少女との出会い
それから一週間。
あいも変わらず声をかけ、そして避けられ続ける日々を過ごしていたリラ。
そして何度目の夕方。
「はあ……」
今日も今日とてしょぼくれているリラの隣に、影が落ちる。なかなか去っていかないその影にリラが視線を上げると……隣に、あの少女が立っていた。
「……え?」
リラの頭がフリーズする。少女は初めて会った時と同じ笑顔を浮かべた。
「やあ」
そして固まっているリラに手を差し伸べる。
「今日は時間が空いているんだ。良かったら、話でもしないか?」
世界が夕暮れに染まる中、少女はそう言った。
喫茶店に連れてこられたリラ。彼女の名前はアルタリアというらしい。
言われるがままについていき、席に座り、アルタリアが適当に頼んだ軽食を前にして……リラはようやく落ち着きを取り戻す。
「あの……」
「ん?」
茶を飲んでいたアルタリアが目を上げる。
「アルタリアさんは、今日は、どうして?」
述語のない質問にアルタリアは答える。
「おまえの噂を、詰め所で聞いてな」
とても美しいのに喋り方はやけに硬いなと、リラはどうでもいいことを考える。
「毎日毎日、盾を教えろと目につく兵士全てに言っていると聞いて……少し、興味が出た」
「…………」
リラは少しの間考えて、そして彼女なら話を聞いてくれるかもしれないと思い、口を開く。
「わたし、お父さんが冒険者だったんです!」
そこからはもう止まらない。
父が盾使いだったこと。
ダンジョンで命を落としたこと。
母が泣いたこと。
その姿に、何故父は自分達母娘を置いてまで、冒険者という生き方にこだわったのか不思議に思ったこと。
疑問を解決するために、父のような冒険者になりたいと思ったこと。
そのために父が扱っていた盾を習いたいと思ったこと。
ひと思いに全部。ぶちまけてしまった。
「……ふむ」
はあはあと息を切らすリラを見ながら、アルタリアは何事かを考える。そしてそんな彼女に……リラは再び頭を下げる。
「お願いします! わたしに盾を教えてください!」
深く下げられた頭。リラ自身は気付いていなかったが、その肩はまた拒絶されたらどうしようという思いで震えていた。
アルタリアはふう、と息を吐く。
「……どうやら、本気のようだな」
リラはがばっと頭を上げる。
「分かった。教えよう」
次の瞬間、リラの顔にぱあっと光が灯った。
次の日の夕方、リラはアルタリアと待ち合わせをした。
スタスタと歩いていくアルタリアを、リラは小走りで追いかける。
「あ、あの、アルタリアさん」
リラが声をかけると、アルタリアはちらりとリラの方を見た。
「アルテで良い」
「えっと……アルテさん?」
「なんだ?」
リラは居心地が悪そうに視線を散らす。
「こっちって、貴族街の方向じゃ……」
「そうだが、何か?」
どうしよう。
お母さんから貴族街の方には行っちゃダメだって、いつも言われているのに。
「なに、問題無い」
アルタリアはそう言ってリラの前を歩いていく。
やがて、貴族街と市街を分ける門の前に来て……流石にここから先はまずいとリラの焦りは高まる。
しかし、そこで起こったのは予想外のことだった。アルタリアが軽く手を挙げると、見張りの騎士は彼女を通したのだ。
「……どうした、リラ? 付いてこい」
もうどうにでもなれ。
リラはアルタリアの背中を追いかける。
「着いたぞ。ここが私の家だ」
やがてアルタリアが足を止めたのは、貴族街の外れにある邸宅の前であった。
「『私の家』?」
……奉公先とかではなく?
リラが呆然としているとアルタリアはなんてことのない口調で言う。
「ああ。私が自由に使える中では、ここが一番設備が整っているからな」
その言葉にようやくリラは気付く。
彼女の纏う鎧は、一般兵士が纏うものとは違っていることに。洗練された美しさがあるものだということに。
すごい人に声をかけてしまったかもしれない。
使用人に軽く手を挙げて応える彼女に、リラは真っ青になって震えた。




