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イグニション前の速度より  作者: 紀
【秋の章】
76/82

収穫祭 ~ごくごく~

 セイとミフィの二人が孤児院の皆と合流したのは、自分達が作ったブドウジュースの近くの休憩場所だった。


 満席に近い休憩場所には、14人がまとめて座れるような場所は残っていない。ヒースやカリナが6脚の椅子があるテーブル一つ確保していた。


 年少組の皆は全員座れるし、屋台で集めた牛串やピザやシャルロットなどを並べるだけなら十分だ。馬鹿みたいに席取りしなかったのは次女のカリナと次男のヒースの判断だろう。


 参加者の中には、席からあふれて立ち食いしている者や、ところ変われば積み上げられたレンガブロックに腰を下ろしている者もいる。


 セイとミフィは加減のきいたぬかりない行動をとった二人を労い、昼食の場に加わった。

 

 年少組の幼子5人が席に座っているが、身の丈に合わない椅子でありテーブルだ。料理に届きそうで届かない短く柔らかい手を伸ばしている幼子達を、年長組の者達がそばで立ち食いをしつつ助けていた。

  

 残りの一脚に腰を下ろしているのはキユキで、彼女も両隣に座る幼子達と食育を育んでいた。


 セイ達の飲み物はブドウジュースだ。


 先ほど女性陣が樽に作ったブドウジュースは、寝かせることで自然発酵し、ブドウ酒となるのだが、孤児院の皆はそうなる前に100%の単なるジュースとして本日その味を楽しむ。


 年少組の幼子達のコップにはすでにジュースが満たされている。キユキが踏んだジュースなのだろうか……遅れて到着したセイに正確な情報は入っていない。三男ロックや四男ギーといったミドル・エイジの男子達が掴んでいるジョッキの中のジュースが何処から来たのかも分からない。多分、一緒に作っていた相方から貰い受けたのだろう。


 セイはテーブルに乗っているからのジョッキを自分達が使ってもいいかヒースに尋ねて、当然の返事を貰った。





 セイは両手にジョッキをもって、ミフィが踏んだブドウジュースの樽へと近づいた。


 おレードルを持ったミフィも一緒だ。

「はい、貸して」


 ミフィがお玉でジョッキにブドウジュースが注いでいく。

 二杯分が用意されて、セイはミフィのジョッキと飲み口を軽くぶつけた。


「秋の実りに」

「感謝を♪」


 乾杯の音頭を二人でとってから、セイはゴクゴクとブドウジュースを飲んでいたが、一口飲んだミフィに様子を見られていたので、ジョッキを口から離した。


「どう? おいしい?」

「ああ。おいしいよ」

「ほかには?」

「天候に恵まれた昨年を遥かに越える出来だ」

「まだ出てくる?」

「エクセレント・ヴィンテージとされている47年度を思い起こす」

「もっと褒めてみて?」

「5年連続で偉大な品質だ」

「もっともっと持ち上げられるよね?」

「エレガントで繊細な酸味は生産から製造までの実力が現れている」


 ミフィのポジティブな戯言ざれごとに、セイはブドウ酒の知識人ソムリエのように答えていたが、

「いや、そろそろ普通に飲ませてくれよ」

と出てくる語彙力の限界を感じて、両手で自前のジョッキを持っている彼女を止めた。


 幼子達の面倒を見つつ聞き耳だけを立てていたキユキが、二人の様子をクスクスと笑っていたのか背中を揺らしていた。


 セイとミフィはテーブルに戻り、届かずの食べ物に手を伸ばしている年少組の幼子達の世話をしながら一緒に料理を食べ始めた。





 今だ空のジョッキがテーブルの上に二つ残っている。


 カリナとヒースのものだ。


 カリナはピザをかじっている1歳年下のヒースに尋ねた。 


「ヒース、あっちでおっさん達がパンツ一丁でブドウを潰してるでしょ?。あれは何色になると思う?」


 カリナが視線で指した先では、ブーメランパンツを一枚だけ身に付けた筋骨隆々の村の男性が、樽の中に入ってブドウを踏んでいた。


 脛毛から太ももあたりまでは無駄毛が処理されていてツルリとしているが、もじゃっとした胸毛は健在だ。男性はさらに右手にジョッキを持っており、中にはブドウ酒が入っている。顔も赤い。しかし足取りはしっかりしており、ブドウを踏み潰している。


