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イグニション前の速度より  作者: 紀
【春の章】
31/82

終春の節 Aパート

 翌日。


 セイは当番である夕食後の皿洗いに向かい、取りとめのない会話をやり過ごしてからキユキに尋ねた。


「あの、教えてもらいたい事があるんですけど」

「? なに?」

「俺とミフィが同じ場所に出兵する事ができるかもしれないって話なんですけど」

「セイ君はヒース君から聞いたの?」

「はい。だから幾つか聞きたい事があるんですけど……」

「それは大切な話になるわね。一応もう草稿は作ってあるから、ちょっと待っててくれる? すぐに取ってくるら」


『そうこう? 草稿か?』

 セイはキユキがその場を離れてから少し怪訝な顔付きになった。


 キユキは保護部屋に行き、封筒手にして厨房に戻ってきて、それをセイに手渡した。

「さらっとでいいから一通り目を通してくれる?。後で大事な事は補足するから」

「わかりました。とりあえず読んでみます」


『事態は進んでいるのか?』

 セイは封筒から紙を取り出し文面を確認する。一目みてキユキの言う通り表面をなぞるだけにした。キユキの話を聞いてから見直した方が早いと感じたからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

● 提案書

[製作者] 

  キユキ・エシュリスタ


[提案内容] 

 遠隔地出兵者のためのペアリング法の一部改正


[提案の目的] 

 遠隔地孤児院からの出兵者にも、都会の孤児院の者と同様に、一回の希望ペアリングの機会を設けること。


[注記]

 遠隔地孤児院の年齢を異にする男女のうち、先に出兵した者を甲とする。後に出兵する者を乙とする。    


[制度改正の内容]

 甲と乙は異性とする。

 甲と乙はそれぞれで孤児院の同期が6名以下の者とする。

 乙による当制度の利用申請の提出により、甲と乙は以下のようなペアリングの為の優遇措置を受ける。

 甲は現行のペアリング法に従い、ペアリングを行なう〝招集所〟に向かい、ペアを組み、乙の到着を待つ。

 甲は乙の出兵に時期を合わせてその時に成立しているペアリング(甲の先行ペアリング)を相方の同意なしに解消する権利を持ち、さらに乙とペアを作るために乙が向かう〝招集所〟に移動する権利も持つ。

 上記により、甲と乙は既存のペアリング法に基づきペアリング義務を果たす。

 乙の申請中、および、招集中などに生じる空白期間において、甲が死亡した場合、乙は既存のペアリング法に基づきペアリング義務を果たす。

 その他、あらゆる理由において、甲が乙に合流しないときも、乙は既存のペアリング法に基づき直ちにペアリング義務を果たす。

 本制度はX期の訃報ふほうにおいて甲が死亡していないことを確認してからYケ月以内に乙が申請することで利用できる事とする。(XとYは手続き上で無理のない月を選択して下されば幸いです)

 甲、乙としてのこの制度の利用回数は、乙の出兵時の一回までとする。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 セイは一読してからキユキに向き直った。

「すみません。ここまでやって貰ってたんですね」

「ええ。ヒース君に聞いてから少しくらい役に立ちたいと思って、とり合えず作っておいたの。ええっと聞きたい事があるっていってたけど、先に私のほうから補足するわね」

「お願いします」


「ペアリング義務とか、その辺の専門用語は大丈夫かしら」

「はい、大丈夫です。公国民は全員ペアリングして最低8年間は防衛線の維持に努めるって事ですよね? 細かい話はありますけど」

「そうね。大枠はそれでいいわ。じゃあ、まず、この提案書の立場について話すね。この提案書の立場は田舎の孤児院のペアリング事情を都会の孤児院と同程度までもって行く事。公国側の立場は、その見返りとして、クジ引きで作ったペアじゃなくて、生存率の高い〝希望ペアリング″を作ってもらう事ね。裏の事情としては当然、次世代の子供を作ってもらうって事も含まれるわ」

