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イグニション前の速度より  作者: 紀
【序章】
17/82

カリナ、月夜の三点点灯

 キユキは作製したカリナの資料をみる。

『どれをとっても申し分ない速度。でも上を目指すならここからが問題ね』


 

        カリナ  13歳平均

想起時間    10秒    40秒  

接合時間    10秒    50秒

点灯時間    10秒    60秒

  合計    30秒   150秒

 ※光源  (白色発光) 



 カリナは黒い瞳に黒い髪で13歳。ミフィより一つ年下である。ミフィより僅かに高い身長は、幼子をつむじをみるには十分な高さだ。切れ長の瞳は、世代の近い兄弟を見るときに冷たい印象を与えるが、年下のものをみるときは自然と目を細めたようになり、温もりを感じる。


「私のはこれです」

カリナの術印は円の中に月夜の風景の線画。キユキはこれについて思ったことを率直に話す。先ほどの点灯速度が実戦レベルに到達していたからだ。

「これも複雑そうね。風景術印になるのかしら」

「はい、そうです」

カリナもキユキの指摘に動じる事はない。少し切れ長の瞳がキユキを見つめる。

「これは月で、これは葉っぱもある花だと思うんだけど……この花は何?」

「オオシロソケイです」

「ええっと、ソケイっていうと、ジャスミンってことになるのかしら?」

「はい」


『……もう、この手の詮索は余計かしら』

キユキは微笑みを崩さず誰とはなしに試すセリフを出した。

「点灯速度もそうだけど、すごいのね。複式点灯ふくしきてんとうなんてモートポレストでも研究が始まったばかりなのに」


 『驚いてはないでしょ』

とミフィはいつもの指導役と違うことを再認識し、キユキに対して知識を出した。


「何年前の話をしているの。発見は確かに100年前くらいらしいけど、今では中央の研究所にもそこそこ居るはずよ?」

「誰から聞いたの?」

「誰からってわけじゃないけど。こんな田舎町でも隣町まで足を伸ばせば本くらい手にはいるわ。最新の論文の写しまでってなると、注文して数ヶ月とかかかるけど」

「じゃあカリナちゃんはどうやってコツを掴んだの?」


 キユキは視線をカリナに送る。カリナは淀みなくキユキに答える。

「接合について言えば、最初にほんの少しだけ一本の線を伸ばして、そこから線を3本に分岐することです。いきなり3本の線だと出来ませんでした」


 ミフィはカリナが喋っている内に無自覚に誇りが沸いて口を挟む。

「単純に集中力じゃないの? 寝る前に天井に張った術印を見て、ずっと接合の練習してたから。よく起こされたわ」

 

 カリナは無表情に首を傾げる。無表情であるから寝違えた様にもみえる。話題の中心がカリナだったためか、今度は皆の視線がカリナに集まる。カリナは横にいるミフィをみて答えた。

「起きてなかった?」

 

 ミフィは、ぅっ、と気まずそうに言葉をつまらせ、


「私は寝てたよ」

とアキットが素直に微笑む。


 カリナは年下のアキットにだけ笑顔を返して、無表情に戻り、キユキに向き直って解説を続ける。


「光点については接合の時点で光の線を三本出すことです。光の線を一本だけで接合して、接地点から光点を分裂させる方法だと私は上手く出来ませんでした。そういった意味で私の複式点灯は接合から始まっています」

「それじゃあ、複式にした理由は」

「私の術印も複雑です。姉さんと速度で光点を動かしても、術印の差で追いつけない気がしたから、一光点じゃく三光点くらいあった方がいいんじゃないかって姉さんに相談したら、ノートの記事を教えてくれました」


 ミフィは一瞬間をおき、カリナがそれ以上補足出来ない事を感じて、キユキに経緯を伝える。


「複式点灯に利点があるは疑わしかったけどね。精神操作が複雑になるし、一点でも早く動かせばいい話しだから。でも、カリナは一点と同時に複式点灯の修練をして身に付けたわ。30秒の壁は何とかなるでしょ」


