東の港街・ボルタ
「イテテッ・・・あ~頭痛ぇな。飲み過ぎかなぁ?」
翌朝、いつも通りの時間に起きてきたコウスケ。
頭を摩りながらそう呟きテントから這い出てきた。
既にロイドは起きていた様で、焚き火の前にその姿があった。
「ロイド、おはよう。何か二日酔いみたいで頭が痛ぇ。記憶も曖昧だし、昨日俺そんな飲んでた?」
最後の記憶がロイドと楽しく喋っていたからか、ロイドにそう尋ねるコウスケ。
「・・・コウスケ君。知らない方が幸せな事もあるのだよ」
目を逸らしながらそう言ったロイド。
「え?なに?俺そんなやらかしたの?マジで?」
自分の記憶が無い間に、酔って何かをしでかしたと思うコウスケ。そこへ
「コウスケっ!おはよっ!」
朝の挨拶を口にしながら近付いて来たエルネ。
「あぁ、エルネ。おはよう。あぁ今朝メシ作るわ」
コウスケも挨拶を返し、朝食の準備を始めた。
エルネはクルリとロイドの方へ向くと、薄く微笑んだ。
それを見たロイドは無言のまま、明けたばかりの空をしばし見上げた後、そっと持っていた本へと目を落とした。
今日もエルネは上機嫌で手綱を握る。
その隣ではいつもの様にコウスケが咥えタバコで景色を眺めている。
「今日は荷台に行かないの?ロイドはもう籠ってるよ?」
「何か二日酔いが抜けねぇんだ。今日は止めとくよ」
エルネの質問に、頭を摩りながら答えるコウスケ。
摩っているのはエルネに殴られた後頭部なのだが、コウスケは知らない。
知っているエルネは
「そう」
そう返すだけだった。
こうして、数日ぶりにコウスケとエルネは御者席でたわいもない会話をしながら旅路を進む。
次の街は港街だからきっとお魚が美味しいだろう。とか、いや、生はチョット・・・とか、きっと人魚も居る筈だッ!!とか、頬に拳とか・・・そんな風に会話が弾む。
エルネは終始笑顔で、コウスケは何があったのか途中から首が戻らなくなっていたが、会話は弾む。
念のため。ここ数日エルネは一人で寂しく馬車を走らせていた事をここに書いておく。
そうこうしている内に前を見ていたエルネが声を上げた。
「あっ!見て、コウスケっ!街が見えてきたよっ!」
丘を登りきった事で、開けた前方に海、街、城壁が一望できる。
「ホントか?・・・おぉ、久しぶりに見たな海。デッケェなぁ~」
体をエルネの方に向け、前を見てそう言ったコウスケ。
港街と言う事だったが、港は街の城壁の外だ。
恐らく、港まで囲うと海に面した部分の守りが手薄になってしまうからだろう。
コウスケはそう考えた。
潮の香りが強くなってきた頃、コウスケ達は街へと続く馬車の列、その最後尾にたどり着いた。
「あぁ~、もう美味しそうな匂いがするよ?きっと沢山あるよ、美味しい物っ!」
鼻をヒクつかせながらそう言うエルネ。
「そうか?・・・俺は感じ無いけど?」
コウスケも同じ様に、鼻をヒクつかせた後そう言った。
「鼻詰まってるんじゃない?こんなにハッキリ分かるのに!段々強くなってるわよ?」
「・・・エルネ?」
「ん?」
「お前、海見るの初めてだろ?」
「そ、そんな訳無いじゃないっ!何回も見た事あるわっ!」
やや顔を紅くして言うエルネ。
「じゃあ、来るのは初めてなんじゃないか?」
「わ、悪いっ!ずっと森の中で育ったのよっ?当たり前じゃないっ!」
エルネのその言葉に、エルネからは見えないがコウスケは納得した様な顔をした。
「エルネ。その匂いは多分食べ物じゃないよ」
「?・・・じゃあ何の匂いなの?」
「俺が感じている匂いと同じ物なら、これは海の匂い。潮の香り、なんて言ったりもするな」
海に初めて近付いたエルネは、その匂いを他の何かと勘違いした様だ。
コウスケはそれをエルネに教えた。向こうを向いたままで。
「海の?海ってこんな匂いなの?」
「あぁ。まぁエルネが犬並みの嗅覚で、街の中から漂ってくる食べ物の匂いを嗅ぎ分けてんなら話は別だけどな・・・いや、それも有り得るな?」
冗談のつもりで言ったコウスケだったが、言った後でエルネなら、と真剣に考える。
「そんな訳無いでしょッ!」
ギャーギャー言っている内にコウスケ達の番が回ってきた。
「よしっ!次っ!」
例の如く門番がそう声を上げる。何かマニュアルでもあるのだろうか。
門番は目の前で停まった馬車の御者席を見上げる。
そこには、既に門番の方に顔を向けるコウスケの姿があった。
顔をこちらに向けたままエルネと話すコウスケに、気味悪さを感じながらも三人の身分証を確認する門番。
特に問題も無かったので
「よしっ!次っ!」
そう言って通すのだった。
ただ、立っている門番の後ろで、交代時間が近かったのか座っていた門番がいた。
その門番は、街に入って行くコウスケを不思議な物を見る様に目で追っていたと言う。
街に入ったコウスケ達。
「おぉ!やっぱり他の街とはチョット違うな!」
肉より魚がメイン。と言う事もあるだろうが、それよりも他国から色々な物が入ってくる事で、この大陸では見られなかった雰囲気を醸し出している。
街並み、色使い、売っている物、人の顔つき、この世界は中世ヨーロッパ風だとコウスケは思っていたが、この街の雰囲気はコウスケが知っている物、知らない物がごちゃ混ぜになった様だった。
ただし、少し見た限りでは和風の物は見受けられなかった。
「さぁ~食べるわよっ!」
隣で気合いを入れるエルネ。
「その前に宿だろ?いつもそうしてんだろ?いい加減覚えろよ?」
「ちゃんと宿に向かってますぅ~。それくらい分かってますぅ~」
腹の立つ言い方だが、分かっていたのかエルネは宿が立ち並ぶ一画に馬車を既に向けていた。
「食べるのは結構だが、金あんのか?稼ぐ方が先なんじゃねぇか?」
「グッ・・・それも分かってますぅ~」
だそうだ。
宿に着き、受け付けも済ませ部屋に入る三人。
例の如く、まずは作戦会議。一部屋に集まる。
「で?どうする?」
まずこう切り出すのはコウスケの仕事だ。
「前みたいに各自自由行動で良いんじゃない?」
そう言うのはエルネだ。
「そうか?ロイドはどうだ?」
「私もそれで構わない。少し買い物もあるが金は有る。問題は無いさ」
ロイドも同意した。
「じゃ、そう言う事で!いや~、ロイドは心配がなくて助かる」
コウスケの嫌みで作戦会議は解散になった。