「一石二鳥ってやつですか?」

「うん。そういう事。WIN―WINの関係ね。希望者同士のペアリングが、継戦意欲とか次世代の子供のためとか、何かと一番効率がいいのは統計で明らかだから」

「はい。見たことはあります」


 二人は目を合わせて互いに理解が及んでいる事を冷静に認識した。

 キユキの細くが続く。 


「次ぎは、後から出兵する人の申請が一方的に通るの。これは手続きを単純にするためね。メンドくさい事は嫌われると思うから。だから申請についてはセイ君は特に何もする事がないの。あと実はセイ君の出兵に制度を間に合わせるのが難しいかもしれないから、確実に整備して間に合わせるならこの形がいいんだけど……それはいい?」

「はい。大丈夫です。俺とミフィ以外にも、防衛線での〝滞在期間〟を一緒にすごしたい奴は、どっちかが孤児院を修了するまでに相談しておけって事ですよね?」

「ええ、その通りね」


「これを読むと、この孤児院の子供達が全員同じ中継基地にいけないように思うんですけど……」

「その通りね。防衛線の同じ中継基地で滞在期間を過ごす事を保証しているのはペアリングした二人まで。これは都会の孤児院の子達も同じだから無視するのは良くないの。だから、例えば、セイ君が作っているペアとヒース君が作っているペアが友達感覚で同じ中継基地に行く事までは配慮はできないって事なんだけど……」

「分かりました」


『それは当然の事なんだけど……そこまでとなると……』

とキユキは思った。しかし、キユキのほうもセイの愛情が何もミフィに限定されているわけではない事は分かっている。孤児院の皆と会う事ができるならば叶えてやりたいとは思っているが、それは出来ない。


 キユキは丁寧に説明をする事で理解を求めた。


「一応都会の子を含んで補足すると、都会でも田舎でも16歳のヒトはまず、公国内に点在する〝招集所〟へ向かう。都会の孤児院であっても保証されているのはペアリングの申請をする招集所を一致させる事まで。そこから先はもうペアを単位としてヒトは扱われる。学問のときは〝兵はペアを最小単位とする〟なんて言い方になってるけど、この辺は大丈夫かしら?」

「ええ、大丈夫です。要するに、同伴を一人の異性において保証する。でも、それ以外の人と中継基地とか対面できるかは保証しないって事ですよね?」

「ええ。その通りね。要するに恋人同士とか夫婦の仲を引き裂くような事はしない。だけど、男の子同士の友達とか女の子同士の友達が〝一緒にいる〟という事には配慮はないの。ここで言う配慮がないって言う事は〝絶対一緒に居させない!〟みたいな事はしないって事で、〝あなた達、男の子同士の友達かどうかなんて、ペアの配置を考えるときには、まったく気にしてませんよ〟って事ね」

「はい。それは大丈夫です」


確信を得ているようなセイの声色だった。

『ん?』

ではなぜ、当然の事を聞いてきたのか……。食い違ったような認識を覚えてキユキは、念のために周辺事情を余分に話す。


「一応、制度に組み込めない理由を補足するわね。招集所で作られたペアは、防衛線の中継基地のペアの不足状況に応じて割り振られる。ペアの不足は戦死者と大規模戦闘の予測とかから来る。つまり人間だけじゃなくてガルフの都合からも引き起こされるから予測が立ちにくくて柔軟に対応する必要がある。だから防衛線の同じ中継基地に行く事は、都会の孤児院の子供達でもペアを越えては認められていないし、制度に組み込む事ができないって事ね」

「会えないって事は聞いてましたけど、そんなにバラバラになるものなんですか?」

「防衛線の中継基地の数は2600くらいで数の問題があるし、戦闘によるペアの消耗もあるし、移動もあるしで、どうしてもバラバラになっていくと思う。私も本当の意味で全員がそうだとかは分からないけど、私達の同期の20ペアは前線に近づくにつれて全員分かれたわ。1ヶ月以内にね。それから〝滞在期間〟が終わるまでは誰とも会ってないわね」


