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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
シプレ編

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52/60

大事故

 それからしばらくが経ち。

 アルモニアのダンジョン探索は順調に進んでいた。階層もいくつか下り、時折見かける宝箱の中身も少しだけ色良くなっていた。

 皆が手応えを感じ、勇み足になっていたのは否定できない。

 だからだろうか。あの悲劇が発生したのは。



 その日、イリオス、アルタリア、月船、リラ、ルシオンの五人は順調にダンジョンを進んでいた。

 通路を歩く中、ふと違和感に気が付いたルシオンはさっと地図を取り出して確認をする。


「あ。向かって左、宝部屋だね」


 その言葉にイリオスはばっと振り返る。


「ほんと!?」

「うん」


 分かりやすい態度に、思わず苦笑いをしながらルシオンが頷く。


「ああ、でもちょっと待ってね。その前に地図を確認してから……」

「お宝!」


 しかしイリオスは話を聞かずに左の通路に飛び込んでいく。


「あ、待て!」


 アルタリアがそれに続く。


「イリオスったらせっかちなんですから」

「ふふ」


 リラは呆れ、月船が穏やかに笑う。その時だった。


 どん!


 重い音が響き、天井から細かい埃が降ってくる。

 何事かと三人が構えた時だった。

 宝部屋に向かったイリオスとアルタリアが大慌てで引き返してきた。


「皆、逃げるぞ! ガーゴイルだ!」


 そしてその背後から石色の肌を持つ魔物が現れる。


「え、ウソ!」


 リラが驚いた声を上げる。

 ガーゴイル。ごくまれに宝部屋に待ち構えている宝の番人だ。

 ガーゴイルが手に持つ槍をかざすと、青白い光線が迸る。


「くっ!」


 アルタリアが魔道具の盾でそれを打ち消す。


「走れ!」


 アルタリアの声に全員が慌てて駆け出す。



「わわわわわ!」


 一行の先頭に躍り出たイリオス。月船と共に道中の魔物を時に斬り捨て、時に回避を選び、一行を先導する。


「まだ追ってきてますか!」


 生来運動神経に恵まれないリラは、振り返る余裕もない。


「ああ、熱烈なことにな!」


 殿を務めるアルタリアがガーゴイルの追撃を防ぎながら言う。


「階段まで逃げ切ることができれば、ガーゴイルは追跡を諦めます! リラさん、そこまで頑張って!」

「は、はいいい!」


 月船に言われて、リラは必死に前衛の二人に付いていく。

 他の魔物にちょっかいを出されつつも走り回る一行。


「あれ……」


 ふと、丁字路でルシオンの足が止まりかける。先を行く三人は右に曲がった。


「何をしているんだ、ルシオン!」


 アルタリアの怒鳴り声。


「っ!」


 我に返ったルシオンは、右に曲がる。

 そこからは一本道の通路を進んで……ほどなく一行は広間にたどり着く。階段は、無い。他の出口は、無い。行き止まりであった。

 それを認識するなり、ルシオンは悲鳴混じりの謝罪をする。


「うわ、ごめん! ちゃんと言えば良かった!」


 どん!

 何度目かの重音が響く。

 ルシオンは青い顔で、そろっと振り返る。

 石色の肌にコウモリのような翼を持つガーゴイルが、砂ぼこりの中から現れる。


「ええい、致し方ない! 戦うぞ!」


 アルタリアの号令で、全員が破れかぶれに魔物と向き合う。



 ガーゴイルは槍を突き出すと魔法を放つ。狙いはイリオスであったが、間合いは十分。この状況なら回避するのは難しいことではない。

 この一撃で一行は、魔法の疾さを認識する。

 月船が一歩足を踏み出そうとする。ガーゴイルはそこにただちに反応して、狙いを月船に変える。

 その間にイリオスが距離を詰めようとすると……再び狙いはイリオスに戻る。

 アルタリアが試しに剣と盾を打ち鳴らすが、ガーゴイルは彼女を見もしない。


「……厄介な」


 ガーゴイルはどうやら、近くにいる相手を優先的に狙うようだ。

 そのことを認めたアルタリアは狙いを自分に向けるために、ガーゴイルに向かって踏み込む。



 ガーゴイルの魔法攻撃は一人に向けるものばかりだ。それを間断なく発射し続け、敵を押し返す。

 やがて正面からの接近を諦めたイリオスと月船は、アルタリアの背を頼りにする。

 アルタリアの盾がわずかに光り、魔法攻撃を打ち消す。

 戦線はじりじりと進んでいく。だが。

 このままでは接近し切る前に、自分の魔力が底をつく。

 そう判断したアルタリアは、声を張り上げる。


「皆! この間合いを詰めるには、私一人では力不足だ! 援護を頼む!」


 それに対してただちに答えを返したのは、リラとルシオンだ。


「はいっ!」

「りょーかい! 魔法の相殺とか、したほうがいい?」

「頼む!」


 リラは鞄の中から小さな火薬玉を取り出し、火をつける。


「爆、行きます!」


 そう合図をしてから、リラは火薬玉を投げる。


 パパパパパン!


