初指名依頼11
「って訳で、小次郎から報告して貰います!じゃ、リリィちゃん。どうぞ」
ハインツ国王とエドの前でそう言ったコウスケは、小次郎を机の上へと乗せた。
小次郎の話を念話で聞いたコウスケは、小次郎が得た情報で十分だと判断しプレーヌスへと戻っていた。
小次郎の回収は‘使い魔呼び出し’で速やかに行われ、国交云々の話し合いは当然の様に無視をして姿を眩ませた。
そんな乱暴とも言える帰還に、報告の為エドの執務室兼自室へと入ってからと言うもの、小次郎と爺から説教を食らい続けていたコウスケ。
先程の一言はそんな説教から逃れる為に、コウスケが話を進めようと放ったものだった。
コウスケの言葉にハインツ国王とエドは頷いたものの、爺はため息、小次郎に至っては「リリィちゃん」と呼ばれた事も相まって盛大に毛を逆立てている。
小次郎がそこまで毛を逆立てているのを初めて見たコウスケは
「オワッ!?何それ?どうなってんのッ?」
と、興味深げに眺める。
そんなコウスケの態度に
「そうか・・・それ程死にたいかッ!ならば今日こそその首元食い千切ってやるわッ!」
そう声を上げ、今にも飛び掛かろうとする小次郎。
しかし、そんな臨戦態勢の小次郎に
「済まぬ、小次郎。国の一大事なのだ。先に報告を聞かせてくれ。何があったかは知らんが、報告の後でならば好きなだけコウスケに噛み付くがいい。何なら私も手伝ってやろう?」
そう声を掛け、逆立つ毛並みを撫でるハインツ国王。
小次郎はハインツ国王を一度振り返ると、少ししてコウスケへと向き直る。
そして、一度大きく舌を打つと
「肉盾ぐらいには使えるか・・・良いじゃろう。約束を忘れるなよ?」
そう言って、コウスケから視線を外した。
そこへエドが
「じゃあ僕達に教えてくれるかい?小次郎が知っている事を」
そう尋ねた。
「フン。大した話には思えんがの」
そう前置きした小次郎は、コウスケと別れてからの事を話し始めた。
「奴と別れたワシは、奴に言われた通り城の外を歩いておった。
鎧を着けた連中の話に耳を傾けたりもしておったが、寒いやら暗いやらと大した事も言わん。
面倒になったワシは、あの丸々と太った人間の所へ戻ろうと考えておった」
そこでコウスケが
「あぁ。ハックんトコか?」
そう補足を入れる。
「そんな名だったか?まぁそんな時、ワシは一人の人間のメスに捕らえられた。
逃げようかとも思ったが、何やら城の中が騒がしく、大勢で何者かを探し回っている様子。
ワシもあぁなっては叶わんと、ここは大人しく捕まってやる事にしたのじゃ」
そこでコウスケが
「あ~、それ俺が逃げ回ってる時だな」
そう呟く。
その呟きにコウスケへと視線が集まるが、それに気付いたコウスケは小次郎に顎で先を促した。
「捕らえられたワシは、その後どこかへ連れていかれ、そこでそのメスが持ってきたミルクを飲んでやっておった。
すると、そこへ別のメスが現れ、ワシを捕らえたメスと何やら言葉を交わし、ワシは後から来たメスの手に渡った。
そのメスが、あの広い部屋で貴様と会った時にワシが膝に乗ってやっておったメスじゃ」
コウスケはここまでの小次郎の話を
「散歩してたら使用人に見付かって、その使用人にミルク貰ってたらそこに王妃が来たと?んで、そのまま王妃の飼い猫の座に着いたって事か?」
そう要約した。
そんなコウスケの要約を聞いた小次郎は、不満げな顔をコウスケへと向ける。
その様子を見たエドが、ここで話が止まっては堪らない。と慌てて
「それで?それからどうなったんだい?その後に何かを見たり聞いたりしたんだよね?」
そう小次郎に尋ねた。
コウスケからエドへと視線を移した小次郎は
「あのメスの部屋へと連れて行かれたワシは、その部屋に閉じ込められてしまった。
まぁ、とは言っても、ワシに掛かれば抜け出す事など他愛もない事じゃったろうな?
