エルネとの勝負
ロイドを残し部屋を後にするコウスケ。
廊下に出ると、そこには隣の部屋から出てきたエルネが居た。
「おっ!エルネも出掛けるのか?」
「えぇ。ギルドに行って稼いで来るわっ!」
やはり持ち合わせが無かった様だ。
「ちょうど良い。俺も商業ギルドに行くところだ。一緒に行こうぜ?」
「ギルドに?何しに行くの?」
珍しく思ったエルネはそう聞いた。
「俺も金だよ」
「えっ?無いのっ?あんなに有ったのに、もう使っちゃったのッ?」
詰め寄るエルネ。
「んな訳ねぇだろッ!エルネじゃないんだから。今有る金は旅費として取っとくんだよ。んで、俺が買いたい物は自分で稼いで買う様にしようと思ってな」
それを聞いたエルネは
「そうよ!そうするべきだわっ!良い心がけねっ!」
自分の事は棚に上げてそう言う。
今あるお金は、ほぼコウスケが稼いだ様な物なので、本来そんな事はしなくていい筈なのだが。
コウスケは、一行の財布と自分の財布を別けようと考えたらしい。
「まっ。俺が本気だしゃ、エルネの借金分ぐらいは直ぐだけどな?」
「フッ、コウスケ?お金を稼ぐっていうのはそんなに甘い物じゃ無いのよ?」
最近になってそれを痛感しているエルネは、そうコウスケに諭す。
しかし、コウスケのチートを持ってすれば瞬時に大金を稼ぐ事など造作も無い。
その事を本当の意味で理解していないエルネは、その言葉を口に出来るのだろう。
「じゃあ勝負するか?どっちが稼げるか」
「良いわよっ!私だってランクが上がって、受けられる依頼が増えたんだからっ!負けないわっ!」
こうして、二人はギルドがある区画へと向かった。
ギルドがある区画へとやって来た二人。
この街も、他の街同様に冒険者ギルドと商業ギルドが並ぶ様に建っている。
「どっちから行く?私はどっちでも良いわよっ!」
「なに?二人で両方行くの?」
結果を報告し合うと思っていたコウスケは、面倒臭そうに顔を顰めた。
「当然っ!ズルしないか見てなくちゃっ!コウスケはそれじゃ困るのっ?」
何故か勝ち誇った様な顔で言うエルネ。
「別に良いけど・・・」
「なら決まりねっ!さぁ、どっちから?」
ゆっくり街を見て回った後、宿で優雅に待っていようと思っていたコウスケは項垂れた。
「俺のは幾ら稼げるか分かんねぇからエルネの方から先で。そうすりゃ最後までどっちが勝ったのか分かんねぇだろ?」
何だかんだ乗り気なコウスケ。
「分かったわっ!行きましょうっ!」
二人は連れ立って冒険者ギルドへと入って行った。
真っ直ぐに依頼が張り出されている掲示板へと向かうエルネ。
コウスケもその後に続く。
掲示板の前で右往左往するエルネの横に並び、コウスケも張り出してある依頼の数々を眺める。
(へぇ~やっぱりお約束の薬草摘みって依頼はあるんだな?おっ!こっちは土地柄だなぁ、海に出る魔物の討伐依頼か?猫探しって・・・自分でやれよっ!)
