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イグニション前の速度より  作者: 紀
【夏の章】
35/82

見え…… + ないっての + グハァ = レギンス

 夕食後、庭でセイとミフィが修練をしている。

 ミフィはいつも通り石造りのベンチに座り、点灯までの操作を繰り返す。

 セイはその近くで剣を振るっている。


 キユキが杖と孤児院の中に居た者を連れて庭に出て来た。

 ミフィはセイのマトンと膝丈のスカートの上に乗せたハンカチの術印を消灯して、セイに尋ねる。

「どうしたの?」

「さあ」

 

 キユキのほうがセイの元へ歩いて近づいたが、先に口を開いたのはセイだった。

「何ですか?」

「みんなに見せてあげたいって理由もあるの。皆をだしに使っているわけじゃない。それも理由の一つ。セイ君みたいに」


 セイの答えは早かった。

「分かりました」

「セイ君の装備は?」

「この剣以外にいるんですか?」

「やるんだから実戦に近い方がいいんじゃない?。私もこの杖を使うわ」

そういうとキユキは右手に持っていた鉄の杖を少し傾けた。

「防寒着は着た方がいいですか。そこまでゴツい奴は持ってないんですけど」

「動きが制限されるから、光術なしだと防寒着はいいかな。それ以外は揃ってる?」

「剣は三本、それから盾と弓。実戦では脇差として持ち込みますが、修練での三本目は折れたときの予備です。二本以上は同時には振れないですから」

「じゃあ、予備を残して一式、全部持って来て」

 そういわれるとセイは男子部屋にいったん引っ込んで装備を整えた。公国で一般的に使用されるフォルシオンという鋼鉄の剣を腰と背中に革のベルトで提げて、鞘にきちんと納まっている事を確認し、残りの装備を整える。



 セイは手に弓と盾を持って庭の中央で待っていたキユキの方へ駆け足で向かった。

 ミフィは取り巻きの方へ移動して、そこに混ざっている。

 セイがまず口を開く。

「長くはやりませんよ」

「うん。長くはやらない。そうね。一分くらいでどうかしら?。それから吹き飛ばすから受身をとってね」


 セイは少し余分に両目を開いて尋ねる。

「……、何かおかしくないですか?」

「そうね」

キユキはふふっと軽く目を細めて笑い、それを崩さないかのように明るい声をセイに送る。

「そろそろ見せておこうかなって思ってた所」

「多分、指導要領には入ってない事ですよね」

「そうね。男の子は16でペアリングを組んで、防衛線の最前線に向かう途中で慣らしていくものだから」

 セイは地面の方で少し視線が泳いだが、軽く頭を下げる。

「お世話になります」

「ううん。これは……そうねぇ……。これはセイ君が頭を下げるような事じゃなくて、私のしたい事。気にしないで集中して」


 キユキはわずかに間を持ち、セイからそれ以上質問がないと判断して進める。

「じゃあ、いいかしら?」

「はい。射撃からですね?」

「ええ」


 キユキは息を吸い込み叫ぶ。

「ヒース君!。いーい?」

「うぃーす!。今つけまぁーす!」

 ヒースは室内用のランタンのロウソクから簡素な燭台しょくだいにたつロウソクへと火を移して、庭に置かれた弓の的の下に置いた。


「あのまとに六本矢を打って、打ち終わったらそこから開始ね」

 キユキは必要事項を告げると、駆け足でセイから距離をとり庭の隅に移動した。


 ヒースも的から離れて孤児院の出入り口にいる取り巻きの元へ移動した。


 セイは的から30メートル程度の位置に移動して、盾を左側の地面に裏返して置き、腰の鞘から剣を抜いて右側の地面に置く。

 そして、右足のブーツの外側側面に3箇所ずつ張り付いている細長い筒に手を伸ばす。筒はブーツと同様の革製で、矢を一本ずつ個別に固定し備え付けるためのの小さな矢筒である。

