自由行動
「……はい、確かに承りました」
冒険者ギルドの受付嬢は書類の記載に漏れがないことを確認すると、ディーンに対して愛想笑いを向ける。
「お願いします」
それに対してディーンが返答すれば、それでこの場は終わりだ。受付嬢は受け取った仕事の処理に回り、ディーンは仲間のもとに戻る。
「おつかれ」
「ああ」
人員募集の手続きが終わったところで、アルモニアは冒険者ギルドを後にする。
罠に対処できる新メンバーを迎えるまで、探索はお預けだ。
「このあと、どうするの?」
シグがディーンを見て聞く。
「オレは、この辺りの店を見て回るかな。付いてくるかどうかはみんなに任せるよ」
ディーンはそう答える。すると、各々が自分の行動を考え始める。
「暇だし、俺も一緒に行くよ」
「私も。市場調査は大事だしね」
「では、私も。この街のお店に興味があるので」
イリオス、コミティス、月船はディーンに付いていくことを決めた。
その一方で。
「私は、茶でも飲みに行こうと思う」
「じゃあおれも。アル姉、おごって」
「自分で払え」
アルタリアとシグはどこかで腰を落ち着けるつもりらしい。
「わたしは……アルテに付いていこうと思います。ちょっとこの街、一人でいるのは怖いので」
リラも少し迷ってからアルタリアと共に行動することを選ぶ。
「じゃあ、昼までは自由行動にしよう。昼くらいにはここに戻ってきてくれ」
「ああ、分かった」
そういうわけでアルモニアは二組に分かれて行動することになった。
お互いに軽く手を振ると解散する。
ディーンたちが最初に入った店は、冒険者ギルドの目の前にある「ルクス商会」だ。
街一番の大商会とのことで、エントランスはたくさんの人で溢れている。
「イリオス、あまりはしゃぐな」
ディーンがすかさずイリオスを制止する。
この商会ではダンジョン由来の素材を買い取っているらしく、買い取りを担当する区画と商店としての区画がはっきり分かれている。
入口の壁に掲げられた大きな掲示板には本日の標準買取価格が明記されていた。
また買取の受付カウンターには「確かな鑑定、適正価格」というモットーが掲示されている。
とはいえ、こちらの区画には今のところ用がない。
ディーンたちが向かうのは商店区画だ。
「はい、イリオス。騒がないの」
再びかかる制止の声。今度はコミティスだった。
ゲートを抜ければ、そこは住民から冒険者までたくさんの人が行き交っている。
「お互い見たいものが違ったりもするだろうし……とりあえずここで解散しようか。三十分後にまたここで」
「おう!」
「分かった」
「はい」
四人はここでさらに、個人という単位に分かれて自由行動を取る。
三十分という時間制限のなか、コミティスは的確に見るべきものを選んでいく。
弓本体に弓弦、矢、そのほか冒険の必需品たち。
面白いのが試射コーナーがあるところだった。そこでコミティスはいくつかの矢を試し、さっそく購入をする。
また、ネーベルンやリムフォードでは珍しい武器も見つける。
「銃、か」
試射コーナーからは、発砲音が間断なく響いていた。
――でも、私はやっぱり弓が使いたいな。
少しの間覗いたあと、コミティスは銃の試射コーナーを後にする。
流し見た近接武器のコーナーでは、イリオスと月船が一緒に剣を眺めていた。
装備品を取り扱う区画から出ると、魔道具のコーナーだ。この辺りはどうやら冒険者向けのものを取り扱っているらしい。
そこでコミティスは、ディーンの姿を見かけた。彼は何かをじっと見つめている。
よほど気に入ったのだろうか。
コミティスはディーンに声をかけようとして……彼が見ているものに気が付く。
使い捨ての浄化の魔道具。二十本セット。
リムフォードで帳簿に刻まれた数字の十分の一の値段。
「…………」
声を引っ込め、コミティスは気まずい気持ちでディーンの顔色をうかがう。
するとディーンの方もコミティスに気が付き……乾いた笑いを漏らす。
「はは……オレ、ほんとバカだったな」
コミティスがどう声をかけるか迷っていると、ディーンは軽く頭を掻いた。
「次からは気を付ける」
そう言ってディーンは、最後にもう一度だけ値札を見る。
「……そうだね。しっかりしてよ?」
「ああ」
ディーンはもう振り返らない。
二人は浄化の魔道具が置かれたコーナーを後にした。
お互いにやりたいことをしたあと、昼前にアルモニアは合流する。
先に待ち合わせ場所に来ていたのはアルタリアたち。
アルタリアはディーンたちの顔を見るなり言う。
「大事なかったようだな」
「ああ」
七人は適当な飲食店で食事を摂ったあと、冒険者ギルドに向かった。さすがにまだ応募は来ていないだろうと思いつつ確認すると……
「三名ほど応募がありましたよ。そのうちの一名は、今もギルドにいらっしゃいます」
「えっ。本当ですか?」
というわけでアルモニアから代表としてディーン、コミティス、アルタリアが応接室に向かったが……
「あれはないな」
「うん」
「だな」
待っていたイリオスたちに三人は結論を告げる。
「どうして?」
イリオスがきょとんとする。
「……どうやら、オレたちの情報がこの街で出回っているらしい。『アレ』を倒したことは伝わっていないようだが、実力ある若手の有望株だって」
面接者は、過剰にアルモニアを持ち上げ、自分の有能さをアピールしてきた。
「へー。そんなふうに言われてるんだあ」
イリオスは能天気に呟いた。




