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イグニション前の速度より  作者: 紀
【序章】
16/82

ルネのリボンの追いかけっこ

 9歳のアキットの時と同様に11歳のルネについてもまず資料を見る。

『接合が速い。でも、合計時間はほぼ平均。努力か才能か……』



         ルネ  11歳平均

想起時間   107秒   100秒  

接合時間    82秒   120秒

点灯時間   155秒   140秒

  合計   344秒   360秒

 ※光源  (淡青発光) 



 ルネはモカブラウンの髪は肩より少し下がる程度のセミロングで、深い赤の瞳を携えており、ともすれば、見た目は陰陽まじる雰囲気だが、本人の気質のせいか、そのバランスを陽に傾いけているようにも見える。


 まだ伸びきっていない身長のせいで、愛らしさを残すが、弟や妹と比べると身長はだれよりも高く、大人びた美しさが芽生えている。

 

 ルネは自ら机上の術印を回転させてキユキの方へ向きを合わす。

「私のはこれです」

「これはリボンで合ってる?」

 

 ルネの術印は円の中に綺麗に結ばれたリボンの線画であった。


「合ってるです」

「これって、今アキットちゃんの頭についている水色のリボンと同じもの?」

「はっ!。どうして気づいたですか」


 アキットの後髪は輪が四つある二重の蝶々結びがついたバレッタでまとめられていた。ルネの術印のモチーフは輪が二つの通常の蝶々結びであるから、形が少し違う。


「んー、飾りたくなる気持ちは分かるかな」

 キユキは緩やかなウェーブを持ち重力に逆らいつつ溢れる出すように生えているアキットの髪を見てから答えた。


 ルネはふんふん、と頷くだけなのでキユキが再び口を開く。

「ルネちゃんの点灯は綺麗ね。それに速度も十分」 

「そんな事ないです。私なんか全然上手くならないです」

「ルネちゃんの点灯は、平均と比べて16秒差があるから今までの修練は間違ってないと思うの」

「今までお姉ちゃん達とやってきたです」

「それじゃあ、ルネちゃんはまだ光術が上手くなりたい?」

「はいです。でも、私はお姉ちゃん達みたいに長く修練ができないです。長くやると頭がボーっとしてきます」

「そうね、光術は光ばかり見てるから、疲れるのは仕方がないかな」

「そう思います」


 低い声で頷きフンフンと納得しているルネ。

 『そうなの?』

と疑問に思うが口にしないミフィ。


 キユキはルネに向けて話し始める。

「私達は太陽をずっと見る事が出来ないでしょ? それは多分、光を見続けるのが得意じゃないって事だと私は思ってるんだけど……。えっと、後、お姉ちゃんとやってきたって言ってたけど、どんな事をしてきたの?」

「色々です。追いかけっことかです」

「追いかけっこ?」

キユキの最後の問にはミフィが答えた。

「それは説明するより見た方が早いでしょ」


 ミフィは修練部屋の壁際に設置されている自分の棚からルネの術印が描かれた紙を取ってきて、ルネの机の上にある術印と横並びになるように置いた。


 ミフィは手のひらを胸にポスッと当てて集中する。彼女は想起そうきを終わらせ黒い接合せつごうの光線をルネの術印の一つに伸ばし始めた。


「えっ? それって……」

 キユキの目は見開かれ、手が下腹辺りまで浮く。

 

 ミフィの視線は術印からずれる事無く早口で喋る。

「まあ、最後まで見てて。これは私も集中しないときついから」


 ミフィは60秒でアキットの術印に接合し、130秒で術印を点灯させた。ミフィが示したのは、ルネが行なった接合と点灯より少し速い〝光術〟の精神操作であった。


「いい? イメージできた?」

「できたです」

ルネの返答を聞いてミフィは、ふう、と息をつき術印を一度消灯した。


 「それじゃあ想起そうきからね」

 今度はミフィと共にルネも同時に瞼を閉じて想起し始める。

 彼女達は精神操作で紙に描いた術印と同様のものを心に描き始めた。ミフィの心の中では黒の小さな点が動き術印を描く。ルネの心の中では水色の小さな点が動き術印を描く。


 ミフィは30秒程度で瞼を開きルネの方を見て待っていた。背筋をのばして胸に手のひらを当てているミフィに対して、ルネは手のひらを自分に向けた握りこぶしを胸の前においている。


 ミフィはルネを見つめて待っていた。……。一足遅れてルネの瞼がパチッっと開く。


 「じゃあ、行くわよ」

 ミフィの言葉にルネはコクンと頷き、二人は接合の精神操作に入る。二人は胸の辺りから光の線を生み出す。最初は点というべき短さから、定規で長い直線をつくるかのように、点を線に伸ばしていく。伸び行く光の線は机上の術印へ向かう。