 セイはブーツに備え付けられている矢を一本一本垂直に引き抜き、6本を地面に並べた。ニーリングという膝をつくスタイルでの射撃準備だ。


 冥霊送月めいれいそうげつの一ヶ月前の満月である。見えないこともなさそうな的であるが、キユキの配慮である。


 セイは弓に矢を番えて、弦を引き込み、矢羽から矢じり、そしてその奥にある的をみすえる。

 セイの右手が弦がはなれ、矢が放たれる。

 1射目が貫き起こした風でロウソクの火は消える。

 

 キユキは杖を両手で地面と垂直になるように持ち詠唱を始める。

――星紬ほしつむぎの精霊よ。昔約せきやくの流れの雫、汲みてその力をお示し下さい――

 キユキは、術印を点灯まで一気に持ち込み右の太ももをスカート越しに赤色に光らせる。

 

 セイの四射目が終わるとキユキは〝増加〟をかけて身体機能を上昇させて走りす。しかし、その速度は増加をかけた割に遅かった。


 『迎撃。いや打てる……』

 セイはキユキの進行速度から六射目打てることを計算して、矢を撃ち切った。

 弓を置き、地面に座る盾と剣を素早く拾って、キユキに対して左旋回で距離を詰める。セイの盾がキユキの正面に位置する。

 二人は旋回軌道で距離を詰め合い、互いの靴底から僅かに砂塵が舞い上がる。


 互いの接触域を裏切るように、キユキは駈ける足に力を込めて、速度を一段階あげてセイに詰め寄る。

 セイに間合いの感覚を与えぬまま、キユキの杖がセイの盾をコツンと優しく叩いて二人は一度交差した。

 

