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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
シプレ編

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試用

 翌朝。

 アルモニア一行は、ダンジョン探索の準備を整えた状態で冒険者ギルドへと向かった。


「あ、おはよう!」


 ルシオンは既に到着しており、腰のベルトにはごちゃごちゃとポーチがついている。


「ルシオンだよ。よろしく」

「イリオスだ」

「リラです」

「シグ」

「月船といいます」


 昨日いなかったメンバーと軽く挨拶を終えたところで、ルシオンは「ところで……」と聞く。


「今日のボクは、誰と組めばいいのかな?」


 全員で探索に出るわけではないと気が付いたのだろう。ルシオンが当たり前の質問をしてくる。

 ディーンがそれに答える。


「今日の探索メンバーは、イリオス、アルタリア、シグ、コミティスの四人だ」


 これは昨日の夜に決めていたことだ。

 あくまでルシオンの試用が目的である以上、役割が被るディーンと、探索初心者で指導というリソースを使う月船は今回の選択肢から外れる。

 リラが外れたのは、アルモニアの実務の副担当であるコミティスをパーティに入れたかったからだ。


「オッケー。えーっと、剣士、剣士、盾使い、弓使い……だよね?」


 情報屋からアルモニアのメンバー構成を聞いているルシオンは、言われずとも今回のメンバーを把握する。


「ああ。話が早くて助かる」

「どういたしまして」


 冒険者ギルドに入ったアルモニアとルシオンは、まずは依頼の選定から始める。今回はルシオンが依頼を選ぶことになっていた。

 アルモニアはこの街のダンジョンを知らない。そのことはルシオンにも伝えてある。

 ここでルシオンが無茶な依頼を選ぶようなら論外であったが。


「これでどうかな?」


 彼が選んだのは、ダンジョン内に自生する植物の採集依頼。

 依頼書を確認して、ディーンは問題無いと判断した。


「よしっ! 初めての探索だ!」

「はは。元気良いね、キミ」


 受注処理を終え、一行は冒険者ギルドの裏手……ダンジョンの入口に向かう。シプレのダンジョンは街の中に入口があるのだ。


「じゃあ、よろしくな。みんな、ルシオン」

「がんばってください」

「ご武運を」


 待機組の見送りを受けながら、探索パーティは入口として設置された階段を下っていく。



 ダンジョンの光景が見えるなり、イリオスは「おー」と声を漏らす。

 シプレのダンジョンはところどころに草や苔が生える遺跡型ダンジョンだ。

 何故に人工物らしき構造になっているのかは誰も知らない。どうしてトラップが仕掛けられているのかも分からない。

 それがダンジョンである。


「ダンジョン入り口の広間には罠は無いから、安心してね」


 他の冒険者パーティが軽い準備運動をしている姿も見られる。この広間は安全地帯という扱いなのだろう。


「そういえばさ」


 ふと、イリオスが思い出したようにルシオンに目を向ける。


「ん? 何?」


 ルシオンはそれに素直に応じる。


「俺、キルタに会うのって初めてなんだけど、何か注意したほうが良いこととかって、ある?」


 その質問にルシオンはにこりと笑う。


「うん。よくぞ聞いてくれました」


 ルシオンはキルタという種族の特徴について軽く説明する。

 身体が小さく、手先は器用。魔法はそれなり。見た目通りに非力なのが弱点。


「非力なのに、クロスボウなんて使えるの?」


 シグが聞くと、ルシオンは頷く。


「うん。このボウは魔道具だからね。ボクでも引き絞れる補助機能が付いてるんだ」


 ルシオンはクロスボウを持つと、弦を引き絞れるところを見せる。


「へー」


 イリオスが感心したように言う。質問主のシグも「ふーん」と頷いている。


「あとは……自慢じゃないけど、キルタの頭は結構良いって言われてるね。だから、あまり見た目で判断しちゃダメだよ?」


 それは何となく分かると、コミティスは思った。

 キルタは見た目こそスルピナの子供同然だが、油断はできないと。


「よし。では行くぞ」


 ルシオンがひと通り説明を終えたところで、アルタリアが言った。

 ルシオンは口元を緩ませたまま、頷いた。



 少し歩いたところで、ルシオンは「ストップ」と一行を止める。

 そして天井を指差した。


「あのタイル、ちょっと色が違うの分かる? あれはたまに落ちてくるから気をつけてね」