「制度の再利用ができない理由を聞いてもいいですか?」

「それを認めるとペアを失った事があるヒトの心象が悪くなるからね。原則はペアを失ったら直ちにペアを失った者同士とかで、ただちにペアを立て直して防衛線の維持に努めることだから」

「……」

「……」


『どうやって聞くべきか……』

 セイは視線を書面に落として少しの間考えていた。


「じゃあ、ありえない事なんですけど、下手すると俺達は2回、希望ペアリングできる気がするんですけど、やっぱりそれは無いですか?」

「ええっと……」

「だから、一目ぼれみたいに、俺が誰かを招集所で好きになって運よくペアリングできて。その後で、ミフィがこの制度を利用して、俺にペアリングを申し込むと、可能性として二回、希望ペアリングを作る機会は有るように思うんですけど」

「そうねぇ。……。セイ君はそんな事するの?」

「いえ。しませんけど。招集所ってどういう感じなのかなって」

「そうねぇ。都会の孤児院の子も将来をしっかりと見据えているような子だと、孤児院でもうペアの相方は作ってるかな。招集所まで追い込まれてから希望ペアリングする子もいると言えばいるけど、それはもう、元から希望ペアリングだったってようなヒト達ばかりね。セイ君が言う、一回目の機会は在らざる物というか、都会の子にとっては、もう希望ペアリングとは呼べないような物で……」


『要するにペアがいなくて、招集所で絶望している中で、一目ぼれとかのん気な奴はいないって事か』

 言葉を濁したキユキの言いたいことをセイは理解した。


「わかりました。思ったより考える事が多いんですね」

「私が書いたものも、まだ中途半端なものかもしれないから、もう少し書き直してから、一度、同期の子に見てもらおうと思ってるの。写しを封筒の中に入れて隠しておくから、そうね……もう少し直したいし……、隠し場所はまた今度でいい?」

「はい。大丈夫です。一応、ミフィに相談はしますけど、この提案書、出すものと思って準備を進めてくれませんか?」

「え?」

「お願いします」

「ええ、それはいいけど……」


 淡淡と伝え喜んでないセイの様子からキユキは声色と共に戸惑いを滲ませた。


「セイ君はミフィちゃんとペアリングするのは嫌なの?」

「そうですね。ミフィの技量を考えれば、本当は俺より頼れるA判定の奴と組むか、スティール・テイカーと組んだ方が生存率が高いかもしれないな、とかは可能性としては考えますね」

「でも、ミフィちゃんがセイ君を守れるくらい強かったら、それでいいんじゃない?。ペアってそういうものよ」

「はい。それならそれでいいと思ってるし、多分、ミフィもそう思います」


「ええ、でも、そうだとしたら、なおさら、話が見えてこないんだけど……」

「ミフィの事は俺にとっては少しどうでもいい事なんです」

「どうしてそういう事言うの。ミフィちゃん、セイ君の事、大切に思ってるんじゃない?」

「そうだとは思います。それに俺もミフィが大切です。でも、この提案書でまず考えないといけないのはヒースとカリナです」


「ヒース君とカリナちゃんは仲よさそうだけど、何か問題があるの?」

「何も問題ないから、もう少しそっとしておいてもいいんじゃないかって思ってるんです。今のヒースはまだ少し迷っていますけど、このまま行けば、この提案書を使ってカリナと一緒に出兵すると思っています。だけど、この提案書は、何ていうか、少し表向きが強すぎるというか、生々しいというか、一気に次元が変るって言う感じで、何か、いきなり好きだって事を告白しているみたいなのもで、それの邪魔をするのは、良くないんじゃないのか、とか考えますね」


