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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
シプレ編

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58/60

結論

 孤児院でバザーを手伝ってから、半月ほどが過ぎた。

 夕方、男子部屋にて。

 ディーンとコミティスの二人はテーブル越しに顔を突き合わせていた。


「……万事休す、か」


 広げられた帳簿を前に、ディーンはそう漏らす。


「探索の必需品まで買えなくなるとはな」

「うん……」


 コミティスは視線を扉へ向ける。


「こうなってくると、ここもいつ追い出されるやら」


 コミティスが弱気になって言うと、ディーンは「いや、それは多分ない」と首を振る。


「奴らは、自分たちが『悪者』にならない範囲を見極めている。そうじゃなければ、未だにここだけは何もない理由が思いつかない」


 ディーンの言葉に、それが意図するところに、コミティスはすぐに気がついた。


「そっか……あくまで私たちが、選択したって体にしたいんだね」

「ああ」

「生殺し、だね」


 そうしてまたしても沈黙が流れる。


「でも、それならまだやれることが……」


 目の前に垂れ下がった蜘蛛の糸をなんとか掴もうとコミティスが言うも、ディーンははっきりとそれを否定する。


「いや、もう限界だ」


 ここまで一緒に戦ってきた仲間から、とうとう漏れた敗北宣言。

 コミティスが黙っていると、ディーンは話を続ける。


「オレたちは、まだ動けるうちに手を打たなくちゃいけない」

「ディーン……」


 ディーンはすっと息を吸って、戦友の顔を見る。


「ここまで付き合ってくれてありがとう」


 そして労いの言葉のあとに、とうとう決定をくだす。


「……みんなに、相談しよう」



「今日はみんなに、大事な話がある」


 一日の総括の時間。

 ダンジョン攻略の反省会になる前、最初の議題にディーンはそれを選ぶ。


「今日話すのは他でもない……ルクス商会についてだ」


 その単語に、全員の顔が険しくなる。


「みんなも知ってのとおりだが……オレたちは今、ルクス商会に締め付けられている」


 知らぬ者はいないだろうという、その態度。

 アルモニアの帳簿は、ディーン以外でも自由に見られるようになっている。またそうでなくとも……違和感はみんなが感じていた。

 冒険者ギルドの納品書に書かれる査定評価は「一」が並び。

 各々が必要なものの買い出しに行けば、同情と拒絶の目で見られ。

 冒険とは関係のない飲食店でさえ、アルモニアのメンバーがいるだけで、店員たちは落ち着きをなくす。

 それでも、まだやれると、まだ大丈夫と、皆が先延ばしにしてきた問題。


「その締め付けが……とうとう、無視できなくなってきた」


 もはや詰んだと言っても過言ではない。


「オレたちに残された選択肢は二つ。ルクス商会を使うか、この街を去るかだ」


 バン!


 アルタリアが机を叩いて立ち上がる。


「私は、ルクス商会を使うことには反対だ! なぜここまでコケにされなければならない!」


 感情的になって叫ぶアルタリア。


「でも、さあ」


 それに押されることなく、ルシオンが口を開く。


「背に腹は、代えられないよね。ボクは、ルクス商会を使うしかないと思うよ」


 最も長くこの街で過ごしているルシオンの意見。それは決して無視できるものではない。だがしかし。


「断固反対だ!」


 アルタリアに引く気配は全くない。


「って言ってもさあ」


 続いてシグが口を開く。


「もうどうしようもないじゃん? だからディーンが、この話を持ってきたんだろうし」


 自分を慕う少年の発言に、アルタリアは一瞬言葉を失う。

 けれど……アルタリアの気持ちを理解する者もいる。


「わたしは、ルクス商会は……」


 小さく首を振ったのはリラ。


「今回はそれで良くても、また何かあるかもしれないし」


 リラはルクス商会を使うことに反対の立場を示した。


「…………」


 イリオスは何も発言しない。何も考えていないわけではない。何と言うべきか思いつかないのだ。

 その時、いつも決議に対して一歩引いた態度を取ってきた月船が口を開く。


「この街に残るのなら、使わない以上はどうしようもないと思います」


 はっきりと断言する形。愛想笑いを浮かべていた姿が想像できないほどであった。


「だが!」


 しかしそれでもアルタリアは納得しない。

 アルタリアが感情的に語り、それに対してルシオンや月船が現実的な意見を返す。

 場は荒れて、収拾が付かない。

 そんな時……コミティスが意を決したように言う。


「ディーンは……どうしたい?」


 思いもかけない言葉に、ディーンがコミティスに振り返る。

 場が水を打ったように静かになる。


「あ……えっと……」


 ディーンはやがてフリーズ状態から回復すると、軽く咳払いをする。


「オレは……」


 それでもまだ、一瞬ためらう。

 しかしふうと息を吐くと、ディーンは顔を上げる。


「ルクス商会は……信用できない。オレは、オレたちは……この街を去るべきだと思う」


 アルモニアの実務担当として、ずっと戦ってきたディーン個人の意見。


「……うん」


 その重さに、ルシオンが納得をする。


「分かったよ。ボクもついていく。今さら新しいチームを探し直すのも、面倒臭いしね。だったら新天地で頑張るさ」


 続いて声を上げたのはアルタリアだ。


「良いのか、ディーン。この街に留まるために頑張ってきたのは、他でもないおまえなのに」


 アルタリアの気遣いの言葉に、ルシオンがあははと笑う。


「なんだかボクたち、さっきと真逆のこと言ってるね?」


 ルシオンの指摘にアルタリアははっとする。そして彼女もまた、表情を緩める。


「そうだな。感情的になって、すまなかった」

「良いって、良いって」


 二人の和解で、場の空気が一気に軽くなる。


「私は、皆さんに付いていくと決めていますから」


 月船もいつもの笑顔に戻る。


「ん。それはおれも」


 シグがひらりと手を挙げる。


「わたしもです!」

「俺だって!」


 リラとイリオスもその流れに続く。

 最後にディーンは、コミティスと頷きあって……そしてチームとしての結論を出す。


「じゃあ、決まりだ。準備ができ次第、この街を出よう」

 全員が納得して出した結論になった。

 一方で。


「…………」


 アルタリアは窓のほうをちらりと見た。

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