 言われてみると、ほかのタイルに比べて色が薄い。


「たまに落ちてくるって?」


 シグが聞くと、ルシオンは補足をつけ足す。


「絶対に落ちてくるとは限らないってこと。だから面倒なんだけどね」


 タイルの大きさは三十センチ四方ほどだろうか。重さは分からないが、直撃したらかなり痛いだろう。


「助かるけど、言っても良かったの?」


 コミティスがルシオンにたずねる。その語尾には「まだ試用の段階なのに?」という意味が含まれている。


「うん。ま、これくらいはサービスさ」


 一行は色の違うタイルの下を避けて進む。



 次の異変は音であった。

 ガシャガシャという金属同士が触れ合う音に、アルタリアはただちに反応する。


「歩く鎧、だな」


 アルモニアの側でも情報収集を怠っていたわけではない。その音の正体については心当たりがあった。

 やがて敵が目の前に現れる。見た目は甲冑だ。しかしその中身は空洞とのことである。腹部には細い隙間が空いており、その中ではわずかな光が揺れている。

 敵の数は二体。槍を持つものと杖を持つものだ。


「腹部を狙え!」


 アルタリアが鋭い声で弱点を狙うよう指示する。

 そしてイリオスたちが駆け出そうと身構えた瞬間だった。

 杖を構えた魔物を見て、アルタリアが声を張る。


「止まれ!」


 杖を持つ個体が火球を発射してくる。アルタリアは一歩前に詰めると、右手に持った盾でそれを受け止める。

 この世界では一般的な魔道具である盾は、アルタリアの注いだ魔力でわずかに輝き、火球を無効化する。

 アルタリアの背後からシグが飛び出し、杖を持ち上げたままの個体の腹部に剣を突き立てる。

 弱点を突かれた魔物は、音も無く形を崩して砂になる。

 シグがすぐに意識を切り替えてもう一方の魔物を見ると、同じようにイリオスが腹部に剣を突き立てているところであった。


「あはは。キミたち強いねー。ボク、いる意味あるかな?」


 ルシオンが軽口を叩く。


「次の戦いに期待だな」


 アルタリアも軽口で応酬し、シプレのダンジョンでの初戦闘は感慨もなく終わった。



 その後。

 いくつかの罠を見つけたが、ルシオンは解除したりしなかったりで先に進む。


「あ、そこのタイルも薄いでしょ? 踏まないようにね」

「ちょっと待ってねー。……うん。これで良し」


 細かな内容はもう教えてくれなかったが、彼の態度から、無視しても良い罠と無視すると危険な罠があることは分かる。



 一方で戦闘では。


「火トカゲ三だ! 気をつけろ!」


 ルシオンが直接戦闘に介入したのはこの一回だけであった。

 イリオス、アルタリア、シグの三人で二体を相手取る間、コミティスとルシオンがもう一体を足止めする。

 アルタリアはその一体がいつこちらに火を吹いても良いように警戒していたが、結局その時は来なかった。


「助かったよ。コミティス、ルシオン」

「どういたしまして」

「ボクは、自分の仕事をしただけさ」


 また火トカゲは鎧と違って解体の必要がある魔物であったが、コミティスに加わってルシオンもそれを手慣れた様子で手伝っていた。初めての魔物相手で手間取るコミティスを尻目に、二体の火トカゲを解体する。


「はい」


 ルシオンはそう言って、コミティスに素材を渡す。


「あとで分け前、ちょうだいね」


 そう冗談めかしながら。



 依頼の目的である植物は、タイルの剥げた地面から生えていた。これの採集もルシオンは手伝う。

 この植物は葉に価値があるので、ハサミで状態の良いものを切り落としていく。

 コミティスはすぐに見分け方を把握し、こちらに関してはさほど採集の量に違いはない。

 膨れた巾着袋を締めたところでアルタリアは言う。


「撤退だな」


 こうして探索は幕を下ろした。



「……お待たせいたしました。こちら、今回の査定結果と、報酬です」


 事務的な態度の受付嬢からコミティスはそれらを受け取る。

 簡単に書かれた査定結果は、上から二番目である四の評価が多い。初めての探索にしては上出来なのではないだろうか。


「ありがとうございました」

「こちらこそ。またのお越しをお待ちしております」


 五人が受付カウンターを離れると、帰ってくる時間を見計らっていたのだろう。ディーン、リラ、月船が待ち構えていた。


「おかえり」

「うん」


 そしてここでルシオンとは別れる。今日の夜にアルモニアで協議し、明日の朝に結果を伝えるという方針になっていた。


「それじゃ、また明日!」


 ルシオンは分け前を受け取ると元気良く手を振って人波に消えていった。

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