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初指名依頼8

遅れてスミマセン。

予約設定を間違えました。


翌日。


コウスケは再び城を訪れていた。


今回は闇夜に紛れて忍び込んだ訳でも、顔を隠している訳でも無い。


顔丸出しで乗り込んでいた。


しかし、城内を歩くコウスケを引き留める者は居ない。


それどころか、案内の者が先導していた。


「こちらでございます。ギム様」


「ウム。ご苦労!」


案内をしていた者の言葉に、そんな言葉を返すコウスケ。


コウスケが案内されたのは、一際大きく豪華な扉の前。


そしてそれは、初めてハインツ国王と会った時にも見た覚えのある扉。


謁見の間の扉だった。


その前に立ったコウスケは気負い無く扉を見上げる。


コウスケに不安な様子は見られなかった。


しかし、コウスケは一度この場所を訪れている。


クーデターの影響で臣下の顔ぶれが変わっていたとしても、大きな事件を解決したコウスケを覚えている者もいる筈だ。


先程の案内の者の言葉で、コウスケが身分を偽っているのは間違い無い。


それに気付かれれば、今では扉の無くなったあの牢に再び放り込まれる事も考えられる。


扉は直されているだろうが。


しかし、コウスケには気付かれない自信があった。


その理由は、コウスケの出で立ちにあった。


気負い無く扉を見上げるコウスケは、まるで貴族の様な豪華な服に身を包み、明るい金髪、口元には立派な髭を生やしていた。


忍び込んだ時の様に顔を隠すことはしてはいないが、見た目と名を変える変装はしていた。


それがコウスケの自信の理由だった。


豪華な服はハックに用意してもらい、金髪と髭に関しては[創造の産物]でパーティーグッズのカツラと付け髭を作り出した。


若くして劇団に所属していた高校時代の友人の小道具でふざけていたお陰だった。


そんなコウスケの自信を支える変装ではあったが、完璧とは言い難かった。


頭髪が明るい金色なのに対し、髭は普通の黒色だったのだ。


致命的にも思える矛盾点だったが、何故かここに来るまで誰にも指摘される事は無かった。


更にコウスケの自信を支えていたのが、扉の前でその扉が開かれるのを待っている間、コウスケの身なりを整えていた一人の老人の存在だ。


その老人はコウスケの服装の乱れを正していき、最後に顔を確認すると


「坊っちゃま。髭が曲がっておりますぞ?」


そうコウスケへと声をかけた。


執事服に身を包んだその老人の言葉に


「マジで!?」


慌てて口元を押さえるコウスケ。


専用ののりで張り付けているとは言え、慣れない者ならば表情の動かし方でズレたり剥がれたりする事もあるだろう。


コウスケもそれを心配したようだった。


しかし、その様子を見た老人は


「おや?私の勘違いの様です。生えている髭が曲がる訳はございませんね?坊っちゃま、申し訳ありません」


そう言って頭を下げた。


その言葉に顔を顰めるコウスケ。


つい先程まで自信を支える一因だった老人に目をやったコウスケは


(・・・人選間違えたか?でも俺ん中で出来る執事ってこの人しか知らねぇんだよな・・・)