 キユキはキユキで自身の疑問をカリナにぶつける。

「速度も申し分ないわね。でもそれよりも安定性。10秒間隔で想起、接合、点灯をやっているのは意味があるの?」

「自分が安定して点灯に持ち込む早さです。リズムを取った方が次ぎにつなげ易いと思っています」


 アキットが両手を天井に上げる。

「カリナお姉ちゃんの点灯きれい。私もそれでやりたい」

「アキットにはまだ早いよ。私も昔は〝単式〟だったから」

アキットは、エー、と言って三角形の口を作ったが、カリナが微笑み優しく頭をなでる。アキットは首を左右に傾けて、頭にのるカリナの手を余分に楽しんだ。


 カリナはキユキに視線を送る。

「それで、私には何かありますか?」

 

 カリナをほっときキユキはミフィに議論ふっかける。

「う~ん。ここまで来たら多色点灯も見てみたい気もするけど止めているんでしょ。ミフィちゃん?」

 

 受けるミフィも流暢に答えて、キユキとミフィの二人で議論は進む。

「色まで増やしてまた精神操作を複雑にするつもり?。多色の複式点灯なんて聞いた無いわよ」

「今が三本で次ぎが四本、とはいかないの?」

「カリナの成長は緩やかになったけど、止まっているわけじゃないから増やすメリットは感じないわね」


「じゃあ三本の理由は?」

「最初の動機は、月、葉、花のモチーフだから三つくらいじゃないかって話ね。でも後になって聞いたら、カリナの光の線は植物のイメージよ」

「イメージしやすいシンメトリーを採用したんじゃないの?」

「二本でも四本でもシンメトリーでしょ?」

「ええ、でも、体からの出所によっては崩れるかなって」

「その指摘は正しいわね。光の線の出所まで含んで考えるって事でしょ?」

「そう。気になるのが初期の修練の時には三本出そうとしたんでしょ?。どこからでたのかなって」

「それについて補足すれば出なかったって結論ね。カリナは精神操作で三本の光の線生み出すことは出来なかったの」

「だから、替わりに1本から分岐させる方法を選んだって事?」

「その通りね」


「だとしたら、その分岐する光の線は何で頭から出てるの?」

「それは分からない事よ。ただ、カリナの分岐型の光の線は頭頂部からしか出ないわ。逆に単式だと私達と同じで心臓の近くから出るだけね」

「カリナちゃんはどこからでも光の線を出せるわけじゃないのね?」

「穴からは出やすそうだけどね」


 キユキは手で口を押さえて上半身を捩り、皆に背を向けた。

 

 ミフィは少し眉を寄せ、見下すようにキユキの背中を見る。

『ほら、人の事言えないじゃない』


 ルネは横一文字の目で口元でニヤリ。アキットは小刻み震えるキユキの背中をハテナ顔で見ている。


 カリナは無表情で視線を横にずらしてミフィを見る。そしてミフィの尻をプニっと一瞬つねった。

「イタッ」

 ミフィはカリナに視線を合わせて囁く。

「ごめんって」

「いいけど」

 申し訳なさそうだが口元が笑っている長女ミフィ。対して次女のカリナは無表情だった。


 「コホンッ」


キユキは崩れた表情を咳払いと共に戻すと、ミフィが再び口を開く。

「でも、さっきも言ったとおり、カリナの成長曲線は正比例で順調よ。イメージしやすい左右対称とか穴とか使っても増やすメリットは感じないわ」


 キユキは姿勢を正す。

「単式点灯から複式点灯へは何年で変わったの?」

「接合の光線で5ヶ月、点灯の光点が3ヶ月の8ヶ月よ」

「もし今の成長が止まっても、出兵までにまだ増やす機会はあるって事ね?」

「そういうこと。三本のままでも私を越えるかもしれないわ」

「……」

「……」

間が生まれ見つめ合うミフィとキユキにカリナが割って入る。

「あの、私は?」

「う~ん、そうね。分かってる事だとは思うんだけど、30秒から先の速度の成長はとても難しい所があるの。一般化されていない事も多くて、そこからは自分で考えていかないといけない事が多くなるから、成長が保ててるなら、むしろ私が何も言わない方が良かったりもするの。しばらく様子を見させて欲しいかな。とりあえず、風景術印の子は調和を重んじる子が多いから、そのままバランス良く想起と接合と点灯の速度を上げていく方向でいいと思う」


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