 背中越しに声を出したのはセイからだった。

「卑怯」

 キユキは普段とは違い分厚く低い声を出す。

「防衛線だ。なめるな」

 セイの耳の中でぶつかるように響く。


 間髪、二人は共に振り向き、まず視線が交差する。キユキの目は光術の影響で瞳孔が広い。冷さが混じるその瞳はセイの動きを確実に捉えることを可能にしている。


 セイは接触域にて剣を斜め上から振り下ろすが、キユキはこれを杖で弾く。セイの剣は右腕ごと上空に強く投げ出される。

 キユキは弾いた杖を逆に振り、再び弾くような軌道でコツンと優しく盾を軽く叩く。


「盾は飛ばした。外せ」

セイは今だ身についている盾をその場に落として素早く肩の剣を抜き、二刀流の構えをとる。

 向けられた二つの刃をキユキの眼光が射抜く。

「術印無しでは厳しかろう。一刀しまえ」

セイは剣を鞘にしまった。



 ロックが引き気味に言う。

「ダセェ」

 ヒースが呆れたようにつづく。

「何やってんだ兄貴は……」

 ミフィが庇うようにロックとヒースに訴える。

「あっ、あれがかっこいいんでしょ!」

 三人は不自然なセイの動きについて、それぞれ思いの丈を口にした。

 〝テイカー〟と〝ドロワー〟の違いを加味してヒースがミフィに補足する。

「いや、でも二刀流は木剣で修練するのが普通だ。軽いから光術を発動した時と動きも近い」

「ふん、夜の修練のときは鉄でやってるときもあるんだから」

「まあ、状況が悪いって事だよ。あんだけ早いんだから、早い動きの修練をした方がいい」



 セイは両手で一刀の柄を握り締めた。セイの剣戟けんげきは盾持ちの初撃より鋭さを増したが、キユキは杖の腹で容易く弾いて、鈍い金属の接触音がつんざくように響く。

 キユキは時に強く、あるいは、時に弱く、セイから繰り出される剣を弾き返す。光術の力の上限と下限を教え込むように、セイの打ち込みに付き合う。


 そして、セイから左の横一閃が来る。キユキ受け流そうか迷ったが〝増加〟を掛けて無理やり上に弾き返した。

 セイは上に弾かれた剣を、今一度、両手で握りなおして振り下ろす。

 キユキは頭上高く、地面と平行に両手で杖を構え、膝を落としつつ衝撃を和らげながらセイの刃を受け止める。

 セイの刃は布団押し込むかのような手ごたえの無い衝撃で杖の上で、スッと止まる。

 キユキは、すぐさま両手をスライドさせ、杖にのったセイの刃を両手で挟み、二人は鍔迫り合い(つばぜりあい)のようになった。


 セイは背と腹にも力を込めて腕ずくで刃をキユキに近づけようとするが、ミリも動かない。

 キユキは数秒付き合い口を開く。

「弟よ。刃が食い込みすぎたと思え。剣を捨てる所だ」

セイは剣から手を離して、バックステップをとりつつ背中の剣を引き抜いた。

 セイは左横腹から下段に構え、キユキはセイから目を離さず、奪った剣を、そっと地面に置いた。


 セイは再びキユキに剣を振るが、斜め上から振れば斜め下から杖が出る。斜め下から降れば斜め上から杖が振られ、剣と杖は十字を作るようにぶつかる。

 弾き返す杖は無理なく止まるが、剣は弾かれ後方に流れている。

 キユキは後出しで弾き返しているのでセイの懐は空くが、そこに追い討ちをかけなかった。


 しばらく、剣は杖に残響と共に弾かれ、打ち落とされる様がつづき、セイは再び真上から剣を振り下ろす。

 二度目の挙動をキユキは低い声で咎める。

 「愚か」

 キユキは再び剣を捕まえるために杖を水平に構えて衝撃を和らげながら受け止める。セイは剣が杖に接触すると直ぐに腕の力を抜いて、重心を落として、右足の蹴りで膝を狙う。

「なるほど」

 キユキはバク宙で後ろに下がった。


 着地の隙を逃さずないようにセイは詰め寄り、左の腰の鞘から剣を抜くような横一線の刃の軌道を作り始める。

 目論見はキユキの回避領域の遮断だ。


 空中で回転するキユキは地面に降りつつ、空気抵抗を受けてスカートがふわりと舞う。キユキは右手でスカート越しに太ももを軽く押さえて、赤い光その奥から強くセイの目に届くの防ぐ。

 そして、着地と同時に両脚を脱力し、靴底の横に滑らせながら開脚する。

 両脚は腰の真横あたりまで広げられ、キユキは地面にピタリと張り付く。

 さらに刃から逃げるように上半身を左脚の方へ倒して地面に近づき、くわえて体の上方側面に地上から上空に昇るように杖を添える。


 セイの左から薙ぎ払った剣は杖のハラの上を滑るように駆け上がり、刃は上空へと受け流された。

 即座にキユキは杖のカカトで地面を強く弾いて体を空中に跳ね上げる。

 更に、コマのようにクルリと一回転して、二回目の回転に入り始めると右足を体の横に伸ばして上段回し蹴りのようにセイの側頭部めがけて、打ち出す。


 あえて、二回転の初動から動きを見せたキユキの脚から、セイは蹴り軌道であることを見抜ぬく。上半身をめい一杯横に傾けてかわして、再び着地をさらすキユキを真横から切りつける。

「終わりだ」

 キユキの跳躍は加減されていた。セイの刃が届くより先にキユキは地表に降り立つ。杖を両手で背中に回して、水平に構え、セイの刃に杖のカカトを合わせて引き込み衝撃を封じる。

 

 受けるのでもなく、弾くのでものかく、流すのでもなく、緩衝する。光術をもって初めて成立する防御だ。セイの刃は杖のカカトで綿を殴ったように止まり、キユキは即座に刃の下に杖を仕込んだ。上方に強く弾き返す。セイの盾を弾いて以来の、一の動作に二の動作を重ねる動きだ。


 セイは強く握る剣を離すことはなかったが両腕ごと上空に跳ね返され、崩された体制の中でキユキの三つ目の動作を見る。


 キユキは折りたたむように右膝を上げてから、セイのがら空きの胸に右足の靴底をピタリと置いた。

 スカートが翻っている。


「!」

「後ろ受身だ。備えろ」

「クっ」


 足裏で胸を押されたセイは少し浮き上がり後ろに飛ばされたが、言われた通りにアゴを引くように首を丸め、尻と背中と腕で衝撃を分散し地面に倒れた。


「えい♪」

 地面で仰向けになっているセイの腹の上に、キユキは尻から飛び込む。

 セイが

「グゥッ」

とか気色悪い声を上げる。

 