そう考え、ひとつ息をついた。


コウスケはアリシア王妃に会う為、他国の貴族に化ける事を思い付いた。


その為に、一日を費やして服やカツラ、付け髭等の変装小道具を揃えた。


しかし、変装したコウスケの姿を見たハックの


「使用人も荷物運びも無しか?せめて執事ぐらいは連れてるだろ?」


と言う一言で、執事を用意しなければならなくなった。


適当に人を雇う事も考えたコウスケだったが、もしもの状況に陥った時


・転移の出来ない城内では安全に連れて逃げるのは困難だ。


・その場合、自力で逃げてくれる方が助かる。


・しかし、適当に雇った者にそれを望むのは少し酷だ。


そう考えたコウスケは、ある人物に白羽の矢を立てた。


それは


「どうされました?坊っちゃま。その様な間の抜けた表情をされては、立派な髭が悲しみますぞ?」


そうコウスケの付け髭をからかう老人。


エドの屋敷で執事をしている、通称‘爺’だった。


手伝ってくれと頼まれそれを了承した爺だったが、コウスケに名を教える事は無かった。


実はエドも知らないのでは無いか?コウスケはそう疑っている。


そんな経緯で助力を頼んだコウスケだったが、髭をやけにイジってくる執事に


「そんな顔はしてないし、髭が悲しむ事も無い!それと、その坊っちゃまって言うのも止めてくれよ?こっちは30越えてんだぞ?」


そんな文句を口にする。


それを聞いた爺は、酷く優しい笑みを浮かべると


「私にとって坊っちゃまは、いつまで経っても坊っちゃまです。例え70を越えようともぼっちゃまとお呼びさせて頂きます」


そう言って頭を下げた。


「いや!いつまで生きる計算だよッ!!」


思わずそうツッコむコウスケ。


コウスケの言葉に、変わらずに酷く優しい笑みで答えた爺。


それを見たコウスケは


(何かもう、丁寧な言葉遣いで全体的にイジって来てんな?髭は似合わないって事か?呼び名はお前にはコレがお似合いだって事か?何にしても、俺にしか分かんねぇ様にからかって来んのがムカつく・・・)