 孤児院の女性陣と比べると、おっさんと称された男性からは著しい生産力が感じらとれる。


 勢いよく踏み潰したブドウの飛沫がパンツにまで飛び散っている気がしないでもない。その股間周辺へ飛び散った液体の量が増せば、いつしかしずく同然の液滴えきてきになり、樽の中に帰っていく循環型社会の可能性を感じないでもない。


 その様子をみていたヒースは、口の中のピザ生地を飲み込んでから、カリナに対応した。


「赤だ。赤色のブドウ酒になる」

「そう。じゃあ私達が素足でブドウを潰すと?」

「緑色だ、うっすい緑色」

「今は赤色のブドウジュース。なのに後で緑色になる。なんでだか分かる?」

「それは、男か女かの違いだわな」

「なにかがね、出ているかもしれないんだって。女から」

「いや、それは分かっていないことだろ? 男から出ているかもしれないじゃないか?」

「木で潰すとどうなる?」

「赤だ」

「ね?」

「おっさんと木から出てるかもしれないだろ?」


 カリナは軽くため息を一つついた。


 丸ごと全部抑揚のないため息で、呼吸と比べて判断がつかない物静かな嘆息たんそくであるが、ヒースにはカリナのリアクションが理解できたし、通達してきた瞬間に自然と内界で解釈されてしまった。あきれているときのため息だと。


 『うっ』と内心で誤答を自覚したのがヒースだった。よくよく考えたら失敗でもなんでもない。自分は当然の事を答えただけである。何も間違っていない。だからこそヒースには、その当然の返答がカリナをがっかりとさせたという事が良く分かった。


 だが同時に差し迫ってくる未知なる危険性もヒースは感じ取っていた。


 こういったときカリナが素直に引き下がらないことをヒースは重々承知している。まだまだ続くカリナの独壇場どくだんじょうを予感して、かれは心の警戒線を引き締めた。


「ねえ、じゃあヒースはどっちのジュースが飲みたいの?」

「お、女だ」

「ねぇヒース………………私の聞き方が悪かったのかしら?」


 カリナの周囲から冷気を含んだ円形の気流が巻き起こっている気配をヒースは感じ取った。声にも厳しい寒気が混ざっている。氷の迷宮の奥に潜む女王のような芸当だ。


 その寒風は場をひりつかせ、皆の注目をカリナに集め、そして対峙しているヒースのほうへも自然と流れた。


 注目されてしまったが、それでもヒースは言葉を連ねた。


「カリナ姉のだよ……」


 カリナは〝年下のまだ未熟な者にだけむける優しい微笑み〟を保ちつつ、ヒースにもう一度尋ねた。


「ふふ。飲みたいの?」

「くっ!!」


 ヒースは歯軋りして視線を逸らし、沈黙した。飲みたくないわけなどなかった。だがヒースはその微笑をもって勧めてくるカリナに答えるわけにはいかなかった。


「ふーん。そっか」とカリナは自分にだけ聞こえるような声でささやき、お玉が置いてあるテーブルの隅へと移動した。


 皆が自由にブドウジュースを汲めるようにと、孤児院から持ち出してきたこのお玉は、一度に500ccは組み上げることができる業務用の製品で、ウサギ一羽は乗りそうなくらい巨大なものだ。