「まーつーでーすー」

「鬼ごっこじゃないんだから集中しなさい。……。まあ、しない方がいいのかもしれないけど……」


 芋虫のように遅い移動速度で黒と水色の光の線は伸びて行く。しかしミフィが伸ばす黒の光の線が少し先を行く。伸び行く二つの光の線の競走するように〝術印〟に向けて伸びていく。ミフィの光線の端が術印に着地して、次いでルネの光線が術印に着地する。


「いい?」

「いくです」

 二人の表情は一層ひきしまり、机上の紙の術印に対して眉間を寄せて、点灯の精神操作に入る。


 ミフィとルネは光の線と術印が接地した位置から小さな光点を生み出す。そして、その光点で術印の上をなぞる。光点の発光、および光点の軌跡の発光は、光の線と等しく、輝きの程度は弱い。


 ミフィの光点は黒色で、ルネの光点は水色で、直径15センチの術印の上をじわじわと動き、円の上をなぞりきる。そして、中心に収まるチョウチョ結びの線画をなぞる。なぞる前はの濃緑色の単なる線であるが、なぞった後は僅かに光りを放つ。ミフィは黒く、ルネは水色で、弱い光りを放っている。


 ミフィの黒の光点はルネの水色の光点より少し先を行き、ミフィが先に術印をなぞりきり、術印全体から黒色の強い光を溢れさせる。その後すぐにルネも術印をなぞりきり水色の強い光りを術印から溢れさせた。


 点灯を完了した二人は深呼吸して、ミフィがキユキに話し始める。

「追いかけっこってのは、大体こんな感じ。一人でするより少しだけ早くなるから、ルネより速い〝接合〟と〝点灯〟を見せてあげたり、一緒にやったりしてるの」

「流石にびっくりしちゃった。人の術印を点灯させるには相当の修練がいるはずよ?」

 

 キユキの感情的な驚きの頂点はミフィの一回目の点灯で示されており、声は穏やかで微笑みも携えてあった。


 視線をそらしたミフィが語る。

「暇なときにやってたらできるようになったって感じね」


 次女のカリナは沈黙したまま少し首を傾げて上を向く。が誰も気がつかない。


 キユキとミフィが話しを続ける。

「カリナちゃんとアキットちゃんの術印も点灯できるの?」

「無理ね。カリナのはそもそもやってないし、アキットのは試してみてはいるんだけど、ルネの時みたいにはいかないの。もしかしたら私にはカメの本当の姿が見えてないのかもしれないわね」


「かわいいのに……」

「もうちょっと待ってね」

ミフィはアキットに対して、申し訳無さそうな笑顔を送った。


「もう一回やってみてくれる?」

 そう言ってキユキは時計を見たがミフィが遮る。

「私が横でやると接合と点灯がそれぞれ5秒づつくらい縮まるわ。私がいないとだんだん元に戻ってくから計測の必要はないわね」

「じゃあどうして?」

「成長記録くらいとるでしょ?。普通。長期スパンの計測になるから、サンプルは少ないけど」

 

 そっか、とキユキが呟いてからルネに向けて話し始める。

「それじゃあ私からも一つだけアドバイス。ルネちゃんの術印はギフトの意味が込められているの。ギフトのように、人へ何かを送るような意味をもつも術印を使う子は接合が得意な子が多いの。術印を見て接合の光の線を速く伸ばすイメージも大切だけど、アキットちゃんにリボンを送ったときの気持ちを思い出してみて。そうしたらルネちゃんの接合はもっと速くなって行くから」

「おお。これで強強つよつよドロワーになれるです」

 ルネはミフィの方を見て目を輝かせた。


「ミフィお姉ちゃんに追いつくです」

「いいわよ。ついでに追い抜いてね」

「何ですか。余裕ですか?」

「歳の差もあるでしょ」

「人の才能を甘く見てはダメです」

「誰の才能の話をしてるのよ」


ルネをあしらうように捌きながらミフィは

『接合についてそんな意見聞いたことないんだけど……』

と疑問を持つがもう口にはしなかった。後で考えるなり聞くなりすればいいと思ったし、何より妹達の修練の邪魔をする気にならなかったからだ。


 キユキはキユキで鑑みる。

『平均から16秒差……。ミフィちゃんやカリナちゃんが側にいても……。もう少し聞いてみようかしら』

「ルネちゃんは光術が好き?」

「好きに決まってるです。私はお姉ちゃん達にたくさん教えて貰っているです」

「そっか。それなら大丈夫。じゃあ、次ぎはカリナちゃん。術印を見せてくれる?」


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