「そっか。だとしたら私、セイ君とミフィちゃんの邪魔をした事になるのかな」

「いえ、俺はこの提案書は無くしていいものだと思ってません。ミフィも多分同じ事を言うと思います。結局誰かがキユキさんに頼む事になりますから……、すみません、言い方が悪くなります。キユキさんの寿命が平均より早く来たらって考えると、俺としてはなるべく早くその提案書の話を進めてもらいたいんです。俺じゃ話しにならないし、俺の周りにもキユキさん以外でその話しを進める事が出来る人がいない気がしています」


『ああ、そういうことね』

キユキは表情には出さず納得し真剣にセイと向き合う。

「うん。分かった。じゃあ、この提案書の事は他の子にも内緒にしておいたほうがいいのね?」

「そうしてくれると助かります。ミフィに俺のほうから直ぐに話します。ヒースには時期をみてからになりますけど、やっぱり俺から話そうと思います」

「ええ。分かったわ」

「よろしくお願いします」


 セイはキユキに頭を下げてから食堂を後にした。



《終春の節 11.20》


 セイとキユキが提案書の話をした直後。


 セイは食堂をあとにして、夜の孤児院の庭で日課の修練をする。剣を振る側には当然ミフィもいる。二人はいつものように過ごしてから温泉に向かい、そして帰ってきて、就寝のために男子年長組の部屋と女子年長組の部屋に分かれた。


 しかし、ベッドに納まったセイがすぐに眠る事はなかった。皆が寝静まるのベットで待っていた。時間が進み均一な夜の闇が訪れ、セイはこっそりと図書室に向かった。


 セイは図書室に入ると示し合わせたように部屋の一画に備え付けられている暖炉に向かった。セイは腰を曲げて箱に入ってまとめられているわらを片手で掴み、暖炉に並べて種火を落として、火を灯す。


 図書室の暖炉にまきなどはくべられておらず、セイの手によって藁の火はロウソクにだけ移された。藁の火は暖炉で燃え上がり、すぐに消えた。夜中の図書室に残された明りはロウソクからの炎だけになった。


 『一人で行くか。でも、それだとしたら、提案書を出してもらうのは間違いだったって事になる。早計だったか? いや、それはない。提案書を出してもらうのは間違いじゃない。最悪、俺とミフィの事は無視できる。でもヒースの事はほっとけない。俺とミフィがペアリングしないってなるとヒースも真似をする可能性がある。そこは間違いじゃないはずだ……』

 

 セイはロウソクをソファーの前のテーブルの上に置く。そして図書室の本棚の一部に備え付けられている万年筆取り、さらにメモ帖のように重ねられた紙を一枚だけ取り分けて、図書室のソファに腰を下ろす。


 セイはソファの前のテーブルの上に紙を置き、クォーサイドタウンの孤児院のペアリングとして起こりうるパターンを万年筆で全て書き出した。


 セイは紙を両手でもって見つめ、全てのパターンの場合から一つ一つに焦点をあてつつ考える。


『単純な話 現状このパターンが最大だ。順当に考えるとセリアが一つの境界になっている』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 防衛線で一緒に居られる時間の総和が42年。

                      

 俺    15歳:ミフィ 14歳(7年)

 カリナ  13歳:ヒース 12歳(7年)

 ルネ   11歳:ロック 10歳(7年)

 アキット  9歳:ギー   8歳(7年)

 セリア   6歳   

 ラルフ   5歳:クロエ  5歳(8年)

 メイ    4歳:レオ   2歳(6年)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 セイは、また別のパターンに焦点をあてつつ思う。

『女子が一人多い……。犠牲はミフィか? 本末転倒だな。俺とカリナのペアとかありえないし、一緒にいられる期間が減る』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 防衛線で一緒に居られる時間の総和が40年。

 

 ミフィ 14歳

 俺   15歳:カリナ  13歳  (6年)

 ヒース 12歳:ルネ   11歳  (7年)

 ロック 10歳:アキット  9歳  (7年)

 ギー   8歳:セリア   6歳  (6年)

 ラルフ  5歳:クロエ   5歳  (8年)

 メイ   4歳:レオ    2歳  (6年)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 セイは、また別のパターンを見つつ冷静に分析する。

