普通にうまそうだな」
ディーンが素材と肉を分けて後処理をする中でアルタリアが呟く。
「あー、やめといた方が良いよ」
何気無い呟きに反応を返したのはイリオスだ。
「どうしてですか?」
リラが聞くと、イリオスは「どうしてもこうしても」と前置きする。
「魔物肉ってさあ。すっごくまずいんだ」
「え? そうなのか?」
肉から視線を外してアルタリアが聞く。
「少なくとも俺はごめんだね。研究とやらがうまくいったとしても食べたくない」
「うーん、そうだねえ。私も試食は遠慮したいかな」
イリオスの食わず嫌いかと思いきや、コミティスもそれに乗っかってくる。
「食用にはなるけど……うまいかどうかはまた別だな」
ディーンは苦笑いでそう言った。
「いざという時に食べられるよう口を慣らすって訓練があったけど……」
「やめろ、思い出したくもない」
コミティスが言いかけると、イリオスが吐き捨てるように言う。
「……そんなにですか」
魔物肉を食べたことがない二人はきょとんと首をかしげた。
その後、依頼の報告を終えたアルモニア一行は冒険者ギルドを後にする。
「なんだか、肉を見ていたせいか腹が空いてきたな」
アルタリアがふと漏らすと、イリオスはジト目で彼女を見る。
魔物肉のまずさを知らないからだ。
言外にそう言っていた。
「でも、宿屋でのお食事の時間まではまだ少しありますよ?」
リラが指摘すると「そうだな……」とアルタリアは考える。
「屋台で軽食でも取るか。良かったらおごるぞ?」
するとイリオスは今までのジト目がどこへやら。一瞬にして破顔する。
「いいのっ?」
「ああ。だが、一人一品だけな。食事の前なのだから」
ご機嫌でアルタリアの後ろを付いていくイリオスに、ディーンとコミティスは肩をすくめた。




