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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
シプレ編

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47/60

構造

 ルシオンがチームに加入した翌日。

 この日、月船は初めてダンジョン探索に参加した。



 月船の刀が、彼女が込めた魔力で真っ赤に燃え上がり、鎧の魔物の胴を斬る。硬いはずの鎧が、熱の力であっさりと両断された。

 弱点を斬られて砂と化す魔物。


「す、すっげー!」


 刀を収める月船に、イリオスは興奮気味で近づいていく。


「ツキフネ! 今のすごかったな!」


 その言葉に月船は愛想の良い笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます」


 誇るでもない。照れるでもない。そんな態度。


「なあなあ、ツキフネ! あの剣が燃えるやつ、俺にも教えてくれよ!」


 テンションの上がったイリオスにそう言われて、月船は「構いませんよ」と色良い返事を出す。しかしイリオスが喜ぶよりも前に、一つの質問をする。


「とはいえその前に確認したいのですが……イリオスさんの魔力適性はどの程度ですか?」


 イリオスはその言葉に、あっと察したような表情になる。


「……ほとんど無いって、言われた」


 その返答を聞いて……月船ははっきりとした口調で告げる。


「では無理ですね」

「そんなー!」


 がっくりと肩を落とすイリオスの姿に苦笑いを浮かべるリラとルシオン。


「あ、でも! 俺は無理でも、ディーンならできるんじゃないか? ディーン、教えてもらえば?」


 ディーンはイリオスの思いつきに対してこう返す。


「できるかもしれないが……オレは今のスタイルを変えるつもりはないな」

「ふーん。そうなんだ」

「ああ」


 ディーンが改めて頷いたところで、この話は流れていった。



 月船の実力は申し分なく、すぐにチームの戦力として認められた。

 そしてアルモニアがシプレのダンジョンで活動を始めてから初めての休息日。



 朝食の後、月船はベッドの上で正座をし、目をつむっていた。

 そこに、ガチャリと扉が開く音がする。

 月船は目を開けて、部屋に入ってきた少女を見る。


「ああ、コミティスさん。これからおでかけですか?」


 コミティスは背中に大きめのリュックサックを背負っている。聞くまでもなく出かける前であった。


「うん。今日は市場調査に行こうと思ってね。ダンジョン素材の買取価格を調べるんだ」


 男子部屋に保管してもらっていた素材を背に……コミティスは部屋の鏡を見て、見た目に問題がないか確認をする。


「そうですか。…………」


 月船は少し考えると、ベッドから足を下ろして立ち上がる。


「ではその市場調査、私も一緒に行っても構いませんか?」

「えっ」


 部屋を出ようとしていたコミティスは少し驚いて、月船のほうに振り返る。


「個人的に興味がありまして。よろしければ、ご一緒させてください」

「……そんなに面白くはないと思うけど。でも分かった。一緒に行こう」


 月船はふふと笑った。



 コミティスが最初にやってきたのは、ルクス商会である。受付カウンターで順番待ちの手続きをした後、コミティスと月船は壁に掲示された標準買取価格を確認する。


「…………」


 コミティスの表情がやや硬いのを、月船は見逃していなかった。



 ルクス商会の鑑定士は鑑定道具を静かに置くと、見積もりを書く。


「お待たせいたしました。こちら、今回の査定結果です」


 掲示されていた標準買取価格をやや下回っている品がほとんどだった。


「……どうしてこの評価になったのか、聞かせていただいても?」


 コミティスは鑑定士に質問する。


「もちろんですとも。例えばこちらの品……」


 その内容は、重箱の隅をつつくようなものだ。

 天然の素材である都合上、どうしても避けられない微細な傷。素材の解体で発生した、断面のわずかなゆがみ。

 コミティスはその内容をひと通り聞いて……一つの正論を投げかける。


「それらは、素材の用途に影響しますか?」


 鑑定士はコミティスの正論に一切ひるまない。


「見栄えというものがありまして……」


 その態度はどこまでも丁寧。だが、これ以上譲る気はないという一線ははっきり見える。


「……分かりました。もう少し考えさせてください」

「ええ。もちろんですとも」


 コミティスは鑑定士から素材の入った袋を受け取ると、応接室を後にする。

 月船も鑑定士に一礼をすると、それに続いた。



 コミティスは月船を連れて次の商会に向かう。


「お待たせいたしました。こちらのお値段でいかがでしょう?」


 ルクス商会よりもさらに安い査定結果だった。


「……どうしてこの評価になったのか、聞かせていただいても?」


 コミティスの言葉に鑑定士の視線が一瞬泳ぐ。うっかり月船と視線が合い、慌ててコミティスに視線を戻す。


「市場在庫との兼ね合いでして」

「……分かりました」


 コミティスは立ち上がると、素材を引き取り次の商会に向かう。

 月船はちらりと鑑定士を見て……それからコミティスの後を追う。



「うーん。イリオスでも連れてくれば良かったかなあ」


 次の商会に向かう道中、コミティスが口を開く。


「……まあ、こういう場では女性は甘く見られがちですよね」


 その上、若い。

 コミティスはその辺りに原因があると見ているようであった。

 思案するコミティスの横顔を、月船は見つめていた。



「申し訳ありません。当商会としてもこれが精一杯でして……」

「相場がですね……」

「当商会では取り扱いが少ないものになりまして……」



 何軒かの商会を回ったが、コミティスが納得できる結果は出なかった。

 どの商会もルクス商会よりさらに安い査定で買い叩こうとする。


「…………」


 また一軒の商会に見切りをつけたところで、コミティスは足を止めて考え込む。


「……お疲れ様です」


 その姿に月船は声をかける。


「うん……付き合ってくれてありがとう」


 おそらくコミティスの中でも、結論はもう出ている。それでも。


「……もう少しだけ、粘ってみようかな」


 リュックサックを背負い直しながら、コミティスは呟く。


「そうですか。でも、ご無理はなさらず」

「うん」


 コミティスは再び歩き始める。月船もその後に続いた。

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