『来年にかけるのか? でも、クロエとラルフは同い年。この孤児院で初めての同期のペアリングを期待したい』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 防衛線で一緒に居られる時間の総和が40とX年。


 俺    15歳:ミフィ 14歳(7年)

 カリナ  13歳:ヒース 12歳(7年)

 ルネ   11歳:ロック 10歳(7年)

 アキット  9歳:ギー   8歳(7年)

 セリア   6歳:ラルフ  5歳(7年)

 クロエ   5歳:レオ   2歳(5年)

 メイ    4歳:新たに来た男子(X年)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『でもこれは俺の考えだ。それは無視するとしても、何より、あいつらが何を考えているかが重要で、それは今は分からない。俺が意思疎通できるのはギーが限界だ。6歳以下にオママゴトとかカブトムシとか食欲以上の何かがあるのか? いや、無いだろ。俺とミフィだってそんなでもなかった。いや、俺達と違うかもしれない。何か最近は熊が女の子を追いかける歌とか歌ってるし……』


 セイは年少組の幼子達が歌っている姿を思い出した。その姿は過去のセイやミフィ達にはないものであった。以前の保護役達は歌う事が無かったのだ。セイは幼子達が口ずさんでいる姿を不思議に思い、ミフィに尋ねたら、すぐに出自はキユキだと教えてくれた。

 

 セイにとってはキユキの存在は遠い。しかし、そうでない者達は確かにいる。年少組の幼子達が特に影響を受けている。キユキの一番側にいる者達が、この提案書によって一番被害を被る可能性は無きにしもあらずだ。セイはそこに気が付いてた。


『悪気も何もないんだろな。だけど、この事実に気が付いたときには、それはそれで厄介な事になりそうな気がしないでもない……。いや、これは一端置いておくか。流石に今考える事じゃない』

 

 ええっと、といいセイは再び紙に視線を落とした。


『さっきペアリングだと仮の最大値は得られるけど、来年、男子が来るかどうかは今は分からない。それに、来年男子が来たからと言って、再来年とかその先とか、他にも不確定要素はいくらでもある。この通りにはならない可能性も高くて、この仮定は無責任だ』


 セイは、今まで取り上げていない、残りのパターンを全て見つつ一つ結論を下す。


『女子の一人が犠牲になれば片付く。他のパターンは最初のパターンより一緒に居られる期間が短い。無視していい。とりあえず、この糞みたいな状況から考えないとダメか……』


 セイは更に思考を巡らし展開していく。


◇ ◇ ◇

 

 そもそも、ルネ以下が不確定すぎる。

 

 俺が知ってる恋愛感情はミフィとヒースだけ。かろうじてカリナも問題ないとしても、俺とミフィ、カリナとヒースの2ペアまでだ。


 じゃあ、恋愛感情がないからってペアリングしないって事か。いや、それはない。これも単純な話だ。俺とミフィに恋愛感情がなくて、ただの仲のいい友達だとしても、俺はミフィとペアリングしたいと思う。


 これはみんな似たようなものだろ……。いや、分かない。自分の考えが孤児院の皆と同じって考えるのはよく無い。先行する奴と後から来る奴の心の距離は、どれだけ保証されてるんだ。


 いや、それは、重要な問題なのか……。


 都会の孤児院の強いルーキーはペアの相方を連れている。招集所で出会う都会側が心変わりするとは思えない。心変わりをしたとしても、強くて心変わりするような奴とか一番信用できない。ヒースも言ってた事だ。納得できる。16年、誰も愛してない奴が、いきなり命がけで誰かを守るっていうのは、都合が良すぎる仮定になる。これは強さだけの問題じゃない。


 だから、先行すると奴と後から来る奴の心の距離みたいなのは、近い状態が保たれる可能性が高い。高いだけで、分からない事かもしれないけど……。


 ちょっと待て。恋愛感情が絡まるなら、これは先行する奴と後から来る奴、この二人の問題だ。二人がペアリングするかしないかの約束についても同じだ。それは、二人の問題としても最悪許される。


