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イグニション前の速度より  作者: 紀
【序章】
7/82

デフォルト・バインド Bパート

 剣の修練を終えて、セイと四男のギーは保護役のデニスの家を出た。レンガや木材で建てられた、住宅区画を暫く歩むと円形の広場へとたどり着く。


 かすかな肌色のレンガで舗装された、シンプルな空間だ。中央には巨大なカエデが生えているが、今は春前なので葉をつけていない。


 カエデを円陣のように取り囲んでいるレンガの縁に、セイとギーは腰掛けた。


「セイ兄ちゃんは不健全なの?」

「んー、ギーはどう思う?」

「15歳は大人かな~」

「俺もそう思ってたけど、でも15になってみるとそうでもない感じもあるんだよ」

「じゃあセイお兄ちゃんは不健全じゃないのか~」

「まあ、そんなとこだ」

「ふぅーん」


『口止めはしておいたほうが……。いや、言うなっていうとかえって意識に残るし……』

 

 ギーは路傍ろぼうの石を拾い上げて、鑑定士のような顔つきになっている。セイはギーが興味を失うのに期待した。


 二人が少しの間暇を潰していると二人の男子が近づいて来る。


 「待たせたな。兄貴」

と少し気取ってセイに声をかけたのが次男のヒースだ。牛革の紐で、長い赤髪をうなじで雑に縛ってある。セイにとっては12歳のヒースが、この村ではセイと最も年齢が近い男子だ。


 セイが兄貴と呼ばれているのは、彼らが兄弟ごっこのようなものをしているからで、実の所は友達と言ったほうが近いのかもしれない。


 セイの黒い瞳とは異なり、赤い瞳のヒースは、彼の鋭利な顔立ちも相まって、静かにしていると苛烈な印象を受ける。できればセイに声をかけたときのように、人懐こく笑っていて欲しい印象がある。


 「ぉつかれ」

とぶっきらぼうに口を開いたのは三男のロックだ。〝お〟が消えかかっていて、〝お疲れ様〟の意味も消えかかっているが、少年特有の愛嬌がある。彼は10歳でショートヘアーは明るい茶色だ。髪と色を同じにする瞳は小さく、パッチリとした瞼の内は、白目が目立つ。


 ここで顔を合わせた四人は公国の孤児院制度上、年長組に分類される年齢の男子だ。年長組の男子には、剣や弓の修練が日常的に義務付けれれている。次男のヒースと三男のロックも別の指導役の元で修練を終えてきたところだ。


「ああ。お疲れ。それじゃあ行こうか」

 セイはレンガの縁から腰を上げて、

「頼むな」

とギーに言って剣を預けた。ギーは木剣を背負って、セイの剣をお姫様だっこで受けとった。


 次男のヒースも同じように三男のロックに剣を預けた。


 セイとヒースは修練のために村の外へ向けて小走りを始め、三男のロックと四男のギーは帰宅のため孤児院へ向けて歩き出した。


※ ※ ※


 出だしは緩やかに。セイとヒースの二人は小さなスライドで足を動かし走り出した。


「兄貴、次の〝保護役〟がそろそろ来るって。帰りがけに村長から聞いたよ」

「そうなのか? じゃああと、10日くらいで来るのか」

「まあ本人次第だけど。速達馬車の手紙から逆算すると、それくらいだな」

「あんまり速すぎても、困るんだけどな」

「まあなあ。今のごちゃこちゃっとした時間もいるよな。速達じゃなくてもいいわな」


 ヒトが一人、彼らの住まう孤児院から消えたのだ。その前にも、さらにその前にも亡くなった保護役はいる。振り返る事なく前を向いて生きていくことが、公国で上手く生きるコツかもしれないが、ヒトという種族の感情は点と点を真っすぐ結んだような形はしていない。


「ミーアさん、保護役になってくねーかな」

「悪いな。無理にでも頼むもうか、悩みはしたんだけど……」

「いや、そういうつもりはねーんだ。ただそういう事も、頭に浮ぶよなって話だ」

「ん? どういうつもりだよ」

「そこか? 頭下げるのは兄貴だろ?」

「下げるんなら、お前も下げてくれよ」


 ヒースはケロリとしていて、セイは大人しめに表情を曇らせた。言葉があれば表情はいらないと言った具合で、大げさな感情も声には乗っていない。


「そうなるよな」

「なるよ」

「でもそうじゃないんだよ。何人で頼んだら断わらないかってのが、この話の空想のしどころだ」

「数の問題か? 誠意とかの問題じゃないのか? いや、違うか。そうとも言い切れないか……」

「だろ?」

「難しいな。お前は変な所に気が付くな」

「兄貴ほどじゃないと思うぜ」

「悪かったな。俺は不健全な男子だよ」

「それについては感謝している」


 二人とも含みを持たせて、へへっ、と軽く笑い合った。


「新しい保護役が来たときのやり方は、お前から見ても問題ないか?」

「皿洗いの時に誰かが様子見してって方法だろ? あれ以上はないんじゃないか? 定番だろ?」

「そうか。ヒースからだと何か出てくるかと思ったんだけど」

「うーん。今回は俺が行ったほうがいいのかなって所くらいか。兄貴は来年いなくなるし」

「まあ今回は俺が行くよ。今年中にまた変わるかもしれないから。そのときは頼むよ」

「そっか。そうだな」


 ここまで話すと二人は村の住宅区画の出口までたどり着いた。小さい村であるが農地と比べて目的に添った区域分割ゾーニングは出来ているようだ。

 二人は駆け足の速度を上げて、村の周囲に巡らされている街道沿いを走った。


 ヒースはセイの事を兄と呼ぶが血の繋がりはない。もとよりクォーサイドタウンの孤児院の中に血の繋がった者はいない。これはヒースの習慣で、他の者も似たような口調でセイを呼ぶ。


 セイとヒースは村の外周を走ってから再び村の中へ帰っていった。田舎であるからほとんどヒトは見受けられない。家屋や井戸と言ったものの方が数が多い。


 ひっそりとした住宅区画を二人は駆け抜けて、孤児院へ帰り着こうとしていた。


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