未来へ
翌日、アルタリアは馴染みの孤児院にやってくる。
今日も園庭では子供たちが走り回り、アルモニアの決断に対してこの街は何も変わっていないということを痛感した。
「あら。アルテ。今日は随分と早いのね?」
外で洗濯物を干していたテレジアが、アルタリアの存在に気が付く。
「テレジア」
アルタリアは一瞬だけ視線を下に向けると、テレジアを見据える。
「話が、ある」
アルタリアは職員室の一角で、アルモニアがシプレを去ることをテレジアに伝えた。
「そう……それはさみしくなるわね」
それをアルタリアとの別れであると認識したテレジアは、そう言葉を返した。
アルタリアがこの孤児院に顔を出すようになってから日は浅い。
それでも二人は随分と親しくなっていただけに、テレジアは心からの寂しさを感じていた。
アルタリアはそれを聞いて……意を決したように顔を上げる。
「私は、この街に残ろうと思う」
テレジアが目を丸くする。
「ずっと考えていたんだ。私はかつて、騎士団を辞めた。それは代わりがいたからできたことだ。しかし、ここはそうではない」
この孤児院に通い詰めていたアルタリアだから知っている。この孤児院の運営は、人手としても資金としてもギリギリで……代わりがいないことを。
「だから私は、この街に残って……ここで働いていこうと思う。スタッフの一人としてか、冒険者として金を稼ぐかは決めていないが……だがきっと、私にも手伝えることはあると思うんだ」
アルタリアはテレジアにそう語る。テレジアは肩を震わせる。
「アルテは、アルモニアさんが嫌いになったの?」
「っ!」
アルタリアはびくりと震える。
「それは本当にアルテの意思? 本当はアルテは、アルモニアさんと一緒に行きたいんじゃないの?」
「……それは」
残ろうと思った言葉に偽りはない。けれど、アルモニアに未練が無いかと言われれば……そんなこともない。
嘘のつけないアルタリアに、テレジアはふうと息を吐く。
「あのね、アルテ」
テレジアは子供たちが遊び回る窓の外を見る。
「私ね、幸せなの。たしかに代わりはいないけど……それは私が選んだ道だから。選ばされてるなんて思ったこと、一度もない」
そう言ってテレジアはアルタリアへと視線を戻す。
「でもアルテは、そうじゃないように見える。ただ、正義感や責任感に引っ張られて、ここに残るべきじゃないかって考えているように見える。それはあなた自身の選択じゃない」
「……それも、私の感情だろう」
「いいえ」
テレジアは確信を持って首を振る。
「あなたはここに残ったら、ずっと考える。あの時アルモニアさんと一緒に行っていればって。そんなの私、嫌よ? だってアルテは私の友だちだもの」
そう言ってテレジアは……アルタリアの手を取る。
「あなたは、行って。私の分も、未来に進んで」
まっすぐとした目でテレジアはアルタリアを見つめる。
アルタリアはしばらく呆気にとられたあと……困ったように笑う。
「参ったな。そこまで言われてしまっては、残れないじゃないか」
「ええ」
テレジアはにっこり笑う。
「だって私は、アルテの友だちだもの。友だちが道を間違えそうなら、戻してあげなくちゃ」
――まったく敵わないな。
アルタリアは肩をすくめると、テレジアの手を握り返す。
「ご達者で」
「ええ。そちらこそ」
二人は最後にしっかりと手を握り合って……そして離れた。




