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イグニション前の速度より  作者: 紀
【序章】
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クロック・ロック Eパート

かたや、ヒトとガルフとの衝突は光術の運用形式に影響を与えていった。


 ガルフとの衝突の直前直後においては、光術の発動者は自分自身の一人だけに身体強化を掛けていた。いわゆる〝自身強化〟と呼ばれる運用法である。


 熟練の光術師の中には10人程度まで同時に光術を発動する事ができる者もいるのだが、光術の発動は同時に寿命を消費するゆえ、誰もが無作為に効果範囲に入ろうとは思わない。個人による光術とそれに伴う寿命の消費を管理するのが、1051年前の光術の運用形式であった。


 しかし、長引くガルフとの戦闘の最中、公国は光術の運用形式を見直す必要に迫られた。原因は単純なもので、ガルフと戦闘し、防衛線を維持する光術師達が消耗し不足したのだ。



 一般に、光術の効果を最大限引き出そうとすると、光術の習熟度以外にも、剣などを扱う強靭な肉体がある方が有利である。〝身体強化〟とは〝元ある体〟をより強くするということである。素地が強い方が有利であることは、言うまでもない。


 モートポレスト公国の光術師達は、習得するには方向性が異なる二つの能力を曲がりなりにも持っていた。すなわち、光術発動のための〝精神的な力〟、および、剣などを扱う〝肉体的な力〟の双方を保持してた。


 彼らはアウストラル山脈撤退戦、および、防衛戦で如何なく力を発揮した。獅子奮迅の働きでガルフと戦で命を落とし、あるいは、光術に喰われた短い生涯に幕を閉じた。


 華々しく散ったなどとは綺麗事で、公国として確かな磨耗がそこにはあった。


 困窮する事態は分業制により解決が図られた。


 防衛線維持の要である光術師の増員を目指して、公国は〝光術の精神的な力〟と〝剣などを扱う肉体的な力〟の習得を男女で分業し、習得にかかる時間の短縮を図ったのだ。


 性差に基づく分業は、女性に精神的な力の要である光術のスペシャリストとして育成し、男性を肉体的な力の要である剣や弓などのスペシャリストとして育成するとういもの。


 かつての公国を支えた〝光術師〟と呼ばれる一人二役の存在は、消耗と運用形式の整備が進むにつれて、次第に歴史の渦の中で消滅するに至った。


 そして、光術を操作する女性と肉体を駆使する男性の二人一組が、新たに兵器としての力を担うに至る。


 このような光術の運用形式はペアリング法と呼ばれる基幹制度にまとめれている。ペアリング法のメリットは分業による技術習得の簡易化や、兵員の増加に留まらない。それは次世代の子供を作るための夫婦関係の促進である。


 単純に男女一組が、対ガルフとの戦闘のために、寝食を共にして防衛線維持を努める事も、その要因足りえるのだが、ペアリング法を中心に据えた制度の周辺には、多角的に夫婦関係を促進する補助制度が入りこんでいる。


 例えば、子供達の頃から男女の距離を近づけるような〝孤児院〟での共同生活もその一環だ。


 中でも目を引くのが防衛線での滞在期間中に設けられた産前産後の休暇制度だ。防衛線でのガルフとの戦闘に疲弊した夫婦は、子を宿すことで一時的に戦闘から離れることができる仕組みになっている。


 恐怖心と享楽と愛情。混ぜればヒトの生殖行為として聞こえは悪いかもしれないが、結果はとして公国は人員不足の解消と共に次世代の人員まで確保した。


 公国のペアリング法は国民皆制度である。公国の成立過程から当然のように認められ、公国に属する民は、一人残らず防衛線での滞在を義務付けられている。特権階級による免除などない。健全な公国の民は皆、光術にさらされ寿命を減らして死ぬか、あるいはガルフに殺されて死ぬのが基礎的な命の終わり方だ。


 ペアリング法の制定後、公国の時計は動きを止めた。


 つまりは騒乱の中の安定。公国はペアリング法に基づき、ガルフと戦闘し防衛線を維持することに終始しして、時間を垂れ流しにしたのだ。滅亡もなければ、栄華を極める繁栄も無い。この事態は1000年をも超える時流に調和した。


 このおおよそ1000年に及ぶ時間、種族単位で見れば、ヒトはガルフに対するクリティカルな解答を生み出す事が出来きないまま時が流れたという事であり、個人の業績でみれば一人で時代を塗り替える創生の英傑も誕生しなかったということだ。


 星という規模でみれば、一個体が生態系の中にバランスとって息づいているという事であり、心情を察すれば、1000年続いた命脈がある種の安寧をヒトの心に広げるに至った状態でもあった。


 いずれにせよ、時をかけて、あらゆる事実が公国民に浸透し、普遍化した。


 公国は約1000年の時をかけて、ヒトのライフサイクルに、光術の影響下で防衛線を維持する事を組み込んだ。



 ※ ※ ※



 公国の西方にはクォーサイドタウンという辺境の村がある。


 この村にも〝孤児院〟があり、そして13名の少年少女が籍を連ねている。実に名状しがたい名も無き集団だ。


 男ばかりではないし、女ばかりでもない。年が違う者がほとんどだが、一組だけ同年齢の者がいる。似たような髪色をもつ者もいるが、異なる者もいる……。


 もし、彼らの言葉をそのまま借りる事ができたならば、彼らは兄弟姉妹だと言い得ただろう。彼らは年上の男子を兄と呼び、年上の女子を姉と呼ぶのだから。


 だがその観点も、一度休符を打って次節を見れば、二転三転と調子を変えるかもしれない。彼らに血の繋がりはないのだから。


 やはり杓子定規では図れないのだ。苦味を抜いたダークな関係が彼らにはある。


 確かな事は、彼らは例に漏れず公国の時間軸の中を生きている。今はまだ、公国が1000年かけて築いた安寧を生きているだけだが、やがて公国が抱えている騒乱の中の中を生きるのだ。


 この物語は公国暦1051年度、クォーサイドタウンの孤児院に籍をおく、15歳の少年セイの日常譚だ。


 彼に残された安寧はあと一年。彼は今年度をもって孤児院を終業し、公国の南方に位置する防衛線に向けて出兵する。


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