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初指名依頼7

「チックショ~!丸々一日無駄にしちまった・・・まさか裁判が無いとはな?いや、そもそも裁判が開かれたとしても、王族が出てくるなんて確証は無かったんだ。そこに気付かないとは・・・や~失敗、失敗!おっちゃん!これウメェな?おかわりッ!」


謎の男が城の地下牢から脱獄した翌朝、コウスケはハック商店で朝食を摂っていた。


「朝から良く食うな?オメェ?ホラよ・・・って違うだろッ!何でここで飯食ってんだッ!」


律儀にコウスケのおかわりの催促に答えるハックだったが、思い出したかの様にそう声を上げ、差し出しかけたおかわりを引っ込めた。


コウスケは目の前をUターンしていく、何だか分からないが旨い朝食のおかわりに目を奪われつつ


「仕方無ねぇだろ?城で飯が出なかったんだから」


そう答え、遠ざけられたおかわりに手を伸ばす。


コウスケの言葉を聞いたハックは不思議そうな表情を浮かべると


「?・・・オメェ、城には忍び込んでたんだろ?って事は隠れてた訳だ。それで飯が出てきたら怖ぇだろ?」


そう言って眉を寄せた。


そして、ジタバタと五月蝿いコウスケの手に、仕方無いという表情でおかわりを渡す。


おかわりを受け取ったコウスケは、それを掻き込みながら


「ウマッ!・・・初めはそのつもりだったんだけど、中の警備が思ったよりも厳しくてさ?途中で面倒になってさ?計画を変更したんだわ」


そんな説明をした。


そして再び掻き込み始める。


重要な事を朝食の片手間に話すコウスケに、呆れの表情を浮かべるハックだったが


「面倒って・・・当たりめぇだろ?王族が住む城だぞ?いくら夜中だからって警備がユルい訳がねぇだろ?そんで?どうしたんだ?」


コウスケが潜入する前は聞きたく無いと言っていたハックだったが、今では話の続きを促していた。


コウスケはというと、変わらず朝食を掻き込むと


「ングッ・・・軍人を一人取っ捕まえて、装備一式を拝借した」


と、事も無げに答える。


「成る程。警備の兵に成り済ました訳か?思い付きにしちゃあ良い作戦だな?・・・あ、でもその兵士はどうしたんだ?気絶させたにしても、眠らせたにしてもその内騒ぎ出しただろう?」


