焦がれるもの
次の日の朝。
待ち合わせ場所である冒険者ギルドの前には、栗毛の少年が落ち着かない様子で待っていた。
「カルス!」
そしてそんな彼に向かって、イリオスは声を上げる。
「あっ! イリオスさん!」
栗毛の少年もといカルスは、イリオスの声にぱあっと顔を輝かせたところで……その後ろにいるもう一人の人物に気が付く。
「……その方は?」
カルスがきょとんとしていると、イリオスの同行者である白い髪の少年は右手を差し出す。
「はじめまして。オレはディーン。イリオスの幼なじみで、同じチームのメンバーだ」
挨拶を受けて、カルスは無邪気に笑う。
「ディーンさんですねっ。よろしくお願いします!」
カルスとディーンは握手を交わした。
冒険者ギルドの演習場のすみっこで、イリオスとカルスは二人並んで走る。
「カルス! まずは走るぞ!」
「はい!」
邪気がないところがそっくりだと、ディーンは思う。
しばらく二人は演習場の隅を往復し続け……やがてカルスがバテてくる。
「あ、あの、イリオス、さん……」
「どうした、カルス? もうちょっと頑張ろうぜ!」
「っ……! は、はい!」
カルスはなんとか足に力を入れる。
「よし! じゃあ次は柔軟だ! これはしっかりやるんだぞ! 大事だからな!」
「は、はいっ」
走り込みの疲労が抜けない中でも、カルスは頑張る。
「ん? カルス、それ以上曲がらないのか?」
「は、はい……」
「良かったら押してやるよ」
イリオスは前屈をするカルスの背中側に回ると、その背中を押す。
「え、イリオスさ……いたたたた!」
「うわっ! ごめん、押しすぎた!」
柔軟が終わったところで、次は木刀を握っての剣の練習だ。
「良いか、見てろよカルス。こうして……こうっ!」
イリオスはキレのある動きで木刀を振り回す。
「わあ、すごいです、イリオスさん!」
カルスに褒められて、イリオスは「サンキュ!」と笑顔を浮かべる。
「よし。じゃあ、カルスもやってみろ」
「えっ。あっ、はい! こうして……こう?」
「あー、そうじゃなくて……こう!」
「こ、こう?」
二人が剣の稽古に取り組む姿を、ディーンはじっと見守っていた。
「はあ、はあ……!」
やがてカルスは、疲れ果てて地面に座り込む。
「ん? どうした?」
その隣で元気良く素振りをしていたイリオスが声をかける。
「す、すみま、せ……ちょっと、休憩を……」
「うん。分かった」
カルスはなんとか立ち上がり、震える足を引きずって演習場のベンチにたどり着くと、息を整える。
「おつかれ」
と、そこにディーンが冒険者ギルドの売店で買ってきた飲み物を差し出す。
「え、あ……貰って、良いんですか?」
「ああ」
ディーンはカルスの隣に座る。
「イリオスさん、なかなかハードですね……」
カルスが休憩に入った今も、イリオスは剣の素振りをしている。
「あいつは、まあ……元気が取り柄だからな」
幼なじみを見ながらディーンが言う。
「なあ、カルス」
「はい」
カルスは飲み物の容器から口を離す。
「どうしてカルスは、イリオスに剣を習おうと思ったんだ?」
ディーンの質問に……カルスは笑顔を浮かべる。
「すごかったんですよ、イリオスさん! 魔物との間に、サッと入り込んでおれのことをかばってくれて!」
そして……照れくさそうに言う。
「カッコよかったんです。あんな風になれたらって思って……それで、イリオスさんに弟子にしてほしいって、お願いしたんですよ」
「……そうか」
「はいっ」
カルスは素振りをするイリオスを見て……そして言う。
「おれも、イリオスさんみたいなすごい剣士になるんです!」
「そうか」
ふと、ディーンとカルスと視線が合って……イリオスが手を振る。カルスも笑顔で手を振り返した。