 キユキの目はジトッとして眉が歪んが、三度目の瞬きで正気に戻る。そして十分に微笑み、セイに伝える。

「ね? 防衛線で生き残るのは大変な事なの」


 先の掛け声からキユキの声は普段のものに戻っている。キユキは左の手のひらをセイの顔の横の地面に着き、右手でセイの両頬を掴み、唇の方へ頬肉を寄せてひよこ口を与えた。

キユキの自術印は光を失っている。


 『今なら押しのけることもできるけど……』

 セイは思いつつも術印が消灯しているからそれをしようとしない。が、思いやりの精神で少し動くくらいではキユキは退かない。


 キユキは微笑みを絶やさずルンルンで、そしてセイは間抜けなひよこ口だ。


「残ってもいいのよ?」

「ひょれはひょれてふ(それはそれです)」

「分かったらうなずいて」

「ひょれは(それは)」

「何?」

「ちょっちょ(ちょっと)」

「うなずけば終わるから」

「きゅちが(口が)」

「急いで?」

「……」


 ミフィはペンギンの両翼のような位置で両手を握り声を荒げる。

「キユキさんいつまで乗ってるの!」

 キユキはセイの腹の上に座り、覆いかぶさるような体制であったが、上半身を垂直に伸ばして、残念そうに天を仰ぐ。

「はぁ、時間切れかー」

 

 それから、キユキは片足ずつ立ち上がりセイも直ぐに立ち上がった。

 二人は服をパンパンとはたいて、地面に落ちている剣と杖と盾を拾いながら話した。

「突きも使ってよかったのに」

「途中から大丈夫だとは思ったんですけど、最初に使わないって決めてましたから」

「そっか。気を使わせたのね」

「いえ。切り替えれなかっただけです」

「もう少し打ち合わせしておけばよかったかな……」

「口調が変わるのは光術の影響ですか?」

「ううん。雰囲気づくり。あの距離だとセイ君にしか聞こえてないと思って」

セイは自分の手を一瞥してからキユキに伝えた。

「生き残るのが大変だって事は、肝に銘じておきます」

「そっか。やっぱりダメか」

キユキは残念そうに笑いセイは俯いた。


 ルネが目を輝かせてキユキへ駆け寄る。

「すごくツヨツヨです。ドロワーはそんなことも出来るようになるですか」

「出来ない人がほとんどだし、出来なくてもいいの。ドロワーは防衛線では逃げるのよ。逃げながら光術を強くテイカーに作用させるのがドロワーの戦術。まぁ、そんな事を言ってられない時もあるから、光術の修練に疲れて頭がぼーっとするときは体を動かしておくのもいいかもしれないわね。それと……」

 キユキとルネの二人は女子年長組の方へ移動する。


 セイはルネの様子を横目で見ていた。そうしていると三人の弟がセイに合流し、まず四男のギーが元気よく伝える。

「セイ兄ちゃん、あまり落ち込まないで。的には四本しか当たってなかったけど」

 三男のロックの声も少し高い。

「強かったなぁキユキ姉。なんか動きがポクなかったか」

 二人は興奮して活気づいていたが、ロックは忘れる事無く持っていた布をセイに渡した。

 セイは布を受け取り、剣を拭きながらが答える。

「ああ、あれでも大分気遣ってくれてたみたいだけどな」

 次いで三人の弟にまとめて修練の検討に入る。

「キユキさんのどこが凄かったか分かるか?」

 

