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調和と大地の迷宮  作者: 旅燕
リムフォード編

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22/60

ある女の子の話

 元来少ない体力を必死に使って……ようやくリラは目的の人物の背中を捉える。


「ディーン!」

「来るな!」


 明確な拒絶の言葉に、リラは一瞬ビクッとする。けれど逃げない。代わりに言葉をかける。


「……うん。今は、何も聞きたくないよね」

「…………」


 リラの言葉に、ディーンの足が止まる。わずかな沈黙を挟んだ後、リラは語り始める。


「……ある女の子がいたんです」

「その子は、父と同じ冒険者になりたかった」

「でも」


 リラは一瞬だがわずかに視線を泳がせる。


「でも、できなかった」


 ここで始めて、ディーンがリアクションを返す。


「……どうして」


 リラはふっと微笑む。


「まあ、色々あって。彼女は父と同じ冒険者にはなれなかった」

「…………」

「でも、その子は今……冒険者になっています」


 その言葉でディーンはようやくリラに向かって振り返る。

 その目はやはり、今にも泣き出しそうに感じられた。


「どういうことだよ」


 声には苛立ちが滲んでいる。

 でも怖くは、ない。

 リラは言葉を続ける。


「その子は、考えたんです。父と同じ冒険者になりたいのか、父のような冒険者になりたいのか」

「だからどうしたっていうんだよ」

「その子は選びました。自分のやりたいことを」

「…………」


 そして……リラは言う。


「ディーン、あなたはどうですか?」


 その問いかけにディーンは面食らったような顔をして……リラに再び背を向ける。

 答えは無い。

 しかしリラは無理にそれを聞き出そうとしない。ディーンの背中に会釈をすると、来た道を戻る。



 アーインの宿屋のイリオスとディーンの部屋では、ディーンとリラ以外のメンバーが相変わらず残っていた。


「離せ! 離せよ!」


 イリオスはアルタリアに押さえつけられて、じたばたともがいている。

 シグはアルタリアのそばで、彼女が振り払われた場合に備えている。

 コミティスは青ざめた顔でソファに座っている。

 と、


 がちゃり。


「……!」


 イリオスがアルタリアを振り払う。部屋の入り口に向かう。


「ディ……!」


 だがそこにいたのは……リラだけだった。


「リラ! ディーンは!?」


 焦った様子でイリオスが聞く。リラは静かに首を振る。

「わかりません」


 そのあまりにも正直な回答に、イリオスは苛立ちを募らせる。


「分からないって……!」


 感情的に叫ぼうとしたイリオス。しかし、その言葉は……自分をまっすぐ見つめるリラの目に打ち消される。


「わかりません。けど、伝えたいことは伝えられた……と、思います。だから今は一人にしてあげましょう」

「…………」


 イリオスに納得した様子は無い。けれど、もう無闇に部屋を飛び出そうともしなかった。



 ディーンは一人、公園のベンチに座っていた。子供達がはしゃぐ声は、その耳には届いていない。

 ただ内側の思考にふける。


「…………」


 思い返すのはずっとずっと昔。コミティスもまだいない頃の記憶。

 その記憶の中で、ディーンはイリオスから話を聞いている。その内容はありがちな冒険譚。イリオスが自分の父から聞いたエピソードだ。

 レアな採集物での小銭稼ぎ。魔物との命のやりとり。イリオスの父が知り合いから聞いたという空を飛ぶ街の噂。

 記憶の中の自分はそれに胸を高鳴らせ、笑い、そしていつか一緒に行こうと無邪気に語っていた。

 まだ才能も役割も、何も考えていなかった頃の遠い記憶。イリオスから聞く冒険譚を楽しみ、胸を高鳴らせていた頃。


「オレは……どうしたい?」


 小さな呟きは空へと消える。



 深夜。

 ディーンは自分達の部屋に戻ってきた。

 明かりがついたままの部屋。一瞬、イリオスが起きていたらと胸が冷えるが、すぐにそれは杞憂だったと気付く。

 イリオスはソファで寝こけていた。このままでは風邪を引きかねないと、ディーンはブランケットをかけてやる。


「…………」


 すうすうと寝息を立てるイリオス。寝間着にも着替えず無防備に眠る姿に、ディーンは朝の一幕を思い出す。

 イリオスは、必死に叫んで自分を引き止めようとしていた。その顔は怒っていた。けれど、泣きそうでもあった。

 ただのお情けでそんな顔ができるだろうか?

 いや、無理だ。イリオスにはそんな器用なことはできない。


「オレは……」


 ディーンは眠る幼馴染を見ながら小さく呟いた。

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