アルタリアという女性
幼い頃、アルタリアにとって騎士は憧れだった。
父と、年の離れた兄達。
稽古場で剣を振るうその姿は、おとぎ話の英雄のように見えた。
自分もそうなりたいと願った。
両親にその考えを伝えた時は、少し困った顔で反対された。
しかし諦められず、庭で枝を拾って素振りをし、木を的として何度も叩いた。
そのうち両親は根負けして、怪我をする前にと指導をつけてくれるようになった。
残念ながら武道の才能には恵まれなかったリラだが、アルタリアはどうだったかというと。
その才能はあった。間違いなく。
同年代の男の子に負けたことはなく、体格で勝る年上の少年をも負かす。
しかしアルタリアが生まれた貴族の世界は、剣に明け暮れるアルタリアを異物として扱った。
じゃじゃ馬。お転婆。
こういった声はまだ可愛い方である。
女なのに剣を好む変わり者。男を立てない不忠者。
幼いアルタリアは静かに孤立していったが、しかし本人は技を磨くのに夢中で気が付かなかった。
女騎士に需要が無いかと言われればそういうわけでもない。
男が立ち入りにくい場所での護衛として、一定の需要はある。
そのため女騎士は慣習として一、二年外勤を務めた後に内勤への転属願いを出すものだった。
だがアルタリアが憧れたのは、城内で高貴な者達に付きまとう護衛ではない。
民の声が聞こえる場所で、いざという時には民のために戦う騎士だ。転属願いは出さなかった。
騎士団でもアルタリアは変わり者として扱われた。
そんなある日、アルタリアは上司から私的な場での面会を持ちかけられた。
即座に断った。
あの誘いを受けていれば、将来は変わったのだろう。けれど、それはアルタリアが憧れる騎士の姿ではない。
それ以来階級は変わらなくなった。
行儀見習いとして騎士団に入団してから八年。
さすがのアルタリアも、現実が見えるようになってきていた。
同年代の男性はすいすいとその地位を上げ、一方で自分は後輩の騎士にも追い抜かされていく。
その理由はもう分かっている。
だが、それを言い訳にしたら負けだと、ずっと自分に言い聞かせてきた。
だがそれでも……前に進む友人を見て、停滞している自分を顧みて、ついにアルタリアの口からその言葉が漏れる。
「女、か……」
認めたくない気持ちと、認めてしまう気持ち。
その日アルタリアは、騎士として初めて泣いた。