 ガーゴイルの横に転がった火薬玉……爆竹は派手な音を立てて破裂する。

 びくりとガーゴイルが反応し、思わず振り返る。


「今だ!」


 アルタリアを先頭に、前衛の三人が距離を詰める。ガーゴイルはすぐにそのことに気が付くと、魔法攻撃を再開する。


「おおっと、させないよ!」


 ルシオンが魔法を放ってそのうちのいくつかを打ち消す。

 また月船もアルタリアのすぐ近くに配置を変えて、時折刀に魔力を込めた魔法剣で、攻撃を打ち消す。

 ただ、楽観はできない。月船の魔法剣も、ルシオンの魔法弾も、そしてアルタリアの盾による障壁も……全てが魔力というリソースを使うものだからだ。

 長期戦になったら負ける。

 一行の間に、言葉にはならない緊張感が共有されていた。


「爆、行きます!」


 二回目の爆竹は効果が無かった。



 アルタリアの盾。月船の魔法剣。ルシオンの魔法弾。

 その三つを組み合わせることで、接近の速度は大幅に上がる。そして。


「散開!」


 ある程度間合いを詰めたところで、イリオスと月船がアルタリアの背中から離れる。ここからは、被弾覚悟の乱戦だ。


「うりゃあ!」


 ガーゴイルが少し後ろに下がって、イリオスの剣が空振る。

 お返しとばかりに放たれるガーゴイルの魔法弾。


「くっ!」


 イリオスは膝をつきかけるが、その前に淡い光が全身を包む。リラの治癒魔法だ。


「助かる!」

「どういたしまして!」


 大丈夫。まだ動ける。

 イリオスは足に力を入れて、再びガーゴイルに接近する。



 ガーゴイルは知能の高い魔物だ。魔法攻撃を放ちつつも、隙を見て前衛の三人から距離を取ろうと必死だ。


「はっ!」


 月船の炎をまとった魔法剣が、ガーゴイルの魔法弾を打ち消す。


「はいよ!」


 ルシオンが放つ魔法弾が、ガーゴイルの魔法弾とぶつかり合う。


「させんぞ!」


 後衛に流れ弾が飛びそうなら、アルタリアがそれを防ぐ。

 イリオスや月船が攻撃を受ければ、リラが治癒魔法で強引に戦線を守る。

 しかしそれでも決めきれない。

 空中をひらひらと舞うガーゴイルに、地面から離れられない人間は翻弄されていた。



「も、もう魔力が限界だよー!」


 やがてルシオンから漏れた泣き言。


「くっそ!」


 イリオスが焦って一歩踏み込むが、回避される。

 魔力が底をつきそうなのはルシオンだけではない。アルタリアもだ。

 頭がガンガンと痛む。動悸とめまいも襲ってきていた。今は気力で持ちこたえているが、あと数回盾を使えば立っていられなくなる確信があった。


「皆! 最後の攻勢だ! これでダメなら撤退する!」


 撤退のルートは変わらずガーゴイルに塞がれている。退くなら強引に脇を抜けるしかない。その時自分は……

 覚悟を決めた一喝。

 アルタリアはガーゴイルに向かって駆け出す。イリオスと月船がただちに意図を察して、その後ろにつく。

 もちろん、黙って接近を許すガーゴイルではない。魔法が次々と飛ぶ。

 アルタリアは致命傷にならなさそうなものは無視し、肩に攻撃がかすっても突き進む。

 しかし、


「くっ!」


 二発目を盾で防いだところで足がもつれ、アルタリアはその場に膝をつく。

 イリオスと月船は二手に分かれて、アルタリアの背中から離れる。

 ルシオンの死力を尽くした魔法弾がガーゴイルのものとぶつかり合う。


「はああっ!」


 月船がガーゴイルの頭めがけて魔法剣を振るおうとする。が、その前にガーゴイルは魔法弾を発射する。

 月船の生存本能は反射的に攻撃を防ぐ方向に動いていた。

 月船の全力の一撃を抑え込んだガーゴイルはにたりと笑う。その時だった。


 ぱぱぱぱん!


 戦場に響く三回目の破裂音。しばらく聞いていなかったそれに、ガーゴイルの意識が思わずそれる。


 ――ここしかない!


「うおおおお!」


 イリオスが吼える。

 振り返ったガーゴイルは慌てて槍をかざそうとして……槍ごと胴を両断された。

 刹那、音も無くガーゴイルの身体が砂と化す。

 砂の山の上に取り残された魔石。

 アルモニア一行はそれぞれが動きを止め、数秒の沈黙が落ちる。



 やがて、イリオスが剣を振り切った体勢を崩す。


「はあー……」


 そう言ってイリオスは座り込んだ。

 アルタリアはなんとか立ち上がろうと全身に力を込めるも、魔力切れ寸前の身体は言うことを聞かない。

 ルシオンは膝を押さえ、肩で息をしている。

 月船だけは小さく息を吐いたあと、刀を納める。しかしいつもの愛想の良い笑顔は無い。


「アルテ、怪我を見せてくださいね」


 リラは最後の攻勢で怪我をしたアルタリアの様子を見る。

 誰もが疲れ果て、何とかもぎ取った勝利だった。

 だから……ガーゴイルがいた場所の反対側。遠ざかっていく足音に気付けなかったのは、誰のせいでもない。



 何とか動けるまでに回復したアルモニア一行は、ガーゴイルの魔石を回収する。それは人の頭より一回り大きいくらいだろうか。

 唯一の戦利品として、大事に袋に収めた。


「ごめん。俺が迂闊だった」


 宝部屋に釣られ、無邪気にガーゴイルがいる部屋に飛び込んだイリオスが、仲間たちに謝罪する。


「あー、いや……しっかり止めなかったボクも悪いし。というか、もっと早く行き止まりを思い出せていれば、こんなことにはなってなかったし」


 地図役であったルシオンもそう言って自分の責任を口にする。

 彼がそう言えば、アルタリアも自分の行動を思い出す。


「私も、ルシオンが考えていたところに声をかけて、中断させてしまったな……」


 責任の取り合いになりかけたが……そこにリラが声をかける。


「まあ、みんな無事だったから。いわゆる結果オーライってやつですよ」

 その言葉で、気まずい空気が少し和らぐ。


「……そうだな。この勝利は、みんなのおかげだ」


 チームのリーダーであるイリオスの総括。

 ようやく一行に笑顔が戻った。

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