出る杭
三人は昨日と同じように冒険者ギルドにやってきた。
扉を開いた瞬間の冒険者ギルドは今日も賑やかだ。
しかしすぐにイリオスの存在に気が付き、場が静まる。
「……ん?」
イリオスはそれに気付いてきょとんと首をかしげる。コミティスも同じくだ。
ただ一人、事情を知っているディーンだけが「やっぱりか」と思う。
「どうしたんだろうな?」
イリオスが不思議そうに聞く。
「さあな。それより今日の仕事を選ぼう」
その疑問をあえて逸らし、依頼掲示板へと進ませるディーン。
ひそひそと冒険者達が声を立てる中、三人は依頼を選ぶ。
しばらくは居心地が悪いだろうな。
けれどまあ、仕方がないだろう。少しの辛抱だ。
ディーンはそう自分に言い聞かせる。
今日のイリオスが選び取ったのは、ラビットの角の納品依頼だ。
「コミティス、頼りにしてるからな」
「うん。任せて」
昨日の探索で分かっているが、ラビットはすぐに逃げる。
だからこそ弓による遠距離攻撃を主体とするコミティスが要となるだろう。
「おっちゃん! これ、今日の依頼!」
「おう、今日も元気が良いな」
禿頭の受付に依頼書を渡し、何事も無く手続きは進められる。
「じゃ、頑張ってこいよ」
「ああ!」
彼とのやり取りは昨日と何も変わらない。
ディーンはそのことに少し安心するのであった。
冒険者ギルドを出て、ダンジョンに向かう三人。
イリオスは先頭で、鼻歌まじりに進んでいく。
ただ、行き交う冒険者からの視線は何となく冷ややかだ。
「ねえ」
コミティスがディーンに耳打ちする。
「どうした?」
彼女はイリオスの背中をちらと見ると、ディーンに問う。
「昨日、何があったか聞いてる?」
「ああ」
どうやらコミティスはある程度察したようだ。隠す理由も無いのでディーンは知っていることを共有する。
「先輩方に、連戦連勝したんだと」
「……ああ」
コミティスは納得してため息をつく。
「悪気は無いんだけどね」
「ああ。悪気は無いんだけどな」
イリオスは後ろの二人の会話も気に留めず、ご機嫌で歩いていく。
がさがさと草をかき分ける音。
ラビットはそれに追い立てられて逃げる。
そこに飛んでくるのは一本の矢。
それは綺麗に魔物の首を貫く。
ぱたりとその場に倒れるラビット。
「これで最後だったな」
イリオスが剣を収めながら言う。
「うん。二人が協力してくれたからやりやすかったよ」
「どういたしまして」
ディーンは解体用ナイフを鞘から抜く。
「…………」
冒険者ギルドの受付は、ラビットの角を虫眼鏡を使ってじっと見る。
やがて鑑定を終えて、彼は道具をしまう。
「うん。上出来だ」
昨日と同じ「上出来」という評価。三人は口元を緩ませる。
「よっしゃ!」
イリオスが小さくガッツポーズを取る。
「余計な傷が無い。仕留め方も、その後処理も、上出来だ」
その言葉にコミティスとディーンもほっとする。
「じゃあこれが、今回の報酬だ」
初仕事だった昨日と違って色が付くことはない。けれどそれが、冒険者として認められた証明のように感じた。
受付を離れて、ようやく緊張がほどける。
「聞いたか? 俺たち良い感じだな!」
しかしすぐに、イリオスは自分の言葉に首を振る。
「いや、ここで油断しちゃダメだな。ほら、あれ。言うじゃん? 勝って……かって?」
「『勝って兜の緒を締めよ』だな」
「そう、それ!」
いまいち締まらないが、言っていること自体は間違っていない。
「そうだね。今日大丈夫だったから明日も大丈夫、ではないものね」
コミティスも静かに同意する。
「…………」
少しの沈黙を挟んで。
イリオスはくるりとディーンの方を向く。
「よし、じゃあディーン、手合わせしようぜ」
「今からか?」
「ああ。時間、大丈夫だろ?」
コミティスは懐中時計をちらと見る。
「うん。……後のことは私がやっておくよ」
その言葉と共に今度はディーンに視線を向ける。
「……助かるよ。じゃあ、行ってくる」
ディーンがそう言った直後だった。
「それじゃあ行こうぜ!」
イリオスがディーンの手を引き、ギルドの稽古場に向かう。
「ああもう。引っ張らなくて良いから」
ディーンは姿が見えなくなる直前、コミティスの方を振り返る。そこに言葉は要らない。
お互いに頷いて、その場を後にした。
その日の夜。イリオス達が取っている部屋に、コミティスがやってくる。
コミティスは真新しい帳簿を挟んで、ディーンと今日の収支について会話を交わしている。
一方でイリオスはベッドに腰掛けて剣の手入れをしている。
「……こんなところか」
やがて会話を終えたところでディーンは帳簿を閉じて、ソファにもたれかかる。
その様子を見たイリオスも剣の手入れを中断し、二人のそばにやってくる。
「ごめんな、任せっきりにしちゃって」
イリオスがそう言って謝ると、別に良いよとディーンが言う。
「ヘタに口出される方が迷惑だし」
「む」
ディーンの軽口にイリオスが軽く頬を膨らませる。
「それはそうと、あの後は何も無かった?」
さらりとコミティスが話を流すと、イリオスはすぐに機嫌を直して言う。
「おう、何も無かったぜ!」
元気良く言うイリオスに、コミティスはなら良かったと笑う。
「はは……オレの方は大変だったけどな」
「どうして?」
「おまえが加減ってものを知らないからだよ、バカ」
とはいえディーンも本気で言っているわけではないらしく、口元は笑っている。
「……楽しくなかったか?」
少し心配そうにイリオスが聞く。
「いいや、楽しかったよ」
ディーンは穏やかに微笑んだ。