 カリナは左手に取ったお玉を、くるりとひるがえして、天地を逆にした。

 あと数ミリでカリナの唇がお玉のまるっこい先っぽに触れる。

 キス直前の距離にまで、カリナはお玉の先っぽを薄い唇に近づけていた。


 さきほど見せた優しい笑みはもう残っていない。


「ねえ、嘘つきがいるのかしら?」


 カリナの視線は鋭利で、周囲にも再び寒波が到来した。


「っ。飲みたいよ……」

 ヒースの答えが100%のジュースへと傾くと、カリナは右手にジョッキも持って、自分が踏んだブドウジュースが入っている樽にまで近づいた。


 そしてお玉で樽の中のブドウジュースをんで、ジョッキに注ぐわけでなく、樽の中へと戻した。


 カリナはもう一度ブドウジュースをんで、樽の中に戻す。さらにブドウジュースを汲んで樽の中に戻す。汲んでは戻す。汲んでは戻す。……。ドボドボと……。


 お玉から流れ落ちるブドウジュースは、樽の中の液面とぶつかり、飛び散る数多あまたの雫が生まれた。


 その一雫がカリナの頬に飛んで行き、彼女の頬を赤く染めた。


「私が素足で潰したブドウジュース…………飲みたいの?」

「飲みたいつっただろ!!!」


 まばたきもせずに問いただしたカリナに、ヒースは激烈な咆哮ほうこうで打ち返した。


 まだ速い……と、鼻息の荒いヒースのペースを崩すように、あくまで冷たいカリナのクスリとした笑みがこぼれた。


『ここが終点じゃないのか……』

ヒースは伝家の宝刀である咆哮を鞘に納めて、じっとりとカリナを見つめて、彼女の出方をうかがった。  


「じゃあ最後の質問。私がブドウジュースをジョッキに移す前に答えてね」

「わ、分かったよ……」

「ゆっくり移すから、ちゃんと答えてね」

「な、なんでも来いよ!」


 カリナは左手にもつ巨大なお玉を、樽の中にするどく突き刺した。ボチャンと突っ込まれたお玉は、並々とブドウジュースをすくって、ゆっくりと持ち上がって行く。


 もうお玉のジュースは樽の中に戻らない。上空から落下点であるジョッキを狙いすましている。


 身長を伸ばすような動きでカリナは踵を地面から浮かせた。バレエのルルベのように、爪先で身体全体をリフト・アップする動作で、ほんの僅かな接地点だけで全体重を支えている。


 爪先から膝から脚全体。それのみならず上半身までまっすぐに天空へと伸びている。


 バランスを保って姿勢をキープし続けられているのは、足指を中心としたカリナの驚異的な脚力が体幹を支えているからで、爪先立ちは均整がとれて静的だ。


 お玉とジョッキを両手に握っているカリナ全体から、ヒースは奇妙な感覚が芽生えてくる。


 左右にもつ道具が異なるのに、バランスが崩れないことに、平均的な物理法則が消滅した地上に立っている気分になり、自分の存在が不安定になってくる。


 作り損ねたヤジロベーのように、ジュースがまれて加重のかかったお玉をもつ左手側に、カリナは傾くのが条理なのである。

 

 カリナの爪先と地面との接地点はあまりにも小さく、せめてそれが自然だ。百歩譲って爪先立ちの彼女が倒れないことは許せたとしても、ヒースの目にはそれが不自然なものと映った。


錯乱さくらん? いや可憐だ。イカレてやがる』

ヒースは同時に心の片隅でカリナの美しさを認めてしまっていた。


『来やがった。たまに来る亜空間のターンだ』

かぶりを一度だけきつくふって、ヒースは劇化したカリナの存在を定点につなぎとめようとした。現実空間と虚実空間。そのあいだにあるのが、カリナの亜空間だ。月ものなのか、季節もなのか、年度ものなのか。彼女はときどき〝そいつ〟を引っさげ〝そこ〟にいる。


 なぜか。年下の者達がいるからだ。カリナのスピリットもそこにある。セイやミフィと同じ所だ。年長者たるもの年下の者達を楽しませなければならない。


 成すすべなくこの亜空間に飲み込まれていた時代もヒースにはあった。そのたびにカリナは不要な優しさを見せる。まだできなくても仕方ない……と。「まだ楽しむ側で甘えていてもいいんだよ」というような笑みを見せることを。