そして、そこへ留まってやる代わりに用意された食い物を、暇潰しに平らげた頃。
あたりは既に暗くなっておった。
満腹になったワシは、そこから一眠りする事にしたのじゃ」
小次郎は思い出す様に話す。
ここまで小次郎の話を真剣に聞いていたハインツ国王だったが
「私達は一体何を聞かされているのだ?特に重要に思える話は無いように思えるが・・・」
そう言って首を捻る。
「確かにな。ここまではリリィちゃんのぐうたら日記だよな?」
コウスケもそう茶々を入れた。
コウスケの言葉にピクリと反応する小次郎だったが
「それで?大事なのはここからなんでしょ?」
と、エドに背中を撫でられながら言われた小次郎は
「・・・気持ち良く寝ておった所に客が来た様で、ワシはその物音で目を覚ました。
見るとオスが部屋へと入って来おった。
そしてそのオスは、部屋にいたメスと交尾を始めおった。
その後・・・」
「ちょッ!ちょっと待った!交尾?交尾って言った?」
小次郎の説明にそう割って入るエド。
小次郎は、話を促した張本人であるエドが話の腰を折った事に眉を寄せた。
「・・・その部屋はアリシアの寝所。話の流れではそうだったな?そこへ来たオスと交尾と言う事は・・・」
その間に打ちのめされた様に呟くハインツ国王。
そんな二人の様子に、後頭部を掻きながらタバコを取り出したコウスケは
「何にしたって、王妃の浮気はこれで確定だろ?後は小次郎が、相手はアンタの弟だって証言すれば裏は取れたようなモンだろ?」
そう言って、火のついたタバコでハインツ国王を指した。
そして、そのまま視線を動かし
「言ってやれ!リリィちゃん!」
そう小次郎へ言うコウスケ。
小次郎はコウスケを睨むと、そのままの目付きでハインツ国王へと目を向ける。
鋭い視線を向けられたハインツ国王は、唾をゴクリと音を立てて飲み込むと、小次郎の言葉を待った。
猛獣の様なギラ付く目を向けた小次郎は、次の瞬間カッと目を見開き
「知らんッ!!」
そう言い放った。
一斉に顔を歪める三人。
「オイッコラッ!良いトコでヘソ曲げてんじゃねぇよ!スッと言え、スッと!」
そう声を上げるコウスケ。
しかし小次郎は
「ヘソなぞ曲げてはおらんわッ!ワシに、見た事も無い人間の見分けなぞ付くかッ!」
そう反論する。
「なッ!本当に分からねぇって事か?」
確認する様に聞き返したコウスケ。
小次郎はひとつ鼻を鳴らすと
「貴様等やあの小娘共ならまだしも、ワシにそれが分かる訳無かろ?」
そう言って、コウスケから顔を背けた。
それを聞いたコウスケは、ばつが悪そうにハインツ国王とエドを見た。
二人の目は、そんなコウスケに「どうするんだ?」と問い詰める様だった。
二人の圧力を感じ、コウスケが顔を引き吊らせていると
「ただ・・・」
そう顔を背けていた小次郎が口を開く。
その言葉に、三人は視線を集めた。
そんな小次郎へと視線が集まる中
「ただ?どうした?」
そうコウスケが期待の籠った言葉を掛けた。
小次郎は
「ただ、そのオスが誰かは知らんが、匂いは偉そうなお前と良く似ておったぞ?」
そう答えた。
その答えに、ハインツ国王とエドは首を捻るが
「匂い?匂いが似てるって事は・・・それってつまり・・・」
そう呟いたコウスケは目を見開く。
そんなコウスケに小次郎は
「血縁じゃろうな?」
そう答えた。
それを聞いたコウスケは
「オッサン。アンタ弟以外にオスの血縁者はいるか?」
そうハインツ国王へと問う。
エドはいつも通り慌てて
「コウスケ!失礼だよ!」
と、注意するが
「オス・・・まぁ良い。いや、グテイ以外は王子のノーブだけだ。そのノーブは今こちらに居る。城にいる私の‘オス’の血縁者はグテイだけだ」
そう返すハインツ国王。
それを聞いたコウスケはホッとした様子で
「なら確定だな?弟と貴族を取り持ったのは王妃。これで決まりだ!」
そうまとめた。
コウスケのまとめに、エドは悲し気にため息をつき、ハインツ国王は信じられないと目を覆った。
コウスケは
「んで?どうすんだ、オッサン?ソイツ等を処刑なり追放なりしてアンタが戻んのか?それとも、このまま身を引くって手もあるな?まぁその場合は、殺されねぇ様に気を付けて生きていかねぇとだけど」
そう軽い調子で問う。
ハインツ国王は真剣に考えている様子だ。
そんなハインツ国王へ心配気な視線を送るエド。
そこで
「ん?そう言えば、そのオスが朝早く出ていった後、別の人間が来ておったな?」
小次郎が思い出した様に口を開いた。
再び小次郎へと視線を集める三人。
「またか?また‘オス’なのかッ?」
トドメを食らった。とばかりに胸を押さえ、そう声を上げるハインツ国王。
それを、苦笑いを浮かべつつ見やったコウスケは
「そんな話聞いてねぇぞ?・・・またオスか?」
抗議する様な言葉の後で、少し小声でそう確認を取る。
「今思い出したのじゃ。ホレ?何と言った?貴様や小娘共が良く羽織っておる・・・布じゃ!」
そんな要領を得ない事を言い出す小次郎。
その言葉に
「え?いきなりナゾナゾ?・・・ってそれマントだろ?」
そう答えるコウスケ。
「そう!マントじゃ!そのマントで全身を隠した怪しい奴じゃった。しかし声からしておそらくオスじゃろう」
スッキリしたと言うような表情をした小次郎はそう答える。
そのやり取りに真剣に耳を傾けるハインツ国王とエド。
重要な情報とでも言いたげな顔だ。
しかし、そんな二人とは一転、コウスケは
「それがどうしたんだ?王妃のトコにだって客ぐらい来るだろ?」
と、新たなタバコに火をつけながら言う。
そんなコウスケの言葉に、ハインツ国王とエドは首を横に振っている。
「そうか・・・魔法の調子はどうだ?とか、約束は忘れるな!等と言葉を交わしておったが・・・フン。確かに考えて見ればありふれた会話じゃな」
コウスケの言葉にそう返し、納得した様に頷いた小次郎。
しかし、その小次郎の言葉を咥えタバコで聞いていたコウスケは、その内容を理解すると視線だけをハインツ国王とエドへと向ける。
二人からは頷きだけが返って来た。
それを受け、コウスケは
「・・・それって何か、黒幕っぽくね?」
そう呟いた。




