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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
リムフォード編

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最初の壁

 それから数日。


「うわっ!」


 イリオスの脇腹に一頭のオオカミ型魔物がタックルする。既に正面の一頭と鍔迫り合いをしていたイリオスは、意識の外から割り込んできたその個体に対応できない。


「くっ!」


 それを見たディーンは、イリオスに追撃が入る前に火球の魔法を飛ばして魔物を牽制する。

 しかし結果を見ている余裕は無い。ディーンも既に二頭を受け持っているからだ。

 コミティスからの援護射撃は無い。彼女も彼女で、弓を諦めナイフで一頭を相手にしている。

 最初は二頭だと思っていた。囲まれていると気付くのが遅かった。



 やがてイリオスの一撃が一頭目を倒し、コミティスの投げたナイフが二頭目を倒し、ディーンの魔法が怯ませたところにイリオスが斬り込み……そして残る二頭の魔物は逃げていった。

 三人は他に敵がいないか、油断無く周囲を警戒する。そして……どうやら追撃は無さそうだと判断したところで、イリオスがその場に座り込む。


「ああ……つっかれた……」


 隙を晒しすぎだと注意したいところだが、ディーンの方にも余裕は無い。


「…………」


 頭がガンガンと痛む。魔力切れの中度症状だ。ディーンも思わず膝をつく。


「二人とも、大丈夫? 今手当てするからね」

「ああ、サンキュ……」


 治癒魔法を使ってイリオスの傷を癒すコミティス。だが彼女の声にも疲労が滲んでいる。

 コミティスの脇腹には浅くだが服が破れた痕跡があり、後衛の彼女にそこまで踏み込ませてしまったことをイリオスとディーンは悔やむ。



「おう、おかえり……って、随分とお疲れだな」


 すっかりと顔馴染みになった禿頭の受付が三人を見るなり言う。


「あはは……」


 疲労の色を隠しきれない三人。イリオスは苦笑いで答える。


「まあ、生きて帰ってこられれば十分だ。けど、反省は忘れるな? どうしてこうなったか、次はどうすれば避けられるか、しっかり考えるように。それが長生きのコツだぞ」


 禿頭の受付はいつも通り依頼の報告を受け取り、報酬を差し出してくる。


「…………」


 三人は何も言わずに受付を後にする。



 夕食後、コミティスがイリオス達の部屋にやってくる。

 いつも通りの時間。いつも通りの会話。しかし今日は、どこか空気が重い。

 ディーンが帳簿を閉じたところで、イリオスが二人のいるソファに座る。


「……疲れたな、今日は」

「…………」


 ディーンもコミティスも返事をしない。

 危ないことは今日が初めてだったわけではない。

 リムフォードのダンジョンの表層を徘徊するオオカミ型の魔物は、単独でいることもあるが小規模な群れを組んでいることもある。

 今日は特に危なかったが、それ以前にもフォーメーションが崩れかけることは何度かあった。


「……どうしてこうなったか、次はどうすれば避けられるか、か」


 やがてディーンが小さく呟く。


「やっぱり、魔物が多かったことだよな?」


 イリオスが何気無く言う。

 こちらは三人、あちらは五頭。一人一頭では追いつかない。


「とは言っても、魔物に群れを組むなとも言えないよね」


 コミティスが答える。


「警戒は……ちゃんとしているつもりだけど」


 続けてディーンが言う。三人はまだ未熟なところはあるが、それでも警戒を怠っていたわけではない。

 じゃあどうすれば良いのか。


「…………」


 この場で答えは出ない。



「ああ、おはよう!」


 翌朝、いつもの時間に食堂にやってきたイリオスとディーンに声をかけるのは、宿の女将だ。


「コミティスちゃんなら、あっちだよ!」


 女将が指す方向には確かにコミティスが座っている。


「ああ、ありがとう」


 イリオスがお礼を言い、二人はそちらへ向かう。


「…………」


 その後ろ姿に、女将は首をひねる。


「おはよう、コミティス」

「おはよう」


 イリオスとディーンはコミティスの正面に座る。

 昨日の問には結局答えが出なかった。

 しかし時間は進むし、腹も減る。三人はいつも通りの日常に戻りつつあった。


「はいよ! お待ちどお!」


 そこに女将が食事を持ってやってくる。


「ああ、ありが……」


 ディーンは言いかけて、思わず言葉を詰まらせる。


「……何だか今日は、随分と多いですね?」


 コミティスが聞くと、女将は笑顔で頷く。


「ああ! 昨日からなんだか、元気が無いからね。そういう時にはしっかり食べるのが一番だよ!」


 そう言って女将はウインクする。


「……ありがと、女将さん」


 イリオスが言うと、女将は「良いって、良いって!」と彼の背中を叩く。


「それで、何かあったのかい? 良かったら相談に乗るよ。もっとも、アタシは冒険者じゃないから答えを出せるとは限らないけど」


 そう言いつつも、できることはすると顔に書いてある女将。

 三人は自然と口元を緩ませ、「実は……」と昨日の苦戦を話す。


「なるほどなるほど……」


 女将は腕を組んでうんうん頷く。


「だとしたら、人数を増やしてみるっていうのはどうだい?」

「人数を?」

「ああ!」


 ディーンが聞き返すと女将は力強く頷く。


「うちのお客さんもね、大体五人くらいで組んでる人が多いんだ。それくらいが多すぎず少なすぎずで、ちょうど良いんだってさ。……聞いた話だから、ホントかは知らないけどね」


 そういえば。

 禿頭の受付もチーム登録の時に言っていた。

 冒険者は五人くらいのパーティを組むことが多いと。


「……人数、か」


 イリオスが小さく呟く。

 女将が去っていった後、三人はそれぞれ沈黙する。

 やがてイリオスが再び口を開く。


「そういえば、親父のパーティも五人だったな」

「…………」


 再びの沈黙。


「選択肢としてはありだと思うけど……問題は私たちとの相性だよね」


間を置いてからコミティスが言う。


「まあ、確かに。オレたちは既に関係ができてるからな」

「…………」


 ディーンの言葉の後に三度沈黙が落ちて……やがてイリオスがそれに耐えきれなくなったように言う。


「でも、やってみなきゃ分からないよな」

「…………」


 ディーンとコミティスは答えない。でもイリオスは言う。


「俺、二人が嫌じゃなければ、やってみたい。でないと、俺たちはいつまでもこのままだし」

「…………」


 イリオスの言葉にディーンとコミティスは頷く。


「……うん。やってみようか」

「そうだな。となれば、冒険者ギルドに手順を相談しないと」


 三人の間に流れる空気が、ようやく軽くなる。

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