 だから本質はここにある。


【俺がミフィとペアリングする。そうすると、セリアに憎しみを残す】


 いや、違う。


【俺がミフィとペアリングする。そうすると、セリアに憎しみを残す可能性がある】


 多分、これが一番、現実味がある。派生的に、セリアが憎しみを持ったとして、孤児院内のいざこざの元になる〝可能性がある〟。許されるかもしれないし、許されないかもしらない。


 これは合ってる。いや、違うか……。俺はとりあえずセリアの事だけを考えたけど、問題の焦点はぼやけたもので、セリアの付近の未来にある。ここのセリアはとりあえず、問題の焦点となる時期なだけであって、セリア近くの、アキット、ギー、クロエ、ラルフあたりが問題の焦点だ。 


【俺がミフィとペアリングする。そうすると、将来誰か一人で出兵する女子が出てくる】


 これが結論だ。……選ぶのか。分りきってる。


 全員犠牲になる必要は無い。


 この制度は気に入らなかったら使わなければいいって話しでもある。

 そして、使う機会さえ与えられないまま、この孤児院を修了する奴が出てくる。

 俺達の状況は変わっていないとは言わない。でも、この制度は俺達を何も変えてないとも言える……。言い過ぎか。でも、少なくとも光と闇がある状態に変わる。全部に都合がいい話とはいかない。

 

 まとめて騒動を避けるなら、制度自体を葬ればいい。そうすれば平等だ。もとの平和な田舎の孤児院だ。みんなバラバラだけど、みんな生きて帰ってくる事を誓って出兵すればいい。


 この考えかたが一番、愚かな選択だ。

 

 だけど、俺が一番、不平等に愛されている。俺とミフィが、もし都会の孤児院にいたら年も違うし強さも違いすぎる。俺は見向きもされなかった。俺が立っているのは田舎の不平等の上だ。それくらい分かってる。メイドはいつだってご主人様が好きだ。俺はその手の不平等に愛されている。


 だから、俺がこの不平等を終わらせるべきだ。田舎であるからペアリングできないという不平等は終わらせる。この考え方は間違っていないか?。むきになったか……。冷静だったか……。俺はみんなの為に選べたのか?。みんなの為?。


 いや、違う。いや、違わない。


 これはセコい考え方だし、正しい考え方だ。俺はセコい考えと正しい考えが一緒になったものを選んだ。俺は俺が一番有利なものを選んだ。


 ヒースとカリナのペアリングの前に、俺とミフィが前例になるという方法を選んだ。


 糞。俺は都合のいい位置にいるな……。

 ダメだ。落ち着け。最後まで思考を回せ。俺の事はいい。どうでもいい。いや、これも違う。ヒースは俺とミフィの為にあの提案書の話しに行き着いた。俺がヒースとカリナのために提案書の制度を使うっていう事を知ると、ヒースには良くない。恩着せがましい。これは小さな問題だけど見逃せない問題でもある。だけど、これは何とかなると思う。今は脇に置く。


 俺はミフィとペアリングしたい。


 ただ、俺が提案書だけを通して、セリア周辺のためにペアリングしないってのは、提案書を通す限り、セリア達から見て何も変わらない。提案書を通す限りそれは小細工になる。それは反感を買うだけだ。


 セリア……。


 どうなんだ。6歳くらいの恋愛感情は。知るわけ無い。セリアに聞きに行くか。馬鹿らしい。いや、今は馬鹿らしいことも考える。俺は馬鹿らしく考えないとダメだ。だけど、〝薄い恋愛小説〟にも6歳の恋愛感情とかはない。あるけど無い。全部幻想だ。あれは。年も書いてないし、書いてても奇跡の18歳みたいな感じだ。


 いや、幻想じゃない。忠実かもしれない。でも、少なくともここの孤児院ではありえないし、ありえなかった。俺とミフィでさえ、ただの友達だった。せめて、後2年くらい過ぎていれば違ったか?……。


