未来の自分が
その日の夕方。
いつもの喫茶店の前に行くと、シグは既に待っていた。
「あ、ホントに来た」
「お前な……」
人を呼び出しておいて全く。仕方のない子だ。
「店の前にお前がずっといたら迷惑だと思って、回収しに来ただけだ」
アルタリアはそう言うが、シグは気にしない。
「はいはい。じゃ、パフェよろしくねー」
「あ、おい! 全く……」
先に入っていった少年を追いかけてアルタリアも店に入る。
「で、どうして泣いたの?」
注文を終えるなり、シグは直球で聞いてくる。
「…………」
少しの躊躇い。だが、アルタリアも弱っていたのだろう。普段の彼女なら関係無いと突っぱねるだろうが、そうはしなかった。
「……二年くらい前だったか。手合わせしたのを憶えているか?」
「憶えてるわけないじゃん。アル姉とはしょっちゅう手合わせしてるし」
「…………」
確かにそうだが、言い方というものがあるだろう。
「で、手合わせがどうかしたの?」
「手合わせ自体が問題なわけではない。その手合わせを見ていた子が……」
そこまで言われるとシグは「あー」と手を叩く。
「あのどんくさそうな子ね」
「お前な……」
確かにそうかもしれないが、やはり言い方というものが……
「で、その子がどうしたの?」
アルタリアは一瞬ためらうも、その言葉を口にする。
「……冒険者に、なるんだ」
それからは止まらなかった。
彼女は成長した。
それに比べて自分はどうだ?
ずっと足踏みしている。進める気配が無い。未来が、見えない。
途中で届いたパフェを食べながら、シグは聞き続けた。
一通り話を聞いた後、シグは言う。
「で、アル姉はどうしたいの?」
「私は……」
シグの直球な質問。
答えは、出なかった。
それを見てシグは首を傾げて……それから言う。
「『未来の自分が、誇れる選択肢を取れ』」
「え?」
シグは口元を緩ませる。
「誰かさんがいつも言ってる言葉。じゃ、パフェごちそうさまー」
そしてもう用は済んだとばかりに、店を出ていった。
「…………」
未来の自分が、誇れる選択肢を。
確かに何度も言った憶えがある。わけあって自暴自棄になっていたシグに、何度も何度も。
「未来の、私が……」
それは内勤として要人警護をする日々か?
いや、違う。
現状のまま停滞し、環境を嘆く日々か?
いや、違う。
その時、アルタリアの頭の中に一人の少女のはにかむ顔が思い浮かぶ。
――独り立ちしても大丈夫とお墨付きをいただきまして。
それは未来へ向かって羽ばたく者の顔。
未来の自分が誇れる道を選んだ者の顔。
そして彼女の顔を思い出したことで、アルタリアは一つの結論に至る。
その未来を、守れたら。
「はは……」
アルタリアは小さく笑う。
道は、すぐそばにあった。