内容を確認しながらそう思っていると
「これにするわっ!」
そう言って掲示板から一枚の依頼書を剥ぎ取ったエルネ。
それを持ってコウスケに近付く。
「どんな内容なんだ?」
成功報酬が見えてしまうと面白く無くなるので、依頼書を見ずにそう聞くコウスケ。
「え~とっ!港に揚がる魚とかを狙って来る魔物とか、動物とかを討伐したり追い払ったりして欲しいみたい」
との事だった。
「ザックリだな?ヤベェ魔物とか来るんじゃねぇの?」
来た物を倒せ。と言う依頼にコウスケは眉をひそめる。
例え、ドラゴンが飛んで来ようが、他国の軍が攻めて来ようが、神が降臨しようが、魚を狙っていれば戦え。とも取れる依頼だ。
しかし、エルネは
「大丈夫よっ!だってDランクの依頼よ?簡単に決まってるわっ!」
そう言い切った。
実際、この手の依頼は常に張り出されており、受ける低ランクの冒険者も多い。
その程度の魔物しか来ないからだ。
しかし、極稀に例外も起こる。
流石に、ドラゴンが来れば別の依頼として高ランク向けに張り直されるし、他国の軍が来れば国軍が動く。
神が降臨した場合は、魚などお供えしてしまえば良いが、この依頼で起こる例外とは盗賊だ。
城壁の有る街に運び込まれる前に、港で奪ってしまえ。と襲って来る事がたまにあるのだ。
まぁ、今回襲って来るかは分からないが。
例え襲ってきても、今日この依頼を受けるのはエルネだ。
もれなくコウスケも付いてくる。
ランクに不相応な二人が守る地獄に、飛び込んで来る盗賊がいたのなら、それは最早勇者と言えるだろう。
向こうはDランク冒険者と思って襲って来る訳だが。
それはさておき、窓口へと依頼書を持っていくエルネ。
コウスケもその後を付いて行く。
「この依頼、受けたいんですけど」
窓口の前にある椅子に座り、エルネがそう言う。
コウスケはその後ろで立っている。
「はい。ギルドカードをお願いします」
窓口のお姉さんは事務的に答えた。
ギルドカードを渡すエルネ。
「はい。・・・え~と、後ろの方はパーティーメンバーですか?一緒に依頼に出るのでしたら、そちらの方もギルドカードをお願いします」
次の順番を待つには、余りにも近くに立っていたコウスケを、依頼を一緒に受けるパーティーメンバーだと思うお姉さん。
間違いでは無いのだが
「あぁ、俺は・・・付き添いって言うか、保護者って言うか、監視って言うか・・・」
何とも曖昧に答えるコウスケ。
それを聞いたお姉さんは
「あぁ!お弟子さんを実戦で訓練なさるのですね?そういう方もたまにいらっしゃいますから大丈夫ですよ。その場合でもギルドカードの提示は必要ですけれど。パーティーで受ける扱いと同じですね。そうしないと依頼先で入れない場所も出てきますので」
何か勘違いをしている様だが、丁寧に説明はしてくれた。
どうする?とエルネをチラリと見ると、何故かムクれていたが首を縦に数度振った。
「じゃあそれで」
自分のギルドカードを出しながらそう言うコウスケ。
自分の言った通りだと思い込んでいるお姉さんは、コウスケのギルドカードのランクを確認もしないまま、名前だけを書き取りコウスケに返す。
「いってらっしゃい」
にこやかな笑顔でそう言ったお姉さんは頭を下げる。
それに送り出される様に、二人はギルドを出た。
ギルドを出るなり
「どうして私がコウスケの弟子なのよっ!登録したのは同時だし、ランクは私の方が上なのにッ!!」
ムクれていた理由はそれだったらしい。
隣で聞いていたコウスケは
「フッ、あのお姉さんは俺に強者のオーラを感じたんじゃないかな?」
そうキメ顔と、いい声で言うコウスケ。
首は曲がったままだが。
するとエルネは
「コウスケ?」
「どうした?駆け出しぼう、グパァ・・・」
ゴキュ
奇妙な呻き声と、首から鳴ってはいけない様な音を出して、コウスケの首が元に戻る。
「これから危険な依頼に向かうのよ?そんな首じゃ、何かあったら困るでしょ?」
拳を振り抜いた姿勢のエルネは、さもアナタが心配で。と言わんばかりにそう言う。
今朝、エルネが殴った方とは反対側を殴られたコウスケ。
「ぞ、ぞうでずね。ありがどうございまず」
涙を溜めたコウスケは、そう言う他無かった。
「さっ、行きましょ!」
過程はどうあれ、コウスケの首が自由に動くようになったのを確認したエルネは、そう言って歩きだした。
コウスケは、自分の首の無事を確かめる様に、両手で首を隅々まで触りながらエルネに付いて行くのだった。




