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イグニション前の速度より  作者: 紀
【序章】
3/82

クロック・ロック Cパート

 彼は思いのほか、それが容易に達成できるのでは無いかと確信めいたものを感じていた。


 バーミトンは辛うじて自身を信用してくれる可能性のある、昔の画壇の仲間達を集め、身体強化を見せて、クーデターの画策を告げた。


 彼らはすぐに同調した。彼らもまた、創作活動に費やせる時間が奪われた事に憤慨していたからだ。そして、彼らの同行に気が付いた近隣の住民は、彼らの事を黙認し見守った。


 実際の所、バーミトンの名は光術の光源利用の技法が普及してから史実から消えている。これは公国においても現在をもって推測の域を出ていないのだが、バーミトンを含む画壇の小集団はモートポレストに身体強化の術を教える直前に、周辺各国に散らばり啓蒙活動、あるいは扇動と呼ばれる活動を始めたのではないかと考えられている。


 のちにヒトの生存圏内で発生した、あらゆる事象の経緯が、出来すぎていたからだ。


 いずれにせよ、モートポレストは史実の上では、自らを〝光術師〟と称するオーフェン(おそらくであるがバーミトン経由の第三者)から身体強化の技法を提示される。


 このとき、ヒトの定義を根幹から揺さぶりにかかってくる、歴史上の最重項目も彼の口から告げられた。


――光術による身体強化は代償としてヒトの寿命を奪う――


 弱小国家モートポレストは、忠告を無視ししてこの技法に飛びついた。モートポレストは歴史上初の光術の軍事運用に着手したのだ。


 そしてモートポレストは自国内に非常に錬度の高い光術を発動して、その恩恵を多分に預かる肉体をも駆使する、光術師の集団を築いた。


 それは、隷属国家から軍事国家への転換を意味した。すなわち、食料、原材料、加工品、労働力、その他を軍事的な威力を持って他国から奪い取る国家へと転身したのである。


 モートポレストの光術師達は国家間の衝突に身を投じた。民を、土地を、歴史を、あらゆるものをけがされた憎しみと共に、彼は確実に小国を勝利へと導いていていった。


 しかしどうだろう。光術の兵器運用は、まさに、ヒトを兵器として扱うという事にほかならない。


 それが、兵器としての才気を修める者達の義務であり、責務であり、時に矜持でもあった。だが、彼らは兵器であっても、同時にヒトでもあった。寿命を消費して戦う彼らの心中には、当然の疑問が生まれた。


――なぜ、ヒトとヒトが争うのか――


 モートポレスト少数精鋭の光術師の集団は、答えを一つにして〝いにしえの時代〟に幕を引きにかかる。彼らはヒトとヒトとの争いを終わらせるために専制君主制、あるいはそれに基づく、支配体制を打倒し、国内の統一を目指したのだ。それが彼らの選択であった。光術により自らの命を削ろうとも……。


 モートポレストの光術師達の戦いは自国の政治体制の解体から始る。そして、近隣各国を光術の力をもって即座に侵攻、あるいは、降伏を迫り、解体と再編を繰り返した。


 それにともない、小数精鋭は集団へ、集団は大集団へと母数を膨らませた。 


 争いを兵器で鎮める。一見矛盾したやり方に見えたが、モートポレストの少数精鋭の集団の思想に、各国の首脳部はともかくとして、ヒトという種族の理解は速かった。


 小国モートポレストの思想に同調する下地を周辺の大国は孕んでいたともいえる。幾ら大国と言えど、領民が一人残らず裕福かといえばそうではない。ヒエラルキーの元に上下の格差は確かに存在する。


 モートポレストが戦いの果てに見ようとしているのは、ヒトがヒトの命を奪わない福祉的な国家であり、そのために戦っている彼らが、勝利から得られるものは無き等しい。触りのいい言葉でうそぶき、新たな支配を堪能するには、光術で磨り減った彼らの寿命では足りないのだ。


 ヒトという種族の一大勢力の一角となったモートポレストに残された問題は、寿命が尽きるのが先か、世界に新体制をもたらすのが先かという問題に集約された。


 ただ、彼らは優秀であり、そして誰よりも速かった。


 そしてそれ以上に世界は、願い、信じ、思い描いたのだ。ヒトとヒトが手を取り合って生き、争いや支配という恐怖からの開放された世界を。そしてそのために行き違えるのであればヒトに向けて光術を使い、ヒトを殺す事を。


 光術師たちの願いの矛盾は、彼らの寿命の消費という形で解消され、昇華され、多くの民に伝播した。多くのヒトが彼らの思想を受け入れた。併合された民の中には、そのために命を削る事を厭わずついて行く者も多かった。


 他国の軍事にも光術は導入されてはいた。


 しかし、軍事的、あるいは、政治的な指揮系統を担う者達が、自分自身に対しての光術の使用をためらい、寿命を消費する事無く光術師達を纏め上げてモートポレストに抵抗するには、求心力がどうしても欠如していた。中には兵から忠誠を誓われ、民からは信頼を集めている専制的な国家もあったが、モートポレストの前では障害としか扱われなかった。


――我が国家の元での安寧と何が違うのだ?――


 そのような国は答えを返せなかった。結果としてモートポレストはヒトという種族を一つにまとめあげ、国境という概念を崩壊しつくした。彼らの悲願は光術師達に、そしてあまねくくヒトという民に受諾されたのだ。


 最初は小国であったモートポレストだが、最終的にヒトの住まう土地をすべて公国という国家に収用し、ヒトとヒトとの争いの時代を終わらせた。


 それがモートポレスト公国の現代より、1051年前の出来事である。ヒトはモートポレスト公国の元で、平定に達したのだ。


 なお、次の観点から、この古の時代に起こった騒乱と平定は、バーミトンのシナリオだったのでは無いかと推測されている。


 公国の各都市には、かの騒乱時代に作者不明で次ぎのような絵画が数多く残されているのだ。

 ・圧制に苦しむ労働者達の絵

 ・戦争で血肉を垂れ流す者達の絵

 ・ヒトが楽園で暮している絵

 そしてこれらの絵画の内でには共通点がある。裏面に刻まれたサインだ。円の中にHという文字が描かれている。Hはハンナ。バーミトンの妻の名前の頭文字だ。


 事の真相は何であれ、モートポレストは公国となり、ヒトが定住する大地には安寧はもたらされた。だが光術は、この後ヒトの定義を決定的に変化させる。


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