 12歳のヒースが口を開こうとする。

「ス……」

「ヒぃースは黙れ。多分、正解だ」


 8歳のギーがすかさず口を開く。

「最後の杖の細いトコで刃を受けたところ」

「そうだな。杖のカカトで刃を受けるのは、〝光術〟があって許される動きだな」

 セイは穏やかに答える。


 セイは続いて10歳のロックに向き直る。

「ロックは?」

「あの又裂きでかわした所だろ?」

「理由は」

「それは、あれだよ。あの動きはおかしいんだよ」

「まあ正解だ。あれは自然落下の回避だ。〝光術〟は関係ない。剣戟けんげきのタイミングを見極めないと受け流せない。あれはキユキさんが本当に自分の技量でかわしたモノに近い。最悪、タイミングがずれてても、光術で何とかしたとは思う。だから逃げ道のある保険をかけた動きでもあるんだけど……、ロック、言ってる事は分かるな?」

「分かる」

 それからロックは少しボーっと視線を上げて空中を見つめる。

 セイはロックのその独特なスタイルが記憶か映像か、いったい何を引き込んでいるのかは分かっていない。その様子の意味を尋ねることもしない。ロックの剣はA評価で、何か余計な事を言いすぎないように常々注意している。セイはロックの様子を見て静かに微笑むだけだった。


 ヒースが忘れずに長男のセイを茶化す。

「やっと兄貴っぽくなったな」

「いや……、ずっと兄貴っぽかっただろ……。それに、お前ナニ言おうとしたんだよ」

「だって、兄貴いちばん焦ってたじゃん」

 セイは最後にひときわ小声でヒースにぼやく。

「ミフィはニーソだ。仕方ないだろ……」


 ミフィの脚部は基本的に隠れている。膝丈のスカートが絶対領域の存在をかき消している。


 孤児院での洗濯は年長組はそれぞれ自ら行なう決まりだ。年少組は保護役の手助けを借りながら洗ったりする。井戸で洗おうが川で洗おうが自由であるが、朝からは温泉も利用でき、冬季では特に重宝される。


 孤児院の物干し場としてまず利用されるのが孤児院の庭だ。太陽光を十分に活用できる南向きのスペースが用意されており誰でも使用できる。そして、孤児院の敷地の隅の方には十分な高さと遮蔽性に優れた塀に囲まれた吹き抜けた空間がある。当然、男女別で二箇所あり扉もついている。男子の扉の鍵はその部屋の中にあるという杜撰ずさんな管理体制だが、女子の方はキユキかミフィの首にぶら下っている。


 屋内にも専用の物干し部屋がある。雨天が続いたときなどに利用され、渇きが悪い時は暖炉に火を入れて乾かしたりもする。火事の怖れがあるのでよっぽどの事がないと使わない。こちらは男女兼用になるが、男子が干して、女子が干す、という順序で隠したいものは隠せる。引き上げる時も似たようなものだ。鍵はやはりキユキの首かミフィの首にぶら下がっている。二重のセキュリティーで個人のプライバシーは守られている。


 男子はもっぱら庭のスペースを利用して干している。ミフィは隠す必要な衣類を除いて、男子と同じように干している。特に、靴下は不要な衣類に分類され、隠すことなく渇きのいい庭のスペースでヒラヒラと風になびいている。妹達も似たようなものだ。水を吸い重くなっている洗濯物を持ちは運ぶ負担を減らしている側面もある。少なくともその手のものはセイの目に自然と入る。


 キユキの私服は一切合財、塀の中だ。キユキは孤児院の皆のスペースの邪魔をするのも悪いと思い、一番空いている所を選び定式化しただけだ。


 ただ、幼子達がそのロングスカートの裾で戯れる事もあり、靴下の概念からいくぶん外れた抜け目のない黒のレギンスのような衣類を夏でも着用している。自身の煽情性の自覚というより、はしたなさが出るのを嫌った形だ。なお、キユキは男子が同年代の女子に、その手の感情が向く事を咎める事は無い。行き過ぎると咎めるが、公国の次世代事情に則している。細かく行き届いたサービスでキユキは日々の生活を支えている。


 セイはそのような日常と少しだけ遠い。孤児院での最後の一年は防衛線で生き残った未来を体感させるため、学問のかわりに孤児院外での職能訓練が導入されているからだ。キユキのスカートの中まで知らないのは無理もない。


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