内心でそう考え、顔を引き吊らせる。


しかし頼んだ手前、文句も言いづらいのか、それを飲み込む様に目を閉じると


「まぁ・・・何でもいいよ。俺の事がバレねぇ様にフォローしてくれれば・・・」


そう呟いた。


後半は周りに聞こえない様に声を落としながら。


爺は無言で頭を下げる。


それを合図にしたかの様に謁見の間の扉が開き始めた。


「おっ?」


そんな声を上げるコウスケ。


そして、いつの間にかコウスケの後ろへと下がる爺。


扉が完全に開かれると


「邪馬台国からの使者。公爵サライ・ギム様!」


扉の内側にいた兵士がそう声を上げた。


それを聞き室内へと入っていくコウスケ。


悪評が立ってもあのジジィなら良心が痛まない。


そんな理由で名乗った偽名を聞きながら歩くコウスケ。


一度見た事のある内部は変わりは無く、壁際に貴族達や国の大臣らしい者達が並ぶ。


そして、床が高く作られた場所に玉座と言うに相応しい椅子が二脚。


前回コウスケがこの場を訪れた時は、そこにはハインツ国王が。


そして隣は空席だった。


しかし今回はハインツ国王側が空席で、代わりに隣の椅子に女性が。


コウスケはそれがアリシア王妃だと直ぐに理解する。


玉座の隣に座っている事もあるが、漂う気品や身に纏う質の良い衣服からも伺えたのだ。


コウスケはそのアリシア王妃を見上げると、深く一礼し


「私は女王卑弥呼様から遣わされた使者、サライ・ギム公爵です。今回はここ、ガーランド王国と国交を結びたく参りました」


そう事前に考えてきた設定を口にする。


壁際に並ぶ者達からは


「ヤマタイコク?」


「聞かん名だな?」


「どこにある国だ?」


等と囁く声が。


しかしアリシア王妃は別の部分に反応する。


「なんと!貴国は女性が王なのですか?」


そんな反応を。


コウスケは一言


「その通りでございます」


そう答えた。


驚きの様な感心の様なアリシア王妃の表情を確認したコウスケは、そのまま視線を横へとズラし空席となっている玉座へと視線を向けた。


それに気付いたアリシア王妃は


「ギム殿には申し訳ありませんが、陛下は今留守にしているのです。折角の訪問ですのに済みません」


そう謝罪の言葉を告げた。


「いえ。先に知らせなかったこちらが悪いのです。何分遥か遠くの国ですので、知らせを出す事が出来なかったのです。こちらからもお詫びします」


そう答えるコウスケ。


コウスケの答えに頷いたアリシア王妃は


「ただ、国交を結ぶかどうかの話し合いは確りとさせて頂きますのでご安心を」


そう告げ、壁際に並ぶ者達に目を向けた。


「ありがとうございます」


アリシア王妃の視線を追いながらも、そう言って頭を下げるコウスケ。


すると、背後で控えていた爺が


「それで坊っちゃま。この後はどうするおつもりで?」


そんな質問を小声で投げ掛けた。


それを聞いたコウスケは、振り向く事はせず


「どうって・・・このまま王妃と会話を続けて、色々根掘り葉掘り聞くに決まってんだろ?」


そう同じく小声で返した。


背後の爺は少し間を開けると


「・・・私の予想では、後一言二言あった後、我々は退室かと」


そんな予想を口にした。


「は?何で?これから国交を結ぶかどうか話し合うんだろ?」


爺の予想にそう反論するコウスケ。


しかし爺は


「おそらくそれは別室で。しかも、それが担当の大臣や臣下の方と。と言うのが一般的な流れかと」


そう告げた。


「・・・マジで?」


そう呟いたコウスケが固まる。


「おや?まさか坊っちゃまはアリシア様が話し合いの相手だと?王妃が?国交を結ぶかどうかの話し合いを?・・・いえ、その様な立派な髭を生やした方がそんなデタラメな計画を立てる訳が御座いませんね?失礼しました」


固まるコウスケの背後で、そう言って僅かに腰を折る爺。


声色は一切変わらず、口では謝罪の言葉を吐いているが、コウスケには背後の老人が酷く顔を歪めて笑っている様に感じた。


同時に焦るコウスケ。


このままでは、又しても情報収集は失敗。


しかも今回は、この後架空の国との国交を結んでくれと、長く面倒な話し合いが予想される。


コウスケのデタラメな計画では、王妃から情報を得た後は直ぐ様姿を眩ませる計画だった。


その為の逃走方法も用意していた。


しかし、情報が得られないとなれば姿を眩ませるのは避けたいだろう。


他国からの使者を装い機会を伺った方が、別の手を考えるよりも可能性が高いからだ。


ただ、事ここに至ってから言っても仕方が無い事だろうが、初めからコウスケが持てる力を全て傾けていれば、面倒は起こりえなかった様にも思われる。


全てはコウスケが小細工を要するのに拘っているからなのだ。


コウスケが頭の中でどうすべきか考えを巡らせていると、再び背後から声が聞こえる。


「おや?アレは・・・これはこれは」


しかし、その声はコウスケへと向けられたものでは無かった。


自分以外の何かを見ての言葉だと気付いたコウスケは、落としていた視線を上げた。


すると、コウスケの目に飛び込んできたのは、玉座がある高くなった床を歩く一匹の黒猫。


その黒猫は迷うこと無くアリシア王妃へと近付くと、僅かに身を屈めタメを作る。


そして、そのタメを利用してアリシア王妃の膝へと飛び乗った。


「まぁ、こんな所へまで来てしまったの?」


膝へと飛び乗って来た黒猫へと、そう声をかけるアリシア王妃。


黒猫は膝の上で寛ぎだすと、前足を舐めてから顔を洗い出した。


そして、チラリとコウスケの方へと視線を向けるが、直ぐ様再び前足を舐めようとしてピタリと動きを止める。


再びコウスケへと視線を向けた黒猫は、今度はじっくりと目を細めてコウスケを見詰める。


黒猫に見詰められたコウスケは、僅かな動作で手を振った。


コウスケのその仕草に目を見開いた黒猫は、離れていても分かる程に表情を歪ませた。


そんな、膝の上で前足を前に出したまま固まる黒猫を見下ろしたアリシア王妃は


「アラ?どうしたの、リリィ?お客様が珍しいの?」


そう問い掛け、固まるリリィの背中を優しく撫でるのだった。


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