 じゃあ、例えばセリアに聞いたとする。聞いた答えが、ギーの事が好きだと仮定する。で、そこから先、本当に好きなままなのか?。クッキーが好きとか、そういうレベルじゃないって事を誰が保証するんだ。保証が馬鹿らしい。好きならそれでいい事だ。どんな形でも。そこに圧力をかける方が馬鹿らしい。


 クッキーも味が極まる時は〝流通所〟で人気品目になる。本当に旨いクッキーってのは世の中にある。今からそうなれってのは馬鹿らしい話で、いつかそうなれってのも押し付けだ。自由にさせてやるのが一番いい。


 だから、今のアキットとかギーとか年少組に判断させて、決めさせるって事が、そもそも罪な行為で、子供に約束させて守らせる事、これが罪な行為だ。そいつらがいいって言ったから俺達はペアを組む。そいつらがダメだって言ったから俺達はペアを組まない。これは責任逃れ。罪が許されるのは、その世界でその子供が生きるためだけだ。

 

 だから、今のセリア周辺の奴らに判断させるっていう事は許されない。


 そして当然、この提案書がみんなに知れわたったら、誰かが孤独を感じるかもしれないし、疎外感とかを感じるかもしれない。この情報は今、知るべき人間としてカウントしていい奴は限られている。


 キユキさんには話を広めるなとは言った。危うかった。ここまで詰めれなかったけど、運よく本能的に反応できた。ヒースの口も封じている。ここの辺りは大丈夫なはずだと思いたい。

 

 だから、この問題を、今のこの時点で、どう扱うべき問題なのかを考える。先延ばしにするか。どもまで延ばせる?。ダメだ。ヒースのペアリングが近すぎる。ヒースの前には俺とミフィが前例になっておくべきだ。……。


 また議論の出発点に戻ったな……。


 この問題は俺とミフィがペアリングするって事が根底ある。


 まとめる。まとまるか?。順序付ける。


 1 全員犠牲になる必要は無い。

 2 判断力が未熟な者に託さない。

 3 そもそも、ルネ以下が不確定すぎる。


 ダメだ、これ以外は順序がつかない。


 X 俺とミフィがペアリングするって事が根底ある。

 Y ヒースとカリナのペアリングかセリアか……。


 これは、最初と同じこと。つまり本質はやっぱり……

 

 ミフィとペアリングする。

 そうすると、セリアを中心としてその周囲に憎しみを残す可能性がある。

 

 分かってる。結局、最初から最後まで二律排反だ……。ならいい。もう分かった。俺は決めた。犠牲はセリアだ。都合のいい話でいい。俺にとって都合の言い話しでいい。俺は決めた。決めないと話しが進まない。ここに答えが無いから、ここから先で答えを見つけるしかない。だから、もう一度考える。罪滅ぼしの方法を……。


 セリアが6歳だから……。……。


 そうか。糞は俺か。俺はこういう方法でしか決めれないのか。


◇ ◇ ◇


 セイはしばらく図書室のソファにもたれかかって、頭の後ろで手を組み、虚空を見つめた。虫が鳴き始めた晩春の夜は賑わっている。薪を失い空になった暖炉はセイが掃除したもので気温が上昇した証だった。ロウソクが余分に部屋を暖めるような事もなく、快適極まるその部屋の中で、セイは燭台と自身が作ったメモを手にして立ち上がった。


 向かった先は空の暖炉だ。セイはロウソクの火をメモの端にうつして、何も無い暖炉の中にくべた。一片の紙も残る事のないようにメモを火かき棒で少しつついて炎をメモ全体に回した。それからセイはいくらか原形を留めた灰を粉々に砕いた。


 暗くなった図書室で、セイはほうき塵取ちりとりを手に取る。セイは月明かりと道具を頼りに灰を集めて、図書室の窓からその灰を捨てた。灰は春風の夜風に乗り、空中に消えていった。


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