否定
「みんなに、話したいことがある」
朝食後ほどなく、イリオスとディーンの部屋にアルモニアのメンバー達が集まる。
何の話だろう?
朝という、冒険者にとって一番忙しい時間帯に呼び出された理由をそれぞれが考えるが、想像もつかない。
「……みんな、来てくれてありがとう」
全員が集まったところでディーンは口を開く。
「今日は、大事な話があるんだ」
その口調は淡々としており、いつもと変わらない。だからこそ……次に放たれた発言にディーン以外の五人は固まる。
「オレ、チームを抜けようと思う」
時間が、止まった。
その間にディーンはすっと息を吸い込む。
「少し前から考えていたんだ。オレがやっていることは……全部、他の誰かや魔道具で代替可能だって」
誰もそれに答えない。だがディーンは構わず話を進める。
「戦闘も、採取も、事務も……みんながいれば十分だ。それに」
ここでディーンは一瞬言い淀む。しかしすぐに気を取り直すと再び口を開く。
「オレはもう、みんなとは実力が釣り合わない。前衛はイリオスとアルテとシグがいる。後衛も、コミティスとリラがいる。みんな、素晴らしい実力を持っている。そこにオレがいると均衡を崩す。評価を落とすことにも繋がる。だからオレは……アルモニアを、抜ける」
そう言って仲間を見回すディーンの目は、もう決めたんだと言っていた。
「ふ、ふざけるな!」
ディーンが言い切った直後、最初に立ち上がったのはイリオスだ。
「そんなことない! ディーンはチームに必要だ! 誰に何を言われても!」
はっきりと言い切る。
「……そう言ってくれるのは嬉しいよ。……けど」
ディーンは親友の言葉に視線を泳がせる。
「誰に言われたんだよ、そんなこと! そんなこと言うやつがいるなら、俺がぶっ飛ばしてやる! だから抜けるなんて言うなよ、ディーン!」
「…………」
ディーンが黙っていると、続けて立ち上がったのはコミティスだ。
「そ、そうだよ! 私たち、誰もそんなこと思ってない! 私たちにはディーンが必要だよ!」
彼女もまた、声を張り上げてそう言った。
「……でも、オレがいるとみんなの足を引っ張る。だから」
「そんなことない!」
ディーンの自己否定にコミティスは強い口調で言う。
「私たちはディーンの剣にも魔法にも、助けられてる! だから辞めるなんて!」
「でもっ!」
ディーンはキッと顔を上げる。
「でも……! その魔法だって、コミティスが本気を出したらオレなんてかないっこない!」
「……っ!」
その言葉でコミティスの顔が青ざめる。否定の言葉は、出ない。
「っ!」
その顔を見て……ディーンは逃げ出すように部屋を飛び出した。
ディーンが飛び出した後の部屋。イリオスも、コミティスも、動けない。
重苦しい沈黙が支配する中、最初に動いたのは……リラだった。
「わ、わたし! いってきます!」
そう言うとリラはディーンが開け放したままにした扉の先へ飛び出す。
――追いかけなくちゃ、追いかけなくちゃ!
追いかけて、どう言葉をかければ良いのかはまだ分からない。
しかし、ディーンが去り際に残した言葉が、リラの心に引っかかる。
――その魔法だって、コミティスが本気を出したらオレなんてかないっこない!
あの言葉を言った時のディーンは、今にも泣き出しそうな目をしていた。
そしてそんな目に、リラは心当たりがある。その予感通りなら、彼は……
胸の中を少しずつ整理しながら、足がもつれて転びそうになっても、リラは走る。