コウスケの説明を聞いてその状況を想像したハックは、起こりうる問題を挙げる。


しかしコウスケは


「それは心配ねぇよ?確かに気が付いたら騒ぎ出してるだろうけど、そこは北の港町だ。報告に戻るのにどんくらい掛かるか」


そう言ってニヤリと笑う。


コウスケの邪悪な表情と、更に邪悪な言葉を聞いたハックは表情を引き吊らせると


「・・・ヒデェな?転移を使ったのか?せめてもう少し近くにしてやれよ?」


と、翔ばされた兵士に同情する言葉を呟く。


しかし、何かに気付いた様に首を傾げると


「いや。ちょっと待てよ?城の敷地内は転移防止の魔法が掛かってるだろ?どうしたんだ?」


そう尋ねた。


コウスケは表情を崩さず、それどころか更に邪悪に歪めると


「アレには参ったね。仕方無ぇから城壁まで担いで行ってぶん投げた。あぁ、勿論落ちる前に転移させたぞ?」


そう得意気に答える。


「・・・悪魔みてぇなヤツだな?でも、それで兵士に成り済ます事には成功したんだろ?ならなんで失敗して戻って来んだ?」


新たに疑問が沸いたハックは、素直にそれを口に出す。


それを聞いたコウスケは、自慢気に歪めていた表情を顰めると


「向こうにも切れ者が居たって事だな。成り済ましだってバレたんだよ。んで、お縄を頂戴した訳だ。だから飯が出なかった。ってな?」


そう言って、ため息をつく。


油断した。そんな感情を身に纏うコウスケだったが、それを聞いたハックは


「そうか!今の若ぇヤツらの中にもデキるヤツは居るんだな!」


と、嬉しそうな声を上げる。


しかし直ぐ様表情を凍り付かせると


「ちょっと待てッ!今捕まったって言ったか?」


そう聞き返した。


コウスケは


「んぁ?オゥ、捕まった」


そう短く返す。


「・・・城へ忍び込んで、兵士に成り済ましたのに一日で釈放されたって事か?」


見て分かる程、恐る恐ると言った様子でコウスケへと尋ねるハック。


しかし、それを聞いたコウスケは朝食と共に盛大に吹き出すと


「ブハッ!釈放?そんな訳ねぇだろ?逃げて来たんだよ!だ、つ、ご、くっ!」


そう言っておどけて見せた。


コウスケの答えに、しばらく固まっていたハックだったが


「・・・じゃあ何か?オメェは城の牢屋から抜け出したその足でここに来たのか?」


そう、口の周りを優雅に拭き食後へと突入しているコウスケへと尋ねた。


「だってまだ情報手に入って無いし?って事はもう一回行かねぇとだし?プレーヌスまで帰るのは面倒だし?丁度良いとこにおっちゃんの店があるし?ここを前線基地するし?」


そう言い訳を並べたコウスケ。


最後の一言は目を逸らして言っていた。


しかし、確りと聞き取っていたハックは


「何が前線基地だッ!逃げたって事は、オメェは今お尋ね者って事だろうがッ!オレは客商売なんだぞッ?いくらオメェでも犯罪者を匿うなんて真っ平ごめんだからな?」


そう言い放つ。


しかしコウスケは


「あぁ、それなら大丈夫。顔も名前も割れてねぇから。お尋ねようにもそれじゃ無理だろ?」


と、愉快だと言わんばかりに答える。


ハックは横目でコウスケを睨むと


「本当だろうな?ウチに兵士がなだれ込んで来た時は覚悟しろよ?」


と、ドスの利いた低い声を出す。


流石に苦笑いを浮かべたコウスケは


「だ、大丈夫だって・・・」


そう答えた。


コウスケの答えに、幾分か表情を弛めたハックは


「・・・ったく、何で関係ねぇオレまでこんな事に・・・」


そう肩を落とす。


しかし諦めたのか、切り替える様に頭を二三度左右に振ったハックは


「フゥ・・・それにしても、オメェよく地下牢から逃げられたな?さっき言った通り転移は使えなかったんだろ?どうやったんだ?」


呼吸を整える様に一つ息を吐くと、そう尋ねる。


その質問にコウスケは


「俺がボックス持ちだって事忘れたのか?」


そう返した。


「忘れちゃいねぇよ?だがそれがどう牢から逃げ出す事に繋がるんだ?」


コウスケの答えに、そう言って眉間にシワを寄せるハック。


ハックの言葉に、コウスケは無言で体の横に手を翳した。


そこには何も無く、コウスケの手を目で追ったハックは、困惑した様に視線をコウスケの顔と手の間で行き来させている。


すると突然、コウスケが翳していた手の近くに何かが出現した。


出現した物の下部が床に着いた瞬間に、その物の重量が伺える重い音を伴って。


それは、鉄製の見るからに重そうな扉だった。


格子状に組まれた太い鉄は酷く頑丈そうだ。


そして、その扉の取っ手近くには鍵穴が一つ。


どう見ても牢の扉だった。


「・・・オメェ、まさかそれをボックスに仕舞って出て来たのか?」


呆れを通り越した表情のハックは、盛大に顔を顰めながらそう尋ねた。


コウスケは肩を竦めると


「仕方ねぇじゃん?転移が使えないなら、こうするしか・・・だろ?あっ!顔隠すのに返さずにいた兜は、ちゃんと置いて来たから心配すんな?」


そう的外れな答えを返す。


ハックは額に手を当てると


「ちゃんとって・・・それならその扉も持って帰って来ねぇで、置いといてやれよ?牢が一つ使えなくなってんじゃねぇか?」


そう返した。


「大丈夫、大丈夫!あの地下牢、大分空いてたから」


真面目な顔でそう答えるコウスケ。


一瞬何かを言おうとする様子を見せたハックだったが、その口から言葉が出る事は無かった。


代わりに、無理矢理自分を納得させる様に数度無言で頷くと、自らも朝食を取りに奥へと消えた。


コウスケはその様子を不思議そうな笑顔で見送るのだった。



「そう言ゃあオメェ、あの喋る黒猫はどうしたんだ?」


「え?・・・アッ!!小次郎ッ!完全に忘れてた・・・まぁいっか?依頼が終わるまで構ってる暇もねぇしな」


「おいおい、良いのか?今頃捕まってんじゃねぇのか?」


「言葉を話さなきゃ大丈夫だろ?案外普通の猫として可愛がられてんじゃね?」


「ダッハッハッハッ!あの口の悪ぃのがか?」


「ヘッヘッヘッヘッ!可愛い名前とか付けられてたりしてな?」


朝食を摂るハックと、食後のお茶を啜るコウスケの無責任な雑談が、悲劇を呼び寄せる事になるかはまだ分からない・・・。


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