 ヒースにはそれが許しがたいことだった。


『俺だって第一世代だ。あの何も無かった糞みたいな時代の生き残りだ』


 土俵自体は完全にカリナのものだが、彼女はフェアなルールにのっとりしかけてきている。そしておそらくこの亜空間も、今この時に思いついたものだ。


――あっちでおっさん達がパンツ一丁でブドウを潰してるでしょ?――


 そう感じさせる言明を彼女は確かに残している。彼女は自分と同じ時間軸を生きて同時にスタートを切っている。


 カリナが高み上げた身長は、ヒースを睥睨へいげいするために使われていた。カリナは爪先立ちになることで、一時的にヒースの身長を追い抜いている。


 冷たく見下してくるカリナをヒースは下から静かに睨みあげていた。


『落ち着け。本質は質問だ…… いいぜ。来いよ……』


 カリナの左の頬にはいまだジュースが飛び散ったままだったが、小さ汚点だけはかろうじて摂理に従い、涙のように頬を流れて彼女の口元へと近づいた。ペロリと小さくカリナの舌先で舐め取られる。


「演算」

 二の句もカリナから。

「ブドウジュースを議論して」


 ツーーーっとカリナはお玉からジョッキにブドウジュースを細くたらし始めた。

 

 息を吸い込んだヒースは、右の手を強く握り込んで、全力の弁舌を始めた。


「いいか良く聞け! まず、ブドウジュースの性質について考える! ブドウジュースは赤い! 赤は光の象徴だ! 太陽も炎も、古来、光の頂点にたつものは赤と比喩される。だが、色だけに着目すると、議論の拡散をまぬがれない。だから液体であるジュースも議論の俎上そじょうに挙げる。ジュースは絞りカス、もとのブドウから軸も皮も種もない残り物だ。ゆえに! ブドウジュースは光りの絞りカスだ。この時点で矛盾する。光りは有るか無いかのどちらかだ、カスなんて存在しない。絞られても光りは有るか無いかのどちらかだ!」


 カリナの左手が握り締めているお玉は、次第に彼女の頭上へと昇っていく。相対して、右手に握るジョッキは腰より下の方へ降下していく。


 天地に分かれたようなお玉とジョッキ。


 そのあいだを継続的に細く流れ落ちるブドウジュース。


 ひとすじの線。


 無作法な様式をとったカリナはブドウジュースを変容させた。


 高低差をともなう落下の勢いは、注ぐなどという生易しいものでは無くなっていて、もはや直撃させていると言ったほうがいい。

 ジュースの衝突によって発生する飛沫は、ジョッキの内側におさまらず、周囲の空中に飛散しているし、カリナのエプロンドレスにも飛び散っている。品性のかけらもなくビチャビチャだ。


 にも関わらずカリナは手を緩める素振りも見せない。視線はいつしか薄く閉じられてうつろな瞳だ。


 カリナの姿勢とヒースの咆哮。


 いつの間にか通行人があゆみを止めて、いったいなんぞと二人の様子をうかがい始めた。歩みを止めるヒトはネズミ算式に増えていく。


 だが二人の時間はまだ終わっていない。


 ヒースは言葉と共に失った空気を再び深く肺に取り込み、激しく捲くし立てた。


 彼の真紅の髪は今こそ燃え上がっている。


「しかし! これにはブドウジュースに対する人の製造工程で対抗できる! なぜブドウジュースを造ろうとした!? ブドウ酒を造ろうとしたからだ! ブドウ、ブドウジュース、ブドウ酒。この一連の製造工程から導かれるのは、ブドウジュースが中間体であるということだ。言い換えるぞ! 動機が作用した結果生まれた中間体。それがブドウジュースだ! これには矛盾がない! 俺達はブドウジュースを確かなものとして手に入れることができる!」


