選別
「アルモニアだっけ? よく募集かけようと思ったよな」
「この街の流儀を知らないんだろ。ありがちなやつだ」
「知り合いの情報屋が笑ってたよ。稼ぎ時だって」
「俺が情報屋でもそう思うわ」
二日が経った。
その場で加入を断られた面接者は小さく舌打ちをして、応接室の外に出ていく。
「……これで何人目だったか」
アルタリアがぼそっと呟く。
「…………」
ディーンもコミティスもその質問には答えない。答えたくない。
「応募が途切れないのはありがたいことなんだが……せめて募集要項くらいは読んでほしいところだな」
面接希望者のリストを手に、ディーンはため息をつく。
この二日間、何度同じやり取りを繰り返しただろうか。朝から晩まで続く面接に、三人は疲労の色を隠せない。
「アルモニアさま、次の方が見えておりますが」
このセリフももう何度目だろうか。
三人は何とか気を張り直し、背筋を伸ばす。
「……通してくれ」
「かしこまりました」
ギルドのスタッフが扉を開けて、面接希望者を引き入れる。
そこにいたのは八歳くらいの子供にしか見えない少年だった。キャスケット帽にはシンプルな羽飾りが付いている。
彼はニッと笑うと、三人に対して名乗る。
「こんにちは。ボクはルシオン。種族はキルタ。三十歳。よろしくお願いします」
その言葉にディーン、コミティス、アルタリアはおや、と思う。
キルタというのは、アルモニアに現在所属している七人……スルピナとは異なる種族の人類だ。身体は小さく、成人の証として髪や帽子に羽飾りを着ける習慣がある。
もっとも、三人が気になったのは種族ではない。彼の自己紹介だ。
「ルシオンだな。オレはディーン。アルモニアの実務担当だ」
「コミティス」
「アルタリアだ」
「うん。ディーンさんに、コミティスさん、アルタリアさんだね。よろしく」
この会話に、ディーン、コミティス、アルタリアは視線を合わせて頷き合う。
とりあえず第一関門はクリアだ。まともな会話ができる、というだけのラインだが。
「ルシオン、あんたの武器と得意とする戦法を教えてほしい」
「ボクの武器はこれだね」
そう言ってルシオンは背中を見せる。クロスボウを担いでいた。
「あとは属性魔法も使えるよ。ボクの戦法は、ボウと魔法による牽制が主体だね」
牽制が主体となるとディーンとやや戦法が被るが……とりあえず後衛ではあるようだ。
「罠の対応について、自信は?」
ルシオンはその質問に待ってましたとばかりに答える。
「そりゃもう、自信たっぷり! ……と、言いたいところだけど」
ルシオンは肩をすくめる。
「正直なところ、ボクだって人間だから絶対とは言わないね。だから、『目』を増やすために色々教えるのは、やぶさかではないよ?」
なるほど、どうやら謙虚さもあるらしい。
それに、募集条件である「他のメンバーへの技術指南」という項目にも理解がある。
アルモニアはここまでに「技術は財産だから教えない」と言われて二人ほど断っていた。
「この街のダンジョンでの活動歴は二年くらいになるよ」
街のダンジョンに慣れているというのもプラス材料だ。
ようやく実地でのテストに回れそうな人材が来たと、ディーン、コミティス、アルタリアが視線を合わせたその時であった。
「あー、あと大事なことが。ボク、『絆裂きのルシオン』って言われてるんだ」
「え?」
ディーンはルシオンに視線を戻す。すると彼はこともなげに言う。
「ボクが在籍したチームは、ことごとくチームに亀裂が入るからっていう理由さ」
ルシオンはディーンたちの反応を楽しむようかのようであった。
ディーンはそれに困惑するも……すぐに気を取り直す。
「……そう呼ばれることに心当たりは?」
「ん? 別にボクは、何もしてないよ? ボクは自分の役割をこなしてるだけさ」
くすくすと笑うルシオン。
「…………」
ディーンは少し考えると、次の質問に移る。
「あんたが考える、あんたの役割について教えてほしい」
するとルシオンは笑うのをやめてこう言う。
「言ったでしょ? ボクの戦法は、ボウと魔法による牽制さ。それ以上でも、以下でもない」
「……なるほど」
ディーンは頷くと、もう一つ質問をぶつける。
「ちなみに、オレも牽制を得意としているんだが……もし一緒に探索することになったらどうする?」
ルシオンはその質問に「んー」と顎に手を当て考える。
「そうだなあ……その時はボクは、攻撃に回らせてもらおうかな。情報屋から聞いた話が正しければ、キミは魔法剣士でしょ? 立ち回りを変えるなら、後衛であるボクのほうが楽だろうし」
「そうか」
ディーンはコミティス、続けてアルタリアに視線を向ける。二人とも頷いていた。
その日の夜。一日の総括の時間。
「明日、実地テストをすることになった」
第一にディーンが報告をすると、チームの空気が良くなる。
「おー。やっとか」
イリオスは素直に感想を漏らす。昨日の夜の時点で面接を担当している三人の疲弊は表に出ていたので、ほっとした空気が流れる。
「明日の実地テストで試すのは一人。ルシオンという名前のキルタだ」
ディーンたち三人は、一応あの後も夕方まで面接を続けたが……不採用の山をさらに築いただけだった。
「キルタのルシオン?」
ディーンが挙げた名前に月船が反応する。
「知ってるの?」
コミティスが問いかけると、月船は頷く。
「ええ。個人的に情報は集めていますので……たしか『絆裂きのルシオン』ですよね?」
「うわ、なにその物騒な名前」
月船の言葉にシグが正直な感想を漏らす。
「なんでも、彼が抜けたあとのチームは、不仲になったり解散したりすることが多いんだそうです。その結果、『絆裂き』というあだ名が付いたのだとか」
「えー。大丈夫なのか、それ」
さすがのイリオスも少し不安そうにする。
「だが、面白そうな人材ではあったぞ。少なくとも、条件も見ずに応募している有象無象とは違う」
実物のルシオンを見ているアルタリアはそう言う。
「実際に会ったみんなが言うなら、わたしは否定しないけど……」
独り言同然で意見を表明するのはリラである。
「コミティスはどう思った?」
イリオスが問いかける。
「うーん。少なくとも感触は悪くなかったよ。普通の人って感じかな。話も通じるし」
「話が通じないって、そんなひどいの?」
シグが何気ないひと言を放つと、ディーン、コミティス、アルタリアは無言で息を吐く。
「……まあ、良いか」
イリオスは軽く頭を掻く。
「俺は、みんなの判断を信じるよ。少なくともこの二日で一番良さそうな人なんだろ?」
「うん。それはもう、断トツで」
コミティスは断言する。
「おれも、アル姉が良いって言うなら」
「ええ。実際にお会いした皆さんにお任せします」
シグと月船も同意したところで話は決まりだ。
アルモニアは、チームとしてルシオンを試してみるという結論に至った。