 残り時間が少ない事を明示するように、カリナはお玉とジョッキの間を少しづつ狭め始めた。


 息ぴったりで接近するお玉とジョッキは、注ぎの品性をとりもどしつつあるのを凌駕して、形が異なる二つの物体であるはずなのに、今度は両サイドから閉幕へ向かう緞帳オペラカーテンのようであってどこか淋しい。


 ヒースがカリナから視線をはずして、彼女の全体像をチラ見する瞳の動きは、超音速に迫るが如く一瞬だ。


 ヒースの舌はその一瞬の動きに負けぬ勢いで、一層回転力を増す。

 

「同じブドウジュースから出発したから、さっきの二つは結びつきをもつ! すなわち!光りの絞りカスと中間体に結びがあるなら、ヒトの心は存在しない矛盾したものを感じている可能性が出てくる! いいか! 次で最後だ! 聞けっ!」


 ヒースは右手の裏で、空気を高々とビンタした。

 

「ブドウジュース!! 俺は緑の前の赤き矛盾を飲み干したい!!」


 ピチャン……とお玉に残ったブドウジュースの最後の一滴がジョッキに落ちた。


 沈黙と共にカリナとヒースが石のように動かず睨みあう。


 お玉にはりついて残っていた液体が集まって、第二の雫が名残惜しそうにジョッキに落ちる直前に、カリナのクスリとした嬌笑きょうしょうが静かに響いた。


終幕カーテン・コールだ』

ヒースは膝に手を置き、はぁはぁと地面に向かって息を切らした。


 カリナは自然な笑顔でジョッキをヒースの前に差し出した。

「はい、召し上がれ」

「お、おう」

 ヒースは滅多とお目にかかれない優しさゼロのカリナの笑顔を目にして、どうしようもなくドキリとしていた。


 近くで長広舌を聞いていた通行人からは「おぉ」と感心したような声と拍手が巻き起こっていた。


 セイとミフィも拍手をしていた。


 孤児院のミドル・エイジの者達の一部は、いったいこいつらは何をやっているんだと、呆れた顔や不思議そうな顔をしているが、一応拍手している。


 年少組の幼子達はキユキに促されて、大勢あつまった人だかりにテンションを上げつつ楽しそうに拍手していた。


 ヒースはカリナからジョッキを受け取り、多数のオーディエンスに向けて高くジョッキを掲げて、ゴクゴクと音を立ててブドウジュースを一気に飲み干した。


 ヒトがバラけて周囲が落ち着いてから、カリナはヒースに尋ねた。


「おいし?」

「お、おいしいよ (味なんかしねーよ)」

「おかわりは?」

「あ、ああ。じゃあ頼む (もう飲めねーよ)」


 本音を隠したヒースは、おかわりが注がれたジョッキからズズズズっとジュースをすすって口に含み、舌の上で転がしてみた。

『たぶん甘酸っぱい』


 カリナが周囲を確認してヒースに近づいて唇を寄せてきた。


『な・な・な・な、なんだぁぁ!!』

口の中にあるジュースが発言をとめていたが、ヒースはしっかりとジョッキを横合いに逃がしてカリナを迎えた。


 しかし眼前にせまってきたカリナの唇は、ヒースの唇にも頬にもノータッチで通過して、耳元で止まった。いつにない風量と音響を感じるクスリとした笑い声がくすぐったい。

「紫に見えるんだけど」


「うっブブゥゥゥゥーーーーー!!」

ヒースは口から奇態きたいな音を立ててジュースを噴出し、カリナはひょいと身をかわした。


 カリナは食を粗末にするヒースを厳しく非難したが、ヒースはブドウジュースが赤色であるなどと言い返し、二人はちぐはぐな言い争いを始めたが、休憩所のテーブルの上のジョッキには無事すべてブドウジュースが注がれた。


 孤児院の皆は陽気な空の下で、料理が乗っている皿の上に大小様々な手を行き交わせて、昼食はわきあいあいと進み、そのときを終えた。


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